11節 外交 〜妖精編 ④
そして、三国会合当日である。
魔王国首脳陣は約束の時間の半刻前ほどに集合予定場所に到着、話し合いの場所のセッティングを行う。空輸した机や椅子などを、魔王らの指示の下テキパキと設置する。設備が整い、護衛の部隊が展開されたところで、中央の大きな机に三人が座す。その斜め後ろにエレンとエリゴスが控え、準備完了。予定時間、正午まで三十分以上の時間を残していた。
それから、待つこと暫し。正午を過ぎ、また更に経ち、まだ来ないのかという苛立ちが魔王国側で高まる中……その破裂寸前に、漸く妖精達は姿を表した。
「来てくれましたね。良かったよ」
「流石に、約束を守らなければどうなるか、ヤツらも分かる筈だろう」
ベリアルは沈黙、レイヴンは腕を組んで毅然とし、エイジは不敵に笑う。
「あれ、エルフだけじゃないね」
エルフの王族や兵士等に紛れて、様々な者達がいる。小型の鳥と同程度の、手乗りサイズ人型の者達から、飛竜に近い体格を持つ大型の獣のようなものまで実に多様である。大きさや衣装、魔力に身体的特徴なども完全にバラバラだ。
「奴らが妖精だ」
「ああ、知っている。ノクトに聞いたからな」
まず現れたのは、ダークエルフ側であった。彼らは設営された会場、そして対面側に魔王軍がいることを認めると、魔王国側からでも分かるほど警戒心が膨れ上がる。しかし、先頭にいるベールの多い紫の衣装を纏った女性が指示を出し、またその隣に控える色白の男もそれを手助けし、妖精達は落ち着いた。そして魔王国と同様に配置についたところで、先頭の二人がエイジら三人の下へ歩み寄ってくる。その意図を理解したベリアル、エイジもまた立ち、対面する。
「お初にお目にかかる。私が魔王ベリアルだ」
「こんにちは。先日お会いしましたが改めて。魔王国が宰相、エイジです」
「これはどうもご丁寧に。私はニンテス。ダークエルフ勢力を束ねる女王でございます」
「私は彼女の補佐官、元老長オーヴェンと申します」
気品ある仕草で挨拶を受ける。褐色の肌を持つ妙齢の女性と、ノクト以上にニヒルな印象を抱かせる青年であった。そしてベリアルはニンテスと、エイジはオーヴェンとそれぞれ握手を交わし、それぞれの席へと戻った。
「案外、好印象のようですね。私が先日伺った時も、さほど狼狽えず丁重にもてなされましたし」
といっても、それは女王のことである。妙に強く握られた感触がまだ残っている手を摩りながら、彼への視線が鋭くなる。
「ダークエルフ陣営は、比較的こちら、魔族に近しいものがあるからな。しっかりと腰を据えて協議をすれば、話は通じる。……しかし問題は、もう一方の陣営だ」
それからやや遅れ、ウッドエルフたちの軍勢も姿を表す。既に魔族とダークエルフの陣営が万全に待機しているのを目の当たりにして、やや焦った様子を見せながらも、直様隊列を整え、素早く準備を済ませた。
態勢を整え、一息ついたウッドエルフ勢力。その下へ、先程と同じように挨拶をしようとベリアル達が近づく。それに気づくと、みるみると彼らの顔が険しくなっていく。そしてベリアルは、国王の目前に迫ると手を差し出すも__
「お初にお目にかかる。私は魔王国の国王ベリア__」
名乗る途中で手を払われる。
「何のつもりか」
「貴様らと馴れ馴れしくするつもりなどないわ!」
魔族を拒絶するように言い放つ。その瞬間、場に緊張が走り、ベリアルも不快感を露わにする。
「名乗りくらいはしていただきたい」
「そうですよハック様。これから懇意になる可能性のある方々なのですから、どうか穏便に……」
国王の側に控えていたハイエルフと思しき女性が諌める。その諫言に苦虫を噛み潰したような顔をすると、渋々と名乗った。
「ウッドエルフ国王、ハックだ」
「補佐官のティタスです。ハック様は気難しい方なのですが、どうかご容赦お願いします」
片や枯れ木のようながらも眼光鋭き老練の、如何にも頑固そうな精霊と、人離れした美しさと神秘的な気配を持つ、柔和な雰囲気の女性が首脳。先程の元老長も合わせて、間違いなく騒動は起こるだろうなとエイジ達は思わざるを得なかった。




