遥か未来に望む世界
【エピローグ】
「おい。あんまり怒るなって。世の中、親の出張に子供が付いていくなんてよくあることだぞ?」
隣で父が呆れたように言っている。未だに怒ってる俺にも問題があるのだろうが、無視。別に出張自体は仕方ないと諦められるが、問題は俺がついてきていることだ。この父、あろうことか料理ができないという理由で俺を連れてきたのだ。母は母で忙しいからついていけないのは分かるが、それなら自分で料理ができるように頑張れと言いたい。それに、この引越しの件だって昨日の夜に初めて言われたことだし、謝るどころか笑いながら報告するからたちが悪い。一番幸いだと思ったのが春休みで、高校2年生になると同時に新しい高校に転校できることだろう。中途半端な時期よりよっぽどいい。
「ほら。今度の家は近くに海があるんだぞ」
確かに海があるが、そんなので喜ぶのはよくて中学生ぐらいまでだ。高校生の俺がはしゃげるわけがない。
「ふ~。全く。誰に似たんだか、この頑固性質は。」
なんでもかんでも大雑把な父ではないことは確かだ。
「……と、待てよ。ここどこだ?」
「…………ついに地図すら読めなくなったか?」
車に付けてるカーナビを見ながら困ってる父に向かって悪態をついた。このぐらい言う権利はあってほしい。
「ば、馬鹿なこと言うなよ。ただ行く方向が分からないだけだよ」
「それを世間では迷ったと言うんだ。」
「ちっ。仕方がない。……へい!そこのねぇ~ちゃん!」
「……はい?」
田舎だからいいものの、都会でそんな声のかけ方して振り向く人などいないだろう。
「あ~、悪いんだが、迷ったらしくてな。ちょっと道を教えてくれない?」
「はい。いいですよ」
俺は父とその女性が話している間にも、おそらく相当時間がかかると思い、寝転んだ。幸いにも荷物はそこまでないので、後ろの席にいた俺は全シートを使えた。
「それで、住所は?」
「は?え、あ~その~……どこだったっけな~」
どうやら父は忘れたらしい。俺はこれは時間がかかるどころか永遠に辿り着けないと思い、起き上がって後ろから顔を覗かせた。覗いて見ると、そこには『ねえちゃん』というには余りにも小柄で、中学生のようだった。髪は長く黒色でウェーブがかかっていて、腰近くまで伸びていた。容姿もよく、まさに美少女だった。……けど、なんとなく……
「?どうしたんですか?」
ジッと見つめていたからか、少女は不思議そうにそう聞いてきた
「ああ。すみません。コイツ、綺麗な人見るのが初めてで」
父は笑いながら俺の頭を叩いた。
「ふふ。ありがとうございます」
少女は少し照れたように、けど、嬉しそうにそう言った。……けど、俺は何かが頭から離れない。何かは分からないけど、1つだけ聞きたいことがあった
「どこかで会ったことありますか?」
「えっ?」
頭に浮かんだけど、決して本気で聞こうと思ったわけではないセリフなのに、自然と口に出していた。少女の方は驚いたような顔で俺の方を見た。俺とこの人は会った事がない。それは確実なのに、どうしても聞きたかった
「おい、快。それはいくらなんでも古すぎるだろう。」
父はナンパとでも思ったのか、呆れながらそういってきたが、俺としては本気の疑問だった。けど、やっぱり俺もいきなりの質問で失礼だと思ったので、「すみません」と謝った。……しかし
「ふふ。そうですね。私も……なんとなく、貴方と会ったことがある気がします」
彼女はどう取ったのかは分からないが、笑いながらそう答えた。
「それで、住所は分かりますか?」
彼女はすぐにそう聞いてきた。俺自身もこれ以上何も質問する気はないので、素直に住所を言った
「え!?じゃあ、今日お隣に引っ越してくる人だったんですね」
予想外にも、俺たちの家はこの人の隣だった
「あ、そうなんですか?いや~こんな美少女がお隣さんとは、嬉しい限りだな。なあ、快。あ、俺は深峰翔で。こっちが息子の快です」
父は再び俺の頭を叩きながらそう言ってきた。正直、痛いし、隣に中学生が住んでいるからなんだというのだ。俺にロリコンの趣味はない。もしかして、この人が受験する年になったら勉強を教えろと言うのだろうか。……俺としては嫌だ。こんな意味の分からない……と言えばこの人は心外だろうけど、あまり一緒にいたくないというか、いたら自分が変になりそうな人に勉強を教えるのは嫌だ。見たことないのに見たことある人なのだから。
「ふふ。よろしくおねがいしますね。私は天野桜って言います。……そうそう。これでも私、今年から高校2年生なんですよ」
天野さんは笑ってそう言った。そして、その名前を聞いたときにも、確かにどこかで聞いたような気がした。ずっと前、どこかでその名前を