3節 砂漠と商いの国 ②
「見て見て! 見てくださいましエイジ様! 見たこともないような珍しいものがいっぱいありますわ!」
街へ入ったダッキ。彼女は興奮であることを失念していたものの、エイジはそれに気付いていながら敢えて何も言わなかった。この地方の人々の反応を確かめてみたかったのである。
「おや、お嬢さん、その尻尾は……もしかして獣人族かい?」
「ッ⁉︎ やっちまいましたわ……!」
そう、耳や尻尾を仕舞わず、金髪や魔力の偽装もしていない。そのままの状態で公衆の面前に躍り出て、更に無邪気にはしゃいでいた所為で、随分注目が集まる。
普段の彼女ならば警戒心が強く、決してしないようなミスだが。エイジが一緒にいる上に、魔王国での慣れや、異国での買い物に舞い上がったりで、すっかり忘れていたらしい。
「おやおや、こんなところに獣人なんて珍しいねえ」
「狐のお嬢さん、その毛皮はお暑いでしょう。あちらにいい服屋があるわよ」
「あ……これはどうもご丁寧に、ありがとうございます」
だが、この街の人々は驚いてこそいるが、接し方は好意的だった。想像と違った反応に、ダッキはちょっと戸惑った様子。
「どうやら、この街の人々はあまり偏見がないようですね」
「そうみたいだ。なら、オレも偽装の必要はないか」
平素ならば目立つことこの上ない銀髪と赤眼を、エイジは少しも気兼ねせずに曝け出す。そんな彼の様子に合わせ、シルヴァも顔を隠すことはない。
とはいえ、流石に物珍しい存在であることに違いはないだろうから、視線は集まるのだが。ジロジロ見られると気になってしまい、居心地も悪い。
「おい、そこの兄ちゃん。その見た目、もしかして魔族かい?」
「ああ。しかも、魔王国の者だ」
魔王国。その単語が出た瞬間、周囲に衝撃が走る。
「魔王国⁉︎ あの、帝国を壊滅させ、ルイス王国の王妃を救出したっていう……」
「な、何の用で来たんだ⁉︎」
「ふ、まさか戦争でもふっかけるとでも思っているのかい? そう思われているとは、哀しいねぇ」
まったく落胆などしていない様子で、やれやれと首を振る。
「我々は、視察できたのですよ。国交をしようと考えておりまして。交易をする上で、どのような商慣があり、相場はどのくらい、品揃えはどうか。そういったことを、この目で見定めに来た」
「ほほう、商いですか! ならば歓迎です。ささ、ご覧ください」
「こちらもあなた方、魔族達の価値観に興味があります。お話をお聞かせいただいてもよろしいですかな?」
目的が分かるや、さっと態度を変えて揉み手する。商魂逞しいものだ。
「ところで、そちらの美しい女性は?」
「ああ、彼女は私の連れで__」
「もしかして兄妹かい?」
「い、いえ。違います」
人の良さそうなおじさん店主に兄妹と間違われて、シルヴァは焦ったように否定する。
「へえ、違うのか。似ていると思ったんだがなぁ」
「そりゃ、あんた。違うでしょ。どこからどう見ても恋人、お似合いのカップルじゃないさ」
「似てる……恋人……お似合い……」
その彼の妻だろうか、気立の良さそうな婦人にそんなことを言われると、赤くなってはにかむ。
「すまないが、私達はただの主従だ。兎も角、色々見たいところだが……ダッキ」
エイジはそれを淡々と否定する。そのことに対してシルヴァがちょっと不満そうなのはわかっているけれど、しっかり否定しないで誤魔化すと、冷やかされまくって堪ったものではなくなるだろう。
「気になるなら服屋を見てくるといい。気になるものがあるようなら買うよ」
「いいんですか⁉︎ やったぁ!」
許しを得るなり、彼女は嬉しそうに服屋へ駆け込む。それほど素直に喜ばれると、奢る側としても気分がいい。
「シルヴァ、君はどうする? 暑いの、苦手だろう」
「いえ、私はこの装備で充分ですから」
対するシルヴァは興味なさげ。そんな彼女の装備はいつもの服。黒い色は光を集めて熱を溜め、肌を露出しているところは照られて暑そうなのだが。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です。それに……」
その服がお気に入りなのもあるためか、変わらず彼女は頑なだ。
加えて。彼女は右足でやや強く地面を踏む。するとそこを中心に、彼女の周りから鋭い氷柱が生える。
「このようにすれば、暑さも和らぎます」
「そうか。けどそれ、往来の邪魔でしょ」
呆れ、咎めるような声音にシルヴァはハッとする。そして、気落ちしたように俯いた。
実際は、往来の人々は珍しいものを見て感嘆したり、アメジストのような美しい氷に見惚れていたけれど。
「じゃあ、日傘くらいは買ったらどうかな」
「……では、そうさせていただきます」
チラッと目に入った傘屋を指差すと、彼女にお金を渡す。そんなシルヴァが選んだのは、藍色の質素な日傘。
因みに、科学的に考えると、日傘の色は光を反射する白色が上、光を吸収する黒が裏側の方がいいのだとか。
「エイジ様〜! 見てくださいまし! これ、かわいいですわ!」
服屋で着付けしてもらったダッキが、外に出て見せびらかしてくる。
「へえ、サリーみたいだな」
インナーの上から、身体中に長い布を巻き付けるような格好は、アジア中東地域に見られる民族衣装のよう。布の柄は、黄色や赤紫など明るい色で構成されている。
「さて、おいくら……うっ、ちょっと高い……けどまあ、このくらいならいいだろう」
普通の服よりも1.5倍くらい高かったけれど、ここは可愛い秘書のおねだり。かわいさとお仕事の労いに、目を瞑ることにした。
おしゃれなものや派手なもの、ショッピングが好きなダッキと、気取らず堅実で倹約家なシルヴァの好みは、見事に正反対で面白い。




