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魔王国の宰相  作者: 佐伯アルト
Ⅵ 宰相の諸国視察記 前編

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3節 地下中央闘技場 ⑥

「フンッ、これで終わりじゃないんだろ⁉︎ とっとと次、掛かって来いやぁ! ………ッ!」


 触手生物が次々と刻まれていたために、段取りよく次の魔物の用意をしていたのだろう。殲滅直後にゲートは開き敵が現れる。しかし、ソレに対して、彼は言葉を失った。


 様々な動物や魔物の体が継ぎ接ぎにされた怪物、合成獣キメラだ。しかも恐らくこの個体は、失敗作だ。魔術の心得がある者ならば直ぐ分かる。適合が上手くいっていないようで、拒絶反応に苦しんでいる。況してや獣人、いや、幻獣の血が入っている彼にはその苦しみが痛いほどに分かってしまう。


「……許せねぇ!」


 こいつはただ、苦しくて暴れているのだ。エイジは弓を取り出す。マリナから貰った、特上の武器。


「せめて一撃で終わらせよう。今、楽にしてやるからな」


 魔力の弦を張る。矢を番え静かに、限界まで引き絞る。弓に魔力を通わせ威力を上げる。静かながら鮮明に迸るその魔力の波動に、皆が圧倒されていた。


 この只ならぬ雰囲気に気圧されたか、キメラは僅かにたじろいだ。だが、一度吼えると彼に向かって真っ直ぐ突っ込む。その獣と一瞬目が合い、その瞬間、彼は手を離した。


 放たれた矢は吸い込まれるようにキメラの脳天を貫き、哀れな獣は苦痛を感じる間も無く生命活動を停止した。


 静寂が辺りに満ちる。聞こえるのは貫かれた闘技場の壁が崩れる音だけだ。そんな中、彼は合成獣の亡骸に近寄る。頬を一度撫でて十字を切り、この地の鎮魂句を唱え、魔術で亡骸を焚く。


「どうか、安らかに」


 供養を終えたエイジは、顔を上げる。その目の前では__


「オイ、周りを見ろ! ヤバいぞ!」


 どうやら、息つく暇も無いらしい。ゲートからは亜人と魔獣に加えてアンデッドが、水中からはローパーやワニなど水棲系の魔獣が、上空からは鳥系の魔物に飛竜が。次々とフィールドを埋め尽くさんばかりに現れる。


「……ったく、どんだけいやがるってんだ」


「そろそろ、お前でも魔力がしんどくなってくるんじゃねえか⁉︎ どうするよ!」


 どうやら、闘技場の係も同じように思っているようだ。そろそろ限界。そう考えて、最後に数で圧倒しようというつもりだろう。だがしかし。


「はっ、無礼られたもんだな! ならば__新技お披露目といこうか! 三割だ」


 エイジが取り出すは、愛剣アロンダイト。顔の前で構えると、その刀身は青白い輝きを帯びる。そして、その剣を振るう__ことはなく、なんとそのまま構えを解いた。


「……オレに与えられた能力の中には、物質変形能力がある。だがその本質は、武器作成能力である。そしてそれは、物質だけではなく……」


 左手を上げると、彼の周囲に紅い、蒼い、緑黄橙紫白、様々な属性を帯びた、色彩鮮やかな光を放つ半透明の剣が浮かぶ。


「魔力にも効果があるのだよ。そして、オレとアロンダイトの付き合いは、五ヶ月になろうとしている。この能力には物体の構造を把握する機能もあるからな、これだけ長く握っていれば隅々まで把握できるというもの。つまり魔力を変形させて、この子と同じ形状にするのは容易いことなのさ」


 優雅な動作で剣を仕舞って右手を上げると、さらに追加で何本も剣が展開される。その数は数百、闘技場を埋め尽くさんと迫る魔物を遥かに超える。


「では。舞い踊れ、幻想の剣よ……『Fantasiaファンタジア Bladeブレード』‼︎」


 右手を突き出す。それと同時に半透明の魔力剣は次々と飛翔し、敵を切り裂く。例え通り過ぎたとしても、エイジがクイっと指を動かせば軌道を変更、追尾し突き刺さる。観客席には秘書がいるからだろう、細やかな動きにより観客席に飛んでいくことはなかった。


「終わりだ! 『Destructionデストラクション』‼︎」


 敵と武舞台に刺さった夥しい量の魔力剣。エイジが指を鳴らすと一際大きな輝きを放ち、爆裂する。


「フッハハハ‼︎ 綺麗なもんだな! まるで花火だぁ!」


 腕を大仰に広げると、不敵な笑みを浮かべる。その有様には、ガデッサも呆然としていた。


「もう終わりかな?」


 まだまだ余裕だと煽ってやる。すると躍起になったのか、奥の手である最終の一体を寄越すそうだ。しかし、最後ともなればなかなかの__


「ッ…! お前らは離れろ‼︎ ……ふふっ、まさか幻獣とはなあ!」


 ゲートが開いて現れたのは狼型の幻獣。劣悪な環境にいたためか薄汚れているが、本来は白銀の如く輝くであろう青白い麗しい毛並みをしている。しかし流石は幻獣、今までのお遊びとは違う。肌でピリピリ感じるプレッシャー、あの時のダッキ以上だ。


「こんなところで相見える羽目になろうとは……」


 エイジが警戒を向けると、それに呼応したか、全身に紫電を纏う。次の瞬間__


「ッ…! 流石は……」


 弾けるように飛び掛かる。ギリギリで避けたが、さっきまで彼がいた場所が爪で切り裂かれた。と思っていたら、衝撃を感じた脇腹を見ると、シャツが解れていた。


「マジか……風属性も扱うのかよ……」


 避けたとしても、風を纏うことで攻撃範囲が広がり、姿勢を崩させたり、追加で攻撃が入るということか。後ろを振り向き幻獣の姿を捉えると、紫電と、黄緑色の可視化できる風を纏っていた。


「へえ、なかなかやる……ふふっ、面白い! ならば打ち倒し、オレが飼ってやるよ‼︎」


 エイジの宣言と同時、再度飛びかかって噛み付いてくるが、倒れ込むように伏せて躱す。狼は外した反動でバランスを崩す。かと思いきや、着地した瞬間地を蹴って飛び上がり、風を纏ってバランスを整えながら飛んでいる。


「マジか……マジヤベェ……ん? あの動き……」


 と思ったも束の間、急降下して爪を叩きつけてくる。下がって躱し、追撃の雷撃を地形操作した壁で防ぐ。それを跳び越えつつ、前転しながら尻尾を叩きつけて来るのを、横に飛び込み躱す。


 側から見れば、怒涛の連続攻撃を前に反撃できないように見えるだろう。だが、違う。


「無理くり体を動かしてる?」


 違和感を確かめるために、敢えて攻撃させ観察しているのだ。本来なら隙に差し込むどころか、一撃さえ放たせることなく倒せるものを、態々観察する為に。


「感じられるオーラの割には魔力攻撃が弱い……動きがぎこちない………ッ! そうか!」


 あの狼以外の魔力を感じる。それが鍵だ。だが、確認するにはどうすれば。


 と考えながら攻撃を避け続けていると、反撃がないのを警戒したか大きく飛び退いた。そして、彼を注視しながら姿勢を低くし、体に力と魔力を溜めている。大技が来る。


 察した次の瞬間、爆ぜるようにエイジに飛びかかり、二属性を纏った牙で噛み付く。その攻撃を、彼は避けなかった。その顎の大きさは、上半身全てを食い千切れるほどだ。彼とて防御を最大限高めているとはいえ、幻獣の咬合力は相当のもの、かなり痛い。


 それでも、その状態で敵意を解くと、驚いたように狼もまた噛む力を緩めて退がり、目の前でお座りした。


「よーしよし、お利口さん」


 ゆっくり歩いて近づき、首に抱きつく。そして、撫でながら弄ると。


「見つけた。……今、外してやるからな」


 この幻獣には、首輪の如く魔術がかけられていた。それが枷となって、能力を十分に発揮できなかったようだ。


「これだけじゃないね? 見せておくれ」


 幻獣は完全に警戒を解いて無抵抗。調べてみると、四肢と尻尾の付け根、計六つもの拘束魔術がかかっていた。何故人間が幻獣を制御できているのか疑問だったが、このランク5にもなる魔術のお陰だったようだ。


 恐らくは、この幻獣が油断している隙に捕獲され、その際にかけられたのだろう。そして、この闘技場で見せ物の為に買われ。閉じ込める時には拘束を最大にして、戦わせるときは緩めた。そうやって管理されてきた。


「苦しかったろう? だが、もう大丈夫だ。キミは自由になったんだ」


 幻獣は人の言葉を解するほど知能の高い個体が多い。そうでなくとも、彼の翻訳能力や幻獣同士語気のニュアンスで通じているだろう。だが、逃げない。それどころか、クゥーンと鳴いて体を擦り寄せてきた。


「これ食べるかい?」


 美味な草食魔獣の肉と、真水を皿に注いでやると、警戒する様子もなくガツガツと食べ出した。


「お前、オレと来るか?」


 その言葉に、狼の幻獣は遠吠えで返した。


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