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gradge  作者: クロイ名無
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始まりのメール~序章~

≪To グラッジ From Χ

 春は出会いの季節だと友達から聞いたことがある。確かに、入学式やら進級などで出会いは必然と増えるだろう。卒業式を言えば別れの季節だが……まあ、そこは気にしないでおこう。とりあえず、春は出会いの季節だ。君と会えたのも何かの縁だと思って、仲良くしていきたいと思う。よろしく≫

 俺はパソコンに簡単に文を打ち、送信相手へのメールアドレスが間違っていないかを確認して送信ボタンを押した。

「ふ~。流石に初めてのことってのは緊張するな。」

 俺は椅子の背もたれに体重を預けながら、一息ついた。そのときにはもう、画面に『送信完了』と表示されており、引き返せないところへ来ているのだと実感できた。

「しかし、いくらなんでも俺までマジでやるとは思わなかったな。」

 俺は自分に呆れながら昨日のことを思い出した。昨日は始業式で、数週間ぶりにクラスの人と会った。春休みということで、会わない期間は短いので、誰もそこまで変わっていなかった。メールで話したりしていたので、直接は会っていなくても自然と話せる。その時に出てきた話題が【文通】。文通と聞いたときは「これまた古風なことを」と思ったが、実際は少し違って、ただ単に専用のメールアドレスを作り、ネットに晒す。そして文通をして欲しいという内容を書き、そのメール宛に来た最初のメールの人と文通みたいにメールをし合おうというのだ。もちろん、晒すサイトはちゃんと友人のサイトで、注意として送るとどうなるかは書いてあった。俺は反対したが、皆がその話にのったこともあって、その日からスタートしたのだ。そして、その日の夜、さっそく俺の元にメールがやってきた。名前は『グラッジ』と書かれていて名前からは男か女かは分からない。内容は簡単なもので、挨拶だけで終わっていた。

「…………さて、そろそろ学校へ行く用意でもしとくか。」

 俺は電源を落とし、立ち上がった。俺は狭い部屋の端にあるクローゼットやタンスから服を取り出し、着替えだした。脱いだ服は綺麗にたたみ、タンスの中へ入れると、1階へ降りていった。

「あ、快君。おはようございます。」

 1階へ降りると、幼馴染の天野 桜が椅子に座ってご飯を食べていた。昔から勝手に入って(合鍵渡したのは俺だけど)勝手に食べているので、問題はない。長い黒色の髪にはウェーブがかかっていて、その髪は腰より少し上まで伸びていた。顔立ちはスッキリしていて、美少女と言えるほどの容姿。おまけに背が少し低いので、学校では人気者(マスコット的意味を多く含む)の幼馴染だ。ただもう1つ、この幼馴染の左手がないことも、有名な理由だ。他にも背中に、大きな火傷の跡があるが……まあ、知ってるのは俺ぐらいだ。

「快君は朝、どうします?」

「え?あ……どうしようか……。」

 桜のことに気を取られていて返事が変になってしまったが、なんとか気づかれなかったと思う。」

 しかし、朝か……。基本的に俺はあまり食べ物を食べない。というより、食べられない。特に調理したものが駄目だったりする。なぜ駄目なのか。それはよく分からないけど、なぜだか体が拒否する。空腹が限界近くまでくれば食べられるが、基本的に食べようとすれば吐いてしまう。無理をすればなんとかなるが、両親が出張中なので、無理に食べる必要はあまりない。俺が食べないと両親が心配するから、その時のために体力は温存しておこう。……まあ、ただ食べたくない言い訳だけど。

「いや、いいや。」

「そうですか。」

 桜はそう言うと、片手で器用にご飯を食べ、立ち上がった。そのまま歩いていき、桜は食器を流しに置き、日曜大工が趣味の父が、桜のために付けた、食器を固定するものに固定して、食器を洗った

「じゃあ、いきましょうか。」

 朝なうえに桜は小食なので、さっさと食器を洗うと、カバンを持ち一緒に玄関を出た。昔から小・中・高と同じ学校へ通っているので、一緒に登校するのが普通になっている。中学の頃は冷やかされたりしたが、俺も桜……は赤くなって恥ずかしがっていたが、俺のほうは特に気にならなかったので、いつも一緒に登校していた。桜自信も、恥ずかしがっても、毎朝俺の家まで来ていたので、本当に、単純に恥ずかしかっただけなのだろう。

「そう言えば快君。昨日、西又君と話していた文通のことなんですけど、誰かから返事はあったんですか?」

 『西又君』とは、例の文通の提案者であり、本名は『西又 良』。楽しいこと一番を信念とさえしている奴である。現に、付き合いはそこまで長いほうではないが、今までに法律違反をギリギリで避けている感じだ。……つまり、解釈の仕方によっては法律違反をしているのだ。本人は、警察に捕まったりしない限り無罪だと主張しているが、実際にはギリギリである。

「ああ。一応な。昨日の夜に来たんだ。」

「へぇ~。こういってはなんなんですが、変な人ですね。」

「変?どういうこと?」

「あちらも専用のメールアドレスかもしれませんが、それでも見ず知らずの人にアドレスを教えて連絡の仕合をしようとしてきたからですよ。」

 確かにそう言われれば変な人だ。とりあえず、俺だったらメールは送らない。相当暇をしていたら別だが、それなら見ず知らずの人と連絡を取り合うより、友達にメールをした方が楽だし、楽しい。

「それで結局のところ、その文通は何をするんですか?」

「何って……普通に世間話をするだけだけど?」

「そうなんですか?私、文通をやったことがなくて、どんなことをするのか気になっていたんですよ。」

 実は、桜は携帯すら持っていない。今の時代、なくては不便とまではいかないものの、持っていないのは珍しいが、本人が必要ないと言っているので買ってないらしい。

「特に特別なことをする気はないな。良なんかは相手が女性だったら会いたいって言ってたけど」

「快君も、もし近所に住んでいたら、一緒に出かけたりしないんですか?」

「ん~……どうだろう。」

「そうですか。……ところで、話は変わりますが、数日後にこの町の神社でお祭りがあるのは知ってますか?」

「祭り?」

 祭りなんてあっただろうか?春祭り?……いや、ないだろ

「なんでも、ある国の首相さんの奥さんの生まれがこの町のようで、その首相さんと奥さんが数日前からこの町に来てるらしいんです。それで、出国前にお祭りをするらしいですよ。」

「へぇ~。……それで、桜はその祭りに行くのか?」

「すみません。私はその日は用があるので、いけないんです」

「そうか。なら俺も家にいるか。良と男2人で回るなんて悲しいだけだからな」

 その後も、なんでもない雑談が続き、登校した。俺と桜は一緒のクラスなので、教室へ行き、席へ着いた。

「よう。誰かからメールは来たか?一応、お前以外に聞いたが、誰も来てないそうだ。」

 席に着くと、さっきの話に出てきた西又 良が現れた。長身で、ボサボサな髪。元々の顔はいいはずなのに、性格ゆえにヘラヘラした顔になり、一部の女子に『残念なイケメン』と呼ばれている男。楽しいこと一番という性格を除けば、明るいし、義理堅いし、頭はいいしで、むしろその性格さえ除ければモテモテだろうと想像できる。昔本人に言ってみたが、「無理無理。この性格は直らないって。それに、俺はそこまでイケメンじゃないって。」と返された。

「俺の所には昨日の夜メールが来たぞ。」

「何!?マジか!どんな奴だ!」

 俺が言うと、良は顔を思いっきり近づけてそう尋ねてきた。……どうでもいいが、顔が近い。

「ああ。グラッジって名前の人から」

「グラッジ?……名前からして男っぽいな。」

「でも、偽名だろ?俺だってΧだし」

 ついでに言うと、元々は快という名前だから『カイ』にでもしようかと思ったが、『かい』で変換してみると、ギリシャ文字で『Χ』があったので、そっちにした。

「まあ、そうだけど、女性で『グラッジ』なんて付ける奴いるか?好きな歌手とかそういうのなら分かるけど、そんな奴は聞いたことないしな。」

 楽しいこと一番ということで、女性方面の雑誌などすら読む良が言うなら、ほとんど間違いはないだろう。

「桜ちゃんも聞いたことないだろ?」

「……そうですね。聞いたことがないですね……。」

 桜は少し考えると、そう答えた。そう答えたところでチャイムが鳴ってしまい、そこで会話は終了し、良も席へ戻った。担任が何か言っているが、聞き流す。さして重要なことではないだろう。朝の担任の報告を真面目に聞く奴など、桜や良以外にはいないだろうしな。

むしろ、重要なのはこの後だ。この学校、特に進学校でもないどころか、授業自体、真面目にやる教師がいないのに、始業式の次の日から通常授業がある。しかも、今日は金曜日で、明日からまた休みなのに授業があるなど、無駄過ぎる気がする。面倒なこと極まりない。

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