決着をつけてやる。
ついにこの日が来た。あいつとの決着をつける日が。
俺は胸に掛けているペンダントを握りしめる。
天国から見ていてくれ藍子。俺は必ずアイツに勝ってXを取り戻してみせる。
ザッザッザッザッザ
まるでゴザのような歩く音が近づいてくる。
間違いない。「ゲンゴロウ」だ……。
「よお、久しぶりだなソウタ。死ぬ準備は出来ているか?」
「ゲンゴロウ。今ならまだ間に合う。Xを俺に渡してくれ」
ゲンゴロウは電動ドリルのように甲高い声をあげて笑い始めた。
「キュイイイイ!笑わせんな!俺がここに来たのはXをお前に渡すためじゃないぜソウタ……!てめえを殺して全部終わらせるためだ!!!」
ゲンゴロウから、皮をむき終わったミカンのように剥き出しの殺気が溢れてくる。
ピョン!
突然ゲンゴロウはカエルのように飛び跳ねた!
クソ!やはり戦わないといけないのか!
ゲンゴロウとは元々親友だった。出来ることなら戦いたくはない。
しかし戦わねばならぬなら、俺がまだ幼い頃に死んだ父親のためにも決して負けるわけにはいかない!
俺は手から光るエネルギー弾を撃つ!
ポン!
これは凝縮された魔力を、まるで弾丸のように打ち出す俺の能力だ。
当たればゲンゴロウは死ぬだろう。そう。これは殺し合いなのだ。
ポンポンポン!
しかしゲンゴロウは空中で器用にヒョーヒョーかわす。
そして体制を立て直したゲンゴロウの眼が、仏壇のごとくギラリと光る!
「行くぜソウタ!『ゴッドクリムゾン!』」
まるで〒ポストのように赤い無数のナイフが飛んでくる!
クソ!
ラララライ!!!!
必死に走ってそれをかわす!
しかし1本のナイフが俺の太ももをに突き刺さる!
ぐえー。
俺は悲鳴を上げて倒れ伏す。
すぐに立ち上がろうとする俺をゲンゴロウが恋人のように押し倒す。
「今降参するなら楽に殺してやる。しないんなら、いたぶって殺す」
ゲンゴロウはまるで尖り切った鉛筆のように鋭い視線を俺に投げながらミカンを食べている。
俺の意識が薄れていく。ヤバい。死ぬかも……。
その時俺の脳裏に小学生の頃の光景が写る。
そうだ。あの頃はまだゲンゴロウと仲が良かった。そしてもう一人仲の良かったユウマ……。今はもう死んでしまったユウマと俺は約束した。もしゲンゴロウが足を踏み外しそうになったら殴ってでも引き留めると。
俺はパスーンと目を開く!
ここで負けるわけにはいかない!ユウマとの約束のためにも!修学旅行で行方不明になって未だ見つかってないヒロシのためにも!
俺は手から魔力を放つ!
不意打ちポン!
ビャッと飛びのくゲンゴロウ!
「ふん!いつまで強がっていられるかな!」
タクアンのようにニヤけた眼は俺の足に向いている。
ナイフの突き刺さった俺の右足からは血がルルルル滴っている。
クソ!右足が震えてきやがった!ビブラートのように!それでも……!
「俺は負けない!小学生の時に死んだユウマとの約束を果たすため!修学旅行で行方不明になったヒロシのため!あと6年生の時の担任だったけど女子更衣室で謎の変死を遂げたケンスケ先生のために!」
「へっ。懐かしい名前だな」
ゲンゴロウは近視なのに遠い目をした後、エサを取られた犬のように邪悪な目つきに変わる。
「次はお前が死ぬ番だ!」
ボボボボボボボボ!!
イワシのように無数のナイフが俺に目がけてシャララララン!
「わああああああい!!」
俺は力を振り絞る。
ポン!
バー!
ポンポン!
ババ―!
ココココココココ!!
「おらぁ!」
「メ―!」
「く、くそ」
うつ伏せに倒れた俺は急いでワッショイ身体を起こそうとする。
しかし押し花を作るために俺の背中へ足を押し付けるゲンゴロウ。
「いい加減諦めろ。どうあがこうがお前は勝てない。ここで死ぬ」
「ふざ、けるな……」
あ、やばい。さっきより意識がぼやけてきやがった。
代わりに鮮明な走馬灯にパッチン切り替わる。
ああ。そうだ。中学に入ってからゲンゴロウとはあまり喋らなくなった。
そうして俺には彼女が出来た。藍子……。しかし何でだろうな。付き合って2日目に藍子はこの世を去った。食べすぎだった。
その次にできた彼女が裕子だった。
……裕子。もしお前が生きていたら、今の俺になんて言うかな。
「しっかりしろ」か?それとも「クルッポー」?
裕子はハトだった。
裕子の顔を思い出した俺の身体に猛る、猛る、猛る力がロロロロン。
そうだ。俺はまだ負けるわけにはいかない……!
この能力が目覚めてから世話になっている人たちのためにも。
裕子についばまれて死んだ同級生のウェーのためにも……!
俺は通常手から出す魔力を背中から押し出した。
背中がポン!!
ぎゃー。
不意打ちを食らったゲンゴロウはよけ切れずに尻餅をつく。
すかさず馬乗りになる俺!
「もう一度言うぞゲンゴロウ!Xを渡せ!」
「誰が渡すか!」
パン!
俺の穀物のような平手がゲンゴロウを襲う!
「くっ!そんなんで俺がXを渡すとでも……?殺せよ!」
パン!
「グ!」
パンパン!
「ヌオ!」
パンパンパン!
「ボンバイエ!」
ゲンゴロウは平手を受け、まるで野鳥のような悲鳴を上げる。
*野鳥はボンバイエとは鳴かない。
「分かった!Xを渡すからもう叩かないで!」
ゲンゴロウはまるで女騎士のように俺の平手に屈する。
そしてスルメイカのように固く閉じられていたカバンからXを取り出し俺に差し出した。
受け取った俺はワカメのように立ち上がり、キュイっとゲンゴロウに背を向けた。
「俺を殺さないのか……」
背後からゲンゴロウの声が聞こえる。
「俺の目的はXを手に入れること。お前を殺すことじゃない」
俺は夕日に向かって歩き出した。
この瞬間、ゲンゴロウのナイフが飛んでくるかもしれない。だが俺は知っている。アイツは背後から敵を襲うような奴じゃない。
それにこのまま死ねるなら、それはそれでいいかもしれない。
天国で皆が待っているだろうからな。
いや、よそう。生きているうちはしっかり生きよう。
この能力を使って、助けられる人を助けていこう。
ポンポンポン
終わり
お読みいただきありがとうございました!