表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集 詰め合わせ

決着をつけてやる。

作者: 忍者の佐藤

ついにこの日が来た。あいつとの決着をつける日が。

俺は胸に掛けているペンダントを握りしめる。

天国から見ていてくれ藍子(あいこ)。俺は必ずアイツに勝ってX(アレ)を取り戻してみせる。


ザッザッザッザッザ


まるでゴザのような歩く音が近づいてくる。

間違いない。「ゲンゴロウ」だ……。


「よお、久しぶりだなソウタ。死ぬ準備は出来ているか?」

「ゲンゴロウ。今ならまだ間に合う。Xを俺に渡してくれ」

ゲンゴロウは電動ドリルのように甲高(かんだか)い声をあげて笑い始めた。

「キュイイイイ!笑わせんな!俺がここに来たのはXをお前に渡すためじゃないぜソウタ……!てめえを殺して全部終わらせるためだ!!!」


ゲンゴロウから、皮をむき終わったミカンのように()き出しの殺気が(あふ)れてくる。


ピョン!

突然ゲンゴロウはカエルのように飛び()ねた!

クソ!やはり戦わないといけないのか!

ゲンゴロウとは元々親友だった。出来ることなら戦いたくはない。

しかし戦わねばならぬなら、俺がまだ幼い頃に死んだ父親のためにも決して負けるわけにはいかない!

俺は手から光るエネルギー(だん)()つ!

ポン!

これは凝縮(ぎょうしゅく)された魔力(まりょく)を、まるで弾丸(だんがん)のように打ち出す俺の能力だ。

当たればゲンゴロウは死ぬだろう。そう。これは殺し合いなのだ。

ポンポンポン!


しかしゲンゴロウは空中で器用にヒョーヒョーかわす。

そして体制を立て直したゲンゴロウの眼が、仏壇(ぶつだん)のごとくギラリと光る!

「行くぜソウタ!『ゴッドクリムゾン!』」

まるで〒ポストのように赤い無数のナイフが飛んでくる!

クソ!

ラララライ!!!!

必死に走ってそれをかわす!

しかし1本のナイフが俺の太ももをに突き刺さる!

ぐえー。

俺は悲鳴を上げて倒れ()す。

すぐに立ち上がろうとする俺をゲンゴロウが恋人のように押し倒す。

「今降参するなら楽に殺してやる。しないんなら、いたぶって殺す」

ゲンゴロウはまるで(とが)り切った鉛筆(えんぴつ)のように(するど)い視線を俺に投げながらミカンを食べている。

俺の意識が(うす)れていく。ヤバい。死ぬかも……。

その時俺の脳裏(のうり)に小学生の頃の光景(こうけい)が写る。

そうだ。あの頃はまだゲンゴロウと仲が良かった。そしてもう一人仲の良かったユウマ……。今はもう死んでしまったユウマと俺は約束した。もしゲンゴロウが足を()み外しそうになったら(なぐ)ってでも引き()めると。

俺はパスーンと目を開く!

ここで負けるわけにはいかない!ユウマとの約束のためにも!修学旅行で行方不明になって未だ見つかってないヒロシのためにも!

俺は手から魔力を放つ!


不意打(ふいう)ちポン!

ビャッと飛びのくゲンゴロウ!

「ふん!いつまで強がっていられるかな!」

タクアンのようにニヤけた眼は俺の足に向いている。

ナイフの突き刺さった俺の右足からは血がルルルル(したた)っている。

クソ!右足が(ふる)えてきやがった!ビブラートのように!それでも……!

「俺は負けない!小学生の時に死んだユウマとの約束を果たすため!修学旅行で行方(ゆくえ)不明(ふめい)になったヒロシのため!あと6年生の時の担任(たんにん)だったけど女子(じょし)更衣室(こういしつ)(なぞ)の変死を()げたケンスケ先生のために!」

「へっ。(なつ)かしい名前だな」

ゲンゴロウは近視なのに遠い目をした後、エサを取られた犬のように邪悪(じゃあく)な目つきに変わる。

「次はお前が死ぬ番だ!」

ボボボボボボボボ!!

イワシのように無数のナイフが俺に目がけてシャララララン!

「わああああああい!!」

俺は力を()(しぼ)る。

ポン!

バー!

ポンポン!

ババ―!

ココココココココ!!

「おらぁ!」

「メ―!」


「く、くそ」

うつ()せに倒れた俺は急いでワッショイ身体を起こそうとする。

しかし押し花を作るために俺の背中へ足を押し付けるゲンゴロウ。

「いい加減(かげん)(あきら)めろ。どうあがこうがお前は勝てない。ここで死ぬ」

「ふざ、けるな……」

あ、やばい。さっきより意識がぼやけてきやがった。

代わりに鮮明(せんめい)走馬灯(そうまとう)にパッチン切り替わる。

ああ。そうだ。中学に入ってからゲンゴロウとはあまり喋らなくなった。

そうして俺には彼女が出来た。藍子(あいこ)……。しかし何でだろうな。付き合って2日目に藍子はこの世を去った。食べすぎだった。

その次にできた彼女が裕子(ゆうこ)だった。

……裕子。もしお前が生きていたら、今の俺になんて言うかな。

「しっかりしろ」か?それとも「クルッポー」?

裕子はハトだった。


裕子の顔を思い出した俺の身体に(たけ)る、猛る、猛る力がロロロロン。

そうだ。俺はまだ負けるわけにはいかない……!

この能力が目覚めてから世話になっている人たちのためにも。

裕子についばまれて死んだ同級生のウェーのためにも……!

俺は通常手から出す魔力を背中から押し出した。

背中がポン!!

ぎゃー。

不意打ちを食らったゲンゴロウはよけ切れずに尻餅(しりもち)をつく。

すかさず馬乗りになる俺!

「もう一度言うぞゲンゴロウ!Xを渡せ!」

「誰が渡すか!」

パン!

俺の穀物(こくもつ)のような平手がゲンゴロウを(おそ)う!

「くっ!そんなんで俺がXを渡すとでも……?殺せよ!」

パン!

「グ!」

パンパン!

「ヌオ!」

パンパンパン!

「ボンバイエ!」

ゲンゴロウは平手を受け、まるで野鳥(やちょう)のような悲鳴(ひめい)を上げる。

*野鳥はボンバイエとは()かない。


「分かった!Xを渡すからもう叩かないで!」

ゲンゴロウはまるで(おんな)騎士(きし)のように俺の平手に(くっ)する。

そしてスルメイカのように固く閉じられていたカバンからXを取り出し俺に差し出した。

受け取った俺はワカメのように立ち上がり、キュイっとゲンゴロウに背を向けた。

「俺を殺さないのか……」

背後(はいご)からゲンゴロウの声が聞こえる。

「俺の目的はXを手に入れること。お前を殺すことじゃない」

俺は夕日に向かって歩き出した。

この瞬間、ゲンゴロウのナイフが飛んでくるかもしれない。だが俺は知っている。アイツは背後から敵を(おそ)うような奴じゃない。


それにこのまま死ねるなら、それはそれでいいかもしれない。

天国で皆が待っているだろうからな。


いや、よそう。生きているうちはしっかり生きよう。

この能力を使って、助けられる人を助けていこう。

ポンポンポン



終わり


お読みいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この素晴らしい作品に出会えた事に感謝! ラララライのくだりでぐっと引き込まれもう抜け出せそうにありません。 また機会がありましたら是非宜しくおねが…ぶはっ(笑)
[一言] 読ませていただきました。比喩とオノマトペが面白すぎます。青春バトルファンタジーの展開で、二人とも真面目に戦っているのに、お笑い対決をしてるみたいです(笑) ひたすらボケ(ズレ)をねじ込む作風…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ