4節 デザートハウンド ①
小手調べとばかりに、ポルトの都市を一つ見回った一行。予想以上の収穫を得ることができ、満足した様子で次の目的地へ向かう為に馬車に乗る。
さて、馬車とは言ったが。馬もいるにはいるのだが、砂漠といえばラクダである。多くの荷物と人を乗せ、砂漠を進む隊商キャラバン。その中でも防塵性能のしっかりした良い幌の馬車にエイジ達は乗っていた。
当然いい車両なので値は張ったのだけれど、シルヴァ曰く「エイジ様は仮にも要人なのですから、威信を誇示し、苦労とは無縁であるべきです」とのことで。倹約家ではあるけれど、こういうところにお金をかけるあたりケチではないだろう。
「しかし、思ったより速いなぁ、ラクダ。もっとこう、ゆっくり歩いていくもんかと思ってたのに」
強い日差しに炙られ、砂塵に煽られながら常歩で進んで行くとばかり思っていたけれど。実際は速歩くらいでどんどん進んでいく。途中に何回か拠点で休憩を挟むとはいえ、百キロ近い都市間を丸二日も掛からずに走破してしまうそうだ。
「この動物、ラクダっていうんですのね」
「ああ。砂漠に特化した進化をした馬だと思っていい。特徴的な背中の瘤は脂肪の塊なんだ。あそこに栄養を蓄えているおかげで、この過酷な環境でも長時間活動することができる。あ、あれを見てみろ。あれは多肉植物と言ってだな__」
因みに、サボテンは基本的に北南米にしか生えていないのだとか。現在見かけるのは、だいたい外来種。この砂漠にも似たものはあるが、果たしてサボテンなのか判別は難しい。
「私も、意外に思ったことがあります。砂漠とは一面砂だらけを想像していましたが、そうでもないのですね。砂より岩が多いですし、丈の短い草が地面を覆っている箇所もあります……」
「オレの世界……地球の話になるんだが、砂砂漠って二、三割くらいしかなくって、大半は岩なんだよね。因みに後者は同意。多分この辺りは完全な砂漠気候BWじゃなくって、ステップ気候BSとの中間くらいなのかも」
「あ、わたくしも意外なことが。昨日の夜熱くなったから窓開けてみたら、すごく寒かったのですわ」
「うん、熱を遮るものが無いからね。昼のうちに溜まった熱は全て逃げてしまうから、氷点下になることもある」
「厳しい環境に暮らしている者は、我々だけではなかったんですね」
そんな風に談笑するエイジ達の向かいには、身なりの良い他の乗客が四人乗っていた。この雰囲気を壊してしまうのが申し訳ないのか、或いはその纏っている唯ならぬ気配に臆しているのか定かではないが、邪魔しないように、居心地悪そうに黙していた。
その日の日暮れ、そして朝日が昇る頃の二回。隊商は砂漠のど真ん中に点在するオアシスを中心として発達した街に休憩、補給をしつつ順調に進行。このまま進めれば、翌日の夕暮れ前くらいには着くようだ。
そう、そのまま順調に進めれば、の話だ。
「……なんか、妙な感じがしますわね」
ラクダの旅も二日目の昼頃。ダッキが耳をピコピコしながら、落ち着かない様子で隣の二人を揺すり起こす。三人交代体制で見張りをし、今はダッキが当番だった。
「起きている。確かに、嫌な予感がするな」
「……何かが、迫って来ているような」
「あら、起こす必要はなかったようですわね」
この馬車には幌があり、直接外の様子を窺い知ることはできない。それでも、その身に宿る直感が危険信号を鳴らす。
すると突然、カンカンというけたたましい音が響き__
「伏せろ!」
その瞬間、エイジは対面に座る一般乗客二人の首を掴むと、引き倒すと同時に自ら伏せる。直後、さっきまで彼等の頭があったところを何かが飛んでいった。
「おお、あっぶねぇ」
「な、何するんだアンタ⁉︎」
「これで分からんのか、襲撃されてるんだよ。外の確認を」
「はっ!」
「わかりましたわ!」
秘書二人も引き倒した乗客から手を離すと、幌を捲り、周囲を観察する。
「進行方向から四時の方角に、敵影があります」
「こっちもですわ! 九時の方角に人影が多数」
「挟み撃ち⁉︎ 敵の規模は!」
「三十名弱」
「こっちも三十人前後ですわ!」
「第二波が来ます」
「分かった、『護れ』!」
攻撃が来ると分かった瞬間、エイジは掌を突き出し魔術を作動させる。そして展開された半透明ハニカム状の障壁が、遠距離攻撃の悉くを弾く。
防御魔術には術者を中心に展開されるものと、座標を指定して展開されるものがあるが、今回は前者。走行する馬車をしっかり覆い、且つ走行を妨げない。
「御者、足を止めるな! さて、なんだアイツらは」
ラクダに乗った者、馬に乗った者、そして引かれた車に乗っている者。その全てが手に武器を持っている。各々マントとフードで体を覆っているが、その全員が共通の腕章をつけていた。
紋章は赤い下地で型取られた盾、金の三俣槍、そして中央に黒い狼の横顔。
「あ、あのマーク、デザートハウンドだ!」
「あ? なんだそいつは」
「アンタ知らないのか⁉︎」
「見ての通り、旅人だ。この辺りには疎い」
その姿を目に収めた乗客の動転ぶりは相当のもの。
「てことは、アンタ相当の田舎者だな。ヤツらはデザートハウンド。大陸中に名を轟かせる、ここら一帯で最強の傭兵集団だ‼︎」
最初の言葉にムッときたが、事実であるため仕方ない。不満をぐっと飲み込む。
「最強の傭兵団? そんな奴らが何故こんな野盗じみたマネを?」
「知るかそんなこと!」
相当に焦っている。だが確かに、最強の傭兵集団ともなれば呑気にしていられないだろう。現に、悠長に情報を聞き出している間に相当距離を詰められている。あと数十秒で完全に挟まれ、接近戦交えての乱戦になるだろう。隊の護衛も、相手が相手だけに及び腰だ。
だが、ここまで接近され、加えて幌を捲り完全に露出している今、相手の狙いは見えた。
「どうやら、ヤツらの狙いはオレらしい」
エイジに目線が集中している。初撃は一番高級なこの馬車を狙い、ターゲットの姿が露わになった今、この車を包囲するように陣形を狭めている。
「おい、御者。運賃はここに置いとくぜ。厄介に巻き込んだお詫びにチップ入りな。オレ達が下りて注意を引くから、そのうちに包囲から抜け出せ……シルヴァ、ダッキ、いくぞ!」
「「了解」」
攻撃が防がれた瞬間、障壁を解除。三人は飛び降りて背中合わせに。
「ご指示はありますの?」
「最初は様子見だ。散開したのち、適当に遇らえ」
「殲滅ならば容易いですが……何かなさるおつもりなのですね」
「そういうわけだ。ま、見てな」
そう言うと武器を構え、散開する。その頃には、隊商は包囲から抜け出し、遠くへ離れていた。
「隊長、情報通りでっせ!」
「ターゲットが現れやした!」
「そうかい」
隊長と呼ばれた男、暗い赤のザンバラ髪と無精髭を持つ壮年の男は、クックと喉を鳴らすと、砂丘の上から獰猛な笑みと鋭い眼差しを獲物に向ける。
「対象は魔族だそうじゃないか。気ぃ抜くなよ野郎ども。第三プラン通りに対応、できれば生け捕りにしろよ。それがクライアントの要望だからなぁ……かかれ!」
「「おうさぁ!」」




