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鱶澤くんのトランス!  作者: とびらの


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33/34

俺の名は。

 

 やめろバカ野郎、殺すぞクソったれ。やめろ! やめて! 嫌だやめて! おねがい。助けて。やめて。

 お願いします。待って。お願い。なんでもするから待って。それだけはだめ。

 助けて。助けてください。どうかお願い。嫌だ。嫌だ。助けて!



 罵り、暴れ、泣き叫ぶあたしを、それでも鷹取は決して離さない。あたしは這いつくばり、転がりまわってどうにか逃れようとした。手足が千切れるほど痛んでも、鷹取を跳ね飛ばそうと苦心する。

 抑え込む鷹取も、さすがに手を焼いたらしい。あたしに腹を蹴られながら、グッと呻き声を漏らした。


「このアマ、大人しくしやがれっ――!」


 頬を叩かれた。だがあたしは抵抗をやめない。

 やめてたまるか。

 それだけは許すわけにはいかなかった。


 空見もあっけにとられ、目を丸くする。


「……なんだこいつ。さっきまであんなに気丈に……悟ったようなカオまでしてたくせに、急に、気狂いみたいに抵抗しだして……」


「ごめんなさい! お願いやめさせて。あたしもう、生意気言わない。ごめんなさい、だから助けて!」


 こうなったらもう、空見にだって縋る。プライドもくそもあるか。なんでもいい。どうだっていい。今日ズタボロにされたっていいけれど、ソレだけは絶対ダメなんだ。


 しかし空見は、残酷な笑みを浮かべるだけ。


 鷹取の束縛からも逃れられない。とうとう下着まで剥ぎ取られ、あたしは全裸で地面に転がった。


 ああ、だめだ。

 あたし、女になってしまう。

 鱶澤ワタルに、戻れなくなってしまう。


 そしたら今夜の復讐はどうなるの。誰があたしの悲劇に報いてくれるの。

 『青鮫団』を救い、奴らをこらしめ、この世に正義を貫いてくれるというの。


 ――いや、そんなことももうどうでもいい。

 あたし……こんな男に、女にされてしまう。


 それだけは絶対に嫌だった。もしそうなったら、あたしは死ぬ。きっと生きていられない。

 鱶澤ワタルの喪失とともに、アユムもまた死を迎える。


「やだぁ――っ……」


 あたしの目からこぼれた涙は、もう水たまりを作るほどだった。


 ――と。


 こつん、と、小さな硬い音。

 こつん、ごとん。あたしと、鷹取と空見、三人が音のほうに視線をやる。

 コロコロと転がる、石コロだった。


 山のなかにある廃墟には、あちこちに石や瓦礫、コンクリートの破片が転がっている。しかし風で飛ばされるにしては、ちょっと大きい――


 そう思ったとたん、拳ほどもある石が、勢いよく空見のこめかみを打った。


「ぐぁっ!?」


 頭を押さえて屈みこむ空見。

 さらにもう一発、今度は鷹取に石が投げ込まれる。鷹取は目の前に来たのを手のひらで捕まえた。

 さらにもう一つ、飛んできたものを払い落とす。舌打ちし、鷹取は投手のほうをにらみつけた。


「なんだおまえ? 邪魔するな」


「――モモチ!!」


 あたしが叫ぶと、モモチは俯いたまま、大きく息を吐いた。


「……アユムちゃん。……どこ? ……離れてて」


 呟くなり、膝をつく。

 あたしは息をのんだ。なんだよモモチ、おまえ、立ってられないんじゃないか!

 ろくに目も見えてない。マトが大きな体だったからどうにか当たってくれただけ、戦うなんてできてないじゃないか!


「……アユムちゃん、逃げて……」


「ば……っ、バカ野郎ーっ!」


 あたしの絶叫と同時に、空見が駆けだし、モモチに体当たりをかけた。

 ただでさえふらついていたモモチは簡単に転がって、抱えていた石が散らばる。空見は石と一緒にモモチの頭を蹴り上げた。


「半死人がっ、てめえも死ぬか!」


 硬いものがぶつかる音。モモチは悲鳴を上げなかった、泣き叫んだのはあたしだった。


 退屈をしていた『天竜王』も駆け寄り、モモチを踏みつける。数人、手持ち無沙汰なやつが、奥の『青鮫団』へと流れて行った。

 もう石も掴めず、倒れているだけの少年たちを、何の意味もなく潰していく。


 誰も悲鳴を上げなかった。呻くこともできないのか、それとも、必死で泣き声をこらえているのだろうか。


 なんのため? あたしのため? あたしを泣かせないため?


 もう泣いてるよ。体がはじけ飛んでしまいそうなほど、悲しみ、怒り、絶望し、どうしようもなくて震えている。



 潰されていく『青鮫団』。壊れていくモモチ。

 あたしはなんなんだよ。

 なんであたしは、あいつらの前にいないんだ。


 俺は『青鮫団』の団長だ。騎士団の盾であり最後の砦。あいつらを護り、あいつらのために剣を振るい、誰よりも強く、必ず俺たちの敵を討つ。

 それが俺の仕事だったはずだろう。


 こんなところで、なにやってんだよ。

 こんなところで――這いつくばって、泣いてる場合じゃないだろうが!――


「……やれやれ。騒々しい連中だなあ」


 鷹取が甘くささやき、俺の背中にキスをした。うずくまった俺の脇から手を差し込み、胸のふくらみをまさぐる。


 ……気色悪い。


「――お待たせ、お姫様」


 俺は、姫なんかじゃない。



 鷹取は俺の胸を撫で、ふと、眉をしかめた。


「……あれ? ……なんか硬い――ていうか、平ら――」


 呟いた、瞬間。

 俺の拳を顔面に受け、全身をぐるぐる回転させた。




 俺は拳を握りこみ、勢い余って倒れることもできない鷹取に、アッパーカットをぶちこんだ。鷹取は俺よりもすこしだけ背が高いが、そんなことは関係ない。まずはボディに一発。悶絶したところに、顎を真下から打ち上げる。


 ロケット花火みたいに、鷹取は天に向かって飛んで行く。

 やがて地面に墜落。そしてピクリとも動かなくなった。



 ――ォォぉおおおおおおおおぉお――



 俺は雄たけびを上げ、駆けだした。

 一番近くにいたのは、空見。

 横たわるモモチを踏みつけて、タバコに火をつけようとしていた。

 迫りくる俺に気が付いたのは、俺が飛び蹴りをかます、一瞬前。


「ん? ――えっ。鱶ざ――」


 言葉の途中で、気持ちよく五メートルほど飛んで行った。


 ドロップキックからの、バック宙。モモチのそばに、無事着地。寝転がったままのモモチを見下ろすと、完全に失神しているようだった。

 俺は背筋を伸ばすと、一度だけ深呼吸。

 そして『青鮫団』のほうへとダッシュする。


 異変に気付いた『天竜王』が、いちようにざわめき、浮足だつ。


「な、なにっ? (ジョーズ)……ぅおぎゃっ!」

「なんで鱶澤っひぃっいいいいいっ――ぐえ」

「勘弁してくださいうちには可愛い七つの子がっぐは……!」


「誰一人として勘弁するかボケよくもうちの『青鮫団』を傷つけてくれたな、『天竜王』は今夜で壊滅じゃごるぁああああああっ!」


 拳を振るうごとに、一人、また一人と『天竜王』は減っていく。

 暴れながらも足元を見ると、『青鮫団』はみんな倒れ、目を閉じているようだった。無事を確認する先に、俺はとにかく、虫けらどもを殲滅した。

 殴り、倒れて邪魔になったやつを蹴り上げ、積み上げる。

 『天竜王』十人分、こんもりとした山が、ウサギ島の廃墟にできあがった。

 最後に鷹取のほうへ戻り、ジャイアントスイングでぶん投げて仕上げ。


 両手をはたいたところで、ひっくり返った声が飛んでくる。


「お、おま、おまえ……鱶澤、ワタル……! いつのまに。どこから湧いてきやがった!?」


 空見だ。さすがタフだな。飛び蹴り一発じゃ死ななかったか、そうかそうか。

 俺はのしのしと、空見へ歩み寄っていく。


 空見は引きつった顔で後ろにさがり、廃墟の壁に、背中をぶつける。


「なんで鱶澤……なんで……ていうか全裸」


「細けぇーことは気にするな」


 俺は右手を握りこみ――斜め下から拳を放った。腕を伸ばすのではなく、肩で固定したまま全身をねじり、回転。全体重を拳に乗せて、空見の横顔にぶち込んでいく。

 ゴリラ野郎の身体が宙に浮き、俺の拳に巻き込まれるように回転して、倒れる。


 そしてそのまま動かなくなった。


 俺は笑った。


「――おあいにく様。たとえ何人で来ようとも……俺が負けるわけねぇだろう」


 ふう、と嘆息。


 闇夜の廃墟――隅っこの方で、少年の声がした。


「…………団長……?……」


 モモチだった。


 俺は、振り向くことができなかった。転がっていたリュックを掴むと、全裸のまま廃墟から飛び出す。



 一キロばかり疾走し、物陰で服を被りながら、ペンションしろくろに電話をかけた。すぐに警察を呼び、少年たちを保護してほしいことを早口で伝える。


 事態を把握していない女将さんは、それでも、さすが客商売。聞かなくてはいけないことを、きちんと確認してきた。


『あ、あなたは、どちら様ですかっ!?』


 俺は言った。



「……一応、気持ちはわりと、鱶澤アユムなかんじです……」


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