限界に挑む夫の葛藤
「死なせてください」
突然の妻の懇願に思考が停止しました。
深呼吸して落ち着いてから、慎重に言葉を選んで、ゆっくりと話しました。
「日本には安楽死制度がない。
そんな薬はない。
先生も同じ答えを言うと思う。」
すると妻は…
「秘密なだけで絶対に死ぬ薬はある。
内緒にするから死ぬ薬を貰って下さい。
私はもう自分の力で話せない。
あなたから先生に私の苦しさを伝えて
薬を貰って下さい。
お願いします。」
と両手を合わせて拝んできました。
ワタシは拝み続ける妻の両手を握ると
「ダメもとで先生に頼んでみる。
もし死ぬ薬が無ければ、副作用があっても
強力な鎮痛剤を出してもらうように頼む…
これで良いですか?」
と説得しました。
【12月21日AM】
往診治療に先生と看護師が来ました。
体温と血圧を測り、心音確認後、
先生の「調子はどうですか?」との問いかけに、
妻は掠れた声で
「もう無理です。死なせてください。
死ぬ薬を下さい。」
と言いました。
突然の話に先生と看護師が面食らっていたので、ワタシが前日に妻と話した内容を伝えました。
すると医師はゆっくりと優しい口調で
「医師は命を救うのが仕事だから、
命を奪う薬はもっていない。
でも苦しさを和らげる薬はある。
それをあげましょう。」
と言い、看護師に皮膚下注射の点滴鎮痛剤を手配する様に指示してくれました。
【12月21日PM】
点滴タイプの鎮痛剤が薬局から届き、まもなく先生が皮下注射しに来ました。
この点滴鎮痛剤は携帯型で二時間ごとに自動投与、痛みが激しい時はボタンを押せば任意投与(30分毎)が可能という在宅診療には最適な機器でした。
注射針を刺して鎮痛剤を投与すると、即効性があるようで、妻の顔から苦悶の表情が消えました。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
鎮痛剤の注射により、
妻の苦しみは一時的に和らぎました。
それは、夫婦にとって
新たな時間の始まりでもありました。
次回は 2026年1月18日 公開予定です。
ep18 現実を受け入れた妻の告白
ep19 現実を受けとめた夫の決意




