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魔王国の宰相  作者: 佐伯アルト
Ⅶ 宰相の諸国視察記 後編

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2節 適応訓練 ②

「はい、では第一科目の解答を終了して、次の科目を始めてくださいな」


「ぐあー……終わったぁ。わっかんね」


 試験の終わったガデッサは、頭を押さえて机に突っ伏す。そんな彼女の机からエイジは回答用紙を回収すると、サラサラと丸付けをする。


「うん、二十五点。ではガデッサ、あちらのソファーに移動して、休んでいなさい」


 魔王国についてが三問、世界については二問の正解だ。恐らく当てずっぽうの結果だろう。回答用紙をガデッサに返すと、彼女はふらふらとソファーへ向かっていった。


「……はい、第二科目終了。イグゼはお疲れ様。お、おはよう」


 溜息を吐いたイグゼから用紙を回収すると同時に、総務の者達がちらほらと出勤し始める。


「イグゼの第一科目は六十五点、第二科目は五十点だね」


「むぅ……思ったより低いか」


「そうでもない。いや、しかしでも……なんでこんなに魔王国について詳しいんだ」


「実は、昨夜モルガンさんから魔王国について教わってな」


「へえ、そうだったんだ。じゃ、魔王国についての説明はあまりいらない感じかな」


 そして更に二十分経ち。


「回答終了してください」


 部屋にはほぼ全員が出勤を済ませていた。しかし、彼等は困ったように立ちっぱなしだ。なぜならば__


「はい。カムイ及びみんな、お疲れ様」


 その他五人もテストを受けていたからだ。


 第一科目開始から数分後、彼女らも受けたいと言い出した。だが実は、エイジは同様のテストを彼女達の為に用意しておいたのだ。元はと言えば、教育の到達度を測るために予てから用意していたもの、それを新入り達に流用していたのである。


 さて、テストの終わった彼女らは立ち上がり、エイジに提出すると、ソファーに座り込んで結果を待つ。そして漸く総務の者達は仕事を始めることができた。


「結果発表ね。第一科目、テミスとシルヴァ、ダッキは満点、レイエルピナが九十五、モルガンが八十五、カムイが四十点。第二科目はカムイが三十点で、それ以外は満点。第三は……」


 第三科目は、中学校レベルの漢字の読み書き、四則演算や面積などの数学、化学や物理に生物、そして地理地学公民からなる二百点満点だが。


「レイエルピナ、120点。テミス150点。シルヴァ、185点。ダッキ、130点。モルガンは95点か……シルヴァが満点取れないなんて、阻止問題がちょっと難し過ぎたかな。はい、返すよ」


 採点すると配り直す。しかし、一部は訝しげな顔。


「ねえ、カムイは?」


「そうよ、カムイちゃん、何点なの?」


「二百点」


「「「…………へ?」」」


「つまり満点だな」


 さらっと言い放たれた言葉の意味がわからず、数秒硬直する面々。


「いやぁ、これだけは特別問題で、かなり難しくしたつもりなんだけど、あっさり解かれてるわ。論述や途中式もバッチリ。オレより断然頭いいね」


 漢字は二級、一部準一級相当。漢文問題も織り交ぜた。数学は因数分解から簡単な微積まで。社会学には歴史をも組み込んだ。そう、昨晩エイジが教科書を見ながら作った、全て高校レベルの問題なのだが。


「何故だかは拙にもわからぬのだが、体が覚えているというか……勝手に解けたのだ。…………これでは益々、異世界出身説が確証を帯びてくるな」


 彼女自身非常に戸惑い、そして不機嫌そうではあるが。ふと、異様な空気に気づいたようだ。そう、皆から、エイジに向けられるものと同類の、畏敬の目で見つめられているということに。


「うっうん。では、次の指示を出そうか。ダッキはガデッサに、テミスはイグゼに、レイエルピナはカムイに、第一科目と第二科目の解説をしてあげてくれ。モルガンも復習をしっかりと。わからないところあったら聞いてね、教えるから。じゃ、シルヴァ。オレ達は仕事だ」


「はい、畏まりました」


 今までフラフラしていた分、仕事は溜まりに溜まっている。例えば、魔王城周辺の畑からの収穫量。それから、次の栽培に向けた提案と、それについての意見が求められている。


 工場は尚規模を拡大しつつ、操業継続中だ。生産量の報告書に、拡大計画の承認。新たな技術を導入したり、検討しなければならない事項が多い。


 そして。今回の遠征で得たエイジ自身の収穫をも考慮する必要がある。王妃王女の救出で得た資産、権利。これを整理し魔王国今後の展望を練らねばならない。近いうちに幹部議会を招集する必要がある。


 更に、王都地下スラムから連れてきた者達、拠点を襲撃した武者達の処遇を考える必要がある。今はレイヴン等が保護してくれているが、いつまでも任せきりにはできない。聞き込みを行って素性を明らかにし、労働力や知的財産などの有用性を確かめなければ。


「うあー! 検証事項が多過ぎる!」


「貴方がサボっていたからですよ。身から出た錆、自業自得です」


「グサッ! 今日の秘書はなんだか冷たい⁉︎」


「今のエイジ様に、女の子にかまけている暇はないということです。何より、もう冬が近づいてきています。ターニングポイントだと仰っていましたよね。ご旅行でリフレッシュは済まされた筈です。頑張ってください」


 エイジは一度大きく溜息を吐いて、俯く。そして勢いよく顔を上げると、両頬を張る。


「よっし、めんどくせぇがやるか! 昨日のうちにある程度整理したし……後は一気に!」


 先ずは幹部達のスケジュール表に目を通すと、会議を開く旨の記述と、開催日を打診する手紙を書く。次いで各種報告書に目を通し、確認印を押していく。その表情は、いつになく真剣だ。


 それでいて、テスト組の質問にも真摯に答えていく。簡単な問いには作業を継続しながら。複雑なものには一旦手を止めてまで。


「おーい君、この手紙を届けて来てくれ。シルヴァ、これは幹部会議についてのものだ。返事が来たら、会議のスケジュールを決めてくれ。それと、オレは今日の午後、カムイとガデッサ、その目付役を連れて王国拠点に行く」


「私は留守番ですね、了解しました」


 シルヴァはメモ帳を取り出すと、細かく綺麗な字でサラサラ書き込んでいく。それが終わると、エイジの代わりに書いていた視察レポートの続きに取り掛かる。


「エイジ様、一つ質問がありますが、よろしいでしょうか」


「ん、何かな」


 二人は手を止めず目線も動かさないまま会話を始める。


「何故、彼女達にそこまで目をかけるのですか」


「有能だろうと感じたからさ。戦闘だけじゃない、君やテミスと同じように仕事もできそうだと思ったんだ」


「確証は」


「あるわけがない」


「感覚ですか。ふふっ、ですが私は信じますよ。はい、第一部書き上がりました。貴方との認識に齟齬はありませんか?」


「…………オッケー。だけどここちょっと補足ね。メモ貼った」


「はい。では次のレポートに取り掛かります。ところで、アレはありますか」


「アレね、はい」


 アレ。エイジが渡したのは、彼お手製の穴あけパンチと紐である。そして、それが彼女が求めていたことは間違いないようだ。


「ああ、そういえば。あの件がどうなったか知ってる?」


「私も詳しくは。しかし、半分以上は終わっていると聞いています」


 あの件とは、鉄道の砦への延長のことである。


「いやしかし、こうも仕事が多いと欲しくなるな」


「それは寧ろ妨げとなるのでは……私は仕事中は好みません」


 次は紅茶のこと。まだ知り合って半年も経っていないのに、お互い指示語なのに、凡そ何が言いたいのか分かってしまう。熟年感を醸し出していた。オマケに作業の手は全く鈍らない。


「あの、少しよろしいでしょうか」


「質問があるのだが」


 とそこへ、テミスとイグゼがやってくる。


「この問題について、少し発展したことを聞きたいと」


「ああ、いいよ。うん……魔術の分類についてか。これは__」


 その分野について詳しく、そして更にそれを別分野にまで発展させて、スラスラと教えていく。その解説に、彼女達は満足した様子を見せた。


「なるほど、そうだったんですね! 私も初めて知りました」


「……そうか、解説感謝するよ。ところで、もう一つ聞きたいことがあるのだが、いいだろうか」


「ん〜?」


「僕達の、今後についてだ。僕をどうするつもりだい?」


 じっ……と、エイジとイグゼは数秒見つめ合う。


「……そうだね、暫くは、ある程度自由にしつつ、お勉強してもらうかな。慣れてきたら、少しずつお仕事の手伝いをしてもらうよ」


「案内に教育など、まるでキミがされたかのようなことか」


「おや、そんなことなんで知ってるの?」


「……昨日、話してもらってね」


「ふうん、やっぱりオレのことについて話してたんだね。てことは、特殊能力とかについても知ってる?」


「……一応、ね。物を召喚したり、言語を翻訳したり、それらの能力を他人に与えたりできるんだっけ。……しかし、なぜ僕達にここまでしてくれるのかな」


「君らに見所があるなと思ったからさ。あ、そうそう。ガデッサとカムイに、午後お出かけするって伝えてくれるかな」


「了解だ。……邪魔して悪かったね。お仕事、頑張って」


 イグゼの態度の変化に、目を丸くする。エイジへの警戒心や敵意は弱まり、言動も王子様っぽい鼻につく感じは残っているが、どことなく女の子らしさが混ざり始めた。


 彼や魔王国の実情への理解、そして新しき友と語り合ったことで、限られた者にしか見せていなかった彼女本来の素の性格が表に出てきたのだろうか。


 なんにせよ、テミスのサポートもあってか、このまま一番に馴染んでくれそうで一安心。手を焼きそうな他の二人に注力できるというものだ。


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