3節 地下中央闘技場 ⑤
「さて、どうやら漸く、魔物投入のようだな」
舞台に残った三十人弱は、中央に集まり身構える。人同士の戦いは終わり、これからは剣闘士対、人ならざるモノ達との戦いになる。ならば、共闘しようという流れなのだろう。
「つまり、やっとオレの出番ってわけだ。オレは本来、そいつらを相手する為に来たのだからな」
剣闘士達から離れるように、エイジは歩みを進める。と同時に、四つあるゲートが開く。そこから現れたのは……五十を超えるゴブリンやオークなどの亜人族。女性陣の顔が一瞬にして引き攣った。
「そりゃ、良いイメージは無いでしょうよ。ここはオレがやるから、下がってな」
ある武器を取り出す。それは、ボウガンだ。
「魔銃が正式ロールアウトしてねえし、これ使うしかねえってな」
不満そうな顔だが、その腕は以前より上がっていて。
「ギャッ…!」
眉間や胸など弱点を正確に撃ち抜いていく。近付くことすら許されず、亜人族は次々と断末魔をあげて倒れていく。
「てめえらは、どちらかというと美味しい思いしてたんだろ? だったら助ける義理はねえな」
仲間の同族ではあるが、コイツ等が同じ存在とは思えない。生態、立場、行動原理が全く異なるからだ。であるならば、同情の余地はない。
そうして冷淡に引き金を引き続け。一分と少しが経つ頃には、全て沈黙していた。
「ま、こんなもんだよなぁ。けど、数の暴力だ。勝ち残った少人数で相手するのはしんどいだろうねえ」
魔力弦を消し、肩に担いで涼しげな顔。
「んお? まだいんのか」
再び開くと、先程よりも大量の小鬼達が現れる。
「チッ、めんどくせえな……」
加えて、狼や牛などの魔獣達もいる。
「……可哀想だけど、ごめんよ。グリダヴォル!」
動物達を見ると一瞬憐れむような表情をしたが、直ぐに引き締める。一つの入り口には、出て来るそばから狙い撃っていき。残った三方向を向くと、左手で杖を掲げる。
「魔術陣、一斉展開!」
掲げた杖を中心として空間を侵食するように、連鎖的に次々と魔術陣が展開されていく。ぎっしりと、壁でも作るかのように数十の魔術が展開されたのち__
「Full Fire‼︎」
一瞬の間を挟んで一斉炸裂。穿ち貫き、焼き焦がし、切り裂き、打ち据え、砕き潰し。轟音爆風閃光が過ぎ去った跡には、生命の気配が感じられなかった。
「これで分かっただろう? ボクは近接戦闘より魔術戦の方が得意なんだ。だから魔術師を名乗ってる。けど、キミらくらいの相手だったら、殴った方が早いんだよね」
さも簡単なことであるかのように、余裕の顔だ。
「さあて、まだまだこんなモンじゃねえんだろ? 次のやつを出せよ……ほら、早く!」
最後の方の言葉は、怒気と殺気を帯びた低く悍ましいもので、睨まれた司会が怯えを見せる。そして焦った様子で、次を出せと裏へ怒鳴っている。また、殺気を直に向けられなかった者達、剣闘士や観客も先程の魔術斉射を見て、いつも通りにはいかない危機を感じ取ったらしく騒然となる。……その状況さえ楽しもうという猛者もいたが。
どうやら投入準備が整ったようだ。次のお相手は__
「うえっ……気持ちわる!」
ゲートから、何やらうねうねしたモンスターが現れた。そいつの至る所からは触手が生えていて、イソギンチャクのようだ。所謂ローパーか。エイジはどうやら生理的に受け付けないらしく、先程から視界に入れようともしない。その周りの女性陣も怯えている。
「気乗りはしねぇが……仕方ねえな。触手といえば、女性の天敵かもしれねえし……思い出したくもねえもん思い出しちまった」
異種◯大嫌いなエイジは、トラウマを抉られでもしたのか敵意を漲らせる。
「巻き込まれないように離れろ。少々、派手にいく‼︎」
そう注意して、二本の剣を手にする。形状はカッターナイフのような、真っ直ぐで薄く細い片刃のもの。
そして刃を目標へ指すと、突っ込む。当然の如く触手が伸びてくるが、彼には通用しない。伸びて来たものから順に斬り落とす。
「オラァ‼︎」
触手とすれ違うように突き進み、すんでの所で避けて切り落とし本体へ接近。ズタズタに掻っ捌く。
「へッ……なンだよ、もう終わりか?」
右の剣を肩に担ぎ、左の方は突きつけて、気を抜いて観客達を挑発していると。
「っと、囲まれたか」
舞台の縁の水から、先程と同じモンスターが何体も出現していた。どうすべきか迷っていると案の定触手に囲まれ、四方八方から襲いくる。だが、双剣乱舞、全て切り刻む。流石にこれには怯んだか、攻撃が止む。その隙に本体を両断しようとするが、
「しまった!」
触手に四肢を拘束されてしまう。その僅かな時間に、切り落とした触手も一瞬で再生してしまった。そして、拘束した獲物にトドメを刺そうと、一際太く鋭い触手が狙うが__
「……なんてな。ハアアアア!」
全身に魔力を漲らせ、一気に放電する。空気中において放電すると威力は減衰してしまうが、今は敵と接触している。しかも雷は一瞬だが、この電撃は二秒ほど持続する。電圧や電流こそ本物の雷には劣るが、その威力の程は目の前で丸焦げになっている物体が証明している。
「ふっ……へっ!」
剣から手を離し、巻きつかれてヌルヌルになってしまった体に、魔術をかけて綺麗にする。粘液にどのような特性があるのか定かではないために放ってはおけないし、何より気持ち悪いから。
「きゃああ‼︎」
一休みしていると、悲鳴が聞こえる。振り返ると、他の闘士達が次々と触手に絡め取られていた。
「ッ、なにっ⁉︎」
後ろに気を取られていると、彼の目の前にもローパーが。気付いた頃には再び巻きつかれていた。しかもそいつは、他の戦士も捕らえている。放電は使えない。
「くっ、ピンチ__な訳ねぇだろ‼︎ これならどうよ⁉︎」
今度は全身から放熱し、発火する。これには堪らず触手を離し、水中に退避した。ほっとしたのも束の間、また別の触手に拘束されるが__
「芸がないなあ‼︎」
今度は冷気を放つ。触手は粘液を纏っていて、且つ少し前まで水中に潜んでいたこともあり、水分を多く含んでいるので忽ち凍りつく。そこを強引に動くことで、容易く砕ける。序でに全体も凍らせて、ハンマーで粉々に砕いた。
「もう流石に、油断しねえぞ!」
次の触手攻撃は容易く避けて、魔術を展開。掌の陣から風刃が幾重も放たれ、切り刻んだ。水中に逃げ込んだ個体も忘れない。本体のあるであろう場所に、闇属性の塊を撃ち込む。闇弾が直撃すると、その闇が侵食。ローパーを飲み込み、溶かしてゆく。闇が霧散すると、そこにはもう何もなかった。
さて、残るは一際大きい個体だ。既に何人もの選手が拘束されている。ガデッサもだ。そんな彼女に、エイジはのんびりと声をかける。
「おーい、助けてあげようか?」
「なにしてる! とっとと助けろ!」
彼女の手に武器は無い。目線を落とすと、真下に落ちていた。そんな彼女は何本もの触手に絡みつかれ、今にも呑み込まれそうになっている。
「それが、助けを求める人の態度かあ?」
「う……た、助けてください!」
「へいへい。じゃあいきまっせ、武器召喚‼︎」
手を高く掲げると同時に、周囲に大量の剣が現れる。
「いけ!」
手を振り下ろすと同時に剣が飛んでいき、繊細且つ滑らかな動きで選手達を拘束していた触手を切り落とす。そして落ちてきた彼等を、一人一人キャッチしていく。
「さてと、ガデッサさんや」
助け出した彼女に、能力で手繰り寄せた斧を手渡して。
「実はこの武器、まだ機能はあるぜ。オレは複合兵装が好きでね。という訳で、ヤロウに先端を向けて、その引き金を二回引いてみな」
狙いを定め、ガデッサはレバーを一度引く。すると、ガチャンという音が鳴る。ただし、ガデッサからは何が変わったのか判別することはできなかった。言われるまま、もう一度引き金を引くと__
「おわっ!」
頑強なガデッサでさえ反動で大きく仰け反る程の砲撃が、筒の先端より放たれる。その魔力砲は、ローパーを貫いて尚あまりある威力で壁を穿つ。ど真ん中に大きな風穴を開けられて無事である筈もなく、触手は力無く垂れた。
「これで終わりだ」
エイジは大きく飛び上がると、真上から極太ビームを発射。その光はモンスターを飲み込み、その跡には何も残っていなかった。
「クッハハハ‼︎ どおだザマァみろ‼︎ オレがいる限りぃ……薄い本的お約束展開なんざ起こり得ねぇんだよォ‼︎」
「「「…………」」」
唖然。哄笑を上げる彼を見て、選手も観客もスタッフも恐れ慄く。敵は確かに人外だが、此方の方が余程のバケモノだ。異形であろうが手慣れた様子で難なく蹂躙し、快進撃は止まることを知らない。
そんな奴を生かしておいたら、満足させられなければ、解き放たれてしまったら。多少の違いはあるにせよ、開催側はそんなことを思った筈だ。想像以上の脅威を前にして、狂ったように次戦の用意を推し進める。




