表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
gradge  作者: クロイ名無
2/16

何気ない日常

「ふ~。流石に久しぶりの授業はキツイな」

 授業が終わると伸びをしながらそう言う。特に誰かに言ったわけではないが、隣の席が桜なので、何かしらの返事はしてくれるだろう。

「そうですね。」

 言葉ではそう言っているが、桜は笑ってそう言うし、本人にはほとんど疲れが見られない。まあ、桜の場合は体型を維持するための運動以外はほとんどしないし、そこまで疲れるようなことをしている記憶がないので、『疲れている』という状態自体を見たことがほとんどないんだが。

「というか、なんでそんなにも平気そうなんだ?」

「春休みにも勉強はしてましたので。」

「へ~。……とは言っても、春休みなんて短い休みに、宿題以外をやる物好きなんて、桜以外にいないだろ?」

「いいえ、そんなことはないですよ?春休みにたまに図書室へ行っていましたけど、大抵、西又君がいましたから。」

「あ~……アイツも例外だな。アイツはお前みたいに勉強したくてしてるわけじゃないから。」

 良の場合、昔から「とりあえず勉強ができれば、犯罪以外なら何やってもいい」と親から言われ続けていたらしく、結果として、学年主席を楽々維持し続ける頭脳の持ち主となった。桜も努力しているのだが、今まで一度も良に勝てたことがない。とはいっても、良とはいつもギリギリ負けてるレベルだし、3位の人との差が大きい。中の中の成績の俺からしたら十分過ぎる

「それでも努力を続けられるのは凄いことだと思いますよ?」

 まあ、確かにそうだ。俺だったら、そんなことぐらいじゃあ動かない。そりゃあ、学年主席を取るたびに100万円やるとか言われれば別だが、基本、放任主義な両親なので(というより、出張ばかりの両親との記憶より桜との記憶の方が多い気がする)、良のような条件では動く気にはならない。

「まあ、とにかく、俺には休日の勉強は無理ってことだ。」

 桜は「そうですか」と言うと、「それでは帰りましょうか」と言い、立ち上がったので、俺も立ち上がった。

 俺の家と桜の家は方角は同じだが、特別近いわけでもなければ、遠いわけでもない。まあ、歩いて5分ほどだろうが、住宅地なので当然だ。俺と桜は幼馴染だと思うし、周りもそう言っているので別に問題ないのだが、特に家が隣同士で子供の頃から兄妹のように育った、なんてことはない。出会ったのが小学校入学前と言う、早い時期だったので、自然と一緒にいる時間が多かっただけだ。その頃から下校は一緒にしているので、今日も一緒だ。登校の方は小学校の頃からだったはずだけど、なぜかは覚えてない。別にどうでもいいだろう。

俺は家に帰ると、さっそくパソコンを起動した。相手がどこの誰だかは分からないけど、もしメールが着ているなら早めに返した方がいいだろうと思ったからだ。……まあ、そんなマメなことをやるのも最初の内だけだろう。そう思いメールを確認してみると、メールが1つ来ていた。

≪To Χ From グラッジ

 確かに、春は出会いの季節だと思う。……でも、出会いがいいものかは分からない。出会わなければよかった出会いもある。重要なのは、出会って、どう発展させるかだと思う。だから自分は、出会いを探す前に、今までのことを振り返ってみたい。≫

 ……内容はとりあえず理解できるが、まさかそんな返事が来るとは思っていなかった。他人がどういう考えを持とうが、興味はないけれど『春は出会いの季節』なんて言ったのは良で、ただ単純にメールを書くときに思い出したから書いただけだ。俺自身は、このあとに簡単な自己紹介でもするのかと思ったけど、相手はそうは思ってないみたいだ。……さて、どう返せばいいのだろうか?急に話題を変更させるわけにもいかないし、かといって俺は春にそこまで関心があるわけではない。過去を振り返る気もないし、これから先の未来……例えば明日にでも、可愛い転校生が来る展開などを想像しても仕方ないと思う。第一、転校生が来たとして、俺の人生にはほとんど関わらないと思う。桜と一緒に「転校生なんて珍しいな」とか言ったりして、少し話題にするだけで、すぐにどうでもよくなると思う。だから、自然と返信する内容なんて、適当に共感した振りをするか、反対の意見を書くしかないと思う。

俺は心の中で『春は出会いの季節』なんてことを言った良を恨みながら、メールの新規作成ボタンを押して、文章を書き始めた。

≪To グラッジ From Χ

 確かに、出会わなければよかったと思う出会いもあったけれど、自分はそこまで悪い出会いがなかったせいか、やはり出会いが欲しいと思う。悪い出会いも良い出会いも、出会いがなければ起こらないことだから、それが良い出会いであることを信じて、出会いを待ちたい≫

 パソコンにそう入力し終え、送信ボタンを押した。一応、俺の本心を書いたけれど、果たしてこれでよかったのかは分からない。別に気軽にメールする感じでいいのだろうけど、なにぶん、相手がどんな人か分からないので、どう書けばいいのかが分からない。良や桜相手の方がどれだけ楽かがよく分かる。さっきも考えたことと同じだけれど、俺は別に本気で出会いが欲しいわけじゃない。今のまま、適当に高校生活をして、もしかしたら良や桜とは違う大学かもしれないけど、とりあえず大学に行って、就職。飛び切り良い人じゃなくても、悪くない人と結婚して、子供を作る。そしてゆっくり老衰。そんな感じの人生でいいと思ってる。むしろその方がいい。死ぬまで特に大きな変化のない生活でいいと思っている。悔やむ過去も無く、未来に希望を持つでもない、平凡な人生。初めのメールであんなことを書かなければ、おそらく、さっきのメールでも、『出会いなんて興味ない』と書いたと思う。俺は時計を確認し、とりあえずの寝る時間を決め、ゲームを始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ