止める
「……い!。……………おい!」
誰かが叫んでいる。……ここはどこだ?…………ああ。目を閉じてるからか。…………あれ?開かない?……………………
「……ん?」
よくやく目が開くと、目の前に良の顔が凄い近くにあった
「………………」
「よかった。目が覚めたのか」
「すまんが、とりあえず顔が近い」
俺がそう言うと、良は謝りながら俺から離れた
「それで、どうしたんだ?桜ちゃんの様子が心配になって来たんだが……」
桜?…………!
「そうだ!桜は!?」
「だからそれがしんぱ……て、どうしたんだ?そんなに慌てて?」
未だに状況が分かっていない良だが、とりあえず俺は落ち着き、今あったことを話した。
「そうか。確かに、その話が本当なら慌てるのも分かる」
「それで、今は何時だ?俺はいったい何時間気絶していたんだ?」
「今は17時だ。」
「9時間も気絶していたのか!?」
「そうなるな。」
「急いで桜を探さないと!」
「待て、快!」
「急がないと!もうすぐ18時だ!誰かが殺されるんだぞ!?」
「待てって言ってるんだ!」
急いで家から出ようとする俺を良は無理矢理組み伏せた。
「むやみに探しても意味がない。それより、お前に届いたメールを頼りにした方がいい。」
「くっ……!」
ほんの少し落ち着いた自分の頭でも、その方が効率はいいと思う部分があるが、未だに落ち着かない部分では、解読なんて出来ないと諦めている自分がいるが、ここは頷くしかない。
「まず1つ目と2つ目だだ。法則性なんかを見つけよう」
「『最初は地獄の炎が身を焼き、その体は二度と動くことはなくなる。自らが招いた炎によって、灰になる』それから『次は連続殺人、殺すのは10人。残すのは10の跡。近くじゃないけど近くにいる人。知らないけど知っている人。さあさあ次に死ぬのは10人。』だったな」
携帯で文章を見ながら、音読した。言い終わった後も良は黙っていたが、ゆっくり口が開いて、自信なさげに言った
「1つ目だが、火事なのは分かってるとして、快が桜ちゃんから聞いたことと、文章から、殺すのはあくまで1人。つまり、火事でありながら、1人しか死なない状況。だから家で死んだと考えられないか?」
確かに、結果から見ればそう思う。他に火事で死ぬ状況だと、いくらなんでも被害者が出てしまう可能性がある。桜が言うには、あくまで殺すのは1人。
「…………でも、それは火事だって分かってるからだろ?内容は『丸焦げになる』『自分で発火』の2つしか書いてない。つまり、結果が火事だっただけだ。他にもこの条件を満たす殺し方があるかもしれない。」
「問題はそれだ。結果が分かってるから、どうしても結果から考えてしまう。何か……その方法じゃないと殺せない証拠がいる。」
証拠……。文以外でのヒントなんて、桜が恨みを持っている相手。つまり、桜と面識のある人間。そんなの、分かるはずがない。
「まてよ……。快。桜ちゃんは確か、解離性同一性障害と言っていたな。」
「ああ。けど、それがどうしたんだ?」
「それで、人格は3つ。『今の快が知らない桜ちゃん』『今の快が知ってる桜』『そして恨みを持ってる桜ちゃん』。」
「ああ。」
ここまで聞かれても、俺には良が何を考えているのかが分からない。
「それと、殺す人10人は、最近できたっていうのは、おそらく昨日の10人」
「だから、そんなことが分かったって、どうだって言うんだよ」
「残り4人は、つまり、昔の……今のお前が知らない桜ちゃんの時に起きたことってことだ。」
「そんなことは分かってる!だからどうしたって言うんだ!」
いい加減、良の言い方にイライラして、大声を出した。しかし、良は気にした様子もなく、話を進める
「ポイントは2つ。俺はお前から聞いた話でしか知らないが、昔の桜ちゃんは人見知りだったんだろ?ずっとお前と一緒にいるぐらい」
「ああ。」
「出会ったのが小学校入学前。そんな時の記憶で、殺したいほどの相手が現れるとは思えない。特に、最初に殺されたのは35歳の独身男性。そんな人と一対一で話すわけがない。話したとしても、お前とは四六時中一緒にいたんだ。お前と面識がないわけがない。」
……そうか。今なら分かるが、昔の桜がそんな年上の人とまともに会話ができるわけがない。小学校の中でさえ、面識のない教師に話しかけられただけで泣いていた桜だ。外で知らない男性に話しかけられたら、泣いて近所の人が駆けつけるだろう。でも、そんな桜でも、俺と一緒なら、体のほとんど全部を俺の体で隠しながらだが、ゆっくりオドオドした調子で喋ることができた。だから、俺とはほとんどずっと一緒にいた。外にもあまり出ない奴だったみたいだから、余計にありえない。
「第2に、口調だ。」
「口調?」
「俺の知ってる桜ちゃんは常に丁寧語だった。昔の桜ちゃんはどうだった?」
どうだっただろうか。グラッジのような喋り方?そう考えれば、そうな気がする。でも、今も昔も変わらないと考えれば、そうな気がする
「おそらく、グラッジと同じ喋り方のはずだ。」
「なんでだ?」
「グラッジの役目は『恨みを晴らすこと』。つまり、口調まで変わる理由がない。」
「でも、恨みを晴らすってことは、荒っぽいイメージがあるんだが?」
「可能性としてはそれもある。だけど、それよりも、解離性同一性障害になった理由が『恨み』で、その中にお前が入ってるってことは、お前にも原因があるってことだ。ここで考えるのは、人見知りな桜ちゃんが信用したお前に、何かしら恨みを持つようなことが起きたことだ。お前なら、一番信用していた人に裏切られたら……どうする?」
どうする?…………どうするのだろうか?一発殴る?いや、一番信用していた人に裏切られたなら、一発じゃあ済まないかもな。もしくは、信用していた奴だから、何かの間違いだと思って、ただただ困惑して、聞き返し続けるかもしれない。
「…………たぶん、呆然として、その後は…………たぶん、忘れてると思う。たまに思い返しても、すぐに気を取り直して、他の友達と楽しくやると思う。」
ゆっくりと、そう言った。実際には分からないけど、たぶんそうなるだろう。一時は悲しくて、恨めしく思うだろうけど、すぐに過去の出来事にして、楽しくやると思う
「じゃあ、その他の友達さえいなかったら?楽しいことなんて、何もなかったら?」
「………………」
これは桜の場合。俺が何か桜に恨まれるようなことをした場合、桜はどういう行動を取るか。誰も友達がいない。どうすればいいか相談する相手もいない。親は桜の内気な所を心配していたから、相談なんてなかなかできるものじゃあない。俺なら…………距離を置いても、なんとかやっていけると思う。例えそのとき友達がいなくても、頑張れば作れると思う。…………でも桜は?ずっと友達ができず、唯一話せる人にも裏切られたら、どうするだろうか。たった1人で過ごす?…………それはないと思う。桜は人見知りだが、1人が好きなわけじゃあない。むしろ、寂しがりな方だ。なら、可能性があるとしたら…………
「多少のことは堪えてでも……媚を売ってでも関係を続けようとする?」
「おそらくな」
「で、でもちょっと待てよ。俺は桜に何かした覚えはないし……仮にしていたとしても、いつからしなくなったんだ?」
「それが分からないんだよ。今のお前を見てると、むしろ恨まれるようなことをしたこと自体が不思議だ。」
「……つまり、無意識のうちに、たった1回だけ、恨まれるような大きなことをしたってことか?」
「おそらくな。……で、おそらく、その結果がお前の知ってる桜ちゃん。これは俺の見た感じだが……桜ちゃん、今までお前に反抗……というか、お前の意見に異見したことあるか?」
桜が俺に異見?…………そう言われれば、ないと思う。…………いや、ない。俺が何か言うと、桜はいつも笑顔で『分かりました』と言っていた。喋る内容は友達関係と変わらないけど、常に俺の意見は尊重していた。事実を言い、その事実が俺の言ったことと違うことはあっても、桜自身の意見で俺と違う意見を出したことなどない。
「………確かに、それが本当なら、口調が変わった前後が分かれば原因も分かるな」
「だけど、不思議なことが1つある」
「不思議なこと?」
「お前の親と桜の親は、なんで知っていて放置したのかだ」
「!」
そうだ。俺の親はともかく、桜の親が気づかないわけがない。なら、なんでほっといた?それを言えば俺と桜は強制的に離れなくてはならなくなるから?それとも、それほど大きなことだとは思わなかった?……いや、そんなことはないはずだ。口調が変わったのは勿論、俺に対する態度も変わったはずだ。それを不思議に思わないはずがない。知らないはずもない。俺の方に悪いことをした意識がなかったからか?
「とりあえず、そのことは考えても埒があかない。時間もないしな。とりあえず、今の口調はいつからだ?」
いつから?桜が言うには、小学校の頃に事は起きた。…………いつだ?突然変われば印象に残るはずだ。……けど、俺の記憶では、あったときからあの口調だった気がする。
「分からない。」
「……そうか。なら次だ。子供の頃、怪しい大人と会わなかったか?」
「怪しい大人?どういうことだ?」
「次の文は『後ろめたいことがないならば、前を見て歩け。もし非があると思うなら、その頭を下げ過去を悔い改めよ』だ。今までも恨みがある人を殺したが、今のところ何かしら犯罪に関わったかは分かっていない。けど、今回はおそらく、誰が見ても後ろめたいこと、つまり、犯罪に関わっていたことだと思う。小学生がそんなことをして平然としてるわけがないから、大人だ。」
そう言われると、そうも考えられる文だ。
「そうか。でも、文的には『謝れば許す』とも取れないか?」
「ああ。だから、もしかしたら犯した罪は小さいかもしれない。……けど、もしかしたら、『悔いてるなら多少は楽に殺す』という意味かもしれない。間接的に被害を与えたとか。」
「なるほど。桜は殺すと言ってるから、たぶん後者だな。でも、そんな奴、どうやって探すんだ?間接的じゃあ、見つけようがないだろ」
「そうでもない。さっき、俺は『怪しい男と会わなかったか?』と聞いたけど、それはない。」
「なんで?」
「会って、被害を受けたなら、直接だ。間接的ってのは、元々被害が及ぶはずのない者が受けた場合だ。」
「それでも、見つける方法なんてあるのか?」
「間接的に被害を受けることなんてたかが知れてる。それを行ったのが大人なら余計にな。」
「どんなのがあるんだ?というか、本当にあるのか?」
「…………1つだけ、小学校の頃に起きたことがある。この町……いや、もしかしたら、この国の人全員に影響を与えたかもしれない」
「そ、そんなことがあるのか?」
何かあっただろうか?全員が影響を受ける。つまり、俺も受けたということだ。……何かあったか?
「不法な核実験による地震」
「地震?」
覚えがない。……いつだ?小さな地震ぐらいは経験があるが、不法な核実験なんて聞いたことがない。
「やっぱりな。……つまり、お前の中から消えているのは小学3年生の頃だ。」
小学3年生?……いや、そんなはずはない。はっきりとは思い出せないけど、確かに3年生のときの記憶はある。桜と違うクラスになって、いつも桜が俺のクラスに遊びに来ていたのを覚えている
「その顔だと、3年の記憶はあるみたいだけど、何も全部がないわけじゃない。事が起こった前後……もしくは、事件のことだけでも覚えてない可能性があるからな。」
「……仮に3年生のときに何かあったとしても、地震だけで恨みをもつようになるのか?」
「地震だけじゃない。おそらく、火事もだ。」
「火事?」
「ああ。昔は4人しか殺したい人がいなかったということと、桜の性格を考えれば、全部が同時に起こったと考えるべきだ。そして、第一の殺人は火災。」
なるほど。火事の時に地震。他にも3つ。今日から3日分も同時に起こったということか。
「じゃあ、早くその核実験をした人を探そう。誰なんだ?知ってるんだろ?」
俺がそう言って立ち上がるが、しかし良は立ち上がらなかった。
「どうしたんだ?まさか知らないのか?」
「いや……知ってる」
「なら……!」
「ある国の首相だ。……けど、そんなのどうやって場所を調べるんだ?」
絶望的状況に直面したように、良は声を絞り出すように言った。確かに無理だ。……けど、どうやって桜は場所を特定したんだ?そう思ったとき、数日前のことを思い出した
「……なあ、良」
「なんだ?」
「もしかしたら、分かるかもしれない。」
「どういうことだ?」
俺は桜と始業式にした話を良に話し、すぐにその人で合ってることを確認すると、泊まってるホテルを調べ始めた。
「どのホテルか分かったぞ!」
「ホントか!?」
「ああ。30分ほどで着く」
今の時間は17時30分。ギリギリか。
「……けど、これでもし間違ってたらどうするんだ?」
「マイナスに考えるな、快。プラスに考えろ。」
良は俺の言葉にそう返事をすると、サッサと玄関へ走り出した。俺も後を追って、走り出した。