2節 アンチデモンズ ②
そのエレベーターから降りてすぐの広場に出て、暫く進むと__
「そこの者、待ちたまえ!」
真正面に複数の者が立ち塞がる。
「あ〜あ、マジかよ……予想はしてたが、まさか降りて直ぐとは……」
声をかけてきた者は、どうやら王国の憲兵か何かのようだ。彼等は自分に用がある、それは間違いない。ならば、この無関係な少女達を巻き込むわけにはいかない。
「ミラ、カヤを連れて早く下に逃げろ。あと、この金を渡しておく。オレはまたこの国に来て君達に会うつもりだが、暫くの間はこれで食い繋げ」
ただならぬ雰囲気を察したか、何も聞かず素直に従う。彼女等がこの場から離れたことを確認すると、兵士達に向き直った。
「やあ、私に何か用かな?」
「ああ、あるとも。貴様、魔王の手の者だな?」
「おや、バレてしまっていたか。如何にも。私は魔王国の関係者だとも。それで?」
こんなに早く察されてしまうとは、想定外。とはいえ、この都市の上空を魔力を放射しながら滑空し、下で暴れたとなれば、魔族が現れたと察するには十分か。
「無論、捕縛させていただく。抵抗するようなら、討伐するまで! アンチデモンズを呼べ‼︎」
「アンチ、デモンズだぁ?」
号令が掛かる。その瞬間どこからか兵士達が現れる。兵装はより高品質で、動きにも無駄がない。
「私達は対魔王軍特殊部隊、アンチデモンズ。この国を守るため、貴様をこの場で無力化させてもらう!」
その言葉と同時に、四十名近くの兵士に囲まれる。流石は格上想定の特殊部隊と言うべきか、他の兵士との練度の差は比較にならない。
「ほーう、それは大きく出たな」
冷静に周囲を分析するが、割とピンチなようだ。少し前の彼ならば、だが。最前に重装、その背後に軽歩兵。やや後ろに支援魔術師と、妨害、攻撃魔術師。そしてその護衛。周囲の建物の影や屋根には、弓兵がスタンバイしている。隙のない完璧な布陣だ、油断はできない。封印を平時の10から20まで解放し、偽装も解く。
「素晴らしいね、完璧な布陣だ。しかもオレが様子を伺っている間も、妨害魔術をコソコソ掛けようとしている。これは結構危ないかもしれないな。ここにいるのがオレでなければ、だが」
警戒を意にも介さず、そのままスタスタと横に歩く。そして広場の隅に落ちている、やや細めの鉄パイプを右手で拾い上げて、広場の中央に戻り構える。と同時に魔力を流し、武器に強化を施した。
「君等なんかこれで十分だ。さあ、かかってきなさい。遊んであげよう」
鉄パイプをクイクイして煽る。
「我らアンチデモンズを無礼るなよ‼︎」
その言葉と共に、全兵士が臨戦態勢に入る。じりじりと前衛が間合いを詰めてくる。しかし__
「残念、君らは初手を誤った」
左手をゆっくり持ち上げ、人差し指を彼等の後方の支援術師に向ける。
「バーン」
指先からビームを放つ。ビームは術師に着弾し、爆発。ギョッとして振り返った彼らの目には、ビームが直撃して黒焦げになった術師とその護衛が目に入った。
「大丈夫だよ、殺さないように威力は抑えた。まあ、すぐに治療しないと再起不能になっちゃうけどね。さて、遊んであげると言っただろう? さあ、かかって来な!」
「キサマ……おのれ‼︎ 全術師、全弓兵、掃射‼︎」
四方八方から魔術と矢が降り注ぐ。しかしこんな攻撃、防御の必要もない。全弾モロにくらって周囲が黒煙に包まれる。がしかし、直後にパイプを振り抜き、煙を霧散させる。攻撃はコートに全て弾かれている。
「残念ながら、この程度の攻撃、痛くも痒くもないな。ちょっと煙たいくらい」
やれやれと肩を上げて戯けて見せる。
「ぐっ、近接兵、突撃!」
今度は近接兵がかかってくるが、焦った様子の指示だったために、タイミングがバラバラ。折角の陣形が台無しだ。
正面から切り掛かってくる兵の攻撃を、左足を引き右へ体捌きのみで躱して、そのまま背中を叩く。左側、今の正面からの攻撃を受け止め、腹に横蹴り。背後から殺気を感じると、その場で飛び上がって宙返り。そして慌てて振り返ったところを、顎目掛けて上段に突く。右斜め後ろからの突きへの対処は、刀身を叩いて受け流し面を打つ二段打ち。後ろからの斬撃は、振り返りざま全力で振り抜き、武器ごと敵を吹き飛ばした。
「あれ、もう終わりかな?」
突撃の機会を失った重装兵を尻目に、狙撃兵のいるであろう箇所をビームで撃ち抜いていく。粗方撃ったら、幾つか中級魔術を同時発動し、攻撃をの隙をついて重装兵も吹き飛ばす。
「おやおや拍子抜けだ。随所に対魔族戦の経験不足が伺えるが、もしかして、これが初陣だったのかな? それは申し訳ないことをしたなぁ。相手が最強格のオレとはねぇ」
周りで呻きながらも立ち上がる兵士達。その様子を、エイジは棒を弄びニヤニヤしながら眺めている。
「ほら、陣形を立て直す時間をあげるよ。さあ、もう一度やってごらんなさい」
陣形が整えられ、号令の下再び一斉攻撃が為される。斬撃、刺突、射撃、魔術、今度は全ての攻撃のタイミングが揃った。これは流石に避けきれない。ならば__
「ハア‼︎」
魔力を爆散させ、全ての攻撃を吹き飛ばす。瞬間吹き荒れた余波は、広場に面している家屋の壁を抉り取るほどの威力。その爆風で、弱っていた兵達は力尽きてしまったようだ。完全に静まり返ってしまった。
「やれやれ、少し本気を出してしまったか」
そして鉄パイプを放り捨て、奥の方でへたり込んで震えている回復術師に歩み寄る。そして、掌を顔に向ける。
「ひっ…!」
手に魔力を込め、ニヤリと笑って、
「ふっ、いい不意打ちだ‼︎」
振り返りざま左眼の魔眼を発動し、後ろから切りかかってきた者の動きを止める。切り掛かってきた者は、さっき指揮を取っていた男のようだ。
「な、なんだこれは……⁉︎」
「はい、お疲れ様〜」
眉間を殴って気絶させる。術師にも額にデコピンすると同時に催眠をかけ、眠らせる。
「これで全滅っと。しかし、案外優秀な兵達だったな。部下にしたかったくらいだ。まあ、対オレ等用の為に編成された部隊だから無理だろうがな……」
と呟いたのも束の間。
「よくも、私の部下をやってくれたな!」
広場中央奥から、馬に乗った何者かが現れた。




