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魔王国の宰相  作者: 佐伯アルト
Ⅶ 宰相の諸国視察記 後編

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3節 砂漠と商いの国 ①

 エイジが魔王城に帰ってきて、即ち新入りの三人が魔王国に入ってから、約一週間が経とうとした頃。


「出かけるのね」


「ああ。ポルトへ視察に向かう」


 始業時間、宰相執務室にて、エイジは出立を見送られていた。


「旅程はどのくらいなのです?」


「三日くらいさ。すぐに戻る」


 旅程を立てるのに、大体二日くらいかかった。計画と実行に要した時間はほぼ同じになるだろう。


「一人で行っちゃうのぉ?」


「いや、シルヴァと二人でだ」


「むぅ、わたくしだけお留守番は嫌ですわ! お仕事だって急を要するものはもうありませんし、わたくしも連れて行ってくださいましー!」


「ガデッサの面倒は誰が見るんだよ」


「彼女だって、もう充分慣れてますわよ! 不安なら代わりにレイエルピナ様かモルガンに頼めばいいではありませんの! わたくしだっていーきーたーい〜!」


「留守を頼む」


「や〜だ〜! 置いていかないでくださいましぃ! お役に立ちますからぁ!」


 引っ付いて駄々を捏ねる。思ったより食い下がられて辟易。


「カムイには二人つけた方がいいんだが……いや、レイヴンとノクトも戻ってきたし、大丈夫か。うん、分かった。じゃあ、ついてきていいぞ」


「わーい、やったあ! ですわ〜」


「ふっ、どうやら私はまだ相当警戒されているようだな」


 自嘲的に笑むのはカムイ。


「そりゃあな。幹部と同等以上の戦闘力を持つ上に、未だ従順な気配を見せない輩を軽視はできんよ。貴様、とか、思いっきり敵意剥き出しだろうが」


「む? 私は貴方に敬意を表していたつもりだったのだが」


「…………」


 確かにそうだ。字面を見れば分かる通り、嘗ては敬称として用いられていた言葉なのである。


「まあ兎も角、オレはまだキミらを信用したわけじゃない。見張りはつけておく、オレのいない間も大人しくしとけよ。じゃ、行ってくる」


 最後に釘を刺すと、くるりと背を向け転移陣へと向かった。




 魔王城を出てから三分後、王国の魔王国拠点へ一行は到着する。そこからは、ただ只管西へ飛び続けるのみだ。


 王国東岸から共和国に入るには、この大陸の東西の凡そ半分を横断しなければならない。その距離は実に、東岸から王都までの三倍に相当する。または、魔王城から帝都までの距離の二倍ともいえる。要は、400kmくらい。


 これを馬で踏破しよう、などと思うと、少なくとも一週間近くはかかるだろう。魔王国の魔獣馬車は、普通の馬より断然速いとは雖も、精々その半分は掛かってしまう。全てとは言わずとも、せめて出来る限り鉄道を引かなければ、交易など現実的ではないだろう。


「よおし……ついたぁ……」


 まあ、エイジが本気で飛び続ければ、その程度の距離は僅か三十分で越えられるのだけど。その速さは飛行機と同速、新幹線の2.5倍くらいだろうか。流石に、負荷は人間時代のランニングに等しいので疲れた様子ではあったが。


「はぁ……はぁ……これほど長く飛んだのは初めてだ」


「お疲れ様です。はあい、こちら魔力回復薬です」


「ありがとう。……ああ、五臓六腑に染み渡るわぁ。この辺りは魔力が薄いからな」


 エイジの手にしているガラスのボトルの中には、粘性の高い液体が入っていた。白っぽい半透明だが、光の反射でキラキラしてうっすらと虹色にも見える。


 これは何か、というと、ずばりポーションである。


 この薬品の開発には、以前アストラスで見つけたスライムの研究成果がふんだんに生かされている。その液の正体は、培養したスライムに魔晶石など魔力を溶かしこんだもの。それをそのまま飲めば魔力の回復ができるし、魔力の指向をちょっと弄れば傷の回復効果や、毒など魔力による状態異常の治療、将又はたまた身体能力など強化効果を示すこともある。


 開発初期の頃、これを初めてそのまま飲んだ時は、喉越しは悪いながらほぼ無味無臭で不味く感じたものだが。現在は飲みやすいように味付けしたり粘性を和らげることで、清涼飲料や栄養ドリンクのような気分で飲めるよう改善中だ。


 この研究成果は、どれほどの儲けになるのか調べるというのもまた、今回の遠征の狙いである。


「さて、と。うん、あそこに街が見えるな。しかも、それなりに大きいと見た」


「では、早速向かって調査致しますか?」


「ああ、そうしよう。今日は一日あそこで過ごす。それから宿を取って一泊、明日は北上して首都を目指す。確か首都は、この大陸のほぼど真ん中に位置するんだったな」


「わかりましたわ! では、レッツショッピング!」


 フンフンと上機嫌に鼻歌なんか歌いながら、ダッキは軽い足取りで先行する。


「遊びじゃないってのに……まあ、楽しめるなら、楽しむのが一番だよな」


 そんな彼女の背中を、エイジは遅れぬよう追いかけていった。


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