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笑顔で隠す死の恐怖


 重篤状態からの回復直後に酸素吸入装置と外出用酸素ボンベを緊急手配しました。

 酸素吸入装置の手配の話になった時に、妻は本気で拒否しました。


 酸素チューブを使うことで、自分が重病人だと認識させられるのが嫌だったそうです。

 最終的には命最優先で酸素吸入装置を使用する事を説得しました。


 この日以降、妻は常に酸素吸入装置のチューブが繋がった状態になり、装置から10mの範囲でしか行動できない様になりました。


 外出の時は酸素ボンベをカートで引いて歩く必要があるので、人目を気にして外出を嫌がる様になりました。

 

 7月初旬。

 病院での最後の診察となりました。

 肺癌は、肺の1/3まで広がっていました。

 酸素吸入装置なしでは命の危険がある状態まで悪化していました。


 更に頭蓋骨にも転移している事が発覚しました。

 頭蓋骨への転移の影響で左目の視力はほとんどなくなり、味覚障害も発症しました。


 この頃になると長男のお弁当と夕食の支度以外は寝たきりになり、活動量の低下と食欲不振で体重は35キロまで減少しました。


 ワタシはお弁当も夕食の支度も代わると何度も言いましたが


 「大丈夫、あなたは仕事と食事以外の家事に

  集中してください。」


 キッチンを譲る事はありませんでした。


 日に日に弱っていく妻でしたが、フェリーで行く五泊六日の北海道旅行は絶対に行きたいと言いました。

 

 この北海道旅行は2017年に計画していましたが、癌の摘出手術直後のために延期。

 その後もコロナ禍で延期し続け、抗癌剤治療が終わったら行こうと約束していた旅行でした。


 4月から計画を立てて準備したのですが、ワタシは旅行を諦めるか悩んでいました。


 妻に相談すると


 「私の人生の最後の旅行だから絶対に行きたい」


 と決行する事を望みました。


 北海道旅行への妻の想い。

 それは初めて日本に引越した年に、今回と同じ様にフェリーで北海道旅行した事が、とても楽しかった記憶があるためでした。


 そして何よりも「自分が原因で家族の楽しみがなくなる」事…妻が最も嫌な事でした。


 妻の強い思いを尊重し、北海道旅行を決行すると決めてから、ワタシは妻の負担が少なくなる方法を準備しました。


 フェリー泊での過ごし方、北海道でのマイカー移動距離、宿泊ホテルの環境、そして一番の問題が移動中の酸素供給方法。


 酸素吸入装置は携行可搬型をレンタル手配。

 緊急用の酸素ボンベも追加手配しました。

 

 フェリー往復二泊を含む五泊六日の旅行。

 道内は小樽、洞爺湖、函館を巡りました。

 ほぼ移動中心の旅程でした。

 妻は大きく体調を崩すことなく、

 全旅程を予定通り過ごして無事に帰宅。


 帰宅後に妻は


 「これで心残りはない」


 と縁起でもないことを言いました。


 この旅行以降、妻は一日のほとんどを横になって過ごすようになりました。



ここまでお読み頂きありがとうございます。


次回は 2026年1月14日 公開予定です。


ep16:限界を超えた妻の願望

ep17:限界に挑む夫の葛藤


日を追うごとに自由を失っていく身体でありながら、

妻は日常を懸命に生き続けていました。


その気持ちに応えようと過ごした、

夫婦の日々の記録です。


宜しければ引き続きお読みください。

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