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魔王国の宰相  作者: 佐伯アルト
Ⅵ 宰相の諸国視察記 前編

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5節 亡国の刃 ①

 救出作戦より翌日、正午。王都南東の門にて、魔王国の荷馬隊が待機していた。地下スラムより、ガデッサや剣闘士等の回収はほぼ完了し、あとは宰相らを待つだけだったが。


「おや、本当にもういいのかい?」


「ああ。別れと、荷造りは済ませた」


 現れたエイジ達に、荷物を携えたイグゼが連れ立っていた。事件の翌日にも拘らず、こうも準備が早いことには流石に驚いた。


「そうかい。ま、今生の別れではないんだ。こちらも、君のことは丁重に扱うようにする。そこまで身構える必要はないさ」


 とはいえ、少しの不安はあるだろう。それを宥めるように言葉を掛けると、エイジは手を差し出す。


「てなわけで、これからよろしくな、イグゼさんや」


「……ああ」


 やや躊躇った様子だったが、真っ直ぐエイジを見つめ返すと、強く手を握った。


「……? なんだ?」


 離した手を見つめるイグゼ。何やら不思議な感覚がしたようだ。だがそれを深く考える間もなく、促された馬車へ向かう。


「地下スラムの者たちと同じ馬車に乗せるわけにはいかない。もし君の身分が知れたら、穏便には済まないだろうからな」


「ああ、心得た。しかし……地下で一体何が」


 矢張りまだ不審なところが多いのか、少々訝しんでいた様子だったが、決まったことだと飲み込んで乗車した。



 昨日の顛末だが。爆発の後、王国軍の増援に回収された一行は、無事に王都へ帰還した。そこでは、イグゼ等を英雄と称える歓声と共に、盛大に凱旋が行われた。だが、そこにエイジの姿はなかった。


 一足先に王宮へ赴いたエイジは、王と謁見。深々と頭を下げての感謝と共に、報酬の授与を確約。現金のほか宝物の幾つかの譲渡、治める者のいない土地の租借についての手続きは直様行われた。イグゼの身柄引き渡しは、彼女が帰還してから、彼女の二つ返事にて確定。また、この救出劇において魔王国の助けがあったことも、広く触れ回ることとなる。


 更に一日滞在することを告げると、王宮の一室の貸し出し及び夕食を振る舞われるなど手厚い持て成しを受け、友好国としての締結も約束されたのだった。



 そんなこんなで順風満帆。謎の技術も手に入れて、ホクホク顔のエイジは、馬車の中で横になり、ゆったりと寛いでいた。


「いやはや、この辺りは魔力が薄くて辛いねぇ」


「その割には余裕そうだが」


「こう見えても、結構消耗してるのさ。昨日はこの道のりを一往復半した上に、地下闘技場でのエキシビション戦闘、秘書たちの魔力補給もして、王妃王女の救出作戦へ……とてもやることが多かったのさ。……思い返せば、相当に濃い一日だったな。それだけやれば、流石に疲れる。食事を頂いたから、多少はマシだがね」


 王都から沿岸までは、魔王城から砦までくらいの距離がある。自分だけなら数分で着けるものが、他と合わせるとこうも遅いとは。せっかち気質な彼は結構イライラ。やることもないならばと、殆ど昼寝をしていた。その昼寝も、いよいよ眠れなくなってイグゼや秘書との会話に興じていたのだが。


「あー、ヒマ! トランプでもする?」


「そこまで言うのでしたら、先にお帰りになられてはいかがですの?」


「ヤダよ、疲れてるし」


「……我儘な男だな」


 イグゼに白い目で見られるが、エイジは全く気にしない。


「じゃ、大人しく武器の整備でもするか」


「……一体どこから」


 エイジは武器を取り出すと、研いだりし始める。折れたりしてダメになった武器はくっつけて捏ね合わせ、新たな武器を造る。その武器にも、魔力を通して強化する。銃にも魔力を装填する。


「オレだけが持つ特殊能力さ。ところでダッキ、そういえば決定力が足りないとか言ってたよな」


「ええ、確かに昨日申しましたわね」


「ふむ、だったらハンマーとか、重い武器を使ってみたらどうだ? 暗器で牽制し、戦鎚で砕く、とか」


「あ、良いですわね。帰還して落ち着いたら、見繕ってくださいますか?」


「はいよ。……序でにガデッサのも見直すか。魔族以外の使用には、矢張り難がある。てか我ながら配置が汚いな、整理整頓しないと」


 目を瞑って、亜空間の操作をガサゴソと。武器は武器のところへ、食糧に資料にゴミに貴重品に薬や魔晶石。大雑把に分けたのち、更に細かいジャンル分け。普段はかなり雑だが、思い立った時は徹底的に整理する極端な男なのである。血液型はO型。


「……そうだ。怖いが、一つ訊きたい事がある」


「ん、何かな?」


 何か思い出した、というよりは決心の固まったらしきイグゼが、睨みつけるような鋭い目でエイジを見据える。


「昨日から、何名か貴族の行方が知れなくなっている。そして、昨日お前たちは地下に居たのだったな。何が起こった」


「ん? 貴族様ねぇ。ああ、奴さん方は死んだよ?」


「なんだと…⁉︎」


「オレが殺した」


「ッ…! 何故だ⁉︎」


 驚いた。しかし想定はしていたらしく、直様落ち着き、エイジに食ってかかる。


「ならばオレが逆に訊こう。君は地下のことを、どれだけ知っている」


「それは……」


 言葉に詰まる。当然だろう、地上でも最高位に所属する者が、地の底など見れる筈もないのだから。


「オレからしてみれば、奴らはテロリスト以下のクズだ。かける慈悲はねぇ」


「だが、彼らの存在は…!」


「いない方がいい。奴らがいなければ、これ以上苦しむ人が減る。それに奴らが私腹を肥やしてきた分、死ねば流れて国が潤う」


「貴様……理屈は正しいかもしれんが、倫理が無い!」


「奴らの方が余程無い。君は地下を知らないようだな。丁度いい、今この隊が運んでいるのは地下出身の者たちだ。その地獄の有様を聞いてくるがいいさ」


 その目は据わっていて。イグゼは気圧され、それ以上の追及はできなかった。


「……そうだな。私は未だ世間知らずだ。彼らに、謗りは受けるかもしれないが、聞いてみるとしよう」


「そうかい……と、そろそろ拠点が見えてくる頃合いだが。……ん、なんだ?」


 馬車の幌から外を覗き込むが、違和感がする。何か、起こっているような……


「エイジ様!」


 幌の上に登り、確認していたシルヴァが飛び降りてくる。


「拠点が何者かに襲撃されています!」


「なんだと⁉︎ 状況は!」


「煙も上がっていて、ここからはよく判りません」


 状況がよく飲み込めていないイグゼは放って、エイジは顎に手を当て考える。


「エイジ様、ご指示を」


「……オレが先行して確認してくる。ダッキはここでイグゼを監視、シルヴァはエレンと共に隊の護送と進路指示を」


「「了解!」」


 指示を出すと、エイジは幌の上に飛び乗り、翼を広げて飛翔を始める。


「くっ、何がどうなってやがる⁉︎」


 馬の十倍以上の速さで拠点に接近。上空を旋回し、凡その状況を把握する。


「何だアイツら……あの格好、武士か?」


 和風情緒溢れる甲冑を着込んだ者が、魔族達と斬り合っている。


「しかもあの得物、どう見ても刀じゃねえか」


 ギラリと耀く片刃の剣。鍔も柄も、軍刀ではなく太刀や日本刀と類似している。ならば見間違えよう筈もない。


「和風文化を持つ国が存在しているとでもいうのか? 確かにダッキもそんな感じだが……いや、そんなことは今は置いといてだ」


 戦場を見渡し、見慣れた髪色を見つけるとそこへ飛んでいく。


「レイヴン! 状況は⁉︎」


「エイジ⁉︎ やっと来たか!」


 レイヴンは二名の武士と刀を交えていた。魔族としての身体能力、そしてサーベルの軽やかさによる手数で優勢。然れど敵もさる者、彼の斬撃を二人の連携で巧みに受け流し、なかなか退かない。


「くっ、コイツら、なかなかやる!」


 二人同時上段の攻撃を、横にしたサーベルを両手持ちで受け止め、力尽くで押し飛ばす。


「奴らは一体?」


「不明だ。俺達が作業している途中に突然現れ、襲って来た」


 距離を離し、三人が様子を見るように睨み合う。


「少し待て、少々本気を出す。話は、この者等を片付けて落ち着いてからだ」


 堕天使の翼、そして朽ちかけた輪を出し、サーベルの頭身を左手でなぞり青電を纏わせる。


「ハアッ!」


 突然爆ぜるように飛び出し、一人に神速の突きを放つ。その一撃は甲冑を砕き、人一人を軽々と吹き飛ばす。


「ゼア!」


 突きの後隙も一瞬、直様もう一人を斬り付ける。


「アアアアアァァァァ⁉︎」


 その剣を受け止めてしまった者は、大きく痙攣したのち吹き飛ばされる。軍刀の持つ電荷の所為で感電し、その圧倒的な電圧が爆ぜたことで吹き飛ばされたのだ。


「序でだ、フッ!」


 別の魔族と切り結んでいた武士に左手を突き出すと、そこから何叉にもなる雷が空を走り、その体を貫く。


「ヌアッ!」


 更にもう一人の武士に向けて剣を振る、先程の放電でサーベルの帯電は無くなってしまったか、その武士は何とか斬り合うことができる。しかし…


「そこだ」


 左手にいつしか形成されていた光の槍で、斬撃に集中していた彼の隙を衝き、脇腹を穿つ。


「セッ!」


 その左手の槍を投擲。着弾の瞬間爆ぜることで、その周囲の武士達の視界を奪い、魔族達に有利な環境を作り出す。


「あら、エイジクン、来てたのねェ? ならお姉さん、久しぶりにかっこいいところ、見せてアゲルわ!」


 彼の後ろからひょっこり現れたモルガンは、ステッキに魔力を纏わせ、やる気満々。


「イクわァ! それ!」


 ステッキの先端より伸びるイバラの鞭が、武士の足を弾いて転かし、武器を絡め取り。凡ゆるモノを叩き、縛って……


「さァ、苦しみなさい!」


 鮮やかなピンクの鞭は、禍々しい薔薇色へ。瞬間、絡め取られた者達は踠き苦しむ。麻痺性の神経毒だ。十秒もすれば、動く者もいなくなった。


「ふふっ、スゴいかしらァ?」


「ああ、その鞭捌きには惚れ惚れするよ」


 賞賛されて、はにかむモルガン。その間にも、レイヴンは刀を叩き折ったり、空中や背後からの奇襲をかけ、敵の連携を乱す。直接的な撃破率はモルガンの方が多いが、レイヴンは味方が有利になる環境を整える、指揮官らしい戦い方をしていた。そして周辺が粗方片付くと、指示を出して他の区域に増援を向かわせる。


「待たせた、状況の整理だったな」


「ああ、情報をくれ」


「敵の詳細は、残念ながら不明だ。得物も戦い方も見慣れぬし、言語も文化も、何処の所属かも知らん」


「ドコから来たかも、何が狙いかもさっぱりわからないの」


 敵の情報は、一切無し。エイジにはある程度予測がつくが、憶測に過ぎないし、言っても困惑させるだけだ。


「襲撃からの時間は」


「大体十五分てとこかしらァ」


「他の幹部らは」


「ここに残っているのは、俺とモルガン。ノクトが魔王城へ向かい、魔王様とレイ嬢を呼びに行った。そして、テミス皇女が敵の首魁らしき者と戦闘中だ」


「なっ、テミスが⁉︎ それを早く言ってくれ!」


 それを聞くと、エイジは直ぐに飛び出した。今や彼にとって、彼女は大切なヒト。こんなところで、やらせるわけにはいかないのだ。


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