6節 帰路 ③
エイジが発って、一時間半のことだ。馬車隊は再び停止し、休息と点呼をとっていた。
そこに突如、上空を何かが高速で通過。一拍遅れて爆音が鳴り響く。このソニックブームの所為で、寛いでいた人も馬も例外なく、驚きに飛び跳ねる。
「いやあ、悪い悪い。城に魔王様いなくてね、どうしたものかと悩んでたら遅くなった。しかも馬車も予想進路から外れてたしな、飛び回ってて」
「うっさいわよ! もう少し静かにできないわけ⁉︎」
ヘラヘラしながら戻ってきたエイジに早速レイエルピナが噛みつき、マリアに宥められていた。
「え、城に王がいないなんてことがあるのか?」
「まあ、あるんじゃないかな。代わりに幹部が数名残っていれば運営に支障はないし。それに多分、採掘場及び工業地域に転移陣で向かっただけで、すぐ戻れるだろうから」
イグゼは、それでいいのか魔王国、なんて愕然とした顔をしていた。そこに、見回りを終えたアリサーシャが歩み寄る。
「戻ったか。ところで、そりゃなんなんですかい、大将?」
「この翼のことか。これは、魔族やら竜やらのものさ。オレはこの身に多様な種族の因子を宿してる」
「へえ~……にしても大将は、卑怯かってくらい能力を持ってますなあ。なんでもアリだ」
「卑怯? 卑怯ですって?」
アリサーシャが何気なく発した言葉にシルヴァが反応。絶対零度の気配を感じ、ゾクリと総毛立つ。
「ええとですね、エイジは能力を手に入れる際には苦しみ、使い熟す為に厳しい鍛錬を積んできているんです。決して、楽なことではないのですよ!」
「お、おう、わかりましたよ」
テミスさえ途中から圧を帯びた語気になっていたので、アリサーシャはタジタジである。
「……まあ、能力が多いのは狙っているから。武器を使っての近接格闘に、銃や弓や魔道具での遠距離射撃の技能。この超能力や魔族の特殊能力、防御に支援に妨害に回復と凡ゆる魔術、そして魔力による各種応用……どんな状況でも対応できるように、何かに頼りきりにならないよう満遍なく鍛えてはいるかな。選択肢が多すぎて迷うことはよくあるけれども」
そこへ助け舟を出すように、彼自身が話の続きを補足する。が、どうにもそれでは収まらなかったようで。
「では、丁度いい機会です。ここで、彼の能力の片鱗を見ていただきましょう」
テミスは虚空から剣を取り出すと、一瞬で鎧を身に纏う。その光景に、アリサーシャは目を丸くする。
「あら、お姫さんも能力が使えるんですかい」
「言った筈ですよ、エイジは力を他者に分け与えられるのだと」
テミスは剣を軽く振るうと、正面に構える。先程の、どことなく能天気な女の子は消え、凛々しい騎士がそこにいた。一変したオーラに感嘆し、アリサーシャは口笛を吹く。
「レガリア起動……私は本気を出すから。エイジも、それなりの力でよろしくね」
「りょうかい~、三割でいく」
人間にしては上位の、濃い魔力を纏い、光を発し始めるテミス。そこに、なんだなんだと見物人が集まり始める。
「刮目しなさい、これが彼の力です!」
「君も相当だということを言っておくよ」
エイジが掬い上げるように手を上げると、周囲に片手剣が四本浮かぶ。
「じゃあ……いけ、剣よ!」
その手をテミスに向けて小さく振り下ろすと、剣は真っ直ぐテミスに向かい飛んでいく。
「来い! はあぁ‼︎」
気合いと同時に一歩踏み込み、素早く四連撃。斬撃は全て正確に剣を捉え撃ち落とす。だが、勿論これで終わりではない。弾かれた剣は直ぐに切先をテミスに向け、再びバラバラの方向から飛翔する。
「ふっ!」
今度は打ち落とさずに受け流し、往なし、体を逸らして避ける。だが通り抜けた剣は、鋭い弧を描いて執拗に狙い続ける。
「ッ……やあぁ!」
左手の裏拳で攻撃を弾くと、片手でバスタードソードを振り下ろして、向かって来た剣の一本を粉砕する。その勢いのままに上半身を傾けて剣を避けると、裏回し蹴りで背後の剣を弾く。
「わお、マッシヴ」
体術も交えながら、一部ノールックで力強く、しかし華麗に攻撃を弾く姿にエイジさえ見惚れる。
「ここ!」
そして再び向かう剣の、直撃するであろうタイミングが揃う。そこを狙い澄まし、低重心からの大きな横薙ぎで一網打尽にする。
一連の動作を終えたテミスは、振り返ってエイジを見つめると不敵に笑ってみせる。
「まだまだ、なんでしょ?」
「勿論だ。これならどう?」
今度は左手も持ち上げる。すると先程と同じく四本の片手剣が現れ、加えて二本ずつ斧と槍まで出現する。
テミスが一歩踏み出した、その瞬間真っ先に斧が飛ぶ。しかし一瞬でその裏に回り込むと、刃近くの柄をを踏んで土に沈める。すぐさま振り返ると、飛んで来た剣の腹を足場に跳躍、浮いたところを目掛け飛んできた剣は、バッティングして打ち砕く。直後足裏から魔力を爆射して体勢を変えると、剣を振り下ろして槍を断つ。
「えぇ……マジ?」
流石にこの変態挙動には、エイジも引き気味。とはいえ、自分もよくやる戦法なので激しく動揺することはないが。
「エイジが私たちの動きのクセを見切ったように、私にも次にどう攻撃が来るか、あなたの癖から判断できるようになったの」
そのままスタッと着地すると、話しながら流れるような動作で捌き続ける。
「ふぅん、オレの癖ねぇ……この技結構自信あったんだけど、まさか見切られようとは。なら、これならどう⁉︎」
例え身内でも見切られるのは不満なのか、やや不貞腐れたように武器を手元に戻す。そして今度は大仰に両手を広げる。
「Fantasia Blade!」
彼の後ろに九色、計二十七本の魔力でできた剣が現れる。
「この技は⁉︎」
「第一陣、いけ!」
「くっ……護れ!」
エイジが腕を振り下ろせば、まず九本が鋭く飛ぶ。テミスは対応に左腕を突き出し詠唱、防御魔術を展開し防いだ。しかし、剣の直撃した結界には大きなヒビが入る。
「もう一丁!」
「ならば、『Shining Saber』!」
エイジが腕を突き出し、再び九本の剣が飛ぶ。テミスは壊れかけた結界は解除し、その左手で刀身をなぞる。そして数歩踏み込み、大いなる光を帯びた剣で一閃、エイジの剣を掻き消す。
「このぉ!」
またも自慢の技を難なく防がれ、悔しそうなエイジは指を鳴らす。合図と同時に剣は、エイジに向けて駆け出したテミスへ向かうも、サイドステップ急停止、大きく跳んで躱される。そして数メートルの高さに跳躍した騎士は、大上段から脳天へ真っ直ぐ剣を振り下ろす。
然れどその攻撃は、バチンと力強く挟み込まれ、直前で止まってしまう。
「なっ、白刃取り⁉︎」
驚愕するテミスの目に、ニヤリと笑むエイジと、二つの発動寸前な魔道具が映り込む。慌てて足に魔力を込め、剣から手を離して後方宙返り。直後に爆発が起き、間一髪避けられたことに安堵する間も無く、着地と同時に両手に魔力剣を持ち、隙なく身構える。
「……よし、ここまでにしよう」
そこで、エイジがやめの合図を出す。テミスは安堵したように息をすると、剣を仕舞い鎧を脱ぐ。
「腕上げたなテミス、見たことない戦法ばかりだった。しかし、まさかあの剣を捌かれるとは」
「ふふっ、慣れてしまえば結構単調だからね」
その言葉に結構ショックを受けたらしく、エイジは愕然とすると、落ち込んだように膝をついて項垂れる。
「いやぁ、楽しませていただきましたよ。どちらも人間離れした、化け物みたいな戦いぶりでしたな」
その他の観戦していた傭兵隊の面々も、喝采するどころか呆けてしまっていた。
「こんな能力最初から使ってりゃ、俺たちは一溜まりもなかったでしょうに。宰相サマは何か、力を出さないワケでもあるんですかい?」
「まあね。自己封印能力、なんてものを望んで持つくらいだから」
「へえ、彼女さん達が知らねえ力もあるんですかい?」
「隠している能力はまだあるさ。それに、オレ自身使い熟せているわけでは全くないし。加えて、一日に数個は新しい技を思いついたりするから」
そう、エイジとアリサーシャが話し込んでいるすぐ傍では、女の子達が集まって感想反省会を開いていた。ここが凄かっただの、ここはもっとこうすれば良かったねだの。
「あ、そうだ。私達も、この移動中に連携を考えてみるというのはどうだろかな。休憩の時に模擬戦などすればいいと思うんだ」
「妙案ですわね。実際わたくしたち、彼らとの戦闘で連携が大いに役立ちましたもの」
「はい。私自身意外な程に、よくできていたものです」
イグゼの提案に、皆賛同する。今の戦いで感化されたか、彼女達もやる気に満ちていた。
「ところで隊長、この隊は予定コースからずれていたが、何かあったのか?」
「ああ、この最短コースを進むと、難しい地形にぶつかっちまうんですよ。急がば回れっていうでしょう、迂回ルートを探してたんです」
「……そこの地形、詳しく教えてくれないか。多分だけど、どうにかなると思うんだ」




