涙を忘れた日
500文字小説です。
(※ 毒キノコは食べてはいけません。)
あるところに、毒キノコを食べてしまった男がいた。
その毒キノコは、食べると笑いが止まらなくなるという『笑茸』だった。
「ヒャッハッハ」
男は笑い続けている。
お腹を抱えながら、目を三日月のように細めている。
そんな状態が止まらなくても、男は、毒キノコを食べたことに対して後悔をしていなかった。
なぜならその男は、『笑茸』を自分の体内に入れると、どんな危険なことが待っているのか、事前に調べていて知っていたからである。
「これでもう、君のことを思い出しても悲しくないよ」
男は数日前に、恋人を亡くしたばかりだった。
恋人は交通事故に遭い、即死していたのだ。
その日を境に、男は口数が減った。誰とも目を合わせなくなった。毎晩、誰もいない部屋で一人っきりになると、何かが壊れてしまったかのように、男の目からは涙が止まらなくなっていた。
そんな毎日から抜け出すために、男は、今日に至るまでずっと毒キノコを探し求めていたのだ。
それを食べてしまえば、どんなに悲しくても、笑っていられるということだったから――。
「ヒャッハッハ」
男は笑い続けていた。
一人で愉快な声をあげながら、男は恋人の遺影をしっかりと胸に抱きしめていた。
読んでくださり、ありがとうございました。