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はじまりのとき

挿絵(By みてみん)

 広い真っ暗な部屋に、僕は一人立ち尽くしていた。

 どれくらいこうしていたんだろう。どうして僕はこうしているのだろう。何もわからなかった。

「あなたはだれ?」

 幼い少女のような、可愛らしい声が聞こえて来た。

 しかし僕は、少女の質問に答えることが出来なかった。

 僕はだれなんだろう。わからなかった、何も。僕は僕のことを、何も知らなかった。

「どのようにここに入ったの?」

 この質問の答えもわからない。

 そもそも、ここはどこなのだろう。それさえわからないのだから、どのように入ったかなんてわかるはずもなかった。

 何もわからなかった。

 覚えていない? そうじゃなくて、わからなかったのだ。何も、何も。

「そこで何をしているの?」

 少女はどこにいるのだろう。答えられない質問は最早聞きもせず、そんなことを考えていた。

 声は近くから聞こえる。

 それでも、近くには人の気配など全くなかった。

 一人。そう、僕は一人だった。

 何もわからないけれど、それだけはわかったんだ。

 ここには僕しかいない。この場所にいるのは、僕だけなんだって。

「君はどこにいるの?」

 そんな疑問が口から漏れていた。

 頭が上手く働かない。

 少女が何者かも気になる。でもそれよりも、僕は何者なんだろう。

「私は檻の中にいる、ずっと。一歩も外には出ていない」

 今までと全く同じ声色で、質問の答えは返ってきた。

 檻の中。どうしてそんなところにいるのだろう。

 不思議だ。なぜだか、少女のことを知りたいと思った。

 顔も見えないと言うのに。名前も知らないと言うのに。

「あなたと同じ、この檻の中。もしかして、あなたも私と同じなの?」

 少女が指す檻と言うのは、この場所のことだったらしい。

 それならば、どうして僕は檻の中にいるのだろう。

 今更ながら、そんな疑問が湧いてくる。やっぱり、頭がちゃんと働いていないらしい。

 しかし、同じとはどういうことだろう。

 少女は何か罪を犯し、檻の中に閉じ込められた。そして僕も同じ罪を犯し、同じ檻の中に。

 そんなこと、普通に考えたらありえない。

 同じ檻に閉じ込めたりなんて、するはずがないだろう。

 ということは、何か特殊なのだろうか。何か特殊な理由で、檻の中に閉じ込められているのだろうか。

「わからない」

 素直にそう答えた。

 だって、わからなかったから。いくら考えたって、何もわかりはしなかったのだから。

「何も知らないの? すべてを、消し去られてしまったんだね」

 その言葉は少しだけ、僕を嘲笑しているように見えた。


僕はとにかくこの檻から脱出するための方法を考えた。すると一つだけ脱出する方法を思い付いた。それは僕はいつでもどこでもポケットにスマホを入れていたためさっそくポケットから取り出した。



その少女は、質問をして来た。


「そのスマートフォンでどうするの?私たち檻に閉じ込められるんだよ!」


「良い考えがあるから任せて!」


僕が檻から脱出するためにそのスマートフォンでとある友達に小声で電話をかける。


「もしもし勝くんかな?僕だよ!GPS機能で今いる場所がわかると思うから至急来てほしい」


「どうしたの?いきなり」


「実は何も悪いことをしていないのに檻に閉じ込められるんだよ!だから勝刑事なら助けてくれるかな?と思って」


「わかった!僕に任せろ」



それから勝刑事が助けてくれることになった。


すると一緒に檻の中にいる少女は、こう聞いてきた。


「勝刑事って刑事さんとお友達だったの?」


「昔に勝が刑事になる前にちょっとした知り合ってね。それで勝刑事は、検挙率100%で悪い人を逮捕してくれるんだ」


それから勝刑事は、車で飛ばしてその現場に向かう。



そしてその現場に到着し僕たちを助けに来てくれる。


檻の閉じ込められる少女と僕は、何も悪くないのに檻に閉じ込められているため大量の涙を流しながら泣いていた。

すると勝刑事の声がした。


「助けに来たぞ~!それで閉じ込めた人は、分かるか?」


「いや、閉じ込めた人は分かりませんがただ言えることは幼い少女であることには違いありません」


するとその幼い少女の声がいきなり聞こえてきた。


「二人を檻に閉じ込めたのは、この私だよ!」


すると勝刑事は、手錠をかける用意を急いでした。


「君ですか?無罪の二人を勝手に檻の中に閉じ込めたのは!」


「それでは、あなたに一つ聞くが二人が無罪と言う証拠はあるのか?」


この時勝刑事は、こう言った。


「証拠は無いが必ず無罪を証明してやるよ!」


「果たしてどうかな?この檻には防犯カメラも何もないからな。二人の無罪を証明するのは、ほぼ不可能だと思うけどね!」


すると勝刑事は、こう言った。


「検挙率100%のこの僕に不可能なことなど一切ない。無罪ならば無罪の証拠は必ずいつか出てくるし真実を必ず暴いて見せるのがこの僕の役目だからな!せいぜい僕が君に手錠をかけるのを楽しみにしておくんだな!」


こうして勝刑事が現れたが二人の無罪の証拠がないため無罪を証明する調査を警察官一同で始めることになった。


「ええ、それでは定刻になりましたので連続殺人事件についての捜査会議を始めます。まず、佐原刑事。事件についての詳細を報告してください」


表に『連続殺人事件捜査本部』と書かれている部屋。


警視庁の捜査一課の全員がそこに集まっており、会議進行を務めているのは部長の矢神だ。


「はっ」


佐原はまとめている手帳を開く。


「今年の十月まで二ヶ月置きにそれぞれ一人の女性が殺されました。順に神奈川県横浜市で道野 華さん22歳、京都府京都市で海山 直美さん21歳、山口県美祢市で桃山 律子さん25歳、福岡県福岡市で角田 由衣さん24歳です。


いずれも死因は首を刃物で斬られたことによる出血多量でショック死です。また、直接の死因とは関係なく、全ての被害者の胸に穴が開けられて心臓が取り出されているのが最大の特徴です。


加えて、使用された凶器を含めて指紋などの犯人の手掛かりとなりそうな物的証拠は見つかっておりません」


佐原は言い終わると着席する。


「では、次に犯人の捜査の進捗状況を勝刑事、報告してください」


勝は自分の愛用している手帳を開く。


「はい。いずれの被害者も柏崎 良雄25歳と繋がっており、重要参考人としてマークしています。被害者の四人は時期は異なるものの柏崎と交際していたということが判明しています。


尚、被害者全員が柏崎によって振られていることもわかっています。現在、柏崎は晴野 華澄24歳と交際しているようです」


とんだハーレム野郎だな、というセリフが呟かれたことによって失笑が漏れる。


それも矢神の咳払いですぐに収まる。


「それではその柏崎について勝刑事、詳細を報告してください」


勝は手帳のページを捲る。


「柏崎は東京大学理科一類の二年生で、そこからそう遠くないアパートに住んでいます」


「勝刑事、ありがとうございました。次に樟葉刑事、柏崎のアリバイの方はどうですか?」


勝と日頃コンビを組んでいるのが樟葉だ。


「柏崎のアリバイはいずれの事件の発生日のみアリバイが確認できていませんが、同時に事件現場付近の防犯カメラなどにも解析ができている中では写っていません」


矢神は理解したというふうに数度頷いて樟葉に着席の合図を送る。


「それでは、柏崎は任意同行はできましたか?」


矢神は一課全員に質問する。実の所、柏崎は警視庁が動き出した頃から身を隠していて誰も見つけられていなかったのだ。矢神の眉間に皺が寄り始めたとき、勝が立ち上がった。


「実は先程、檻に拘禁されていたのを僕が発見しました」

 それを聞いた、刑事部部長の矢神が更に質問を続ける。

「ほう、檻ですか……。しかし、勝刑事。君はどうやって柏崎を見つけることが出来たのですか? 彼は行方不明の筈でしたよね」

 捜査会議に出席している刑事達も同じ思いのようで、勝刑事を疑いの目で見つめていた。


「ああ、檻と言っても比喩的な意味であって、実際には建物に監禁されていただけです。それとご指摘についてですが、実は奴から電話を受けたのです。『悪いことをなにもしていないのに、檻に閉じ込められた。助けてくれ』 とね。それで、訳もわからず駆けつけたんですよ」

「なるほど。では、なぜ柏崎は君の番号を知っていたんです?」

「彼は高校の同級生なんです。その頃に番号を交換しました。もっとも、奴から連絡をしてくる事なんて無かったので、すっかり忘れていました」 

「ふむ。では、駆けつけた後の状況を教えてください」


 勝刑事は記憶を引っ張り出しているようで、ゆっくりと答えた。

「GPS に従って駆けつけてみると、辿り着いたのは寂れた倉庫でした。錆びた鍵を壊して中に入ると、彼と少女がいたのです。そこで、二人を『保護』 という名目で署に連れてきました」


 それらを聞き終えた矢神は、満足そうに頷いて勝を座らせた。

「よろしい。ところで、柏崎と共に監禁されていた少女の身元は分かりましたか」

 これには、佐原刑事が立ち上がって応じた。

「はっ。それが、泣いてばかりで話にならないんです。詳しい事情を聞くにはもう少し時間が必要かと」

「なるほど。可哀想に、よほど柏崎に酷いことをされたんでしょうな。何せ相手は殺人犯ですから」


 落ち着いた様子で聞いていた勝は、突然鋭い剣幕で怒鳴り出した。

「部長! 前にも申し上げたはずです。柏崎に人殺しなんて出来ない。あいつはね、蚊も殺せないような心優しい青年なんですよ」

 しかし、矢神は気にした様子もなくポリポリと頭を掻いた。

「でもねえ、勝刑事。柏崎の交際していた女性が4人も亡くなっているんです。おまけに、警察からは姿を眩ました。殺人犯だと疑うのは当然だと思いますよ」

 勝は悔しそうに矢神を睨み付け、懸命に食い下がった。

「しかし部長。彼はどうやら記憶を失っているようです。こんな状態でどうやって殺人の立証を行うんですか。ここは慎重に……」

「ふん。記憶喪失なのに、彼は君の事を覚えていたんですか? どうせ演技に決まっている。無駄な時間稼ぎは止めなさい」

 そんなご都合主義が有り得るか、と矢神は吐き捨てる。

 樟葉は「過去に何かあったのだろうか」と勘繰ってしまうが、この場では自重した。発言する意味など皆無。波を立てるのは自分ではない。

 勝は静まりかえった室内を見回して、激昂した。


「アンタらに柏崎の何が分かる!」


 刑事らしからぬ発言だが、かつての友人としては満点だろう。

 その剣幕に、矢神は確かに圧力を感じて怯んだ。他のメンバーも同様。



 結局会議はろくに進まなかった。新たに決まったのは、「柏崎と少女が何者かに囚われていた」という線で調査をすることのみ。


「柏崎の罪状に、監禁罪が加わるだけだ。殺人予備罪もな」

 柏崎が犯人だと信じて疑わない矢神を、勝は睨むだけだった。




 勝は考えていた。

 犯人の意図は何か。彼は柏崎が犯人ではないと信じている。


 それは「彼がそんな事をする奴ではない」という曖昧な理由ではなかった。「違うという、確固たる勘がある」という理由。

 ……どう見てももっと曖昧な理由です、本当にありがとうございました。


(二人を監禁したのだってそうだ。金属製の倉庫、もしくは電波遮断シートなんぞ貼れば、GPSも電話も使えない。少しでも痕跡を残したくなかったのか)



 最初から監禁自体が目的ではなかったか



 監禁というのは、勿論別の目的を伴ってなされる場合が多いが。

 監禁したという事実が欲しかったのだろうか。


 勝が檻こと倉庫に向かった時、鍵は鍵の役割を果たしていなかった。

 力を入れるとすぐ南京錠は細い部分が壊れ、「これでは自身で出る事が出来たのでは」と、拍子抜けした程だったのだ。

 当然、罠が設けられている可能性も考えると、外に安易に出てしまうのは得策ではなかった。電話をしたのは良案と思える。

 だが。


「体当たりしても開かなかった」


 とは、柏崎の談だ。


 そこまで考えたところで、屋上の錆付いた扉が開く。

 ギギギと音を立て、樟葉が現れた。


「まださっきの事気にしてます? 大丈夫ですよ」


 何が大丈夫なもんかと呟く勝に、アルミ缶が投げられる。

 見たところジュース。

 口に含むと。



 湿布の味がした。



「なんでさぁぁぁぁぁ!!」


「日本の警察は優秀ですから。ドラマとは違いますよ」


「そうじゃない! このジュースだよ!」


「ああ、僕好きなんですコレ。美味しいでしょ?」


 雰囲気全破壊の発言だった。

 笑って樟葉は言う。


「気を抜かないと、潰れますよ」


 その発言に、勝はハッとした。

「潰れる? ……ッ!」


 叫ぶ。

「急ぐぞ! 晴野華澄が危ない!」


 柏崎にはひとつ、分からないことがあった。

 それは自分が疑われていること――ではない。

 それ自体にはなんらおかしいとも思っていない。

 現在この街で起こっている殺人事件の被害者全員が自分と関わりがあるのだから。

 推理小説じゃああるまいし、疑うべき人間が疑われている。それ自体は何もおかしくない。

 自分は殺していないけれど、さすがにそれは理解できる。

 自分は、疑われるには充分な立場にいる。


 ただ、だからこそ分からないものがある。

 どうして自分が監禁されたのか、だ。


 もちろん無差別ではないのだろう。

 今このタイミングで、とある殺人事件の容疑者が、偶然にも別の事件に巻き込まれた。なんてあるはずがない。


 あの声。

 幼い女の子のようだったけれど、あの声の主が、無差別ではなく、ちきんと差別して、自分を監禁したのだろう。

 しかもその犯人いわく『柏崎には罪がある』らしい。

 となると、あの声の主は被害者のうちの誰かの親族だろうか。


「……いや、聞き覚えはないな」

 どの被害者とも家族ぐるみの付き合いがあったわけではないけれど、それでも、聞き覚えがないことだけは確かだ。


 しかも監禁した割にはあっさりと開放しちゃっているのも変な話だ。

 深い話をしようとしている割には、穴が多すぎる。

 まるで、出来損ないの刑事ドラマを見ている気分だ。


「……聞き覚えって、なんの聞き覚えだ?」

「いや。監禁された時に聞こえてきた声の……ん?」

 この声には聞き覚えがあった。

 つい最近、とある場所で聞いた声だ。

 ぎぎぎ、と油が切れた人形のような挙動で、柏崎は声のした方を向いた。

 そこには、あの、監禁された場所にいた身元不明の女の子が立っていた。


「……あれ? きみ確か警察署で保護されているんじゃあ」

「逃げ出してきた。面白くないからな、あそこ」

「いや、いやいやいや。ダメだろうそれは! はやく戻らないとまた面倒なことに!」

「戻れったって……」

 女の子は自分たちが歩いていた背後を一瞥してから、にへらと笑った。

「私、道なんて覚えてないぞ?」

「……あー、くそっ!」


***


 結局、柏崎は女の子を戻すためにもう一度警察署に戻るはめになった。

 そして、彼はそのまま数日ほど、その場に足止めされることになる。

 理由は単純。

 彼は再び、檻の中に閉じ込められる羽目になったからだ。

 今度は比喩的表現でも何でもなく、牢屋そのものに。

 晴野華澄の殺人容疑で。

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