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生きるための選択

 このエピソードでは、10時間に及ぶ手術を受けるかどうか、医師から判断を求められる場面が描かれます。


 手術内容については実際の医師説明に寄せているため、気分を害する可能性のある表現があります。


 施術描写が苦手な方は、無理に読まずスキップしていただいて構いません。


本編では、その判断に向き合う

夫婦の会話と心情が描かれます。

 話し合いは長時間になりました。


 「お義父さんが脳血栓で倒れて『自由に動けないなら死ぬ』と言った時に、あなたは『生きる手立てがあるなら簡単にあきらめるな』と怒りましたよね。」


 「子供たちはまだ小さい。それなのに死を選ぶのは親としては無責任だと思う。」


 「生き残る手段があるなら、それを選択すべきだ。」


 客観的には正論ですが、妻にとって正論は意味がありませんでした。

 妻は「一晩、考えさせてほしい。」と言い、この日の話し合いは中断となりました。


 そして翌日の夜に話し合い再開…

 というよりは、妻の一言で終了…


 その一言は…


 「生きるために手術を受ける。」



 実は開口一番で妻が「手術を拒絶」したのには理由がありました。

 それは手術内容が想像を絶する過酷な内容だったからです。


 精密検査結果、癌細胞は舌の2/3、左下部顎の大半にまで感染していました。

 その部分を摘出し、摘出した部分には腹筋を移植、失った腹筋は人工脂肪で代用。

 手術時間も癌細胞摘出から欠損部位再建で10時間以上掛かるという内容でした。


 癌の摘出手術にあたり、ある選択を医師から求められました。


 「縦に切りますか?横に切りますか?」


 癌に侵された舌を切除するため、左頬から顎にかけて切開する必要がありました。

 その前段階として、顔の下半分に施術を行わなければなりません。


 縦に切って左側に施術するか、首の皺に合わせて横に切り鼻の下まで施術するか。

 顔にメスが入るだけでもショックなのに、広範囲に施術することは女性にとって「死」の選択を迫られるような重い決断でした。


 「傷口が小さいのは縦ですが、目立ちます。首の皺に合わせて横に切れば目立ちにくいし、洋服の襟やストールで隠しやすいです。できるだけ目立たない様に切ります。」


 妻は顔を切るしか生きる選択肢が無いなら、少しでもマシな「横に切る」を選択しましたが、顔にメスを入れるという事は苦渋の決断であったはずです。

 

 このプロセスがあったため、手術をするかの話し合いの第一声が


 「絶対に手術したくない。私は死ぬ」


 となったのです。

 妻としては「顔もお腹も切る」という手術は、簡単に受け入れられるものではありませんでした。


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