違和感
昼休みになると、俺は桜の家に電話してみた。
『プルルル!プルルル!プルルル!』
「……あれ?」
しかし、誰も受話器を取らずに、そのまま留守番電話になってしまった。確か、桜の父親は何をしているかは知らないけど、内職(それでも十分収入がいいらしい)なうえに、母親は専業主婦。桜は体調が悪いのかどうかは分からないが、真面目な桜が学校に来ないという事態なのだから、両親のどちらかが出かけるのであっても、どちらかが残るだろう。あの両親は桜を凄く可愛がってるので、桜を置いて出かけることなど、月に一度のデートの日ぐらいだし……(それはそれで問題がある気がするけど)。可能性としては両親も桜も出かけているパターンだけど、これも可能性は低いかな。知り合いの葬式とかが急に入ったなら分かるけど、それならそれで俺に連絡ぐらい入れるだろう。…………さて、どうしたものか。とりあえず帰りに桜の家によっ……
『ブゥーン!ブゥーン!ブゥーン!』
突然、携帯が振動し始めた。マナーモードの解除がいちいち面倒なので、当然といえば当然なんだが。
ディスプレイで番号を確認してみると、ついさっき電話したばかりの桜の家の電話番号だった。俺はすぐに携帯を開いた。
「もしもし、桜か?」
番号は桜の家だったので、桜の両親という可能性もあったが、そもそも桜の両親は俺の番号を知らない。もしかしたら、体調が悪い桜に代わって掛けてきた可能性もあるけど、桜の両親と電話で話したことなどないせいか(というか、桜や良以外と電話で話したことはほとんどない)自然と桜と考えて対応してしまった。
『もしもし。私だよ。』
しかし、予想通り相手は桜だった。
「ああ。どうしたんだ?さっき電話したけど、出なかったじゃないか。」
『あ、ごめんね。ちょっと忙しくて、出られなかったの。』
……あれ?また何か違和感が……。さっき、昨日のことを考えてたときにも何か引っかかったけど、今度はまた、別のことで引っかかるような……。
「そ、そうか。で、どうしたんだ?」
『どうしたって?』
「いや。今日、学校に来てないから、体調でも悪いのかと思って。」
『あ、うん。ごめんね。ちょっと体調が悪くて。』
何か……何かが引っかかる。昨日のことで引っかかったのは一瞬だけど、今はずっと引っかかってる感じだ。声は明らかに桜のもの……だと思う。電話越しだから確信を持って言える訳じゃあないけど、桜だと思う。というか、今回は向こうから電話をかけてきたのだから、桜のフリをする理由がない。
「そうか。じゃあ仕方ないな。早く元気になれよ。」
いくら考えても答えは分からないので、俺はさっさと会話を終わらせようとした。考え事に集中し過ぎて、体調が悪い桜に気を使わせたら悪いからな。
『うん。じゃあ、またね。』
「おう。…………。……ふ~。」
向こうが電話を切る音がした後、俺の方も電話を切り、一息ついた。桜がとりあえずは元気だったという安心感と、電話中に引っかかった違和感からの疲れがきた。なんで桜との電話でこんなにも疲れないといけないのかと思うけど、桜に当たっても仕方ない。
俺は考え事をさっさと切り上げて、良の待っている教室へ戻った。アイツも桜のことを心配していたので、一応、元気だったことは報告しとかないとな。
「おお、快。桜ちゃん、どうだった?」
「元気そうだったぞ。あれなら、明日は来るんじゃないか?」
「そうか。それはよかった。」
その後は、黙々と昼飯を食べた。基本的に何でも話せる良だが、それゆえに話を振ると深いところまで話せてしまうので、話を振るときは注意しないと、こっちがついていけなくなる(本人も自覚してはいるらしい)。だから、自然と良と付き合う奴はあまり自分から良に話を振らない。それは俺も例外じゃないけど、それでも一緒に食べるのは、ただ単に俺に友達が少ないのと、沈黙が苦痛じゃないことや、フッと浮かんだ何でもない話でも、ちゃんと付き合ってくれるからだろう。