1節 王国地下スラム ①
ルイス王国。大陸の南東部、全体の四分の一を占める広さを持つ、大国の一つだ。王国は帝国の次に栄えており、民は皆幸福な生活を送っている。
しかし、光あれば影あり。王国には根強い奴隷制度が定着している。平民や貴族は裕福だが、労働者や奴隷がその割を食っている。
先程、民達は、と述べたが、その民の中に人ならざる扱いの奴隷達は含まれていないということだ。
そしてその奴隷は、人間のみに非ず。奴隷には獣人やエルフ、その他魔族等も含まれている。他族との和平条約に奴隷の解放および保護が要件に含まれている他、魔王国の利益のためにも、王国の奴隷達は要保護対象なのである。
さて、王国には先程述べた貧富の差の大きさから、スラムが存在している。帝国との国境付近と、王都近郊から地下にかけては、特に大きな二つのスラムが形成されている。
今回エイジは、王都近郊のスラムへ向かうことにした。そこならば、序でに王都の視察も可能であろう。国境付近の視察は後で行う。
__いやしかし、他国の視察を宰相自ら単身で行うとは、我ながらアクティブ過ぎるな__
とは彼自身思う。本当は魔王城の奥の執務室に引き篭って、黙々と作業をしていた方が良いのではあるが、外交もしなくてはならない以上、他国の情勢を自らの目で確認し学ぶ必要がある。その為には、多少事務作業を犠牲にするのも已むなし。
さて、いよいよ王国の視察に向かうわけだが、奴隷や労働者の問題は丁重に扱わければならない。そもそも彼は奴隷というものに馴染みがなく、魔王国側にもこの件に関しては非常にデリケートな人がいるから。
魔王国船団、王国領東岸に到着から、約十六時間後。
「だあっ! 寝坊‼︎」
エイジが船室から飛び出してくる。結局夜遅くまでフライトをしていたからか、生活リズムが崩れたらしい。目覚ましが無いのは彼にとって致命的である。
外へ出るなり周りを見渡せば、仮拠点が目に入る。岸壁設備は補強され、転移ゲートを守る為の祠も建てられている。工場地帯の仮設本部のような、簡易的な休憩所もできていた。随行船は一足先に帰投したらしい、姿は無い。
「おっと、もう行くのか?」
幹部達は、船のすぐ前で待っていた。どうやら暇を持て余しているらしい。既に何人かの姿はなかった。
「ああ、王都にな。まあ、夜には戻ってくるけど」
船から降りたエイジは、三対の翼を広げる。
「おおっ…」
幾人かは息を飲む。展開された翼は、禍々しい悪魔の翼、艶やかな堕天使の翼。そして、煌めく龍の銀翼。紅紫銀のエネルギーが放出されるその様は、どこか神々しさすらある。
「んじゃ、行ってくる。君達は交代制で整備を進めておいてくれ。あと、追い出されないように守っておいてね」
彼等には、視察がある程度進むまでに仮拠点を作らせておく。帰還次第本格化。此処を拠点として、王国との交流をするつもりなのだから。
「さて…」
魔力放射の反動で既に軽く浮いているエイジは、再び周りを見渡して__
「行くよ、シルヴァ」
ソワソワしていた彼女に声をかける。
「ッ…! はいっ! 私は何時でも、御身の側に」
此度こそは同行できる。余程置いてけぼりにされなかったことが嬉しかったようだ、大きなリアクションこそないけれど、喜んでいる雰囲気がエイジには強く感じられた。
彼が背中を向けると、察して背中に飛びつく。そして強く手足を絡ませ、しがみついた。
「昨日のうちに地理はいくらか把握した。飛ばすから、しっかり捕まってろよ! エイジ、目標へ飛翔する‼︎」




