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心の時計が止まった日


 【12月23日AM】


 鎮痛剤の効果で痛みはないようでしたが、相変わらず呼吸は苦しそうでした。

 喉が渇いて水が飲みたがりましたが、一口の水でさえ飲み込むことができないほどに衰弱していました。

 このままでは脱水症状になってしまうので、訪問診療に点滴を依頼しました。


 「水分を点滴で補給する事は可能です。

 でも本人が『死』を望んでいるのであれば

 鎮痛剤で痛みを抑えながら、

 このまま衰弱するのに任せるのが

 一番苦しまずに済みます。

 どうするかはご本人に確認して下さい」


 これが医師からの回答でした。


 妻の意向を確認すると


 「もう何もしなくていい。」

 

 でした。


 妻の死期が近づいていると察しました。


 【12月23日PM】


 妻は既に自力で起き上がることすらできない状態でした。

 それでも無理やりに自力でトイレに行こうとするので、身体を支えてトイレまで連れて行きました。

 喉が渇き、水を飲みたがるのですが、少量の水を口に含んで口内を湿らせるのが精いっぱいでした。


 【12月23日深夜】


 身体の痛みが激しくなり、鎮痛剤投与の回数が増えました。

 自力で投与ボタンを押す力もなくなったので、30分おきにスイッチを押して鎮痛剤を投与し、少しの水で口内を湿らせる事を繰り返しました。

 その度に妻は「ごめんね」と苦しそうに謝るのでした。


 【12月24日AM】


 世の中はクリスマスイブです。

 子供たちと朝食を済ませてから、予約していたケーキやチキンを受け取りに出掛ける準備しました。

 もちろんお祝いムードは皆無なので、昼食の食材として食べる事にしたのです。


 家を出ようとした時です。

妻が「トイレに行きたい」というので、身体を支えてトイレに連れて行きました。

 その後、ベッドに横にさせてからダッシュでケーキやチキンを受け取りに行き、戻ってくると昼食代わりにテーブルに並べました。

 食事前に妻の様子を見ると、細かい呼吸をして寝ていたので、起さない様に静かに食事を済ませました。


 【12月24日13時】


 食後の後片付けをしていると、訪問介護サービスから「奥さんの具合はどうですか?」と電話が掛かってきました。


 ワタシは「午前中にトイレに行って、そのあとは横になって休んでいます。今も寝ていると思います…」と答えながら、妻の様子を確認しました。


 妻は既に息をしていませんでした。


 顔色は蒼白で唇は紫色に変色し、

 身体も冷たくなり始めていました。


 「妻が息をしていません。さっきまで短い呼吸をしてたのに、昼食の片付けをしている間に亡くなってしまいました。」


 訪問介護サービスに伝えると、直ぐに向かいます。病院にはこちらから連絡します…と、直ぐに段取りを進めてくれました。


 【12月24日15時】


 訪問診療所から医師が到着、検死をして、「死亡診断書」を発行して頂きました。


 妻は医学的に「死亡」となりました。

 享年四十一歳、早過ぎる最期でした。



2017年 2月 癌の告知

 同年   4月 癌摘出・再建手術

 同年   5月 退院

2019年 9月 頸椎リンパ腺へ転移

 同年  10月 リンパ腺放射線治療

2022年10月 抑制剤治療開始

2023年 9月 抑制剤治療終了

 同年  10月 抗癌剤治療開始

2024年 4月 抗癌剤治療終了

 同年   5月 終末治療告知

 同年   6月 危篤状況に陥る

 同年   7月 頭蓋骨への転移

 同年   8月 北海道旅行

 同年  10月 二度目の危篤状態

  12月10日 余命を悟る 

  12月20日 安楽死を希望する

  12月22日 辞世の告白(遺言)

  12月24日 天国へ旅立つ


 長くて辛い七年半の闘病生活と

 短すぎる四十一年の人生が終了しました…


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


本話は、妻の最期を事実に基づいて記しています。

感情を整理しないまま書いたため、

淡々とした描写が続きました。


次話では、妻が遺してくれた

「最後の優しさ」について描きます。

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