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魔王国の宰相  作者: 佐伯アルト
Ⅵ 宰相の諸国視察記 前編

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6節 馴れ初め

 それから三十分弱。奴が舞い戻る。


「待たせたな!」


 向かう先は仮設本部。


「レイエルピナ、カムイは」


「ここに縛って監視してるわ」


「よし。では、ダッキ。まずガデッサをこちらへ。その次に間を置いてから、エレンさん、彼女を」


「分かりましたわ」


「承ッタ」


 指示を受けたダッキとエレンが退室。この天幕内に、他にはテミス、モルガンが控えている。


「では、オレはもう少し経ったら、また来るから〜」


 呑気にそうやって手を振ると、またフラフラとどこかに行って。


 更に数分が経ち、揃い踏み。イグゼが天幕に入った瞬間に__


「お楽しみの時間じゃオラァ! 遂にこの時が来たな……そう、顔合わせだ!」


 エイジも天幕に勢いよく入ってくる。その腕の中には、くたっとしたシルヴァが。


「先ずは自己紹介をしようか。ふふふ、どんな空気になるのか楽しみだなぁ」


 シルヴァを椅子に座らせると、心底ウキウキした様子で天幕を歩き回る。


「では改めて。オレの名はエイジ。魔王国の宰相様だ! 今更かもしれんが、冷静に思い出せば、まぁカムイには名乗らなかったからな。そんで、この子が魔王の養子、レイエルピナ王女だ」


 自分に意識が集まったのを確認すると、それぞれに名乗らせるのではなく、エイジ自ら紹介する形で進行させる。その紹介された王女は、興味なさげにツーンとしていたが。


「彼女が魔王国幹部の人事担当、モルガン。そして、同じく幹部で調査機関の総括エレン。で、この椅子でくたっ、となってるのがオレの秘書、シルヴァで。そこの狐がダッキだ」


「な……ダッキだと⁉︎」


「はいはい、そこ落ち着いて。後でね〜」


 因縁でもあるのか、ダッキの名を聞いた瞬間にカムイがいきり立つ。直ぐにエイジが鎮めたため、歯噛みしながらも黙る。


「では再開。彼女はガデッサ。悪名高い王都地下スラムの出身だ」


「ヘッ……おー、よろしくな」


 素っ気なく気怠げな挨拶だ。因みにエイジも、紹介する順番くらい考えてはいる。


「次に、彼女はカムイ。先程オレと死闘を繰り広げたばかりの何者か。後で素性とか話してもらうぞ」


「好きにするがいい。拙者は囚われの身、生殺与奪の権は貴様にあるのだろう」


「では遠慮なく。そしてこちらが、ジグラド帝国第一皇女、テミスだ」


「はい、只今紹介に与りました、“元”帝国皇女のテミスです。皆さん、よろしくお願いします」


 唯一、紹介されると自ら名乗って丁寧な挨拶までする。育ちの良さというか、そういうのはピカイチな風格を放つ。更にその肩書きだ。新入り達は聞いた瞬間、とても驚愕した模様。


「な、テミス皇女⁉︎ なぜここに!」


「はい、最後に。今声を上げたのが、ルイス王国王の庶子にして、王国騎士団の副長相当である対魔王国特殊部隊の隊長、イグゼだ。これで紹介を終わる。がしかし‼︎ 君らに自由な発言権はない! 一件一件処理するんで、言いたいことがあるなら手を上げろ。……ふぅ、この紹介だけで随分波乱の予感がしたが……フハハハッ、だからこそのお楽しみだ!」


 正直思ってたより複雑そうでヒヤヒヤもの。


「イグゼ……王子だと……⁉︎」


「ほほう? やはりこうして聞くと、錚々たるメンツですわね」


「ダッキ……!」


「発言権はないと言ったァ! こんがらがるから、ちょっと待ってくれ! マジで‼︎」


 紹介終わってからも、各々独り言を話し始める。エイジの必死の懇願を聞いて、仕方なく皆一様に口を噤む。


「ふぅ……じゃ、先ずはテミスの件から。帝国と魔王国が戦争した、正確には帝国が魔王国に蹂躙された事件というのは、流石に聞いているね? どうかな、ガデッサ」


「まあ、そんくらいともなれば地下にだって流れてくるさ」


「そうか、なら話が早い。彼女はその際にオレが拉致誘拐、からの尋問を経て魔王国に入ったのでね。因みに彼女の今の待遇は幹部相当の、生産部門副長だ。君らも問題起こさなければそのくらいの立場には据えるから。っと話が逸れた。その帝魔戦争から波及して起こった事件が、イグゼがここにいることの理由にもなっている。さて、テミスとイグゼさんよ、王族同士話したいことがあればどうぞ。あ、レイエルピナも」


 思い出したように付け加えられたのが不愉快なのか、それとも人見知りなのか、そっぽを向いたまま会話に加わる気はないようだ。


「まさか、本当にテミス姫なのか」


「はい、イグゼ王子様。以前見えた時は、敵同士でしたね」


「王子など、やめてくれ。私は飽くまで庶子に過ぎない。しかし、まさかこのようなところで会うとはな。人生何が起こるか分からないものだ」


「ふふっ、全くです」


 王族同士、会話に花を咲かせる二人。と、ここであることに気づいたエイジ。


「はい、話割り込んですまんね。実はイグゼちゃんは女の子なんですよ」


「そ、そうだったのですか⁉︎ これは失礼致しました!」


「いや、それほど気に病むことでも……ちゃん?」


 エイジは認識の齟齬を指摘しただけの筈。だが、イグゼは引き攣り気味の顔で彼を見る。


「ん? ああ、そゆこと。オレはね、君を女の子扱いする気満々だとも。ちゃん付けで呼ぶし、可愛いとか言うし。その他力仕事は代わったり諸々ね。ああ、嫌なら言ってくれたまえ、すぐやめるから〜」


「あ、いや……嫌というわけではないのだが、その、慣れなくてな」


 その反応を見て、ニンマリと笑むエイジ。イグゼは総毛立つ。


「ふふ、そう身構えないでください、イグゼさん。この方、根は良い人ですから。とことんまで偽悪的なだけです。紳士的ですし、私も乱暴されたこ__」


「はい余計なこと言わない。詳しくは後ほど」


 テミスの口を押さえ、会話を打ち切る。好きに話させては、今まで折角築いてきたイメージというものを崩されかねない。


「はい次……何かなイグゼ」


 モゴモゴと抵抗し続けるテミスを押さえながら、発言を促す。彼女はガデッサの方を向くと。


「ガデッサ、といったな。できれば、地下スラムについて聞かせ__」


「デリカシー‼︎」


「うわっ!」


 どこからともなくハリセンを取り出すと、スパーン! と、彼女の後頭部をはたく。


「無神経にも程がある。言った筈だ、スラムは最悪だとな。聞いていたオレも胸糞悪くなるほど酷い、不躾に聞いて良いもんじゃない」


「アンタがデリカシーについて言えるわけ?」


「おうとも。オレだって君らから過去の話を聞くときは、その……おずおずと訊いている!」


「ケッ、やっぱお偉い様は違うね。アタシらみたいな掃き溜めなんざ、視界にも入らねえってか」


「み、みんな落ち着いて!」


 むくれるイグゼ、チクチク突っ込むレイエルピナ、苦し紛れの弁明をするエイジ、嫌味を言うガデッサ、そして空気を宥めようとアワアワするモルガン。


「……すまない。不作法だった。ここに非礼を詫びる」


「フンッ、どうでもいいね」


 品ある者として、謝罪するイグゼ。しかし聞く耳持たぬなガデッサには、何を言っても無駄らしい。


「そろそろ話してもいいだろうか……!」


 と、ここで遂に痺れを切らしたらしきカムイが、グダグダし始めた空気を断ち切る。


「ああ、待たせたな。どうぞ」


「某は、そこの女狐に話がある。それは、私の身分についても関わりのある話だ」


 この場で一番頭上に謎が多いのは、彼女に他ならない。エイジは唇に人差し指を当てると、彼女の話を傾聴する。


「我々は、今は亡き或る国の末裔でな。この近辺の山に居を構えている。そして拙者こそが、その国の公家の後継にして、生き残り達の長であり、神器の後継者だ。その我らの領土内に、貴様らが断りも無く侵入したために襲撃したのだ」


「あ、思い出したぞ! この辺りの領土は、確か武士を名乗る者達に不法占拠されていたな。その者達が強過ぎる所為で、我々王国も放置していた。だからこそ、魔王国に租借できたのだ」


「解説どうも。それで?」


「文献によれば、我々の嘗ての国は、ここから東にある島にあったようだ。しかし、その国は内乱で滅びてしまった。そう、そこの女狐が世を乱したからだ!」


 ダッキに国の仇とでも言わんばかりの強い敵意を向け、手錠とエイジの睨みがなければ、今にも抜刀しそうな勢いである。


「あらあら、わたくしの元いたところでしたのね。奇妙な縁もあることですわ。けれど、それは昔のことですわ」


「ああそうだ、数百年も昔のことだとも。だが、それがどうした! 我らの国を滅ぼした恨み、先祖達の無念と憎しみが消えることはない!」


「そうですの。だったら晴らしてみてはいかが? その状態でできるものでしたらね!」


「煽るなよダッキ…!」


 憎悪を向けられるこの状況でも楽しんでいるのか、挑発するダッキ。そしてエイジは双方の力を知っているがために、本気で制止しにかかる。


「我はその男に敗れ、自由を奪われた身だ、害することはできん。だが、一つだけ訊かせろ。何故、我らの祖国を滅ぼした!」


「ん〜……強いて言うなら、なんとなくですわ」


「キッ……キサマァー!!!」


「そこまでだ!」


 怒髪天を衝く勢いで激昂し、剣無くとも殴り掛からんとしたカムイとダッキの間にエイジが挟まり、カムイの肩を押さえ込む。


「ええい、邪魔をするな! 遮るならば貴様諸共!」


「落ち着け! チッ、ならば敢えて言おう、お前の国が滅びたのはダッキの所為だが、ダッキの所為ではない‼︎」


「……はぁ?」


 突然ワケの分からないことを言われて、毒気を抜かれる。


「訳がわからない……その意見は矛盾している!」


「いいや、矛盾していないさ。ダッキに国を滅ぼすつもりはなかった」


「なんだと…?」


 不意打ちからの冷静な言葉で、カムイも聞く気にはなったようだ。


「わからないか、ならば説明してやろう。ダッキは国を乱そうとしたんじゃない。その逆、秩序を正そうとしたんだ。そのために謀略を巡らせ悪徳貴族を排斥、それでも消せない者は実力行使し、いつしかダッキは国の中心となった。しかし不審に思った者と、彼女のことをよく思わない者の所為でダッキは追放。要石となっていた彼女がいなくなったことで政権は烏合の衆と化し、彼女が封じていた各地の反乱分子が活性化。世は乱れて内乱が起き、国は滅びた。つまり、ダッキが国を滅ぼしたのではなく、ダッキがいなくなったから国は滅びたということだ。……どうかな。彼女が明言しないからオレの想像だけど、筋は通っていると思うのだが」


 最後の方は少し自信なさげだったが、カムイの方は落ち着いて聞くことができたために、ある程度の納得を見せた。怒りと不審は燻っているようだが。


「わかった、今はその説を信じてやろう。だが、あと一つ、何故そう言い切れるかの根拠を寄越せ」


「オレは彼女のことを信じているからさ。胡散臭いし、今でも彼女の全てを知っているとは到底言えない。だが少なくとも、君よりは知っている」


「それほどの信頼関係か……」


 そこはキッパリと言い切ったからか、どうやらカムイも矛を収めた様子。


「さっすが、わたくしのダーリンですわ〜! うきゃっ⁉︎」


 どさくさに紛れ、飛びつこうとしたダッキ。しかしデコピンで弾かれる。


「今のは本気で焦ったから。やめなさいね、ダッキ」


「はいぃ……自重いたしますわ」


「それにな、カムイ。君がダッキを憎む筋合いはない。何故なら、キミはその末裔ではない筈だからだ」


「なに……?」


 自身の怒り、そしてルーツまでも否定された彼女は懐疑する。


「オレは戦闘中に言った筈だが。じゃあ仕方無い、荒療治だ。これ、知ってる?」


「これ、は……うっ、なぜだ⁉︎ 何故私は、これを……知っている⁉︎」


 エイジが見せたのは、日本語で書いた自分のメモ。それを読んだ瞬間、カムイは頭を押さえ蹲る。


「君は地球の、日本のという国の出身。そこから、ここから見れば異世界から来た者だ。転移の際に君は神器を与えられた。大方、その代償として記憶を失っているんだろうよ。そしてもう一つ、君は幼少期の記憶がない。どうだ」


「うぐ……うあぁぁぁっ……貴様は……何を、何処まで知っている……⁉︎」


「さあね、それはオレにもわからん。……っと、ここまでにしておこう、思ったより辛そうだ」


 その頭痛で、意識を保つのも精一杯のようだ。これ以上無理に踏み込んでは、良くて気絶で終わってしまうだろう。キッカケは作った、今急ぐ必要はない。


「……随分と、濃い奴らだな」


「ホント、そうよねェ。ワタシだって影薄いしィ、エレンに至っては微動だにしないしィ」


「大丈夫ダ、全テ聞イテイル。眠ッテハイナイゾ」


 呆れ返るガデッサに、不満たらたらなモルガン。そしてやっと一声を放ったエレン。エイジが勝手な発言を許さないために、新入り優先で渋滞してしまっている。


「オイ、エイジ」


「お、初めて名前を呼んでくれたね。何かな?」


 さっきまで殺し合っていた筈の者の背中を摩っているエイジに声が掛けられる。ガデッサだ。


「アタシがお前を信用するにあたって、一つ聞きたいことがある」


「それは?」


「アンタにとって、セックスってのはなんだ」


 空気が凍りつく。


「えっ? 次世代の子孫を残すという尊い儀式にして、最上級の愛情表現だと思ってるけど」


 そして即答したエイジの返答内容にもまた、微妙な空気が流れる。


「そうかよ。はっ、童貞臭ぇな」


「ひどいなぁ、不満かい?」


「いいや? 即答だし本気だって分かる。ま、及第点はくれてやる」


「それはどうも。そんでもってはオレは童貞じゃありませーん」


「へっ、おまえさんの秘書の懐き具合見れば分かるさ」


 さながら悪友のノリ。しかし、信頼は勝ち取れたらしい。


「しっかしまぁ、美女侍らせていいご身分だよな、羨ましいぜ」


「……なんだ、そのケでもあんのかよ」


「いや? 全くないとは言えねぇが、アタシが男だったらってな」


「ふっ、そうかい」


 エイジは頭痛が治ったらしきカムイに手を伸ばし、それをサラッと無視されつつも、見渡して顔合わせ最初の混乱を脱したと判断。次の話へ移ろうとして。


「クゥーン……」


 天幕に鼻を突っ込んだ狼によって遮られる。


「お、どうした?」


 その鼻を撫でてやる。と、その体が光に包まれ……


「ふふん、どうだ! 驚いたか!」


 ボンッという感じで、幻獣体が消失し、光の中から少女が現れる。その格好はすっぽんぽ__


「服を着ろォーッ!」


「うわぶっ⁉︎」


 一瞬視界に映った瞬間に、適当な服を一式被せて後ろを向く。


「なにするんだ!」


「話は服を着てからだ!」


 更に腕を組んで目を瞑る。鋼の意志。なあなあ、と声をかけられても、服を着る様子がない限りは不動。結局、元狼幻獣の少女が根負けし、渋々服を着る。


「おわったぞ!」


「そうか。ではまずは、名前を聞かせてもらおう」


 その少女の見た目は、体つきは十四歳前後でレイエルピナより小柄。髪はオオカミ時の面影を残し、青白っぽいボサボサ。目はシルヴァやダッキと同じく、金色で瞳孔が細い。


「おれの名前はジンだ!」


 ふふん、とばかりに痩せこけた体で胸を張る。……しかし、エイジからの返事がなくて、何やらソワソワしている様子。


「おや、これからどうすべきか、悩んでいるようですわね」


「ダッキ?」


「お任せ下さいまし、親愛なるご主人様。いえ、ダーリン。彼女にわたくしが先輩幻獣として色々手解きいたしますわ」


 何を吹き込むつもりやら。色々心配ではあるが、直ぐ近くで聞いている。いざとなれば制止するし、厄介なことにはならないだろう、と任せてみる。


「ところで、ジンさん」


「なんだ……ええと、ダッキ?」


「はい、ダッキですわ。あなた、彼のペットになるおつもりですか?」


「ペット? なんだ、それは」


 側から見れば、お姉さんが少女に語りかけている微笑ましい様子。犬科同士であることもあり、同族らしく話でも弾むのだろうか。ただ、ダッキであるということが何処か不安を掻き立てる。


「ペットとは、人間に飼育される動物、家畜の中でも、特に人との距離が近く可愛がられる愛玩動物のことですわ」


「は? ふ、ふざけるな! おれはそんなものにはならない! 今は助けられたから、仕方なく一緒にいるだけだ! オマエは、獣としての誇りを捨てたのか⁉︎ この女狐‼︎」


 やっぱりこうなる。


「あらまあ。今日はわたくしに当たりが強い人が多くて嫌ですわ〜。いいですか、落ち着いて聞いてくださいまし。そもそもあなた、彼に助けられたのでしょう? だったら恩返ししませんと。それに、狼は群れで生活し、リーダーは絶対。あなたより強い彼に従うべきでは?」


「うっ……けど、おれは……」


「それにです、彼に飼っていただければ、お腹いっぱいに美味しいご飯が食べられて、温かくて安全な寝床で寝れて、ブラッシングで毛並みを整えてもらったり、いっぱいなでて甘やかしてくれますわよ?」


 正論と理詰め、加えてメリット。獣同士嘘の通じない中でも炸裂する、ダッキの交渉術()だ。


「で、でも、あいつ、酷いこと、しない?」


「現にあなた助けられたのでしょう。仕事の部下や戦場に立つ者はともかく、彼はとても優しいですよ。特に動物には、ね」


「う……うぁ、うあーー!」


 迷っている。彼女の中にある獣としてのプライドと、彼に飼われることのメリットが鬩ぎ合っている様子。


「あと一押しですわね……あなた、正直彼のことが気に入ったのでしょう?」


「で、でも……」


「決めあぐねているなら、撫でられてみては? 撫で方が好みだったら、飼われてみるのも良いと思いますわ」


「な、なるほど……うん、試してみる」


 ずいっと、エイジに向けて頭を向ける。その頭にエイジが手を翳すと、耳を立ててキュッと目を瞑る。しかし。エイジが優しく頭に触れて最初はゆっくり、そして少しずつ大きく動かし、時折指を立ててカリカリ掻くと、リラックスして気持ちよさそうにウットリする。


「ふふっ、尻尾は素直だな」


 言われてハッと気づいたか、自分のブンブン揺れる尻尾を両手で抱える。その様子もまた可愛らしい。


「さてダッキ、何故こんなことを?」


「幻獣同士、色々通じるものがあるのですわ。それに、貴方様もジンを気に入っている様子でしたもの。であれば、ご主人様の都合が良いように動くのが務めですわ。ライバルが増えて、わたくしに幾らか損が__」


「バカ言うな! オレはロリコンじゃねぇ!」


 突如脈絡なくキレ散らかすエイジに、撫でられていたジンはびくりと震える。しかし、その手つきは優しいままなので、更に困惑する。


「この子はどうみても幼い。いいか! オレの射程範囲は! 肉体年齢及び精神年齢が十七から三十四歳までだ。特に二十から三十がいいね!」


「ふうん? わたし、一応実年齢七歳なんだけど?」


 一定以上の好意を向けられていることに気付いているレイエルピナは、悪戯っぽく笑いながら意地悪質問をする。


「キミは、ほら、特殊じゃないか。最初から十六歳で、降霊以降成長が止まっていたとしても十九くらいではあるでしょ。実年齢は関係無い!」


「あそ……」


 直ぐに切り返されて、なんだかつまらなそう。


「失礼する。話はひと段落ついたかな?」


 とここで、ベリアルが入室する。その背後にはレイヴンとノクトが。


「はっ、ベリアル様!」


「よい、面を上げよ。それより、紹介と、かの者達の処遇についての提案を頼む」


 すかさず跪いたエイジを立たせ、先を促す。


「承知いたしました。先ずは、彼女がイグゼ。ルイス王国、現国王の庶子です。彼女達ての希望により、敬称は不要とのこと」


「お初にお目にかかります、元対魔王国特殊部隊隊長のイグゼです」


「ほう、対魔族部隊とは。しかも、その隊長……いや失礼。本来敵視すべき国に入るのだ、不審もあるやもしれぬが、宜しく頼む」


「いえ。今や友好国ですし、彼からも丁重に扱われております。それに、実を言うと魔王と聞いて警戒しておりましたが、彼の宰相殿が忠誠を誓うだけあって、信用できる方だと感じました。ここに非礼を詫びます」


「気にするな。諸君等にとって魔族は恐れの対象、致し方あるまい」


「その寛大なる心に感謝を」


 賓客と主人のように、二人は挨拶を済ます。彼女なら円滑に進むのは分かっていたが、問題は次から。


「彼女はガデッサ。悪名高き地下スラムの生き証人です」


「……どうも」


 どう対応したか、考え迷った様子でなんとなくの挨拶。ただ、その様子からは相応しき態度での返答ができないことに申し訳なさを感じてはいる様子。そして、それを察せぬベリアルではない。


「うむ。無礼だなんだと気にする必要はない。しかしその傷……痛々しいな」


 矢張り見知らぬ者に体を見られるのは嫌なのか、体を抱えるようにして背ける。


「だが、そうだな。そこの宰相のことだ、大方貴君にこう言ったのではなかろうか。キミに二度と苦しい思いはさせない、オレが守る、その傷を癒そう、などとな」


「はっ⁉︎」


 言い当てられて恥ずかしそうなエイジと、思い出して頬を染めるガデッサ。


「ふ、矢張りか。その言葉は私も保証しよう。此奴ならば成し遂げるだろう。さて……」


 ベリアルの視線はジンを素通りし、カムイへ。


「彼女について、分かったことはあるのか?」


「ええ、彼女はカムイ。とある亡国の末裔にして、子孫たちを束ねる長だとか。しかし、彼女は面白い存在ですよ」


「と、いうと」


「彼女はオレと同類、と言えば解りますかね」


「ほう、異世界より来たる旅人か!」


「ええ、その通りでございます。どうやら記憶は失っているようですが、その記憶及び亡国の技術と知識に関しては、利用価値が高いかと」


「ふむ、そうか。貴殿が我等の力になるというのならば、襲撃したことについては水に流そう。これからは共に、宜しく頼むぞ」


「某は貴様らと馴れ合う気はない」


「そうか。では、後はエイジに託すとしよう」


 一通り挨拶を済ませたベリアルは、マントを翻して退室する。残るは男性幹部二人だが。


「おーっ、また女の子が増えたね! あ、僕はノクトっていいます。一応幹部でーす」


 ブレない奴だ。エイジの予想通り、厄介なことになりそう。


「またまた賑やかになってくねー! こりゃまた面白いことになりそうだぞう!」


「はいはい……じゃ、みんな、きりーつ。行くぞ。二人も来て」


「おおっと」


 いきなりエイジはテントから出ていく。そんな彼を慌てて、或いはのそりとついていく。そんな彼が向かう先は、輸送隊が待機している場所。


「あ、お兄さん! あれ、オオカミさんはどこ?」


 そして近づいた彼を見るなり、ミラが馬車から飛び降りて駆け寄る。当然カヤもセットで。


「オオカミさんはこの子」


「おれはジンだ。よろしくなミラ」


「え、女の子になっちゃった⁉︎」


「全くだ……幻獣はメスしかいねえのかって」


 手をにぎにぎし合う少女達。そんなミラの背中に、エイジは手を当てると。


「ノクト、お前ロリコンじゃねえよな?」


「え、うん……一応」


「じゃ、この少女と幼女を頼んだ」


「……え?」


 彼にとっては青天の霹靂。


「この子、この辺りの薬草学には詳しいから。役立つと思う。じゃあ、よろしくな」


「えぇ……」


 ハッキリ言えば厄介払い。今ノクトにはちょっかいかけられたくないので、色々押し付ける。


「それからレイヴンも聞いて。あの人らは、魔王国の工業地帯に移送して。或いはここにもっとしっかりした拠点を作って、衣食住を与えてやってほしい。取り敢えず一週間は、なんとかしてくれればいいから。じゃあ」


「じゃあって……オイ、お前はどこに行くつもりだ⁉︎」


 ノクトは兎も角。突然面倒ごとを押し付けられたレイヴンはキレ気味だが、エイジはどこ吹く風。


「どこって、魔王城。彼女らに魔王国について教えたりして、慣れてもらわないとね。じゃ、いっくよ〜」






後書き


 ヒロインが一気に増えました。三人ですよ、三人。全員キャラが濃いから良いだけど、そうでなかったら結構マズいよね。

 裏話。この三人は初期構想にはいませんでした。意外かな? 割と馴染んでるよね。これが、上手く噛み合い、嵌まる瞬間ってやつだったのさ。……え、浮いてる? そおかなぁ?

 因みに、イグゼだけちょっと違うキャラ像でいたけど、他と属性ダブりそうだから大きく変えた。結果として、ほぼ別人だよ。一部には名残があるんだけどね。

 では、この三人どこから出てきたか。というと、別作品での登場人物として考えていたんだ。姉御肌のスケバン、王子様 (ナルシスト)系ボーイッシュ、女剣豪。それを、この作品に入れてみた。丁度良いポジションができたので、いい感じに収まったよ。

 そんで、思ったより自分の執筆続度が遅かったものだから、別作品並行は諦めて、思い切ってそこで出す予定だった設定とかも纏めてこの作品に捩じ込んだ! だからこの作品って、他の数作品の屍が礎なのであった。それ故に、物凄く様々な要素を有してる。本来なら、もっと分けてやるべき筈の、ね。

 おっと、脱線した。登場の切っ掛けとしては、奴隷やスラムなどの闇の部分を描きたかったこと。そして、和風要素や同じ転移者を味方に入れたかったから。軽く弄ったら、すんなりできちゃった。

 話全体としても、とても描きやすかった。第一改稿の際、この章は僅か一ヶ月くらいで書き上げたんだよね。それ故の粗さは、今回のでマイルドになった筈。

 そういえば、もう一章分続く前後編になるのは、完全に想定外だった。まさかこんなに濃い話になるなんて。

 次章でもまた、新たな団体が登場する。そいつらだけでも一本新しい作品が書けそうなほどの奴らが。どんな存在なのか、お楽しみに。


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