1章の7-女子高生と初任務-
「カッパーズのみんな、そろそろ帰ってきますよ」
「あれ? デブリ-フィングは?」
「古屋隊長曰く、任務継続中につき後日、だそうです」
「なるほど、彼らしい」
制服のプチお披露目会なんぞをしていると、ついたての向こうから三村さんがひょっこりと顔を出した。夢見さんと二言三言交わした後、こちらに気がついたようだ。
「わ、すみれちゃん、なかなか似合ってるね」
「ありがとうございます」
いつの間にかちゃん付けになってた。褒められてうれしくない訳がないので、ここは素直にお礼を返す。にやけて変な顔になってないかが心配だ。
改めて観察すると、三村さんは実にのんびりほんわかとしたお姉さんだ。髪を明るい茶髪に染めているが、擦れたような雰囲気は微塵もない。むしろ母性的である。決して悪い人物ではなさそうだ。
本当にびっくりするほどのんびりして見えるんだけど、先ほどまでの仕事ぶりを垣間見るに、能ある鷹は爪を隠すってやつなんだろう。出来る女ってやつだ。
「そういえばさっきの戦闘、4番機がすごいことになってましたけど、パイロットの人は無事なんですよね?」
さっき砂葺さんにも聞いたけれど、一応夢見さんにも聞いておこう。や、沙葺さんが信用できないわけじゃないんだよ? ほら、夢見さんは技術者だしね。
「ああ、心配はいらないよ」
夢見さんはさらりと答えた。さすがだ。
「あの戦闘が行われていたのは3.5次元世界と言って……」
「あ、それ沙葺さんに聞きました」
「え、そうなの? んー、まあ、じゃあそれはわかった前提で話を進めるとしよう」
夢見さんは、少し悔しげな表情を作ってちらりと沙葺さんを見た。ちなみに沙葺さんは我関せずな具合でニコニコしてた。
説明したかったんだろうなあ。
「まず大前提として、僕たち4次元の人間は基本的に「次元の壁を越えられない」。だから、生身の状態で戦場である3.5次元に足を踏み入れることはできない」
「ん? でもさっきまで盛大に戦ってましたよね? もしかして、遠隔操縦なんですか?」
そうであるなら、パイロットが無事というのも頷ける話だ。しかし、夢見さんは横に首を振った。
「いや、そうじゃない。……ともいえるし、そうであるともいえる」
夢見さんの回答に、私は盛大に首をかしげた。
「確かに遠隔操作ができれば一番安全なんだけどね。さっきも言ったと思うけど、OSは杖の一種なんだ。だから、どうしても魔法使いが直接乗り込む必要がある。でも3.5次元に生身の人間は侵入できないし、かといってヴィジットをむざむざ4次元世界に呼び込むなんてことはできない。……そこでWWOの技術者たちが構築したのが、剥離情報集積機構さ」
「アバターっていうと、ゲームのプレイヤーキャラみたいな?」
「そうだね。原理は簡単……あくまで概説するだけならだけど。魔法使いのワールドデータから3.5次元対応の半実体情報集積体を作成して、操縦者の感覚を同期させて向こうの世界でOSの魔法能力を発動するというシステムだね」
「感覚を同期ってことは、やっぱり怪我したら痛かったりするんですか?」
「感覚のフィードバックは一応欺瞞できるからね。せいぜい箪笥の角に小指ぶつけた時くらいの痛みが限度に軽減されるよ」
「結構痛くないですか、それ」
「ま、そこは個人の感じ方だね。それでもあくまで3.5次元にあるのは操縦者の複製情報でしかないから、万が一の事態……つまり機体が大破したとしても4次元世界にいる操縦者の健康に被害は及ばない。感覚情報は2重3重のバックアップ機構があるから、間違っても感覚欠落などは起きないようになっているよ。だから岡嶋くんも、遠慮せずどんどん戦って欲しい」
とりあえず夢見さんの話をまとめると、3.5次元世界で何をやっても死ぬことはないってことだ。まるでゲームだ。なんて最高な条件だろうか。
「えっと、がんばります!」
私は思わず胸の前でこぶしをぎゅっと握り、力強く返事をしていた。夢見さんも満足そうな表情をしている。
「話は終わったかな」
そこでいきなり、ぬっと少々高めの男の声が会話に割り込んできた。振り向くと、中年間近といった風な男が髭面ににこやかな笑みを浮かべている。はて、誰だろう。今まで会ったことは、多分ない人だと思う。とりあえずWWOの制服を着ているから、関係者ではあるんだろうけど……
「たーいちょ、いきなり話に割り込んだらほら、彼女めっちゃ不審人物見る目で見てるじゃないっスか」
私が思案顔で黙って突っ立っていると、また別の声が先ほどの男性に向かって掛けられた。見れば、白いワイシャツをだらしなく着崩した、どこかちゃらちゃらとした印象を受ける男が意地の悪そうな笑顔を浮かべている。年の頃は私と同じくらいだろうか。とはいえやはり、知らない顔である。
「すまない、驚かせてしまったかな」
「あ、いえ」
髭の男にそう言われて、私はとっさに首を横に振った。いや、内心驚いてなかったって言ったら嘘になるが、ここは一応否定しといたほうが良さそうだ。
「君が、岡嶋すみれ君だね?」
「はい」
「うん、いい返事だ。私は古屋陸遜。WWO高岡支部所属のOS隊……カッパーズの隊長をやっている者だ。君のような若い力が隊に加わってくれることは、実に喜ばしい。よろしく頼むよ」
男――古屋は、そういってにこやかに自己紹介をした。……って、カッパーズの隊長さん!?
「あ、はい! 岡嶋すみれですっ。こちらこそ、よろしくお願いいたしますっ!」
私はとっさに敬礼で返す。と言っても、漫画とかアニメ知識による敬礼なので、作法などはなっちゃいないんだろうけど。
古屋隊長は一瞬きょとんとしたあと、あッはッはと大きな声で笑った。
「岡嶋くん。ここは軍隊じゃあないからね、そういう堅苦しいのよりも、こっちの挨拶の方が主流だ」
そういって、右手を差し出す。それが握手を求めるサインだと気付くのにたっぷり1秒かかった私は、慌ててその手を取った。
しょっぱなからやらかしてしまったわけで、かあっと顔が赤くなるのを感じた。めちゃくちゃ恥ずかしい。
古屋隊長としっかり(少し顔は伏せがちではあったが)握手を交わす。それが終わったと見るや、今度は先ほどのチャラチャラした男がずずいっと割り込んできて、
「や、君が新人のすみれちゃん? 俺は宇江沢頼綱。カッパーズの3番機でガンナーね。仲良くしようよ」
そういって握手を交わした。その最中、「ねえ君どこの高校?」だの「何年?」だの聞いてきたが、あまりの押しの強さに面倒くさくなって終始愛想笑いでしのいだ。とりあえずひとつわかったが、彼は見た目にたがわず軟派野郎らしい。
「頼綱、調子に乗りすぎ。その辺にしときな」
軟派野郎の質問攻めにあっていた私を救ってくれたのは、そんな声と鋭い破裂音だった。
「あでっ! 何すんだよ姐さん」
「やかましい。あんたはちょっと分別ってものを知りな。……すまないね。こんなバカはほっておいていいからね」
声の主は、茶髪をポニーにまとめた女の子だった。身長は120センチあるかないかってとこで、私も自然と見下げる形になってしまう。明らかに小学生にしか見えないのだが、口調はえらく大人びていた。
ちなみに破裂音の正体は、この女の子が左手に持つスリッパであろう。後頭部をさする宇江沢の様子から見て、まず間違いあるまい。
「あたしは三村舞。そこの三村の妹で、カッパーズの副隊長をやってる。すみれだっけ? 期待してるよ」
その女の子、舞ちゃんはそういって、ずいと手を出した。何か一瞬聞き捨てならない単語が混じっていた気がするけど、おそらく気のせいだろう。気のせいということにして、私はその小さな手を取る。
「ちなみに舞はこう見えても24だから、岡嶋っちより年上だよ」
「…………えっ」
「こら、玖朗。ネタバレが速すぎる。あと、毎度毎度仮にも姉貴を呼び捨てとはいい度胸ね。かみつくわよ?」
「えっ……?」
横から挟まれた沙葺さんの爆弾発言に身を固まらせていたら、舞ちゃん……あらため舞さんから追い打ちがかかって完全に硬直してしまう。たぶん玖朗って沙葺さんの下の名前だよね、今のタイミングからして。初めて知った。ていうか、えっ? 24歳? てか、姉? えっ……?
「ったく……もうちょっと溜めてからバラそうと思ってたんだけど、仕方ないわね。びっくりしたでしょ? 病気でね、これ以上身長が伸びないの」
そういって、舞さんはかんらかんらと笑った。ちなみに、いまだに私は固まったままである。「はあ」という気の抜けた返事を返せただけマシってレベルだった。とりあえず、サプライズ効果は現段階で十分抜群でしたよと態度でもって告げる。もう少し溜められていたら、それこそ心臓がひっくり返っていたかもしれない。
「いや、タイミング良かったぜすみれちゃん。俺なんかばっちり小学生だと思ってよ、ガキがこんなとこで何してんだ~って言ったら、問答無用でみぞおちに一撃入れられたかんな~」
「頼綱、あんたは黙ってな。あたしは女の子に手を上げることなんて滅多にないから、安心していいよ」
チャラ男宇江沢が横から入ってきてヘラヘラとそんなことを言い、舞さんにスネを蹴られて悶絶していた。……なかなかに苛烈な性格の持ち主のようだ。私も気を付けよう。滅多にってなんだ滅多にって。
「あ、はい。えーと、あらためてよろしくお願いします」
ようやく硬直が解けたので、改めて頭を下げる。それにしても、この人が副隊長か。てことはあの赤いOSの操縦者だよね。ばっさばっさヴィジットを切り倒してた、あの。
……そう考えると、この小柄な女性がものすごいヒーローに見えてきたぞ。
スネ押さえてぴょんぴょんはねてる宇江沢も、3番機ガンナーってことはレールガンで的確な狙撃を魅せてくれた人物のはずなんだけど、こっちはあんまりヒーローって感じじゃないな。うん。
「よし、これで一通り自己紹介は済んだか。それでは岡嶋すみれ君、あらためて……」
「隊長、仁美の紹介がまだっスよ」
「あ、すまん。新田君、軽くでいいから自己紹介を頼むよ」
話をまとめようとした古屋隊長だったが、宇江沢に指摘されて思い出したかのようにポンと手を打った。結構ひどい扱いだなあ、その新田って人。
で、あらためてこの場を見渡してみると、ひいふうみい……私入れて7人しかいない。つまり私、沙葺さん、夢見さん、三村姉妹、古屋隊長、宇江沢だ。今のところ、全員から自己紹介は受けているのだが……と私が首をひねっていると、
「あっ、また隠れてやがるな」
と、宇江沢が虚空を軽くノックした。何やってんだろうとそれを眺めていると、次の瞬間宇江沢の横に華奢な女の子が現れた。
今まで何もなかった空間から、である。
事前に睦美ママのアポートとか見てなかったら、今頃腰を抜かして尻もちついてただろうなあ。ここ数日でこんな超常現象にすっかり慣れてしまった。
女の子は舞さんというほどではないが小柄で、濡羽色の髪ってやつだろうか、艶やかで癖のない黒髪を背中にかかるくらいまで伸ばして、何というかお嬢様っぽい雰囲気を醸し出している。とても育ちが良さそうというか、なんでこんなとこでロボット乗りやってんだろって感じ。なんかすっごいもじもじしてるし、きっと気の弱い人なのだろう。
なおさらわかんなくなる。
「に、新田仁美です……高校2年で、あの、4番機のパイロットをしてます。よろしくお願いします……」
ぺこぺこと頭を下げる新田さんの、最後はもはや消え入る寸前といった声量であった。てか、2年ってことは私より年上なのか。年下ふぜいに気をつかわせてしまってはひどく申し訳ない。
「あ、えっと岡嶋すみれです。わたし、まだ高1なんでそんなに畏まらないでくださいよ、私のほうが年下ですから。こちらこそ、これからよろしくお願いします」
そういって深々と頭を下げる。向こうが下手に出るなら、こっちはさらに下手に出る作戦だ。せっかくチームメイトになるのに、こうもマージンを取った対応をされるのはあまりよろしくないと思ったからの行動である。ちらりと新田さんを見ると、彼女は目に見えてあわあわとしてから、「あ、頭を上げてください……」といった。
「あ、あの、私、あんまり人とお話しするのが得意じゃなくって……あの、ふがいない先輩でごめんなさい。あの、それで、でも、その……私、こんなふうに後輩ができるって初めてで……その……あの、な、仲良くしてください」
もじもじと消え入るような声量で、それでも新田さんはそれだけ言うと、右手を差し出してきた。よく見ずとも震えていたが、私はその手をがっしと取った。
「はいっ、こちらこそ! 仲良くしていただけると、うれしいです。新田先輩!」
最初はびくっとした新田先輩だったけど、少しして私の手をぎゅっと握り返してくれた。顔は、ぎこちないけれど可憐な笑顔だ。横で、宇江沢がひゅうと口笛を吹いた。
「へえ、仁美と初対面で握手まで進展するとか、なかなかやるねえすみれちゃん。あ、俺も高2だから先輩って呼んでくれていいよ」
「はあ、そうなんですか」
「うお、スゲー凍てつく視線」
「さ、さっそく嫌われちゃったね、頼綱」
「仁美ぃ、そりゃないぜ……」
宇江沢が肩をすくめて、その調子がおかしくてみんな吹き出した。
「ははは、よし。こんどこそ全員分の自己紹介が終わったか。あらためて、カッパーズへようこそ、岡嶋くん。われわれは、君を歓迎するよ」
「は、はいっ! お世話になりますっ!」
ひとしきり笑った後、古屋隊長はそのひげ面に不敵な笑みを浮かべて言った。改めて見直すと、なんていうかナイスミドルって感じでカッコいい。私は自然と直立不動の気を付け状態から腰を90度折る最敬礼でそれに応えていた。
「さ、頭を上げて。ま、そう畏まることもないさ。さて、君のカッパーズでのポジション決めだが、今日はあいにくヴィジットの襲撃が被ってしまったからね、時間も押しているし、明日以降ということになる。予定は空いているかな?」
「えっと、明日は違うバイトがあるので……明後日でもよろしいでしょうか」
私が実にすまなさそうに答えると、古屋隊長は気にしなくていい、といった。
「ああ。それでは明後日、適性検査などもやるから、そのつもりでいてくれ。さて、それでは次。これが今日一番大切な話なんだが……三村君」
私は心のスケジュール帳の明後日の欄に花丸を付け、古屋隊長の言う「今日一番大切な話」をまった。ゴクリ、と唾が喉を落ちる音がやけに大きく聞こえた。
「はい、古屋係長。手筈はちゃんと整ってますよ」
「ん、よろしい」
三村(姉)さんの返答に古屋隊長は満足そうにうなずいた。
「カッパーズ隊員諸君、傾注!」
いきなり隊長がすごく通る声で号令をかけた。舞さんや新田先輩、チャラ男の宇江沢までがビシッと気を付けをしたので、私もわけがわからないままそれに倣い、精いっぱいの気を付けをする。
「本日の最重要任務を伝える。発令は今、任務開始は1900。隊員諸君は速やかに私服装備を整え、現地に急行せよ」
「隊長! 質問がありまァす!」
「なんだ、宇江沢」
「本日の任務、場所はどこになるのでしょうかっ!」
「うむ、駅前の秋吉に席をとってある!」
瞬間、宇江沢と舞さんがウッヒョーと奇声を上げながら飛び上がった。声にこそ出していないが、新田先輩もどこか嬉しそうな雰囲気を醸し出している。私はわけがわからず、ただ茫然と成り行きを見ていた。
「ミッション・コードは「新人歓迎会」。各員の奮闘に期待する。以上、解散!」
あ、任務ってそういうことね。私はすぐさま母親に夕飯は要らない旨をメールした。
「それでは、岡嶋君の入隊を祝して、乾杯!」
「カンパーイっ!」
古屋隊長の音頭にあわせて、いささか乱暴に杯をぶつけ合う。この宴の主役ということで上座にすわらさせられた私も例外なく、手に持ったジョッキを新たな仲間たちのそれとぶつけ、並々と注がれた琥珀色の液体を一気に咽下する。シュワシュワとした炭酸が喉奥を駆け抜けてゆく快感は、病みつきになる。
「くぅ~、しみるぅ」
心配は無用。ジンジャーエールだ。未成年だからね。
そりゃビールとかチューハイとか飲んでみたいけど、古屋隊長が断固として許さないって構えだったから仕方がない。でも横で見た目小中学生の舞さんがのどを鳴らして中ジョッキを傾けてるのをみると、なんかすごく複雑な気分になるよね……
「おねえさん、しろ40、しんぞう20、あか20、かわ20、すなぎも20、じゅんけい20。レンコン揚げ8人前ときゅうり10本。今んとこ以上」
「かしこまりましたぁー!」
私がジンジャーエールで喉を湿らせている間に、沙葺さんがパパパッと注文を入れていた。慣れてるなあ、さすが大学生。
「てか、沙葺さんカッパーズじゃないのに俺らの飲み会毎回参加してますよね」
「ま、僕と夢見の仲だからね。宇江沢っちも細かいことは気にしない気にしない。どうせ勘定はWWO持ちなんだからさ、今は楽しもうじゃん」
「ま、そっスね!」
当たり前のように同席して率先して注文とってる沙葺さんに若干の呆れを含ませた声色でいった宇江沢だったが、当の沙葺さんはサラッと流した。宇江沢もそれ以上言うのはやめ、流れるように己のジョッキのコーラを干す作業へ移っていた。
「よぉ~すみれぇ、隊には慣れたかあ?」
不意打ち気味に、ステレオタイプな酔っ払いがステレオタイプな絡み方をしてきたので、あわててジョッキをテーブルに置いた。
「ちょ、私まだ顔合わせしかしてないですよ。てか、もう酔ったんですかぁ!?」
「しつれーな。あたしまだはじぇーんじぇん酔ってないよ!」
このテンプレ的な酔っぱらいは、舞さんである。小さな背丈で無理矢理私に肩を回し、酒臭い息を浴びせかけている。てか、弱いな! ジョッキ間だ4分の1ほど残ってるぞ。
「舞はジョッキ半分でベロンベロンになるけど、3分たてば素面に戻るからね。見てておもしろいよ」
「何ですかその特殊な肝臓は……!」
「くろーう! まぁた姉ちゃんを呼び捨てにしてぇっ」
舞さん、私の肩組んだまんまジョッキぶんぶん振るのやめてください。飛沫が、飛沫がえらいことに。
「沙葺さあん、笑ってないで助けてくださいよお」
「まあまあ。あと数分の辛抱だって。ははは」
助ける気は毛頭ないらしい。むしろ私を肴に酒が進むってな塩梅である。それは沙葺さんの横に座る夢見さんも、舞さんの姉である三村さんも同様のようだった。畜生、私って一応主賓なんだよね? 今回ってさあ。
「……ハッ!? 私は一体……」
「あ、正気に戻った」
「……あ、あー。またやっちまったのか。ごめんね、すみれ」
「え、あ、いえ。お気になさらず……」
肩を組むどころか半ば抱きつくようにしなだれかかっていた舞さんだったが、ある一瞬を境に急に理知的になった。本当に3分で酔いが醒めるんだ。これはテレビとかのびっくり人間大集合系番組に出られるレベルじゃなかろうか。……いや、よく考えたらここにいる人らみんなびっくり人間か。魔法使いだもんなあ、私含め。
「おまたせしましたぁー、まずこちらしろ40と、しんぞう20でぇーす」
「おっしゃ、待ってましたあっ!」
そんなこんなやってるうちにようやく焼き鳥が到着した。宇江沢は歓声を上げて飛び上がり、素早くしろとしんぞうを2本ずつキープした。それを皮切りに、我先にと皆が皆串に手を伸ばす。あの超絶おとなし系ガールの新田先輩ですら、その両手にすでに串を確保していた。まさに戦争である。こりゃ私もうかうかしてられないな。
なぜか着いて来た船守さんは、我関せずって様子で熱燗をちびちびやっていたけど。
「新田先輩って、焼き鳥お好きなんですか?」
何とかキープできたしろの串を片手に、黙々と肉を咀嚼する新田先輩に水を向けた。
彼女は声をかけられたことに一瞬驚いた様子を見せ、あわてて肉を飲み込もうとして違うところに入ったのか、盛大にむせ返った。
「ち、ちょっ、大丈夫ですか、先輩?」
「ごほっ、ごふ……ふう、だ、大丈夫、です……あ、あの、お家じゃあんまりこういう料理を食べる機会がないんですけど、あ、だからかな。私、こういう串焼きって大好きなんです」
手元のグレープフルーツジュースで流し込んで何とか平静を取り戻した先輩は、若干涙目になりながらもはにかんで答えてくれた。かわいい。
あと、意外としっかり会話に乗ってきてくれたのも嬉しかった。初対面の時の印象と宇江沢のコメントから、失礼ながらちょっとコミュ障気味な人なのかなって思ってただけに、きちんと会話が成立すると、嬉しい。
調子に乗って、さらに問いかける。
「へえ! あっと、ちなみに好きなネタとかは?」
「へ、えっと、うーん、すなぎもかな。あの食感がね、すごく好きなの。あの、えっと、その、すみれちゃんはどれが好き?」
なんと先輩が会話のラリーをつなげてくれた。これは私も張り切って会話を繋がねばなるまい。
「私は断然しろですね。今日の全オーダーがしろでも飽きない自信あります」
「へええ、すみれちゃん、なんだかスゴいなあ」
「えー、でも、好きなたべものにめいっぱい囲まれてみたいって思ったことありません?」
「あ、あるかも! わたしね、小さいときプールいっぱい分のフルーツゼリーを食べることが夢だったんだあ」
会話のラリーが続くごとに、新田先輩の口調から緊張やよそよそしさ、固さなんかが溶けだしていくのを感じられる。いい傾向だ。せっかくチームメイトになるのだから、信頼関係は築いておいて損はないはずだ。
「女の子って、スゲー」
「俗に言う女子力の片鱗を垣間見た気がするな」
「若いっていいわねー」
端の方から聞こえてきた、それぞれ上から宇江沢、古屋隊長、三村さんの言である。
そんなこんなで順調に親睦は深まり、私の初任務「新人歓迎会」は全会一致で大成功という結果に終わったのであった。




