表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/144

誤解

「で、ドコ行く? あと、他には誰が来るの?」


 ハルカは明るい声で話の続き、遊びに行く計画について竹内君に尋ねた。この時、ハルカはトシヤがもの凄い衝撃を受けて止まって事を知る由もない。と言うか、そもそもトシヤが後ろに居たことすら知らないのだ。

 ハルカに尋ねられ、竹内君から『さり気無さ』が消えた。そして緊張した面持ちでゴクリと唾を飲み込むと喉の奥から絞り出す様な声で答えた。


「……いや、俺と二人で」


 竹内君は仲間数人と遊びに行こうと言っているのではなく、ハルカと二人で……つまりデートに誘ったのだった。ハルカは予想外の言葉に目を丸くして驚いたが、すぐに申し訳なさそうな顔となった。


「あ、じゃあ……ゴメン」


 すまなさそうに首を横に振ったハルカに竹内君はおそるおそる尋ねた。


「三組のトシヤと付き合ってんのか?」


「ううん……まだ付き合ってるってわけじゃないけど……」


 ハルカがトシヤとの現時点での状況をバカ正直に答えると、竹内君は深い溜息を吐くと呟く様に言った。


「そっか……『まだ』な。そーゆーことか」


 竹内君はハルカの口ぶりや態度からハルカの気持ちを察したのだ。そんな竹内君にハルカは首を竦めて謝った。


「うん。ごめんね」


「まあ、しゃぁないわな。俺達遠山のことを女扱いしてなかったからな」


「そーよ。もっと早く私の魅力に気付いたら良かったのにね」


 竹内君が口惜しそうに言うとハルカは敢えて明るい声で答え、笑った。重くなりそうな空気を和ませようとしたのだ。


「何言ってんだか。お前ぐらいが緊張しなくてちょうど良いと思ったんだよ」


 ハルカの明るい声と笑顔が功を奏し、竹内君が憎まれ口を叩けるほどに場の空気は軽くなり、畳み掛ける様にハルカがほっぺを膨らませて言った。


「うっわー、ひっどーい。まあ、負け惜しみにしか聞こえないけどね」


「へっ、そーゆーことにしといてやんよ」


 竹内君にも笑顔が戻り、ハルカと竹内君の間に妙な空気が流れることは回避された。

これで一件落着と胸を撫で下ろしたハルカだったが、彼女は知らない。ハルカが竹内君の誘いに答えたところだけを見たトシヤがハルカと竹内君の関係を誤解してしまったままでいることを。


          *


 ハルカと竹内君から離れてしまったトシヤはいたたまれなくなり、そのまま180度転回してハルカとは反対の方向に走り出した。もちろん走り出したと言ってもペダルに力など入る筈も無く、のろのろとママチャリにも抜かれそうなペースで。そして魂が抜けた様にフラフラと走ったトシヤが無意識のうちに行き着いたところは渋山峠のスタート地点だった。

 いつものトシヤなら気合を入れてヒルクライムに挑むところだが、この時ばかりはそうもいかなかった。懐には二人分のサイクルジャージが詰め込まれていて動きにくいし、何よりもメンタルがやられてしまっている。


「はあ……今日はもう帰るか……」


 せっかく麓まで来たのに上らずに帰るのはもったいない気がしないでもないが、どうにもトシヤは山を上る気にならず、そそくさと渋山峠を後にした。


 渋山峠から家に帰る道中もトシヤはしょぼくれた、精彩を欠いた走りしか出来なかった。まあ、それは無理も無いことだろう、なにしろ懐に詰め込んだ二枚のサイクルジャージの一枚はハルカの分なのだ。それがハルカが竹内君の誘いを受け入れたこと(思いっきり誤解だが)を思い出させ、トシヤの胸をギュッと締め付けた……物理的にも精神的にも。


 家に帰り着いたトシヤは「ただいま」もそこそこに自分の部屋に引っ込んだ。


「あれっ? 今日は早かったのね。お昼ごはんは?」


「ああ、要らない。食べてきたから」


 トシヤはドアの向こうから聞こえた母親の声に答えたが、もちろんウソだ。こんな心境でメシなど喉を通るわけが無い。深い溜息を吐くと懐に詰め込んでいたサイクルジャージを取り出してじっと見つめた。


「ハルカちゃん……」


 このサイクルジャージのデザインを一緒に考えた楽しい思い出がトシヤの頭を駆け巡り、言葉が思わず漏れた。そしてトシヤはサイクルジャージを床に放り投げ、自分はベッドに倒れ込んだ。


 何だか悲劇の主人公みたいなトシヤだが、これは何度も言うようにトシヤの誤解から来る行動だ。そしてハルカはトシヤが妙な誤解をしているなどとは夢にも思っていない。


「トシヤ君、今日はどうしたのかな……?」


 一昨日、夏休みの初日はプールの誘いのメッセージを送ってきた。昨日、夏休み二日目は一緒に(ルナとマサオもだが)プールに行った。だからハルカは今日もトシヤから何らかのアクションがあると実は期待していたのだ。しかし、ハルカのスマートホンが鳴ることはなかった。しかし、自分からトシヤに連絡を入れることは出来ずにいた。

ハルカって意外とプライド高いのか?


 ……いやいや、そういう事では無い。ハルカは今までトシヤに連絡や報告のメッセージしか送っていなかった。だからこういう時に何とメッセージを打てば良いかわからないのだ。えっ、自分の気持ちを素直に打てば良いじゃないかって? それが出来たら苦労はしない。自分の気持ちに正直に生きるのは容易いことではないのだから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ