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トシヤ、残念な男

 翌日、廊下でハルカを見つけたマサオは軽いノリで声をかけた。


「やあ、ハルカちゃん。昨日は速かったね。良かったらコツとか教えてくれないかな?」


 その一言でハルカの目が変わった。


「そう、まあ仕方が無いわね。あなた達の走りなんて危なっかしそうだもんね」


 冷ややかに笑いながらもマサオの言葉を真に受けたのか、ハルカは教える気満々みたいだ。マサオは一瞬たじろいだが、上手く行けばルナ先輩も一緒に……などと甘い考えでハルカに言った。


「そうなんだ。下りのカーブに慣れて無くって、ちょっと怖いんだよね」


 しおらしいフリをしてのうのうと言うマサオにハルカは益々調子付いた。


「下りのカーブねぇ。まあ、確かに初心者が当たる壁の一つよね。ブレーキ当てなきゃどんどんスピードが乗っちゃうし、ブレーキかけっぱなしじゃ腕が疲れるし……」


 ハルカの蘊蓄が際限無く続きそうな気がしたマサオはハルカの言葉を遮る様に口を挟んだ。


「そうなんだよ。だから、今度また一緒に走って教えてくれないかな?」


 本当は「ルナ先輩も」と言いたかった。と言うか、喉まで出かかっていたのを飲み込んだマサオにハルカは「やれやれ」と言った顔で頷いたかと思うと、予想外の言葉を口にした。


「で、もう一人の初心者はどうするの?」


『もう一人の初心者』もちろんトシヤの事だ。ここでトシヤの名前が出るなんて、やはりハルカはトシヤの事が気になっているのだろうと深読みしたマサオは澄ました顔でカマをかけてみた。


「もしかしてトシヤの事? 随分面倒見が良いんだね。それともアイツの事、気になったりしてる?」


 いや、それは『カマをかける』どころかストレートに言って無いか? 言ってしまってから自分の失態に気付いたマサオだったが、一度口から出てしまった言葉は戻す事など出来無い。マサオが後悔しながらハルカの顔を覗うと、ハルカは意外な反応を示した。


「お、同じ学校の数少ないロードバイク仲間なんだから、先輩ローディーとして気にしてあげないと仕方無いじゃない」


 口では『仕方無い』と言いながらもハルカの頬が赤くなっているのをマサオは見逃さなかった。あながち見当外れな事を言った訳では無いと悟ったマサオだが、大事なのはここからの言葉のチョイスだ。調子に乗って妙な事を言ってしまうと事態は悪化するに違い無い。マサオは頭をフル回転させて言葉を選ぼうとしたが、マサオの頭では上手い言葉が見付からない。だがここで黙ってしまってはそれこそ二進も三進もいかなくなってしまう。


「ああ、そうだな。初心者だもんな、俺もトシヤも」


 とりあえずの無難な言葉をマサオが捻り出した時、もう一人の初心者トシヤが呑気な顔で姿を現した。


「おう、マサオ。あれっ、ハルカちゃんも一緒か。おはようハルカちゃん、昨日は速かったね。全然追い付かなくてびっくりしたよ」


 ハルカの頬が赤くなっている事になど全く気付いていない様子で朝の挨拶と昨日のハルカの下りの走りに対する称賛の言葉を口にする鈍いトシヤ。ハルカの頬から赤味が消えた。


「おはようトシヤ君。まあ、キャリアが違うから。じゃあ」


 それだけ言うと、ハルカは先週と同じパターンでそそくさと行ってしまった。


「俺、ハルカちゃんに嫌われてんのかなぁ……」


 取り残されたトシヤは悲しそうに言うが、マサオはトシヤの鈍感さに悪態の一つも吐きたい気持ちでいっぱいだったが、まさか「ハルカがトシヤの事を気にしている」などとは言い難い。って言うか、何か釈然としない。それどころか「何でトシヤばっかり」という思いが込み上げて来たりもしている。もちろん、だからと言ってマサオがトシヤを羨む事は有っても疎んじる事は無い。根本的にマサオが狙って、いや、お近付きになりたいのルナの方なのだ。言ってみればハルカがトシヤの事が気になっているのであれば、二人をくっつけてしまえば今後の展開が面白くなるかもしれない。マサオは複雑な気持ちでトシヤの肩を叩いた。


「そんな事ぁ無ぇよ。お前は堂々としてろ」


「また訳のわからん事を」


 マサオの言葉にトシヤは怪訝そうな顔をするばかりだった。せめて同じクラスだったらもう少し気安く話も出来るというものだが、同じ学校、同じ学年ではあるものの違うクラスという微妙な距離感を拭い去るのはトシヤには難しい様だ。トシヤがマサオの様に何も考えず、いや、誰にでも気さくに話しかける事が出来る人間だったら話は変わってきたかもしれないが、まあ何と言うか、残念だとしか言いようが無い。


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