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私はとにかくお金がない。  作者: 永多 真澄
第1章:気になるバイトは歩合制
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1章の11-女子高生の初陣-

 ドえらいことになってしまった。

 まさか適性試験中に敵襲があるとか、どこぞの主人公じゃないんだから勘弁してほしい。こちとらペーペーのペーパードライバーだ。普通もうちょっと慣熟してから実戦じゃないの?


『岡嶋君、急な初陣で戸惑っているところ悪いが、マップのワープポータルまで即時移動してくれ。ヴィジットに察知されると厄介だ』


「あ、ハイ、了解です」


 通信ウィンドウから少し急かすような古屋隊長の声が聞こえたので、文句をいう間もなく条件反射で返答してしまった。ちくせう。ともあれマップに示されたワープポータルの位置は、工芸高校の中庭だ。ここ(グラウンド)から行くには、どうやっても校舎を跨がなくちゃならない。ずぶの素人には難しめなルートだ。スパルタか。


「そもそもワープポータルってなんだ!?」


『読んで字の通り、3.5次元空間内の任意点を繋ぐ緊急瞬間移動装置だよ』


「間髪いれずの解説ありがとうございます夢見さん!」


 噴出した疑問にすかさず説明を突っ込んでくる夢見さん。流石だ。


『同次元内の情報を加速して飛ばす次元カタパルトみたいなものだと思えばいいよ。ちなみに結構電力を食う上に長い間起動しっぱなしにはできないから、なるべく急いでね』


「電気で動いてるんですか!?」


『そうだけど、何で動いてると思ってたの?』


「いやその、魔力的な?」


『はっはっは、ファンタジーじゃあるまいし、そんな便利な力はないよ』


「それ、説得力ゼロだって事自覚してます?」


『さて、何のことやら。岡島君こそ、この漫才めいたやり取りで25秒ばかり時間を浪費してるって自覚はあるかな?』


「そうだった! ちなみに猶予は?」


『30秒』


「ド畜生!」


 吐き捨てて、OSを跳躍させる。ひと跳びで10メートルばかり跳んだ。パない。グンと地面に引っ張られる感覚を振り切って、着地地点を模索。高さもちょうどいい感じの第三体育館の屋根に着地して、踏み抜く前にすかさず跳躍。

 背後で鉄骨トラスの崩れる音に若干の罪悪感を覚えるも、旧志貴野高校の屋上を踏み割りつつ着地。築ウン十年の鉄筋コンクリート造校舎は即座に崩れるって事はなかったけども、階下の窓ガラスはインパクトの瞬間に粉みじんに砕け散った。いっそ綺麗なもんだ。

 そこからは八艘跳びに実習棟の屋根を飛び移りながら本校舎中庭を目指す。途中理科室なんかのある棟が崩れたのは予想外だったけど、それ以外にアクシデントはなく無事に本校舎の屋上へと着地した。


『おお、本当に30秒以内に着けちゃったね』


「着けないと判ってて言ったんですか?」


 地上4階建ての校舎屋上から何の変哲もない中庭を睥睨していると、実に感心したとばかりに夢見さんが声をかけてきたので、少しばかり険のある対応をしてしまった。


『まあ、いくらOSの操縦が直感的で容易だとは言っても、はじめての操縦だしね。だからこそ、こうして素直にすごいと思ってる』


「なんか()められたってよりも、()められた気がする……」


 画面の向こうで控えめな拍手をしてみせる夢見さん。本当に褒めてんのかそれ……若干小ばかにされたような雰囲気すらあるぞ。


『ははは。まあ、気を取り直して。ポータルを起動させるよ』


 ジト目を向ける私を軽快に笑い飛ばして、彼はとんでもないことをのたまった。


「まだ起動してなかったんですか!?」


『そりゃね。つけっぱなしには出来ないってさっき言ったでしょ?』


「やっぱり嵌められたんじゃないですか!」


 ひとしきり大声を出して、はぁと一息。夢見さんと口げんかするのはやめよう。


「もういいですよ……次行きましょ、次」


『岡島君、そう落ち込まんでもいい。夢見課長は常にああいう人だ。それにしても初回にしてあの機動は、君、なかなか見込みがあるぞ』


 一通りの悶着を見届けた古屋隊長がフォローしてくれた。まあ、褒められるのは嬉しいんだけどね……。


『ポータル起動。さ、飛び込んで』


 淡々と夢見さんが割り込んでくるから、余韻ぶち壊しなんだよねぇ!


「飛び込むっていうと、あれですか? あの黄色く光ってるやつ」


『そうだね。加速対象範囲を最大限に設定してあるから、そこから中庭に降りればそのままジャンプできるよ』


「了解です」


『なるべく中心のマーカーに近いほうがいいけどね』


 ……そんな風に付け加えられると、もし一部が範囲の外に出ちゃってたらどうなるんだ、という嫌な想像が膨らむので、それを振り切るように踏み切った。

 屋上のスラブの一部が砕けて階下のガラスが舞う。機体は重力に引かれて、いつの間にか中庭を埋め尽くしていた黄色い光に吸い込まれるように落ちて行った。



 一方そのころ、ところ変わってWWO高岡支部OS課内も、にわかにあわただしくなっていた。


「三村さん、今日は予報、出てたっけ」


「いいえ、でてませんね。またハズレです」


 ヴィジット襲撃の報を受けて小隊ブリーフィングルームに入室した三村は、夢見からの唐突な質問に肩をすくめながら即座に応えた。


「これで都合三連荘で外してるのか……向こうさん、またパターンを変えたらしい。予報装置をアップデートしないといけないな。他の支部から似たような報告はあがってる?」


「のべて30の支部から同様の報告が。ついでに、予報装置の更新(アップデート)を求める提言が同じだけあがってますね」


「ははは、また徹夜かな」


 夢見が力なく笑うと、三村はご愁傷様ですといった顔をして見せた。付き合う気は毛頭ないらしい。最も事務職の彼女が手伝えることなど無いに等しいので、妥当な判断ではある。


「ま、先のことを憂いていても仕方ないね。今は今のことだ。舞に連絡は取れた?」


「さっき繋がりましたよ。ただ、よくもデートの邪魔をしてくれやがって、ってプリプリしてましたけど」


「あとで船守にも謝っておかないとなあ」


 三村の妹でカッパーズ副隊長である三村舞とWWO高岡経理部の船守修司が恋仲であるということはOS課の皆が知ることではあるが、いまだすみれには開示されていない情報である。なぜならそのほうがバラしたときに面白いから。

 ちなみに船守という男の名誉のために付け加えておくならば、彼は決して幼女趣味(ロリコン)ではない。好き合った相手がたまたま幼児体型(ロリっ子)だっただけなのだ。それに中身は立派に大人だ。

 完全な余談である。

 さておき、そういった後々のフォローを考えると頭が痛くなってくるのが責任者の辛いところだぜ、と夢見は内心ニヒルに笑むと、切り替えて現状の指揮にあたることにした。


「というわけで古屋隊長、よろしくお願いします」


「何がというわけでよろしくなのかはわかりませんが、了解です」


 古屋は夢見のぞんざいな指揮に苦笑をひとつ浮かべただけで済ませると、自分のOSと繋がった操縦席に納まる。彼の体格からするとコクピットが実に狭く見えるのが少しばかり可哀想で若干の笑いを誘うのだが、夢見も三村もなれたものだ。くすりともせずに古屋機の発進準備にかかっている。


「しかし、本当に彼女を出すんですか? 初陣にしたって急でしょうに」


 夢見は少しばかりの不安を面に貼り付けて、すでにハッチを閉鎖し出撃準備を整えた古屋に問いかけた。


「その件に関しては、課長も了承済みでしょう?」


「そりゃ、そうですけど。古屋さんの目を疑うわけじゃないが、いきなりは荷が重くないですかね」


「いずれにせよ、遠くないうちに実戦はあるんです。遅いか早いかですよ。さっきの機動にしたって、初めてにしては出来過ぎるほどだ。下手をすると舞君に並ぶかもしれませんよ」


「それは、頼もしい話だ。さっきの試験の結果も軒並み良好。素質としては申し分ない。ですがそれは」


「はっきり言ったらどうです? せっかくの卸したての機体がすぐ駄目になるんじゃないかと心配しているんでしょう」


 図星を突かれた夢見は少しばかり顔をしかめてから、敵わないなとばかりに小さく息を吐いた。


「……ええ、そうです。そうですよ。彼女の機体(DAN)は試験運用のために作らせた2.5世代機だ。沙葺の強い推薦からの特別措置ですが、そんな貴重な機体をそうやすやすと潰されては困るんですよ。いかに彼女の操縦技術が高いといっても、それこそマニュアルを熟読したと言ったって、まだ戦い方なんてほとんど知らんでしょうに。実戦はしかるべき訓練の後にあるべきだ」


「そんなこと言って、あなただってさっきは賛成したでしょうに。そうまで言うなら、なぜさっき却下しなかったんです」


「そりゃあ……」


 夢見は言葉に詰まった。古屋の言葉はあまりに正鵠を射ていたからだ。夢見は少しだけ逡巡して、諦めたように口を開いた。


「なんというか彼女、主人公(ヒーロー)っぽいんですよね。妙な期待をしてしまう」


 それは要領を得ない発言だったが、どうやら古屋には伝わったようだった。古屋はナイスミドルな髭面に気持ちのいい笑みを浮かべて、「同感です」とだけ返す。夢見もまた、笑んだ。


「あー……決まったことにああだこうだ言うのは時間がもったいないですね。つき合わせてしまってすいません。1番機の射出準備完了。いつでも飛べます」


「なに、発進シーケンスの間の暇つぶしにはなりました。お気になさらず。発進(ドライブ)


 気負いのない古屋の言葉とともにガントリーのロックが解除され、鋼鉄の巨人は次元を飛んだ。



 足裏からコクピットシートにまで伝わるずしんと言う振動で、私はOSがどこかしらの地面に着地したことを悟った。一面まっ黄色に染まっていたモニタも復旧して、現在はちゃんとした風景を映し出している。首を回して辺りを見回したところ、右手側にすたみな太郎が、左手側にパチンコ屋が確認できたので、どうやら国道8号線の六家交差点のド真ん中に降り立ったらしい。普段ならば多くの車が行き交う8号線も、3.5次元空間内では静かなものだ。


『無事に転送できたみたいだね』


「っぽいですね」


 通信ウィンドウの夢見さんは、言葉とは裏腹に特に心配したような様子はない。まあ、そのほうがこっちも安心できるんだけどね。


ディメンジョン()クラック()形成は岡嶋君の現在位置から1キロメートル金沢側だ。もうすぐ古屋隊長がフレームインするから、あとの指示は隊長から受けるように』


「了解です。こっから1キロ金沢側ってことは、東五位小学校のあたりですかね」


『うん。大体そんなところだね。詳しい位置はマップで確認して欲しい』


「ところで夢見さん、私のOS、丸腰もいいところなんですけど。キックの鬼にでもなればいいんでしょうか」


 と、シャドーの真似事などしてみながらおどけて見せる。

 とはいえ実際丸腰なのは事実なので、このまま戦闘に放り出されるというのは不親切が過ぎるだろう。

 ちなみに模擬戦の時に使ってた剣は訓練用のスチロール製だったので、攻撃力には皆目期待できない。VRの画像合成ってすごい。


『キックを多用するとフレームが歪んで泣きを見る羽目になるよ。修繕費で』


 夢見さんは優しい笑みを浮かべながら、血も涙もないことを言った。


「ですよねー」


 修理費はこっち持ちって話だもんなあ。なるべく壊さないようにしないと。若い身空で借金抱えて過ごすなんてまっぴらごめんだ。


『急な事だったし武装はこちらで用意しよう。岡嶋君は射撃と近接格闘どっちが得意だい?』


「銃なんて撃ったことないですし、選択は柔道だったので剣術の"け"の字も知らないです」


 かといって柔道が得意ってわけでもないしね。キヌちゃんくらい極めてたらOSで柔道できるかもだけど。


『ま、それもそうだ。それじゃあひとまず両方用意するから、とりあえず使ってみて』


「了解です」


『あ、そうだ。この装備はこの戦闘が終わってからもそのまま使ってくれていいからね』


「え、良いんですか? 私、お金払ってませんけど……天引きとかですか?」


『いやいや、タダで良いよ。僕からの初陣祝いだと思ってくれるといい』


「わ、ありがとうございます」


 なんていいながらも、夢見さんの笑みが少し怖い。タダより高いもんはないって言うからなあ……。

 

『どういたしまして。コンテナの転送完了。確認してくれるかな』


 夢見さんの言葉から少し遅れて、OSの胸くらいある高さのコンテナが二つ、空から滲み出すようにして現れた。私のOSもあんなふうに3.5次元空間(ここ)に降り立ったのかと思うと、少しばかり感慨深いような気もする。

 柔らかく国道に着地したコンテナへ機体を接近させると、メインモニタに7ケタのパスワードを入力する画面がポップアップする。


「えっと、パスワード聞いてきたんですけど」


『ああ、今回はパスかけてないから、空白のままエンター押せば開くよ』


「あ、そうなんですね。了解です。エンターエンター……っと」


 空白のパスワードを決定してやると、圧縮空気の抜ける音とともにコンテナが開いた。


「おぉ~、これが記念すべき私の初の得物ってわけかー。大事にしよう」


 中に格納されていたのは、一振りの片刃剣である。持ち手部分に<CIWS-09>の刻印があることから、これが<CIWS-09 単分子直刀(ソリッドブレード)>であることがわかる。軽量で高い剛性と靱性を持ち、切れ味鋭く整備も楽ということで、OSの主兵装として広く普及している刀剣だ。初期装備としては申し分ないだろう。

 そしてもうひとつのコンテナに入っていたのは……


「ちょっ、これ……!」


『ふふふ、驚いてもらえたようで何よりだ』


 もうひとつのコンテナに入っていたシロモノ、それはどこか近未来的な、つるっと滑らかな曲線を描く長銃だった。


「09式短砲身電磁投射砲ショートバレルレールガン……!?」


 私が慄くのも無理はない。この武器、OSが装備できる武器の中でも上から数えたほうが早いほど高価な武器だ。

 たしか一挺のお値段が四千万円。

 OS-DANの本体価格が2億円とちょっとだから、桁がおかしい。ちなみに専用の120mm砲弾(プロジェクタイル)も一発25万円。お高い。

 それがなんと、今回専用砲弾50発がおまけでついてお値段なんと0円! テレビの前の奥様方、今すぐお電話を! ってレベルである。や、そんなレベルじゃねえ。


「こ、こんな高価なもん、ロハで貰っちゃっていいんですか!?」


『いいのいいの。若い子は遠慮なんかしちゃだめだよ』


「いや、夢見さんも十分若いじゃないですか……」


『男なんて二十五超えればオジサンさ。それに岡島君よりは確実に年寄りだしね』


『ほほう、なら今度、課長には特製カクテルでも振舞って上げましょうかね』


 夢見さんが上司風をふかしているところに、颯爽と登場(フレームイン)した古屋隊長が茶化しに入った。なんというかいつも狙ったようなタイミングでやってくる人だなあ。


『いやーははは、勘弁してくださいよ』


 夢見さんはたじたじになって困ったふうに笑うと、こほんとひとつ咳払いして仕切り直しを図った。


『とにかく。それは岡島くんにプレゼントするから、くれぐれも無理はし(機体を壊さ)ないように』


「りょ、了解です」


 なんというか言外(ルビ)にすごく力強く念を押されたので、少しプレッシャーである。


『課長、初陣の子をのっけから緊張させてどうするんです』


 古屋隊長はやれやれといったふうに夢見さんをたしなめた。


『岡島君、今回は君の習熟もかねた戦闘になる。前に出ろとは言わん。援護に徹しろとも言わん。とにかく、今回は機体の操縦と戦闘の雰囲気に慣れることを優先したまえ。DANの火器管制装置(FCS)は優秀だが、火器の扱いに関しては十分注意を払うように』


「了解です!」


 隊長からの指示に気合を入れて応えると、隊長は髭面に渋い笑みを浮かべて頷いた。


『話もまとまったみたいね。調子はどう? やっぱり緊張してる?』


「三村さん?」


『不思議そうな声してるね。今日はオペレーターの子が休暇をとってるから、指揮所(CP)には私が入ります。よろしくね、すみれちゃん。……いいえ、カッパー5!』


 どくんと心臓が跳ねた気がした。さっきからロボットを乗り回していてなんだが、コールサインで呼ばれることによって今までとは比べ物にならない"実感"が沸いてきたからだ。三村さんもノリノリだ。

 ああ、いまからこの子(OS-DAN)異次元人の戦闘メカ(ヴィジット)と戦うんだ、と言う実感が、足の先から頭の先までを突き抜けて、ぶるりと震える。

 恐いからじゃ、ない。


「カッパー5よりカッパーマムっ、よろしくお願いします!」


 私は、おそらくこの短い半生の中で、一番わくわくしているようだった。

こないだ「次は戦闘」と言ってたけれど、無理でした。次は戦闘です。

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