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魔王国の宰相  作者: 佐伯アルト
Ⅶ 宰相の諸国視察記 後編

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2節 適応訓練 ③

 その日の午後。集中が途切れて仕事をキリ悪く放ったエイジは、知恵熱を出しかけたガデッサとカムイ、そしてダッキを引き連れ、王国東岸を訪れていた。


 現地の様子はというと、昨日の襲撃等の混乱がまだ収まっていないように混沌としていた。保護されたスラム出身者達は所在なさげにしており、拘束された武者達は未だに敵意を剥き出しにしている、若しくは処刑されるか自決するかの覚悟を決めた様子である。その周辺には、未だ折られた武器などが散乱していた。


 というのも、魔族達が何の作業もしていないからだ。当事者にして権力者、そして彼等を正しく評価できるエイジがいないとなれば、拘束したり食事を与えたりといった暫定的なこと以外はできないからである。そしてそれすらも、レイヴンやノクトが律儀にこの場に残ってくれたおかげで僅かながら行えたことである。


「やっ、二人とも。遅くなった、悪かったね」


「お前……! ッ……ハァー……よくも丸投げしてくれたな。その所為でこちとら大変だったんだが!」


 怒りが爆発しそうなところを、すんでのところで抑える大人の対応をしたレイヴン。これでもしも昨晩のうちに暫定対応と、この時間に戻ることを伝えていなかったら、こうはならなかっただろう。


「けど、時間を稼いでくれたおかげで、この二人と少し仲良くなれたんでね。この後はスムーズに行く、はず」


「ヒドイじゃないかエイジクン‼︎ 君達の馴れ初めをお預けするだなんて‼︎ あんまりだぁ‼︎」


「いや……お前がいるとややこしくなるんで」


 詰めてくる二人を振り切って、エイジは人が集まっている場所へ向かう。そんな彼等に代わりに謝ってから、ダッキは新入りを連れてその後を追う。


「さあて。彼等の処遇についてだが……流石に素性や腹の中が知れない連中を本土に送り込むわけにもいかんのでね、ここに留まってもらうことにするよ。言語も通じないし、文化だって違うわけだし」


 ガデッサとカムイに、それで良いかと視線で問う。それにカムイは静かに首肯したが。


「アタシに決める権利はねえ。それに、アタシだけ特別扱い、ってのも良くねえだろ?」


「それもそうか」


 ガデッサは飽くまでギャングの頭目だっただけで、地下スラムのリーダーだとかそういった決定権を持つ存在でもない。そこをきちんと遠慮できるのは好感が持てる。


「まあ、面倒はきちんと見るさ。この拠点を充分人が暮らせるくらいには、優先的に拡充させるつもり。まあ、資材が向こうから届くのに相当時間がかかるが……食料やらは一部王国から合法的に手に入れればいい。武士共は集落に帰したり、そこから支援を受けたりもできるしな」


「人が暮らせるように、ってどうするんだよ」


 周囲を見回しながら、怪訝そうに問う。確かに、周囲にはちゃんとした建物らしきものは殆どなく、今はだだっ広い平原があるだけだ。


「まあ見た感じ……先ずは十分に栄養を摂らせてから、風呂入らせつつ衣類を向こうから運ぶか。食材は、そこにちょうど海あるから魚獲ればいいし。んで、木材やら届いたら、働かせて住居作らせる。無論、強制や重労働させるつもりはないのでご安心を。魔王国の制度は人間でも対応できるように作ってあるから、ノウハウが流用できるし」


 これは魔王国で革命をした時の経験が活きる。労働の制度や発展の順序、その他技術。一発本番でも上手くいってはいたが、より最適化された手法を取ることができる。


「そっからはまあ、王国の各領地を参考に発展させていこうかね。……と、ここでネックになるのが金銭だな。魔王国も発展途上な都合上、資源や食糧に衣類、労働力なんかをこっちに寄越し過ぎる訳にもいかない。となると、王国から色々仕入れるのが一番手っ取り早いが、それにはきちんと交易する必要がある……」


 その資金にはアテがある。貰ったものを返せばいいのだ。けれど、それだけでは長続きしない。


「その際に必要になる費用を賄う為には、大きな稼ぎ口が必要。つまり、早急に商業国家との貿易を始めることが望まれるわけだ。近々議題に挙げよう。王国視察で既に成果は上げているわけだし、商業国家にアプローチして販路拡大という明らかに大きな利益が見込めるとあらば、反対も少なかろう。革命も落ち着いて、順調に安定した成長ができているわけだから、長期空けても問題なさそうだし」


「なるほど、留意致しますわ。それと、只今の発言はメモをとっておきましたの。後ほどコピーしてお渡ししますね」


「お、それすごい助かる。思いつきで話しても忘れること多いし……この内容がそのまま次の会議で使えるな」


 一方の二人はエイジの話に圧倒されていた。彼の宰相としての手腕に舌を巻くと同時に、それを完璧に補佐する秘書の能力に感心したようだ。普段おちゃらけたりはしているが、矢張りはこの辺りは本物だなと内心認識を改める。


「その話からすると、元王国スラムの住民は、魔王国の一員のような扱いを受けるようだな」


「察しがいいね、概ねその通りだ」


「では、我々の立場は」


「君達については、獣人や妖精達の国と同じような扱いにさせてもらおうかと。要は、労働力や技術を提供してもらう代わりに、支援や庇護をする。よく言えば共存、悪く言えば属国化だ。おっと、まだオレの話は終わってないぞ。それが嫌なら、お互いに不干渉という手もある。土地にせよ、交易や政治その他概念的なこと、それらのボーダーラインを決めて、それ以上は踏み込まないようにするとか」


「ふむ……それなら、彼等も多少は受け入れやすいか」


「排他も過ぎると停滞するからね。オレとしては、魔王国傘下に入ることをお勧めするよ。色々してあげられるからさ。それに、ここだけは関わるな、みたいなことを後から言ってくれてもいい」


 そこまで提言、譲歩されたカムイは考え込む。一旦落ち着いて頑固さがなくなれば、彼女には話が通じるだろう。


「つーわけで、説得頼む」


「ああ、もう敵対視はしないように言い含めておこう」


 話をつけると、エイジとカムイは拘束されている武士達の下を巡り、解放していく。流石に敗北し、武装解除され、その上で長が彼等に従うことを選んだというのなら、彼等とて形振り構わず暴れたりすることもなかった。


「ああ、それと。この後、集落尋ねて、技術とか文化とか色々聞き出すつもりでいるから、そこんとこよろしく」


「……その程度であればよいか。一応、先行しての報告だけは許可して欲しい。いきなり訪れては、警戒させて無用な争いを生むだけだからな」


「うん、いいよ。こっちとしても助かる。君らの戦力がこれだけってことはないだろうし、総力挙げて抵抗されたら面倒。それでも尚敵うわけがないって先に伝えといて」


 その言い分に思うところはあったが、客観的事実なので仕方ない。カムイは配下達を集めると、確定している事項と提案を受けていることを分けて話し、先に帰らせていた。


「あれ、一緒に行かないの?」


「拙者が其方の監視下から外れては、何かを企てていると疑われても仕方なかろう」


「それはそうだけど……彼らだけで勝手に君の内心を推察して、反抗を企てる可能性もあるだろう」


「それはない。余計なことはしないよう念入りに言いつけておいたからな。それに、もしそうなったら、自ら治めると約束しよう」


「……物分かりが良過ぎるな。どうしたよ」


「私にとって貴殿は、もう未知ではない。それに、その偽悪的な態度の裏にある本心も、それとなく分かるのでな」


 見透かしたように笑みを向ける。戦闘直後は警戒していたが、あの時の態度こそ本性から程遠いものだというのは、一度素を見てしまえば結構分かりやすい。一方のエイジはというと、バツが悪そうに顔を逸らしていた。


「それと、残った理由はもう一つある。彼らの対応が終わるまでにしたいことがあるのだが……」


「ん……何かな」


「私達の起源、祖国の現状が知りたい」


 真意を計り兼ね、エイジは目で続きを促す。


「どうやら、我々の祖先は東方の島から海を越えて此方に移ったようなのだが。何故、離れることになったのか知りたいのだ。もしあるとしたら、彼方の方角に、あると思うのだが」


「ふうん……じゃあ、探してみるけど__」


 出力を上げて目を瞑り、千里眼を起動して目星をつけようとするが。


「何も見当たらないよ?」


「な……そんな、筈は」


「その話、わたくしも興味がありますわ」


 そういえば、この二人が話していた島、文明の話は同じようだ。転移者であるカムイは兎も角、少なくともダッキはその島出身である可能性が高い。


「じゃあ、自分の目で確かめてみる?」


「自分で、確かめる……? どうやってだ。此方からでは、どうやっても見えなかったぞ」


「ふっ……オレが、あっちまで連れて行ってあげるよ」


 エイジが三対の翼を広げると、カムイは圧倒されつつも合点がいったらしい。飛行能力の高さは、以前の戦闘で思い知ったことだろう。


「船を待っている余裕もないんでね。ほら、背中に乗りな」


 密着することに最初は抵抗を示していたが、興味があるのと厚意は無碍にできないからか、彼の背にしがみついた。それを縄で縛ると、正面から抱きついてきたダッキを抱き返し、地面を強く蹴って跳び上がる。そこから数度羽ばたいて体勢を整えると、魔力を噴射して徐々に加速していく。


「ッ……これは、中々__」


「怖い? それとも、楽しい?」


 その問いに結局彼女は答えず、物凄い勢いで流れていく海面を凝視していた。


「よし、そろそろ音速超えるぞ。このまま二十分くらい飛べば、大体の候補地に着くんじゃないか? あ、方向間違ってたら教えてくれよ」


 カムイに方位磁針を渡すと、水平線目掛けて更に速度を上げていく。最早周囲には水以外何もなく、この状態で魔力切れしたり墜落しようものなら、生還は叶わないだろう。二人がそんな恐怖を抱えているであろうことを察し、エイジも慎重にペース配分しながら飛翔を続ける。


 そんなこんなで十数分。台湾海峡なら横断しているし、中国や韓国からでも最短距離なら日本に届く程度の距離を飛行した頃だ。まだ魔力には十分余裕が残っている状態で、噴射を止めて滑空状態に入る。


「はい、双眼鏡。気が済むまで探してみ」


 今までは北東方面へ飛んでいたが、ここで進路を南側に切り替える。三角形を描くように回り、その中にないか探すつもりだ。二人には双眼鏡で探してもらい、自分も千里眼を使ってみる。


 しかし、そんな調査の甲斐もなく__


「全く、見当たらない……」


 少なくとも、文明が興るくらいには大きな島の筈だ。ダッキの言い分を信用するなら、台湾より小さいかどうかくらい。山もあるだろうし、遠目からでも十分見えるくらいの面積があると思えるが。


「もしや、無くなってしまったのか?」


「だとしたら、大規模な地殻変動で沈んだとかあるかもな。海底火山活動や地震による津波なんかの記録がないか調べてみるか」


 ダッキの体感的に、数百年前のことだ。この時間の間に大きな島一つが消えるだなんて言うのは想像し難いが、ここは魔力があり神のいる異世界。地球の常識が通用しないことは十分にある。


「若しくは、半島だったのに島だと勘違いしてしまった。ということも考えられますわね」


 なんにせよ結局は、短時間の航行で手がかりを得られるようなものではなかった、ということしか分からなかった。




 だが、何より大きな収穫は、帰ってきてから得られたのである。


「醤油⁉︎ うっは、マジか! 最高じゃねえか‼︎」


 カムイ達の集落は、山林の中にあった。複数点在する村のうち、彼女が住んでいた中核となる町は、文明や技術の水準は安土桃山時代を想起させる程度のもの。要するに、地球における同時代の日本と西洋に類似しているといえば分かり易いか。


 そこにあったのは、味噌や納豆などの発酵食品や、たたら製鉄など作刀技術、独自の言語体系や文化、服飾や陶器等の伝統工芸品などだ。


 発酵食品は良い品質になるまで時間が掛かる為、使えるのは当分先になると思っていたのだが、これぞ正しく棚からぼたもちだった。鍛錬や研磨の技術も武器の製造や高品質な工業製品の開発に役立つし、工芸品はうまく価値をつけてやれば高く売れる。今度の交易で、死罪や魔導関係と併せて紹介するものいいかもしれない。


「なあ! 今度人連れてきて色々調べさせて貰っていいか⁉︎ その代わりに優遇を約束するからさ‼︎」


「あ、ああ……迷惑をかけない範囲ならな」


 馴染みのある文化に触れたからか、少し見て回っただけで見るからにテンションがブチ上がったエイジを前にして、カムイはタジタジするばかりであった。


 結局のところ、彼等はカムイの言いつけ通り反抗することはなく。不信や不満は少なからずあったが、彼女自ら説得をしてくれたようで、エイジは殆ど困らなかった。そして彼が帰る頃には、自分達の文明を尊敬した彼に対しての敵愾心はあまり残っていなかった。


 今後の彼等の処遇としても、獣人や妖精の国と同じく、ある程度の自治権を残しつつ、保護や支援をする代わりに技術や労働力を提供してもらうという共存関係に落ち着いていた。


 この件を以てして、王国視察に伴う一連の騒動の沈静化と、利益の整理がついた。これで次の段階に行ける、とばかりにエイジは幹部会議で商業国家ポルト共和国への視察を進言するのだった。



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