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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最強を継ぐ者

作者: 鷲野高山

戦闘描写の練習などで、初めての短編を書いてみました。

気軽に、読んでいただけると幸いです。

「もし、お前にその気があるのなら。王都へ行って騎士試験を受けるといい」


 死の間際、クラフトの育ての親であるツヴァイフェルトは、唐突にそんなことを言った。


「心配せずとも、充分に通用するだろう。――なにせお前は、このワシの弟子なのだから」


 その言葉を最後に、ツヴァイフェルトは息を引き取った。

 穏やかで、晴れやかな顔。呆気ない、しかし永遠の別れであった。


 クラフトとツヴァイフェルトの関係は、共に生活する家族のようなものであるが、なにより師匠と弟子である。

 もっとも、血の繋がりはない。


 二人の出会いを遡れば、それはとても友好的とは言い難いものであった。

 王都から遠く離れた田舎町で暮らしていたクラフトは、身寄りのない孤児。

 両親はおらず、また顔もろくに覚えていない。薄汚い襤褸布を身に纏い日々の食事もままならない生活を送っていた。

 そんな毎日を過ごし、齢十になろうといった時であったか。あまりの空腹に耐えかね、クラフトは人を襲ってしまったのである。


 そしてそれがツヴァイフェルトであった。

 襲いかかったクラフトを容易く返り討ちにしたツヴァイフェルトは、興味深げに尋ねた。

「何故、ワシに襲いかかったのだ」と。


 クラフトは、正直に答えた。ツヴァイフェルトが、ただの白髪交じりの年寄りと映ったのだ、と。栄養の充分でないこんな子供の身体でも、どうにかできると思ったからだと。


 その後は、クラフト自身今でもなぜこうなったのかは分からない。

 どういうわけか、ツヴァイフェルトの借りた家に連れて行かれ、共に生活するようになった。

 教養を、武術を、学ぶようになった。そしてやがて、ツヴァイフェルトの得意であった棒術を教わるようにもなった。


 ――最強たれ。


 クラフトは、常日頃からツヴァイフェルトにそう言い聞かされて育った。

 実際ツヴァイフェルトは老いた身ながらかなりの実力者であったのだが。ある時、ふとクラフトは気になって尋ねた。

 あなたは最強なのか、と。

 あまりに、直球な問いかけ。しかしてそれは、クラフトの純粋な疑問でもあった。

 するとツヴァイフェルトは、豪快に笑いながら、答えたのだ。


 最強である、と――。



 その時のツヴァイフェルトの自信満々たる顔を脳裏に浮かべつつ、クラフトは目を開けた。

 眼前には、自身の作ったツヴァイフェルトの小さな墓。

 手を合わせ終え、物思いに耽る。


 ――これから、どうしようか。


 今までは、特に何も考えていなかった。ただ、しばらくはツヴァイフェルトと共に過ごす日々が続くのだろうと、そう漠然と思っていた。

 なにせ、殺そうとしても死なない爺さん――師匠だったのだ。それが何の前触れもなく、まるで嘘のように逝ってしまった。

 天命には勝てぬ。そう、ツヴァイフェルトは笑っていた。


 王都の騎士試験がなんだ、とツヴァイフェルトは今際の際に残したが、しかしクラフトは騎士についてそれほど詳しいわけではなかった。

 ツヴァイフェルトとの生活の中に騎士という言葉は出たことがなく、また王都から遠く離れたこんな田舎町では、立派な騎士など来ようもない。

 話に聞いた騎士は、国を守る人。せいぜい、その程度の認識であった。


 だが――。


「……よし」


 ツヴァイフェルトが残した言葉だ。それが決して意味のないものではないと、クラフトは直感していた。


「じゃ、行ってくるよ。ツヴァイフェルト」


 そうして、クラフトは王都目指して住み慣れた町を発つのだった。


 ――――――――


「うわ、すっげぇ……」


 眼前には、巨大な門。その向こうには、高く大きな建築物がいくつも並び。

 目線を下ろせば、門を絶え間無く行き来する数多の人々。その数は、クラフトの住んでいた田舎町とは比べるまでもなく多い。


「これが、王都……!」


 呆然と、それでいてワクワクしたような声色で、クラフトは呟いた。

 その身に纏うは、年を経て色素も抜け落ちはじめた、されど丈夫にしてどこか上質さを思わせる服。

 手には、長さにして6尺ほどの棒。クラフトの身長とさほど変わらないそれは、漆黒の一色に染められているだけ。

 これらは全て、クラフトがツヴァイフェルトより譲り受けた物である。


 遺言書が、あった。

 そこには、騎士試験を受ける場合の場所や時期、ツヴァイフェルトの愛用武器であった漆黒の棒を受け渡す旨。そして遺言書とは別に、騎士試験の際、または試験に間に合わなかった時に提出しろという推薦状が置かれていたのだ。


 クラフトは、軽やかな足取りで門を潜る。

 活気ある市場や、そこに並べられる数多の商品。

 田舎町にもお店や定期市はあったが、やはりそれとは比較にならない規模であった。


 じっくり見てみたいところであったが、それは後にしてまずは騎士試験である。

 好奇心をなんとか押さえ込んだクラフトは、慣れない王都に少し迷ったものの、通行人に道を訊ねてなんとか会場に辿り着くことができた。


「あのー、すいません。ここって、騎士試験の会場ですよね?」

「ん、ああ、そうだが」


 建物入口に立つ、鎧を纏い、剣を佩いた騎士らしき人物に話しかける。

 肯定の返事に胸を撫で下ろし、クラフトは言葉を続けた。


「騎士試験、受けたいんですが」

「……誰が受けるって?」


 だが、クラフトがそう告げると、騎士は声を低くして胡乱な表情となった。


「誰って……俺だけど」


 クラフトが誰かと一緒にいればそう聞かれるかもしれないが、しかし今は自分のみである。

 見ればわかるだろ、と内心ムッとしつつ、クラフトが言えば。

 途端、騎士は値踏みするようにクラフトをじろりと見ると、やがてフッと鼻で笑った。


「ハハッ、冗談もほどほどにしとけよ。お前みたいな田舎の坊主が騎士試験を受けたって、恥かいて終わるだけだぜ?」

「え……」


 明らかに小馬鹿にした物言い。

 クラフトは怒りを覚えるより前に絶句する。


「騎士になるのがどれだけ難しいか知ってるか? 時々いるんだよな。お前みたいに、思い上がって田舎から出てくる坊主がさ」

「……騎士試験て、誰にでも受けれる資格があるんですよね?」

「ああ、その通りだ。だが、お前みたいなのは大抵、現実を見せられて終わるんだよ。悪いことは言わねえ、今すぐ元いたとこへ帰ったほうがいいぜ」


 ニヤニヤと笑って、その騎士は言った。

 忠告、と取れなくもない。いや、しかしそう言うには大層というものだろう。

 真摯な態度であるならまだしも、それは明らかにクラフトを蔑んだものであったのだ。


「…………」


 ――これが、騎士か。


 クラフトは、憤慨と同時に落胆した。割合としては、後者の方が多い。

 王都に来るまでの長い道のりで、幾たびも想像した。騎士とは、どういった存在であるか、と。

 なにせ、何も知らないに等しいのだ。皆目見当もつかず――しかしそれを考えるのもなかなかに楽しいものであった。

 途中に立ち寄った村や町などで、詳しくではないが騎士や騎士試験に関する話も聞いた。

 曰く、騎士試験には毎回多くの人が集まる。その大勢の中でも、選ばれた人間にしかなれない。それが騎士という存在なのだ、と。

 大人達は、尊敬する騎士の名を上げて目を輝かせてはその魅力を語り。子供達は、彼らにとっての英雄たる騎士の真似をして無邪気に戯れている。

 思えば、クラフトとてまだ見ぬ騎士に対して憧れにも等しい気持ちも抱いていたかもしれない。


 ――なのに、これか。


 騎士試験会場である建物の入口に立っているのだから、まず間違いなくこの人物は騎士なのだろう。それが例え上の立場でなかろうと、騎士としてその末席にその身を連ねているのだ。

 まだ20歳にもなっておらず、実際田舎から出てきたのだから、田舎坊主というのは否定しない。自身は井の中の蛙であり、騎士試験を受けるに足らない人間なのかもしれない。

 しかし、騎士試験を受ける資格は誰にでもあるを聞いた。なのに、この扱いはいかがなものだろうか。


 ――見た目で人を扱き下ろすのが、騎士か。


 ゆえに、失望を禁じ得なかった。

 顔を俯かせるクラフトに、騎士の声がかかる。


「まあ、どうしてもってんなら、入ればいい。強制する権利はないからな」


 ――このまま帰ってしまおうか。

 一瞬の逡巡が、胸裏をよぎる。

 だが、ここまで来たのだ。受けるだけ、受けてみよう。その後にまた考えればよい。

 クラフトは、すぐに建物に向けて一歩ずつ踏み出す。

 

「突き当り、大扉の先が試験会場だ」

「……どうも」


 返答は短く、クラフトは騎士の横を通り抜けて建物内へ入ろうとして。


「……ああ、そうだ。推薦状が」


 足を止め、懐に手を伸ばす。

 ツヴァイフェルトの遺した、推薦状。どんな意味を持つかは知らないが、提出したほうがいいのだろう。


「推薦状?」 


 訝しげに、騎士がクラフトの手から推薦状を取った。

 じろじろとそれを見る騎士を後目に、クラフトは中へと歩いていく。

 その、背後で。


「おい、今誰か入っていったか?」


 別の騎士が現れ、クラフトと会話していた騎士に駆け寄った。


「ああ、騎士試験の受験希望者だと」

「は? 今からか!? もう試験が始まってだいぶ時間経ってるだろうに……まさか、飛び込み(・・・・)か?」

「さあな。だが、こんな時間に来たってんなら、そういうことじゃねぇか? ま、あの坊主が受かるとは到底思えんが」


 ぞんざいに言うと、騎士はクラフトより渡された推薦状を見て首を傾げる。


「しっかし、推薦状なんてよっぽどの人が書いたもんじゃなけりゃ、まるで無意味だってのに。あんな坊主が一体誰の推薦状なんざ――」



 ――――――――


 建物に入ったクラフトは、のろのろと通路の突き当り目指して足を進めていた。


「……騎士、か」


 ツヴァイフェルトが口にしたから。言ってしまえば、ここまで来たのはそれが一番の理由だ。

 絶対になりたい、というわけではなかった。また、絶対に受かる、とも思っていなかった。

 ただでさえそうだったというのに、先程の騎士とのやりとり。消沈もやむなしであった。


 ふと、耳が物音を捉え、足を止める。

 ――剣戟の交差する音だ。この先から、微かに漏れ聞こえてくる。

 まっすぐ伸びた廊下を進む。この先に、どんな光景が広がっているのか。消沈していたというのに、自然と早くなる足。


 辿り着いた、扉。間違いない、この先だ。

 クラフトは、少しばかり早くなった己の心臓の鼓動を感じつつ、ゆっくりと扉を押し開けた。


 まず目に入ったのは、そのままの視線の先。

 大きな部屋――いや、部屋というよりは広間にて、二組、計四人の人間が互いの武器をぶつけあっている。

 それを囲い、見下すように二階に設置された多数の席。そこに座っているのは、百に届くか届かないかといった数の人々。年齢も、そして性別もバラバラな彼らは、誰一人喋ることなくじっと眼下の戦いに目を向けている。


 再び眼前の戦いに戻るクラフトの視線。

 部屋のやや右寄りでは騎士と思しき者の剣と受験者と思しき少女の槍が交差し。左側でも同様に、騎士の剣と青年の剣が鍔迫り合っている。

 双方の戦いにて、入口にて会話した騎士と同種の防具を纏った人間がいるので、恐らくあれが試験官なのだろう。そしてその二人以外にも、会場内の所々にその恰好が見受けられた。

 

「――なにをしている?」


 突如、横合いから声をかけられた。

 凛とした女性の声。思わずそちらを見ようとして――クラフトは、自身が未だ扉に半身を隠した状態であるのに気付いた。慌てて室内に完全に入れば、背後で扉がゆっくり小さく音を立てて閉じる。

 そうしてようやく、声の方を見た。


「……っ」


 瞬間、クラフトは息を呑んだ。

 視線は固定され、すぐ先で交わされる剣戟の音も、今は耳に入らない。


 声の先にいたのは、一人の女性。

 壁際にて両腕を組み、泰然とした佇まいで顔だけをこちらに向けている。

 その身に纏うは、上質な鎧に、真紅のマント。その身なり、纏う空気からして、明らかにただの騎士ではない。どう見ても地位の高そうな、女性騎士だ。

 金糸の如き髪に、翡翠の瞳。その冷ややかで鋭い視線が、クラフトを射抜く。


「もう一度聞く。――なにをしている?」


 彼女の姿に見入ってしまった、といっても過言ではなかった。

 しかし女性騎士の二言目にてようやく我に返り、クラフトは声をあげる。


「あ、えっと……騎士試験を受けに……」

「……騎士試験?」


 だが、クラフトが告げると、ふむ、と彼女は眉根を寄せた。

 まさか、この女性騎士も、入口にいた騎士同様にクラフトを馬鹿にするのだろうか。

 咄嗟にそう思ったクラフトであったが。


「騎士試験ならば、直に終るところだが?」


 しかしその口から紡がれたのは、予想外の言葉であった。


「……え?」

「今戦っている二人――いや、一人が、最後の受験者だ。他の受験者は試験を終えて、上で観戦している」


 指し示され、中央を見やる。すると今まさに、受験者らしき青年男性の剣が甲高い音と共に弾き飛ばされたところであった。


「それとも――飛び込み希望者か?」


 どこか、面白さを含んだような女性騎士の声。

 だが、クラフトはさっぱりその言葉の意味が分からない。


「飛び込み? えっと、さっき王都に着いたばかりなのでよく知らないんですが……とにかく騎士試験を受けにきました」

「……騎士を志しているというのに、試験のことはよく知らぬと? 通常受験希望者の受付は、とうに締め切っているぞ」

「え、そうなんですか?」


 初耳であった。ゆえに、純粋な驚きの声がクラフトの口から出る。


「……よもや、騎士がなんたるか知らぬ、とは言うまいな?」

「え、えーと……」


 クラフトが言葉に詰まると、女性騎士は呆れ声と共に溜め息を吐いた。


「貴様は、馬鹿なのか、余程豪胆なのか……」

「…………」

「そも、騎士を目指すからには、怠慢は許されぬ。情報の不足は貴様の落ち度。遅刻など、もってのほかだ」


 知らなかった、は理由にならない。確かに、クラフトは情報を集めるのを疎かにしていた。

 ただ試験会場に行って受験するだけ、と思い込んでいたのだ。


「でも、入口にいた騎士は入りたければ入れって――」


 だが、そうだとすれば釈然としない点が一つ。


「ああ、まあ例外はある。本来であれば、正しく情報を把握していなかった貴様はそれだけで不合格だが――飛び込みで試験を受けるのなら話は別だ」

「えっと、その飛び込みっていうのは?」

「騎士試験は、筆記試験と実力試験の二つで合否が決まる。が、筆記試験を受けずに実力試験のみで受験する方法もある。それが、飛び込みと呼ばれるものだ」


 筆記試験、と聞いて思わず顔を顰めるクラフト。

 ツヴァイフェルトから教養はそこそこ教わったが、それでもあまり座学は得意ではない。


「どうして皆飛び込みを受けないんですか?」


 クラフトからすればそれは当然の疑問。二つと一つ、頭にそれほどの自信がなければ、後者の方がいいに決まっている。知識は微妙でも、実力には自信のある人間は絶対にいるだろう。

 

「飛び込みは、完全に実技実力のみの試験だ。試験官となる騎士は一定以上の実力。判定は厳しめとなり、通常の試験より大きく難易度が跳ね上がる。ゆえに、過去数十年の中で、飛び込みで騎士試験に合格した者は百に満たない」


 クラフトの疑問に答えた女性騎士はフッと笑う。


「飛び込みでの合格者は、後にそれぞれが高位の騎士となったと聞く。特に一人目の合格者となったお方は、その中でも別格の騎士であったと私は思っている」


 憧憬のような、それでいて懐かしむような声であった。

 しかしすぐに、さて、と元の凛とした口調に戻ると、彼女はクラフトの方を向いた。


「筆記試験から受けたいのならば、また後日出直すことだ。その方が合格の可能性が高く、ほとんどの受験希望者がそうする。だがまあ、飛び込みを受けるというなら――」

「受けます、飛び込み」


 気付けばクラフトは、女性騎士の言葉を遮って口を開いていた。


「……ほう」


 驚くでもなく、ただ一言、女性騎士はそう呟く。

 次いで彼女は、ゆったりと言葉を紡いだ。


「それは――私が相手でも、か?」


 威圧感。まるで、暴風の中に突如放り込まれたかのような感触が、クラフトを襲う。

 四肢はピリピリと鋭い異常を発し、脳が警鐘を鳴らす。

 先程までは比較的平和だった空気が、女性騎士の纏う雰囲気が、一変していた。


 ――強い。

 ただただ、クラフトは眼前の女性騎士に対してそう評価する。

 だが。


「相手が誰だろうが、変える理由にはなりません」


 気後れすることなく、言い放つ。


 最強たれ。

 クラフトがツヴァイフェルトより受け継いだ、最大の教え。

 最強を目指すということは、誰に対しても勝たねばならない。障害などあってはならないのだ。

 とはいえ、今はまだクラフトより強い人間などたくさんいるだろう。ツヴァイフェルトにだって、一度も勝ったことがない。

 しかし負けるのを恐れて退いていては、いつになっても最強になどなれはしないのだ。


 そんなクラフトを、女性騎士は値踏みするように見ていたが。

 彼女はやがてフッと口元を吊り上げると、


「そうか」


 それだけ言って、視線をクラフトから外し、今なお行われている戦闘へと向けた。

 以降、二人の間に言葉はなく。沈黙は、受験者である少女の槍が試験官である騎士へと突き付ける時まで続いた。


「では、行くぞ」


 そう言って、女性騎士は広間中央へ向けて歩き出す。

 クラフトも、一歩遅れて続く。


 先の戦いは、やはり試験官が敗北していたようだ。

 勝者である槍使いの受験者の少女は、得意気な表情を浮かべている。試験官を負かしたことで、手応えを感じているのだろう。


「それでは、全ての受験者が試験を終えたため、これにて騎士試験を終了し――」


 戦闘の終了した広間中央にて、二階の受験者達へ向けて声を張り上げる一人の騎士。

 それに、クラフトの前を歩く女性騎士が割り込んだ。


「待て」


 その声量は、さほど大きいとはいえない。むしろ、張り上げられていた声に掻き消されそうなほどである。

 しかし、だというのに、それは室内に響き渡った。

 試験の終了を告げようとしていた騎士が言葉を止め、女性騎士へと振り返る。

 つられ、この場にいる全ての者の視線が、女性騎士へと注がれた。


「あと一人、受験者が残って……いや、正確には今来た。――飛び込みだ」


 刹那、広間を駆け巡るざわめき。

 それと共に、女性騎士の後ろを歩くクラフトに視線が集中した。さもありなん、それ以外考えようがないからだ。


 好奇心の呟きを、無謀さを笑う嘲りを、クラフトの耳が捉える。

 どちらかといえば、前者よりも後者の方が多い。こと、よく聞こえるのが、田舎者という単語だ。身なりというか、雰囲気というか、とにかく彼らは何処かしらからそれを見抜いたのだろう。

 しかしクラフトは気にすることなく歩を進める。

 他者よりどう見られたところで、何が変わるものか。こと、田舎者だからといってどうというわけでもあるまい。

 最強を目指し、ただ勝つことに全力を注ぐ。クラフトの中にあるのは、それだけだ。


 女性騎士が立ち止まり、クラフトを振り返る。

 そこから少し離れ、クラフトは立ち止まった。


「私の名は、ミリア。国王陛下より、一つの騎士隊の長を任されている身だ。本日は傍観だけのつもりであったが、飛び込みならば試験官として不足はあるまい。――さて、貴様の名を聞こう」


 女性騎士――ミリアが、名乗りを上げる。

 一部隊の長。それを聞き、クラフトは僅かに瞠目した。目の前の彼女は、クラフトより年上であるこそすれ、充分に若いといえる容姿だったからである。エリート、というやつなのだろう。

 しかし、どこからもざわめきが起きることはない。試験官たる騎士はもちろん、二階に集う受験者からも、だ。つまりそれは、この場にいる者にとって周知の事実ということである。

 知らなかったのは、全くといっていいほど騎士や王都の事情に疎いクラフトだけ。

 だが、それを聞いて今更どうなる、というわけでもない。

 クラフトは、すーっと大きく息を吸い込むと、


「クラフト」


 揺らぐことなく、ただただ己の名を静かに告げた。


「では、クラフト。これより飛び込みの騎士試験を行う。――が、別段これといって細かく言うことはない」


 ミリアはそう告げると、近くにいた騎士を呼びつけ、一振りの剣を手に取った。


「私は、訓練用に刃を潰したこの剣で戦う。貴様の武器は、その手に持つ棒だな? ならばそれで構わん。私を殺す気でかかってこい。ただ、それだけの話だ」


 クラフトが、漆黒の棒を両手で構える。

 互いの準備は完了。ミリアが、スッと口元を歪めた。


「まずは一撃、受けてみろ。軽い様子見だが、それすらもできないのであれば、一般受験から出直せ」


 瞬間、視線の先にあったミリアの身体がぶれる。

 ダンッ、と大きく音を反響させて踏み込まれる彼女の足。

 気づけば、数十歩は開いていたはずの距離が、瞬く間に詰められていた。


 すでに相手は間合いに入り、今にも剣を突き出すモーションをかけている。

 刃の潰された剣――されど、やはりそれは剣である。命を刈り取られずとも、怪我は必至。いや、もろに受ければ命の危険がゼロともいえない。


 並の人間であれば、この一刀のもとに沈められる。

 ミリアの口ぶりからするに全力ではないようだが、それでも充分にそれは速かった。

 この場に居合わせた騎士、及び騎士試験受験者だろうと、そう易々と対応できるものではない。そんな、一撃。


 クラフトとミリアの対峙を見ていた半分以上が、クラフトが呆気なく吹き飛ばされるのを確信した。


 ――が。


 ガキィンッ!!!


 その音は、凡そ人体が奏でるものでは決してない。突き出された剣が人の身に到達するより前に、障害に阻まれたのを示すもの。


「――ふむ、まずは及第点といったところか」


 クラフトの持つ漆黒の棒は、まるで当然のように、ミリアの剣を防いでいた。 


「これぐらいならっ」


 棒を持つ両手に力を込めながらのクラフトの言葉は、決して強がりなどではない。

 確かに、速い。完全に気を抜いていれば、危うかっただろう。

 だが、クラフトには。過去、それを遥かに凌駕する一撃を幾度となく身体に受け、そして防いだ経験がある。


 つまり、ツヴァイフェルトに比べれば。今の女性騎士の攻撃は、クラフトの対処可能の範囲内であり――はっきり言って遅い。油断こそしていなければ比較的余裕をもって、受け切れるレベルなのだ。


 互いに言葉は短く、そしてどちらからともなく開かれる距離。

 ミリアは、その場にて剣を二、三度振り、感覚を確かめるようにしている。彼女の剣は、訓練用に刃の潰された剣。彼女本来の武器ではないというのはハンデといえばハンデであり、またクラフトは彼女の全力を知らない。ゆえに、その力量は未知数、なのだが。

 直感、とでも言えばいいのだろうか。クラフトは彼女が自身より格上であると認識していた。


「では、次だ」


 ミリアの言葉と同時に、クラフトは静かに棒を構える。

 来る、と思った時には、もう遅い。すでにその時点で、彼女は来ているのだから。


 迫る閃電。

 狂いなど、ない。速さと正確さを併せ持った一振りは、確実にクラフトの身体を撃たんと放たれる。


 だが、最小限の動きで棒が割り込み、弾かれる剣。

 しかしそれだけで終わらず、剣はすかさずがら空きとなったクラフトの右半身を狙い、再度繰り出された。それを叩き落とすのは、先程とは逆の棒の先端。

 その流れのままに、今度はクラフトの持つ棒がミリアへと伸ばされる。風を切り、防具を纏ったミリアの腹を突くように、素早く押し出される。


「はっ!」


 飛び込み試験が開始してようやくのクラフトの初撃。速さも威力も、申し分なく、直撃すれば相手の後退は必至。いかに防具を纏っていようと、打撃の衝撃までは殺しきれないだろう。


 だがそれは、棒が彼女に到達すればの話だ。

 それより早く引き戻された剣が、棒による突きを弾く。

 驚きは、ない。むしろ、これが通っていた方がクラフトには驚きだった。


 そのまま、戦況は一進一退の攻防に突入する。

 剣がクラフトを狙えば棒によって弾かれ、棒がミリアを狙えば剣によって防がれる。

 初めは単純な打ち合いだった攻防。しかしそれらが十を超えたところで、互いにフェイントを織り交ぜたりと、両者の動きはシフトしていった。


 攻撃の割合としては、ミリアの方が多い。

 クラフトも隙を見て棒を突き入れるが、どちらかといえば、守り気味だ。

 無論、手を抜いているわけではない。対し、ミリアは全力でない。


 それが示すのは、クラフトよりミリアの力量が上回っているという事実。

 しかし、押され気味ではあるものの、完全な劣勢ではない。今はまだ、戦況はほぼ膠着状態といっていいだろう。攻撃こそほぼ漏らすことなく対応しているが、このままでは埒があかないのは明白だった。


 そうして幾度、棒と剣が合わさっただろうか。


「……少し、貴様を見くびっていたようだな」


 クラフトの棒をバックステップで躱しつつ、ミリアが口を開いた。


「己の力を過信した調子者かと思えば、存外そうでもないらしい」

「…………」


 褒め言葉なのか判断に困るところであった。

 クラフトは思わず無言となり、ミリアを見やる。


「さて、ではそろそろ、試験を終了としよう。なんとなくではあるが、実力は把握した」


 そんなクラフトをまるで気にせず、ミリアはそう続けた。

 え、と咄嗟にクラフトは呟いた。

 終わりなのか、と頭の片隅で拍子抜けする自分がいた。

 だが。


「これで、最後だ。次の一撃、私は少しばかり本気を出して打ち込む」


 早計であった。

 凛とした声がクラフトの耳に入ると同時に。ギラリ、とミリアの眦が鋭くクラフトを射抜く。


「ゆえに貴様も――全身全霊をかけて、こい」


 瞬間、大気が震えた。

 ただ一言。それを発しただけであるというのに、女性騎士を中心として場の空気が一変していく。


 無意識に、一歩下がる。重苦しい、重圧。

 クラフトは確信する。まず間違いなく、この女性騎士は自身よりも遥か高みに位置する者であると。

 その姿形は、美麗な女性のそれなれど。泰然とした佇まいでありながら多大なる戦意を込めて放たれる眼光は、まるで美しく誇り高き獅子のよう。


 ――これが、騎士か!


 浮かんだのは、建物入口にいた騎士と相対したのと同じ言葉。

 だがしかし、同じであれど、その二つには天と地ほどに開きがある。


 最初に会った騎士とは比べものにならない。――否、比べるのもおこがましい。

 惜しむべくは、この女騎士と最初に出会わなかったことか。


 ミリアに気圧されながらも、しかし身体に充満するのは歓喜であった。

 恐れなど、ない。強敵に恐れていては、最強になどなれるはずもない。あれを踏み越えてこそ、また一歩道が近づくのだから。

 血が、肉が、滾る。消沈など、すっかりなくなっていた。


「――いくぞ」


 ミリアが体勢を低くし、剣を構えた。

 クラフトは瞬きもせず、凝視する。

 身体中に熱気が渦巻きながらも、しかし思考は冴えていた。


 何十と打ち合いをすれば、嫌でも分かる。

 相手(ミリア)は、速さを主眼としたタイプ。一発一発の威力も高くはあるが、それより優る手数の多さ。

 ゆえに、ただの力押しでは意味がなく――こちらもそれ相応の速さにて臨む必要がある。

 相手の速さを上回れば、こちらの勝ち。劣れば、敗北。簡単な話だ。


 視線をミリアから離さず、しかし心の内で模索する。

 ツヴァイフェルトより学び、そして受け継いだ数々の技。

 完全に会得した技なら、失敗することなく繰り出せる。だが、彼の全てを会得したわけではない。披露してもらっただけで、今、この身では到達できない妙技も数多く残されている。

 だが、彼我の力量の差は明白。相手はこちらより格上だ。基礎的な、それでいて小手先の技では、確実に通用しない。


 ――ゆえに。


 その(妙技の)中から、一つ。今この身が届きそうなもの、それでいてあちらの速さに対抗できるものを引っ張り上げた。


「…………」


 無言のまま、くるり、と手元の棒を半回転。もっとも、この行為事体に何も意味はない。ただ一つあるとすれば、ツヴァイフェルトの癖であるということだけ。

 続いて、半歩下がる。ミリアに気圧されたのでは、ない。言うなれば、これもツヴァイフェルトの癖にして、予備動作。

 重心を僅かに後ろに逸らし、揺れる。


 ミリアの足が勢いよく踏み込まれ、弾丸の如く飛び出した。

 接敵まで、数秒とない。彼の女性騎士にとっては、この距離を瞬く間に詰めるなど、難しくないだろう。


 両手にグッと力を込め、両足を力強く踏みしめる。

 そして。後方に逸らしていた重心を一気に前に傾け、クラフトは一歩、大きく踏み込んだ。


 脳裏に描くは、十の閃き。

 繰り出すは、ツヴァイフェルトの妙技。

 眼前、すぐに迫るミリア。前方から、強烈な風圧。全身が、叩きつけられるよう。

 だが、慌てず、また失敗など考えず。己の全てを注ぎ、ただただ渾身の力を込めて棒を振るうのに専念する。


 ツヴァイフェルト直伝。

 その、技の名は――。


「――(とお)(せん)(ぼう)!」


 放たれるは、高速の十連撃。しかして、その全てが異なる軌道を描く。互いに折り重なり、獅子をも捕える檻となる。

 いま一つであるとするならば、そのネーミングセンスか。絶大な力を誇るツヴァイフェルトだが、その一点はクラフトも首を傾げざるをえない。

 だがそれでも、その技は。まさに必殺というべき、十連撃。一度捉えられたら、相手はそう簡単に逃れることはできない。


 対し、ミリアは単純な一薙ぎだった。だが、ただの一薙ぎと侮るなかれ。その一撃はまず間違いなく、これまでより最大の速さにして、力。


 交差する、両者の影。

 一拍遅れ、激しい剣戟の音。


 それほど関心を示していなかった者、好奇心丸出しの者、クラフトを嘲笑っていた者など、二人の激突を見ていた者達も、いつの間にか固唾を呑んで眼下の戦いに釘付けとなっていた。

 沈黙。互いの武器を振りぬいたまま、しかし両者は動かない。

 だが、それも一瞬のこと。

 ぐらり、と一方の影がバランスを崩した。


「……ぐっ」


 苦悶の声を上げて地に膝を着いたのは――クラフト。

 前のめりになりながらも、しかし倒れることはせず。咄嗟に地に突き立てた棒を支えになんとか堪える。


 顔を振り返れば、ミリアは悠然と立ちながら、こちらを見ていた。

 彼女は立ち、自身は膝を着いている。つまりは、こちらの負けだった。


 棒を杖のようにしながらも、フラフラと立ち上がる。

 よろめく足。肺に残っていた全ての空気を吐き出し、ゆっくりと大きく息を吸う。


 そして改めて、敗北を噛みしめる。

 技を失敗したつもりはない。むしろ、我ながらぶっつけ本番でよくフルパフォーマンスに近いものが出せたと思ったほどだ。

 それでもなお、負けた。だが――。


 ――中々どうして、心地がいい。


 だが、気分は暗澹としたものではなく、晴れていた。全力を出しての、その上での負けだったからだ。

 全力でやって、それでもクラフトが至らなかった。ただ、それだけの話。


 これがツヴァイフェルトであれば、この女性騎士にとて負けなかっただろうか。

 ふとそんな疑問が浮かび、すぐさまクラフトは苦笑する。


 ――ツヴァイフェルトだったら、負けなかった。

 もっとも、根拠はない。勘のようなものであったが、しかし断言できるほどに確信があった。


「では、これにて貴様の試験は終了だ」


 身体はフラフラでありながらも、清々しい面持ち。

 そんなクラフトにミリアは近づき、何事もなかったかのように、告げた。


 ――合否は、後で通達する。

 そう淡々として続け、彼女はその身を翻す――かに思えた。


「……貴様は、何を目指している?」


 だが、立ち去るでもなく、ミリアはクラフトの顔を、瞳をじっと見つめていた。

 唐突な質問。虚を突かれるも、クラフトはすぐに我を取り戻す。

 そんなもの、考えるまでもなかった。


「最強っ!」


 息が絶え絶えでありながらも、クラフトは声高らかに即答する。

 今まさに敗北を喫したというのに、この言葉。

 何を馬鹿な、と笑われる覚悟はあった。身の程を知れ、と殴られる覚悟もしていた。

 だが、クラフトを真剣な眼差しで見据えていたミリアは。


「……思い上がるな、と言いたいところだが、本気のようだな」

「そのために、俺は教わってきたんだ。技も、なにもかも」


 初めは、ツヴァイフェルトが言うのを他人事のように聞いていただけだった。

 だが時が経ち、それがいつの間にか、自身の目標となっていた。


「ふむ。……つかぬことを聞くが、師の名前は?」

「――ツヴァイフェルト」


 胸を張り、堂々と。何の疑いもなく、また迷いもなく、クラフトは宣言する。

 王都の騎士様からすれば、田舎町に住む一人の老人など、全く気にする必要のない存在かもしれない。

 それでも、クラフトにとってツヴァイフェルトは師であり、誇りだった。彼から学んだということに、何一つ引け目を、後悔を感じることはない。


「……その方は、今何処に?」


 故に、ミリアの声色に些細な変化が生じたのに、クラフトは気づかなかった。

 ただ、質問に呆気にとられ、そして眉を顰めて返答する。


「え? ……えーと、この前亡くなりましたが……」


 しばらく、そんなクラフトを見ていたミリアだったが。やがてマントを翻し、クラフトに背を向ける。


「……そうか。……試験の結果は、後日この場所にて通達される。詳しくは、係りの騎士に聞くといい」


 そして今度こそ、ミリアは歩き去って行った。



 ――――――――


「ミリア殿、剣を――」


 歩くミリアに声をかけてきたのは、先程ミリアが訓練用の剣を借り受けた試験係りの騎士。

 両手を差し出し、剣を受け取ろうとしている。


「いや、これは私が持っていよう」


 しかし、立ち止まったミリアはやんわりとそれを制すと、手に持ったそれをしげしげと見た。


「そもそも――」


 ――ピキ、と何かに亀裂が入ったような音。

 次の瞬間、ミリアの手にあった剣が、柄を残して割れた。


「――これはもう訓練用の剣として機能しないからな」


 驚きに目を丸くする騎士を後目に、ミリアは歩みを再開し、広間から廊下に出る。

 結果的に言えば、ミリア自身は無傷であった。クラフトの十連撃を、全て剣で受けたのである。そして弾いてからの、クラフトの腹に一撃。言った通り、受験者(クラフト)の全力を出させたのだ。

 しかし――。


「……訓練用とはいえ、よもや騎士試験の受験者に武器を破壊されるとは思わなんだ」


 小声で、呟く。

 ミリアとしては、全力で臨んだわけではない。武器も、本来のものではなく、訓練用のものだ。が、それでも武器を破壊されるなどそうそう有り得ないはずなのだ。

 だが、その一方で驚きは少ない。

 なぜなら、クラフトがミリアの考えている通りの存在だとしたら――。


「――彼の最強の騎士殿の弟子、か?」


 彼女ではない声が、廊下に響いた。

 ミリアが振り向けば、そこには白髪交じりの男の騎士の姿がある。


「スタイン殿……」


 男の名は、スタイン。

 ミリアと同じく騎士隊の一つの長。地位としてはさほど変わらないが、騎士を務める年数は彼の方が圧倒的に長い。


「いや、正確に言えば、引退した元最強の騎士か。……見間違うはずもない。あの技、そしてあの少年が持っていた棒は、紛れもなくあ奴が――ツヴァイフェルトが愛用していたものだったな」

「そう、ですね」

「その上、技術は高いがそれをぶち壊しにする技の命名。……ハハッ、是非ともあの少年は我が騎士隊に欲しいものだ」

「いえ、いかにスタイン殿といえど、これは譲れません。クラフトは、我が騎士隊に貰い受けます」


 スタインは豪快に笑い、ミリアは微かに微笑む。

 が、すぐにスタインは真剣な表情となる。


「しかし、弟子をとらなかったあ奴がようやく弟子をとった。そして、その弟子が王都に来たということは、もしや――」

「……ええ、ツヴァイフェルト殿は亡くなられたようです」

「そう、か。あ奴を最強の座から引きずり下ろすのは、長年の好敵手たるこのワシしかおらぬと思っておったが。……どうやら、勝ち逃げされてしまったようだ」


 沈痛な面持ちとなりながらも、スタインはフッと笑みを零す。


「だがまあ、楽しみが一つ増えた、ということにしようかの」


 ええ、とスタインに賛同するミリア。

 そんな二人の所に。


「あっ、スタイン殿! ミリア殿!」


 大声を上げ、息を切らせて駆け寄ってきたのは、一人の騎士。

 その手には、先程クラフトが提出したツヴァイフェルトの推薦状。


 ――後日。

 再び騎士試験会場を訪れたクラフトに、合格という通達が出されたのであった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

似たような展開の作品はどうしても存在してしまうでしょうが、一応オリジナルです。ただ、過去拝見した作品等を自然と参考にしてしまっているかもなので似てしまうものがあるかもしれませんが。

現状、この短編のみで終了の予定です。お付き合いいただきありがとうございました。

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