10節 宰相の受難 ③
それから一時間も経たない内に、円卓部屋に人が集まっていた。幹部全員と現場に居た者、そしてその手伝いの者である。幹部達は、全員がなんらかの形で事件に関わっているため、重要参考人となりうる。
「それでは、報告を始めさせていただきます」
まず立ったのは、フォラスとその部下の研究員二名。昨日の内に纏め上げられた報告書の読み上げが始まった。
報告が始まって暫く。話者は研究員に代わり、書庫の管理者たちである。だが__
「____……あの、エイジ様?」
途中で話すのを止め、困惑した様子でエイジに尋ねる。それはそうであろう、聞きたいと言っていたエイジが目を瞑っていたからだ。
「おっと、すまない。寝ているわけではないから安心してくれ。だが、そうだな、悪いが少し中断してもらえるだろうか」
そう頼むと、エイジは眉間に皺を寄せ、一層集中した様子で瞑想する。そして、暫しすると彼は目を開け、手招きしてシルヴァを呼び、耳打ちする。
「おい、部下達に命令だ。いいか、地下三階川のすぐ近く、それから三階医療院、四階各事務室に警備の人員を向かわせろ。そして、その者ら以外決して誰も近づけさせるな。また、彼ら同士にも互いを監視させ合わせることだ」
「何故ですか?」
「いいからやるんだ。どうせ言っても解らん」
「彼らが、素直に聞くかは__」
「それなら、オレの命令だ、つべこべ言わずにやれ、と伝えろ」
「わ、分かりました」
いつもと違い、詳しい説明をせず、上から押さえつけるような珍しい言いぶりに困惑していたが、彼の言うことなら仕方なしと伝えに部屋を出て行った。
「よし、続きを話してくれ。そうだな、さっき話していた項目から三つ程遡って再開してくれると助かる」
一部の者からは今の一連に疑いの目を向けられたが、それ以降何事もなく報告は続いていったのであった。
「なるほど……」
報告会議が終わり、彼は執務室に向かっていた。報告の内容は、主に被害と原因と思われる事項だったが__
「やはり、幹部がいない隙を狙われている、か。しかも、オレが指導して改革が入ったところが中心とな」
その内容から推察するに、そう思わずにはいられなかった。大きいものだけでも、軍用魔導具の暴発、魔導書の封印の解除、アンデッドやゴーレムの制御コード破壊による暴走、家畜魔獣用の柵の破壊……。軽微なものも含めれば、まだまだある。しかし、誰が、何のために……。
__考えるまでもねえ、ターゲットはオレだ。オレの邪魔をしている、そのこと以外に思いつかん__
そんなことを考えている間に、いつもの部屋の前に辿り着いていた。
扉をゆっくり押し開け、執務室に入る。中を見れば、いつもより数人減っていて、残っている者達も疲労からか仕事が手につかないようだ。
「宰相殿、何故あのようなことを⁉︎」
エイジが席につくと、部下の一人が詰め寄ってくる。あのこと、とは会議中にシルヴァに命じたことだろう。
「どうせ、言っても納得できんさ」
エイジはニヒルに笑って目を合わせない。そんなエイジをその部下は疑念の籠った目で睨みつける。が、シルヴァが入室したことで諦め、目を逸らす。
「ああそうだ、もう大丈夫だろう。そろそろ彼らを呼び戻して構わない」
エイジの言葉を聞いた部下の一人が、疲れからか面倒そうな様子でゆっくり立ち上がり部屋を出て行こうとするが、それを宰相が呼び止める。
「おっと、ちょっと待て、追加だ。レイヴンとエレンさんに頼んで、食堂と焼却炉、それから二階をそれぞれ二時間半見張らせるようにな。その時も不審な動きをする奴がいないか目を光らさせろ、互いに監視させることも忘れずに、な。特に上級魔族だ」
その部下もまた訝しそうな顔をするが、逆らえず大人しく出ていった。
それから暫く、執務室は作業音だけが部屋に響き、ひっそりとした環境であった。エイジは黙々淡々と、早速ハンコの使用感を確かめようとばかりに仕事を熟していく。秘書達も何も言わず、彼の傍で作業をしている。
しかし、それ以外の者達は疲労だったり、また事件が起きて扉が蹴り開けられないか不安で、作業が手についていない様子である。更に、時折エイジの飛ばす意味不明な命令の所為で、険悪な空気が満ちていた。




