1節 王国地下スラム ④
何事もなく大通りに戻り、帰ろうとするミラ。しかし今度は……
「そら、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 新しい奴隷の入荷だぞ!」
奴隷の露天商だ。大通りには、上から降りてくる貴族や富豪、スラムでも金持ちの者が集まるらしく、上では表立っては出来ない奴隷などの闇商売が平然と行われている。そして、ミラの目線の先には一人の奴隷が。見たところ、その奴隷はミラと同じくらいの年齢の少女だ。見窄らしい服から覗く所々には殴打されたような痣があり、痛々しい。
「あの子は……」
そう言うと、ミラは露天商の主人の下に駆け寄って行く。
「おじさん、この子はおいくらですか?」
「ああん? こいつは2000Rだ」
「そ、そんな……」
「当然だろう。貧弱だが、まだまだ働ける子供だ。しかも、この年齢の幼女は特殊な趣味のある客によく売れる。高額なのは当たり前だ」
残酷な現実の前に項垂れるミラ。恐らく彼女は、自分と同じ年齢の子が奴隷として扱われるのを助けたいのだろう。それなら、此方とも利益が合致する。
「オイ」
「うん? ……おっと!」
白金貨を二枚弾く。最早偽ることもなく、低い地声を出す。
「これで十分か」
「ええ! 毎度あり!」
首、手、足に枷が嵌められた奴隷が連れて来られ、鍵が渡される。
「お、お兄さん………」
こちらを不安げに見上げるミラ。その視線を感じながら、購入した奴隷の枷を引く。
「ミラ、ついてきなさい」
エイジは奴隷を連れて、近くの路地裏に入る。この場の三人(と秘書)以外に人目がないことを確認すると、鍵を使って枷を外してやる。奴隷の少女はというと、その行いにとても戸惑っているようだった。
「お兄さん……!」
ミラの視線は、さっきの不安そうな、不審な視線から、安心と信頼の目線に変わった。
「ほら、食べなさい」
能力を使って、パンとミルクを取り出し渡す。だが、少女はなかなか手をつけない。
「食べろ。これは命令だ」
ここまで言われてやっと口に運んだ。
パンを貪るように食った少女の頭にゆっくり手を近づける。彼女は怯えたようにやや避けたが、優しく頭に置くと、不思議そうにこちらを見上げた。
「回復。浄化」
魔術を使い、体の傷を直し汚れを浄化する。直後、ボロ布を破り捨てる。
「ふええ⁉︎」
ミラの困惑した声が聞こえるが無視する。破った直後に、粗悪ではあるがさっきよりはマシな服を出し、被せる。亜人族が来ている服を少し改良した、コストの低い綿の服だ。
「もうちょっといい服はないの?」
「見ただろう。奴隷達はぞんざいに扱われることに慣れ過ぎていて、突然一般人と同じ扱いをされても困惑するだけだ。少しずつ、少しずつ一般人に近づけていけばいいのさ」
靴も履かせたところで、奴隷の少女に問う。
「君、名前は?」
「なまえ?」
「名前も無いのか……」
「じゃあ……カヤちゃん!」
買ったのはエイジなのに、勝手に名前を決められてしまった。まあ、そこまで気にしないが。
「カ……ヤ……?」
自分に名前が与えられたことに困惑しているようだ。
「なんで…こんな…優しく…してくれるんですか?」
「勘違いするなよ。みすぼらしい奴隷を連れているようでは、このオレの品性が疑われるかもしれん。そんなのは御免なだけだ。さて、ミラ。今度こそ、まっすぐ帰るんだぞ」
奴隷に対する扱いを考えた言葉ではあるが、セリフだけみれば、素直じゃないようにしか感じられないようなことを言うのだった。




