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世界が黒く染まった日


ここから先は、妻の闘病を軸にした物語です。

医療現場や治療に関する描写が含まれますので、

苦手な方は完結後にまとめて読む、

あるいは読み飛ばす選択をして頂いて構いません。


年末年始の落ち着いた時間に、

心の準備を整えながら読むことをおすすめします。

夫婦が「生きること」を選び続けた記録が、

ここから本格的に始まります。


 事の発端は正月も明けて暫くたった、一月半ばの事でした。


 妻が「最近、舌を噛むことが多くて、傷口が化膿して酷くなっている」と言いました。

 ワタシは「化膿すると自然治癒は難しいから、病院に行って抗生物質を処方してもらった方がいいよ。春休みには四川に里帰りするんだから、悪いところは治療しておいた方が良いと思う」と答えました。


 翌日、妻は最寄りのクリニックで受診したのですが、会社から帰宅したワタシに神妙な面持ちで話してきました。

 「診察したら大きな病院で精密検査した方が良いと言われて紹介状を渡された。」

との事でした。


 口内炎の化膿くらいで大げさとは思いましたが、念のために紹介された某医大附属病院へ精密検査に赴きました。

 初めての病院なので妻の付き添いでワタシも一緒に病院へ行きました。

 診察ブースに入ると、問診と触診があり、

 「細胞摂取して精密検査します」

との事で、細胞摂取し、次回診察の予約をして帰宅しました。


 結果は三日後と言われたので、指定された日に再度病院へ行きました。

 受付をして待合室で待っていると、呼び出しをされたので指定されたブースへ入室。

 担当医は事務的な口調で検査結果を説明しはじめました。


 担当医から告げられた内容は…


 「舌下腺様嚢胞癌ステージ4」


 「癌」という言葉が即座に理解できず、理解できたと同時に血の気が引いて気絶しそうになりました。


 妻に当時の状況を聞いたら、自分も「癌」と告知されて気絶しそうになったのに、横を見たらワタシが顔面蒼白で唇は紫で、ガタガタと小刻み震えていて、今にも気絶しそうな様子を見たら、自分は気絶できないと冷静になったと言ってました。



 妻が告知された「舌下腺様嚢胞癌」について、担当医は説明を始めました。

 「この癌は遺伝性でも感染性でもなく、正常な細胞が突然変異して発症します。

 臨床例が少なく治療法が確立していない癌なので、基本的には摘出するしか手立てがありません。

 今回はステージ4ですが、摘出すれば目の前の命の危機はなくなります。

 進行性は遅いですが転移性が高いので、摘出後も定期検査が必要になります。

 この癌との戦いは長期戦です。

 でも癌と戦う気持ちがあれば、五年、十年と寿命を延ばす事は可能です。

 まずは摘出する事がスタートです。

 ご家族で相談して決めて下さい。」


 癌の告知を受けた後、妻とお互いの身体を支えあいながら帰宅したはずですが、帰り道の記憶は一切ありません。


 帰宅後、妻と話し合いました。

 妻の第一声は…


 「絶対に手術したくない、私は死ぬ。」


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