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魔王国の宰相  作者: 佐伯アルト
Ⅵ 宰相の諸国視察記 前編

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3節 地下中央闘技場 ⑨

「……おい、何のつもりだよ」


「仮にも恩人に向かって、何ですかその態度は」


「気にするなよシルヴァ。さて、何のことかな」


 闘技場から出て来た一行は、爆音鳴り響く闘技場に集まって来た野次馬の中央を堂々と割くように進行する。特にオオカミの幻獣が放つ威圧感のお陰だろう。


「ちげぇよ。今向かってンのは、入り口ともエレベーターとも全然違う方向ねえか」


「流石の土地勘だ。うむ、今オレはね、ある人たちを回収しようと思っているんだが……あらら」


 後ろを見やれば、闘士達の大半がまたしてもゾロゾロと彼の後ろをついて行く。


「これはこれは……この人数では、軽くオーバーだな。応援を連れてくるとして、移動は少し後になるか。進路変更だ」


 彼女等の下へ向かおうという足を止め、飛竜達が待機している広間へ向かう。


「エイジ殿! ゴ無事デアッタカ!」


「ああ、なんとかな。ところで、人を運びたいと言った件だが。予定変更だ。想定の十倍以上を運ぶことになったんでな、オレが一度拠点に戻り、応援を呼んでくる。その間、彼らの面倒を見る……いや、見張っていてほしい」


「承知シタ」


 躊躇う様子もなく、即答してくれる同僚が頼もしく、感謝しながらエイジは踵を返す。


「さて、ではある件を片付けに行くとしよう」


「何するつもりだよ。ってか、アタシが行く必要あんのか」


「人を回収しに行くといった。それに、当然必要あるとも」


 エイジも、幻獣の背に飛び乗る。オオカミの上に、宰相と秘書二人そしてガデッサが同乗する。


「さて、道すがら聞きたいことがある。……教えてくれないだろうか、君の過去を。勿論、嫌だと言うのなら無理強いはしない」


「…………いいぜ、話してやるよ。甘ちゃんなアンタらには想像もできないようなムゴい場所、それがこのスラムだ」



 彼女の生まれは王都地下スラム、奴隷の子であった。衛生の劣悪なスラムで、奴隷の子。そういった要因が重なり、幼い頃から様々な病魔に体を冒されていた、奇形児である。


「ほら、触ってみりゃわかるだろ」


 包帯で覆われていた左腕と右足は、骨格が歪んでいた。


「だがな、これだけならまだ良かったんだ……オレが最も憎むのは、この肌の色だ」


「確かに、この辺りでは見かけないな」


 悲劇を加速させたのは、その珍しい褐色の肌。母は南方の外国からやってきた人種であるらしく、その特徴を彼女は受け継いだ。


「そんで、この髪の色だ」


 髪は、誰とも知れない父親のものを受け継いだと思われる、赤茶色にも見える暗いオレンジ。奴隷の主人たる貴族であれば魔力を持ち、髪の色も特徴的であったことだろう。しかし、肝心の幻魔器は受け継いでいなかった。


「このせいでアタシは……小さい頃から見せ物にされて、まわされたんだ……!」


 それら身体的特徴の物珍しさ故に、奇異の目で見られ、見せ物として、そして玩具として様々な主人の下を転々とさせられる。布で隠した肌には、奴隷としての焼き入れもあるのだろう。それだけではない。時に路上でも主人ですらない者にさえ襲われ、強姦されたこともある。


「はっ、分かったか。これがアタシにとっての、このクソったれな世界の全てなんだよ」


 うっすらと涙を浮かべながら話すガデッサ。だが、曇った表情をするエイジを嘲笑い、そして己すら揶揄するような笑みを浮かべていた。


「それは__」


「だがな! それで心折れるようなら、オレはこの場にいねえよ。たとえ蔑まれ嬲られようと、魂まで屈してやる義理はねえ! こんな歪んだ体でも、闘い抗うことは出来る!」


 病魔と奇形で思わぬように動かぬ体であろうと、鍛錬と闘争を重ね、血反吐を吐きながら、鍛えに鍛えた。傷を負い、返り討ちに遭い、決して消えぬ凄惨な傷を身体中に刻み続け、いつしか片目から光が消えようと、闘い続けた。


 そして、彼女が成人する頃には、敵う者はおらず。地下のスラムを武力で牛耳るガデッサ組を立ち上げるに至るのだった。


「……君にとって、その傷は__」


「こんな傷、アタシにとっちゃ、騎士様みてえな誇りあるもんじゃねえ。拭い去れない過去の、屈辱と苦痛の呪縛だ。分かったか、これが地下の闇に塗れたスラムだ」


 全てを怨み、自棄しているかのような笑みで、世界の残酷さを知らぬであろうエイジに突きつける。


「そうか……ならばオレは誓わねばなるまいよ。君をその苦しみから解き放ち、決して同じような目には遭わせないことを。オレが、君を幸せにすると」


「あ……?」


 だが、その返答はガデッサの予想し得ないものであった。その表情は憐憫で曇りながらも、確固たる決意を宿していた。


「はっ、出来もしねえこと言ってんじゃ__」


「やってみなけりゃわからない、だろ?」


 否定しかけたガデッサですら言葉を途切らせるほどに、エイジの表情は自信に溢れた不敵な笑みへと変わっていた。


「……何だって、そんなことを__」


「聞いちまったんだ、もう見て見ぬ振りはできねえよ。乗りかかった船ってやつだ」


 そう言うと、彼は再び前を向く。その後ろ姿に、今まで感じたことのない不思議な感情を抱いてしまっていた。


「あらあら、羨ましいですわ。まるでその言葉、プロポーズではありませんこと?」


「うっ……言っててオレも思った」


「「プロポーズ…⁉︎」」


 ダッキに揶揄われて、恥ずかしそうに顔を背けるエイジ。そして同じく真っ赤になったガデッサと、嫉妬に狂いそうになりながら必死に自分を抑えているシルヴァであった。


「さて……お、丁度良いな、到着だ」


 話もひと段落したところで、狼の背から降りる。


「ここって……」


 それは、ガデッサも見覚えのる小屋だ。


「ミラ、カヤ! 来たぞ」


「あ! お兄さ……ん?」


 顔立ちと声はおんなじ。しかし、髪と目の色が違うことに戸惑っているようだ。


「ひっ…」


 そして一度恐ろしい目に遭った彼女は、彼の後ろにいるガデッサを見つけると怯えた様子を見せる。


「安心しろ、彼女はもう、君達に危害を加えるようなことはしない。さてと……」


 ミラとカヤ、彼女らをそれぞれ片手で軽く持ち上げると、狼の背に乗せる。


「ガデッサ。落ちないように支えてあげて」


「……わあったよ」


 何でこんなことを、と思ったが仕方ない。渋々抱えるように押さえる。


「あなたは、いかがなさいますか?」


 小屋の中を覗き込み、カビたベッドの上にいる老婆に声をかける。


「ああ、あなたはミラを、このスラムから連れ出してくださるのですか…! ありがたいことですが、私はもう長くありません。私のことは置いて__」


「やだ! ミラ、おばあちゃんと一緒にいたい!」


「だ、そうですよ。というわけで、問答無用です、よっと」


 体に負担がかからないよう丁寧に抱き上げ、例によってオオカミの背に。


「なら、私達は降りた方が良いでしょうか」


「では、自分の足で歩きますわ」


 二人の秘書は、定員オーバーしたオオカミの背から降りるようとする。けれど__


「だーめ。君たちも功労者なんだから。手を穢させてしまって、すまない」


「……あなたの為ならば、些事です」


 降りたシルヴァをお姫様抱っこ。ダッキには背を向けながら目を合わせ、乗るように促した。


「さ、戻るよー」


 行きのゆっくりさがウソのように、エイジはアクロバティックに建物の間や上をぴょんぴょん跳ねて進んでいく。それに追いつこうとするオオカミも速度を上げ……


「お、おい、危ねえよしっかり掴まれ⁉︎」


「おーい、安全運転でいいよ〜。急がずゆっくりな」


 幼女と老婆が振り落とされないよう、必死に押さえるガデッサ。見かねたエイジは速度を落とし。それからはゆっくりと、元の広間へ戻ってきた。


「さて、到着だ。降りて」


 シルヴァとダッキを下ろし、オオカミの背からも降りるのを手伝ってやる。降りた幼女たちは、厳つい闘士達を見てビクビクしている。


「じゃガデッサ、そろそろ返して」


「あ? 斧なら既に__」


「マント」


「……ほらよ。……ちったぁ、アタシのせいで臭くなってるかもしれんが」


「気にしないさ。それに、言うほど悪い匂いでもない」


 何だかとっても複雑そうな表情だ。サバサバした彼女にも、乙女なところはあるのだなと微笑ましくなる。


「あ、あー……では、ここにいる者たちに伝達事項があるので通達しておきますと」


 その広間で、彼は声を張り上げる。


「私はこれから拠点に帰還し、君達を運ぶための荷馬隊を連れて来ます。到着は恐らく明日。それまでの間に、親しい者と別れを済ませておくなり、或いは魔王国に勧誘するなりお好きにどうぞ‼︎ というわけで、オレは一旦戻るが……ダッキ、ここで留守を頼めるか。何かあったら自己判断で対応を頼む」


「むぅ……分かりましたわ」


 不満ではあるが、命では仕方ない。渋々と広間の端に行き、座り込んでしまった。


「ではシルヴァ、帰還するぞ」


「はっ!」


 その場を同僚と部下に任せ、エイジは再び三対の翼を広げると、拠点まで音速飛翔を開始した。




 さて、色々あったように思えるが、今はまだ昼過ぎである。エイジ自身このことに驚きながらも、あっという間に拠点に帰り、荷馬隊派遣の相談と手配をしていた頃だ。


「エイジ様ー!」


 王都方面より飛竜騎士が数騎、全速力で拠点へ飛んで来るのが目に入った。彼等はエイジの近くへ着陸するなり、焦った様子で駆け寄ってくる。


「どうした、何事だ」


「それが……本日のルイス王国建国記念式典にて、パレードに参加していた王妃及び王女が、何者かに誘拐されたもよ__ゲホッゴホッ…」


「成程、理解した」


 その情報をエイジは頭に入れて咀嚼、どうしたものかと考える。


「何故それを私達に? 王国の妃など、我々には__」


「ダッキ様から、何としてもできうる限り早く、エイジ様にお伝えするように申し付けられまして」


「そうか……ふっ、流石はダッキ、よくやった‼︎ フハハハ! コイツは、超ラッキーじゃねえか! 過去最高に間が良いぜ‼︎」


 高笑いしたエイジは、翼を再び広げ、飛翔体勢に入る。


「あ、いや……この情報、もしかしてオレが王都から出た直後の出来事? だとしたら無駄足踏んで……結局間が悪いじゃねえか!」


「な、何故ですか⁉︎」


 未だ、何故エイジが喜んでいるのかイマイチ分かっていないシルヴァ。兎も角エイジが動くというならということで、彼の傍へ駆け寄る。


「ふ……ここでオレたちが王妃を救出したら、どうなる?」


「……ッ! 恩を売ることが出来る⁉︎」


「その通りだ。そうすれば、今後の貿易などを有利に展開できる。この機を逃す手はないよ。じゃ、行くぜシルヴァ。過去最高にブッ飛ばす‼︎」


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