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魔王国の宰相  作者: 佐伯アルト
Ⅶ 宰相の諸国視察記 後編

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5節 共和国首都へ ②

「お待たせ致しやした、ボス。到着ですぜ」


 目的地、共和国首都の入り口に到着すると、アリサーシャはうやうやしくエイジに下りるよう促す。全力で飛ばしたおかげか、どうやらあの隊商より早く到着してしまったらしい。


 街の景観は、以前訪れた街と然程大きな差はない。それより住居の数が多いのと、豪奢な建物が散見される程度だ。


「ご苦労様。じゃあ、早速だけど始めようか。生憎、オレにはあまり時間がない。なにより、オレ達だけなら兎も角、君達の移動時間も考えると悠長にしていられないんだ」


「了解だ。じゃ、指示をくれ。今までどうやって調査してたかをだな」


 以前の街で培ったノウハウ、容量とサイズと素材や付加価値。それを調べて記録することを伝えると、アリサーシャは驚嘆の表情を見せる。


「その秤、貸してくれるか」


「勿論だよ。十個くらいあるからね、好きに使ってくれていい」


「よし、お前ら、二人一組で散開。北に三組、東西二組ずつだ。帳簿に記録するのを忘れるなよ。残りは俺と来い。……大将、まずはこの大通りの先、広間に行くとしましょうや。あそこは一番店が密集しているところですからね。見応えはあると思いますよ」


 彼に連れられるまま、エイジ達は大通りの中央を歩く。矢張りデザートハウンドの頭領ともなれば、顔が立つのだろう。畏敬、親しさ、畏れ……どのような感情を抱かれているにせよ、彼の道を阻む者はいない。


 更に、その後ろにいる、異彩を放つ者に彼がかしずいているとなれば、より注目されるのは必然か。


「へえ、矢張り大陸の中心地……商業国家の中核ともなれば、これほどのものが揃うか」


 だがその彼等は、キョロキョロと物珍しそうに品物を眺めている。纏っている唯ならぬ魔力のオーラさえなければ、ただの観光客にしか見えなかっただろう。


「あそこが広場__ん、なんだありゃ」


 その先頭を行くアリサーシャは、突如足を止める。その視線の先には人だかりが。


「…………んん?」


 その中心にあるモノには、エイジは見覚えがある。


「幻覚かな?」


 いてはいけないハズの者がいるように見えて、目をしばたたいて、目をゴシゴシ擦る。けれど、どうやらそこに在るのは間違いなかった。


「ああ……」

「はぁ……」


 エイジの連れの二人とて、思わず呆れのため息が漏れてしまう存在__


「エイジくーん!」


「来ちゃいましたー!」


 そう、お留守番を頼んでいた筈の彼女等が現れた。その数六人。衆目を集めながら、広間のオブジェの真ん前で、待ち合わせでもしているかのように。


「何でいるのぉー⁉︎」


 思わず叫んでしまう。それにより、更に注目が。


「……大将、お知り合いですかい?」


「…………知らない人です。ヨシ、見なかったことにしよう!」


「逃げるな!」


 なかったことにしたいエイジはクルッと方向転換するものの。レイエルピナとガデッサにガッチリ掴まれる。その隙に全員集合である。


「……一つ言わせてくれ。キミら、バカなの?」


「なっ、莫迦だと⁉︎」


「あのさぁ……キミらみたいなやんごとないオーラ、濃密な魔力、珍しい髪色……何より弩級の美人が、注目されないわけないだろ‼︎」


「「「ッ!」」」


 言い放たれた彼女等は、こめかみを掻き目を逸らし頬を染めて__


「照れてる場合か!」


「イチャついてるとこ悪いんだが、説明してくれませんかね」


「これがイチャついてる様に見えるか⁉︎」


「それ以外の何でもないと思いますがね。ったく、両手に花かと思えば、両手に一杯の花束たぁ、大将も隅に置けない人ですなぁ」


「……そうでもないぞ。彼女らのうち何人かは、オレのこと嫌いd__」


「別に嫌いじゃないわよ」


「ああ、私もだ。日頃世話になっているしな」


「………………ボス、良い加減、次行って貰って良いですかね」


 この空気に耐えきれなくなったアリサーシャは、目元をひくつかせて話を進めるよう迫る。序でに懐から煙草を取り出し吹かし始める。


「悪かった。いや、オレ悪いか? 大体こいつらのせ__」


「大将」


「……分かったよ。じゃあ順に紹介していくな。取り敢えず整列!」


 号令の下、全員が横一列に。順番でちょっと揉めたけれど、エイジが腕を掴んで無理やり並ばせる。


「まず左から、知っての通りシルヴァ、ダッキ。この二人は幻獣で、オレの秘書だ。その隣にいるピンクのが、夢魔のモルガン。魔王国幹部の一人だ」


「へえ、幹部か。こりゃまた」


「で、その隣にいるのが、テミス」



「……は?」


 アリサーシャの手から、煙草がポトリと落ちた。


「はい、元ジグラド帝国第一皇女のテミスです」


「何故こんなところに……いや、確か以前の戦争で敵に捕まったと聞いていたが。まさか、敵さんと仲良くなった、ってわけか?」


「はい、そのまさかです!」


「……ドヤるところじゃないぞテミス」


 腰に手を当て胸を張るテミス。思わぬ人物の登場に、元帝国貴族の傭兵隊長は呆気に取られている。


「次が、レイエルピナ。魔王ベリアルの養子だ」


「へえ、この嬢ちゃんが」


 気が強そうであり、銀髪と赫眼が目を惹く彼女が際立った雰囲気を醸しているのは判るけれど、伝え聞くベリアルの威容に対して彼女はあまりに儚く感じられるようだ。


なりで判断しない方がいい。彼女はその身に、神を宿している」


「はっ。こりゃまた規格外な……」


「ちょっと、何よ。わたしがちんちくりんだとでも言いたいわけ?」


「他意は無い。さて、その右隣が、現ルイス王国王の庶子にして、元王女候補のイグゼ。最近のルイス王国王妃救出の際に共闘し、その後良く言えば親善大使、悪く言えば人質として、魔王国に来てもらっている」


「おいおい、マジかよ……」


 レイエルピナの抗議を封殺し、次々と紹介していくエイジ。けれど、酸いも甘いも噛み分けた筈の壮年の男でさえ、目の前で起きていることには驚愕を禁じ得ない。


「その隣がカムイ。……まあ、知らないだろうね。王国東岸のちっちゃい集落の人だし」


「おい、何だその紹介は。拙者の説明だけ手抜きではないか」


「だって他と比べれば見劣りするじゃんね」


「ぐっ、痛いところを!」


「いや、一応聞いたことがあるぜ。だがちょっとま__」


「最後が、ガデッサだ」


「…………ガデッサ? どこかで聞いたところがあるような」


「伯父さん、この人、王国地下スラムの!」


「ああ、思い出したぜ。有名なギャングだったな」


 名を聞く度に唖然とし、都度我に帰っては辛うじて理解をする。だがその頬には冷や汗が流れていた。


「いやいや、ちょっと待ってくれ……ははっ、なんだ、このメンツはよ」


 頭に手を当て、あまりの衝撃に驚きを通り越し、笑いが込み上げる。


「へ、最近大陸中を揺るがす大事件の数々、その中心にいるのがアンタってことは良く分かったぜ大将。こりゃあ、退屈しなさそうだな。ところで、言わなきゃいけねえことがあるんだがよ」


 彼は表情を締め直すと、テミスの前に膝をつき、頭を垂れる。


「ご機嫌麗しゅう、テミス様。ご尊顔を拝し、私め恐悦至極に存じ奉ります」


「ええと、お知り合いでしたっけ……? どなたでしょう」


「アリサーシャです。元老アルディスのせがれって言や、分かりますかね」


「あっ、あのですか⁉︎ これは失礼、お見それいたしました」


「いえいえ。私如き、貴女ともあろう方に敬意を払われる存在ではありませんよ。それに有名なのは父であり、私はこの通り野盗紛いの傭兵、卑しき者ですから」


「こ、こちらこそ、私は今や皇族では無いので、貴方の仕える存在ではありません。敬称は不要です! お顔を上げてください!」


「誠、有難き幸せ」


「そんなに畏まらないでください、こちらの方が萎縮してしまいますから! って、アリサーシャ? どこかで聞いたような……」


「あ、思い出した。テミス、あの悪名高きデザートハウンドだ!」


 イグゼは警戒したように重心を低くする。その緊張は伝播し、全員が一触即発の空気を帯びる。


「え⁉︎ 砂漠の猟犬、最強の傭兵団! ですが、何故エイジと共に」


「そりゃ、雇われたからですよ。それ以外の理由なんざありはしない」


 視線がエイジに集うが、彼は真顔のままサムズアップして答える。


「そうさ、俺達デザートハウンドはデモンズハウンドへと名を変え、魔王国宰相の私兵となる! そう伝えときなぁ!」


 野次馬の観衆達にも聞こえるよう、アリサーシャは声を張る。


「てなわけで、よろしくお願いしますぜ、皆さん」


「ねえ、一つ訊きたいんだけど。この人ら、どうやらロクでもないような集団みたいだけど、なんで雇ったわけ?」


「ああ。旧デザートハウンドはな、王国のアンチデモンズにも劣らぬ戦闘力と練度を持ち、商売や流通業務を熟し、世情にも詳しい。更には元貴族だってんで、教養もある。最初話を持ちかけたのは、オレが自由に使える人手が欲しかったからなんだけど。思った以上に多芸で優秀だからね、贔屓することに」

「なんか怪しいこと考えてるんじゃないでしょうね」


 レイエルピナのジト目には、肩を竦めて取り合わないエイジ。


「元、貴族……」


 一方、元王族の者達の表情は曇っていた。彼等が落ちぶれる要因に心当たりがあるのだろうか、思い悩む風であった。


「じゃあ、こちらからも訊かせてもらう。キミら、どうやって来たわけ?」


 その問いにレイエルピナは、ある方向を指差すことで答える。


 そこには__


「竜? ……ああ」


 グッタリと伸び切っている飛竜と黒鎧の騎士達がいた。一目見るだけで、どれ程の辛労だったか察して余りある。地形に左右されないとはいえ、馬で一週間以上かかるであろう道のりを約三日での強行軍したのだろうから。


「ところどころでイグゼちゃんの顔立てて、休ませてもらえなかったら遭難してたかもしれないわねェ」


「割と洒落にならない話なんだけど」


 惨状を見て呆れた様子のエイジは、早足でエレン達の下へ。


「お疲れ様です。これ回復薬、落ち着いた時にでも飲んでください」


「助カル」


「……ていうか、こんな炎天下の中でも鎧は脱がないんですね。……いや、あなたの都合もあるでしょうし、私も無理にとは言いません。とはいえ」


 エイジはエレンに向けて、何かをかけるように腕を振る。すると、その軌道上には霜が形成される。シルヴァの真似っこだ。


 過冷却水は鎧に付着して氷となった瞬間、シューッという音を立てながら昇華していく。余程熱されていたのだろう。更にエイジは日傘を差し出す。エレンは片手を立て、感謝の意を示す。


「あとはまあ……黒竜は寒い土地で過ごす為に、太陽光を吸収することで体温を上げるようにと進化した生物だ、ここの日差しは堪えるでしょう。闇属性の結界なりを張って遮光することを勧めます。我々は、明日までここから離れませんから」


「カタジケナイ」


「へえ、こいつが竜かい。話に聞いたことはあるが、実物は初めて見るぜ」


「欲しいようなら、帰った時にでもあげるよ」


「ほう、そいつは楽しみだ」


 そして、その他竜騎士達も労うと、広間の中心に戻ってくる。


「ようし。じゃあ、ここからは手分けして調査を__」


「やだ!」


「見知らぬ土地でか弱い乙女を一人にするのって」

「どうかと思いますわ」


 話の途中でモルガン、テミスが遮り猛抗議。そこにダッキも便乗した。対するエイジは、困ったように目を逸らして頬を掻く。


「あー! 今君らが言う? って思ってます!」


「めんどくさいって思ったわねェ?」


「確かに皆様強いですけれども、女の子なのですわよ!」


 そこから一歩離れたところで見るレイエルピナ、ガデッサ、カムイは、この頭ピンクどもめ、とでも思っていそうな真顔。


「エイジくん、なんでワタシ達が来たのか分かってるの?」


「そりゃあ、観光したいからでしょ」


「それもあるケド……それだけじゃないの!」


「私は、エイジが心配で。そして、貴方と離れ離れになるのが淋しかったからです」


 思った以上にグイグイ来られて、エイジはタジタジだ。最早、彼女達は誰の目があろうと好意を隠す気は微塵もないようだ。


「モテモテですなぁ、大将」


「茶化すな」


 照れ隠しの八つ当たりにアリサーシャを小突くと、はにかんだまま皆と向き合う。


「……じゃあ、みんな一緒で観光だ。文句ないね。……さて、どうするか。以前の街では結構調べたからなぁ……やるべきことは、ある商品とない商品の確認。それから値段の比較か」


「あ、どうやって調べてたのか興味あります!」


「……テミス。君、オレがどうこうとか言ってたけど、それはそれとして食べ物目当てでもあるでしょ」


「てへ、バレちゃいました?」


 ちっとも悪びれず、屈託のない可愛らしい笑顔のテミスに和むと、今度こそ真面目な表情に切り替える。


「うん、まあ、君たちには色々頼みたいからね。その為にも、いい経験になるだろう……じゃ、いこうか」


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