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魔王国の宰相  作者: 佐伯アルト
Ⅶ 宰相の諸国視察記 後編

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5節 共和国首都へ ①

 アリサーシャの宣言により、戦いは終わった。契約に基づき、エイジはデザートハウンド構成員達を回収、全員に治療を施した。


「…………あのダメージが、こうもあっさり」


「すげぇ……蹴っ飛ばされた肩、骨砕けたかと思ったのに全然不自由なく動きやがる」


 しかも、エイジの能力により破損した武器も幾つかは修理されている。


「あれだけの戦いで、死人が一人もいないなんて」


「……すごい」


 生きていることが信じられないと思う。それと同時に、先ほど相対し恐怖と絶望を抱いた相手が味方となることで、これ以上無いほどの頼もしさと尊敬を感じている様でもあった。


「アリサーシャ、オレは共和国の首都に向かいたいんだが、頼めるか」


「勿論だぜ、クライアント。馬や車には損害がねえ。すぐにでも出られる」


 流石は傭兵というべきか、契約変更されると直様切り替えてエイジ達に従う。


「じゃあ、アリサーシャ」


「俺の名前、長えだろ。適当に呼んでいいぜ」


「アリーとサーシャ、どっちがいい」


「……」


 そうじゃねえんだよなぁ、という感じで黙してしまった。


「まあ兎も角、デザートハウンドは改名。これからは、デモンズハウンドな」


「砂漠の猟犬から悪魔の犬か。了解だ。おいクランタ、ジス!」


「おう!」


「どうした、おやっさん」


「他の隊に伝えろ。これから俺達はデモンズハウンド、魔王国宰相の私兵になるってな」


「ほう、他の隊がいるのか」


「おいおい、俺達は最強の傭兵団だぜ、この程度の規模じゃねえ」


「どのくらいさ」


「今いる数の、凡そ三倍だ」


「……」


 ちょっと驚いて、言葉が出てこない。アリサーシャの言が正しければ、二百人規模ということになる。お給料ちゃんと払えるか心配だった。


「……集合場所は何処にしておく」


 その内心を見透かし、ちょっと呆れた様子だったが、自ら質問してフォローする。


「隊の場所にもよるけど……北東部の国境線、帝国東の半島、王国の東岸。このいずれかだ。そこに魔王国が展開している。とはいえ……以前王国の拠点が襲撃されて、こちらは気が立っている。できれば、この隊と合流して欲しいところだけど……」


「旅程はどうなさるんで?」


「この後、ポルトの首都に向かうつもりだ。明日そこを視察して、その後帰国するが……二百人くらいいるなら、帝国北東部の魔王国国境に向かった方が良いかも」


「そうかい……聞いたな! クランタはエンリ隊へ、ジスはマリア隊へ。本隊は明日中に共和国首都に向かうと伝えろ。アイツらまだ国内、じゃなくても国境近くにはいる筈だ。俺らへの合流か、最終目的地での合流かは各隊に任せる!」


「了解だぜ、隊長」


「おやっさん、隊員を二十ぐらい借りてもいいすか」


「構わねえな、大将? よし、行ってこい」


 指示を受けた彼等は数秒で編成を完了させると、馬を駆り走り去って行った。


「さてと、じゃ俺等は大将の目的地へ向かうぞ。ハイヤ!」


 アリサーシャは自ら御者台に乗り、エイジの乗る馬車を進める。


「飛ばして構わないよ。疲労回復の魔術があるからな。回復できないほどの酷使は禁物だが、体力全快二回分くらいなら問題ない」


「おお、この速度なら、馬で二時間もかからねえぜ大将」


 荷物が軽いからか、それとも上等な馬なのか、或いはよく訓練されているからか、若しくは走り続けられると教えられたからか。その進行速度は先程の隊商の倍近くある。


「さて、と。ボス、落ち着いたところで訊きたいことがあるんだがよ」


「ああ、なんだい?」


「魔王国のモンであるアンタらが、何故こんなところに来たのか。理由を聞いてなかったと思ってな」


 アリサーシャは正面を見ながら話しかける。その馬車の後方には秘書二人。その前、エイジとの間に、後ろの視線にビクビクしている少女二人が乗っている。それを挟むように馬車二台、後方に一台、そして数頭の馬で隊は構成されていた。


「ああ、我々はこれから貿易をしようと思っていてな。そのために商業国家を視察し、商慣例や品揃え、相場などの調査をしていたんだ」


「ほう。それなら、俺等も役に立てるかもしれねぇですな。実は俺等、傭兵稼業以外にも物流業、情報屋もやってましてね。この辺りの情勢には結構詳しい」


「なっ、それは本当か⁉︎」


 思わず立ち上がり身を乗り出すエイジ。その食い付きぶりを、落ち着いて目だけ向けて確認すると、アリサーシャは前に向き直り笑みを浮かべる。


「おうよ。この国を中心に各国、各都市を俺等が繋いでいる。そんなもんで、いろんな情報が集まってくるのさ。諜報活動の依頼なんてのも熟したことがあるんでね」


「……何でも屋って感じ?」


「傭兵ってのは、そんなモンです。仕事は、別に戦うだけでは無いってことよ。つまり、大将からの仕事は、俺らにおあつらえ向きってな」


 エイジの反応から、あまり堅くないというか、不慣れというか。若さを感じ取った熟練傭兵は、雇用主への敬意と同時に親しみが感じられた。


「そうか……では、今度はこちらの番だ。アンタら、デザートハウンドについて沿革とか教えてくれ」


「ん、ああ、まあ。俺は没落貴族だ。元は帝国領のな」


 意外。だが、それでも納得ができる。確かにアリサーシャの振る舞いは傭兵らしく粗暴だが、ところどころに教養の高さが見て取れる。


「それに、俺に限った話じゃねえ。デザートハウンドは各国の没落貴族、その子息や息女の寄せ集めだ。政争で敗れたか、汚職に手を染めたか、或いは数年前まであった戦争で疲弊したか……何れにせよ、没落貴族の次世代が身寄りをなくし、傭兵稼業に身をやつしたのが俺らよ」


 まさかそのような生い立ちとは。だが、その口ぶりからは未練などのようなものは感じない。今の境遇も気に入っているのだろう。


「ま、そのおかげで最低限教養がある。なけなしとはいえ資産も残ってたし、コネもあるから商売には困らなかったぜ。それによ、貴族は大抵魔力持ちだ。貴族時代にちゃんとした戦闘訓練を受けることもできた。優秀な私兵を雇い続け、共に加わったヤツもいる。さっきの分隊長は、その元私兵さ。だから、荒事でもいけるってわけだ」


 あの練度の高さも、その出自ならば納得できる。


「つまり。構成員の多くがアドバンテージである魔力を持ち、体系化した訓練を受け、練度が高く統率が取れる。しかも教養があり、商売が出来て物流も担えるうえに、情報収集能力も高いときている……額面通りの戦闘力だけでなく、付加価値が高いってことか。これは大きいな。特に、流通と情報が掌握できるならば、この辺りの経済は支配下も同然。だとしたら、さっき提示した報酬は見直す必要があるな」


「へえ、流石やり手と聞く宰相なだけあって、目の付け所が違えな」


 間近で見ると、親しみ易く未熟にも思えるが。近頃世界中を翻弄する者の才覚、その片鱗を目の当たりにして認識を改めたようだ。


「ふっへへ、こいつはいい買い物をした。この旅で一番のめっけものだ」


「そうかい、そいつは良かったぜ。こっちも、いい稼ぎ口が見つかった。最近は戦闘の依頼もめっきりこなくなったし、対魔族の警護が主な仕事で依頼も多かったが、何もなければ報酬は少ねぇわ、何かあったとして魔族相手はリスクが高いわ……その魔族の下で、万全のバックアップが受けられるってんなら文句無しよ」


 そんな身の上話をしながら。馬車は最高スピードで砂原を突っ切って行った。


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