第九話 いつからクレア呼びになったのですか?
アルバートside
まさか、嫌われていると思い込まされていたとは、五歳にして流石賢者の生まれ変わりと噂されていただけはあります。
腕の中で気を失ってしまったクレアを見ると、すこし意地悪をしすぎてしまったかと反省です。
昨日気がついたのですが、いつも仮面のように表情を貼り付けたクレアの慌てる姿をみて、もしかしてと試してみたのです。思っていたとおりですか。
男性に免疫がない。
それは今までの殆どを領地の復興のために時間を費やしていたために、遊ぶことに時間を浪費していなかったという意味でもあるのです。
そして、昔から仕えている使用人しか周りにいない。それにより周りはクレアを孫のように扱ってきたというのもあるのでしょう。
「はぁ、私などの身代わりにならなければ、今頃賢者として人々から持て囃されたことでしょう。そうすれば、私の手には届かない人に……私は貴女の人生を奪ってしまったことを悔いていたのです」
幼いクレアは笑って身代わりの魔法を使ってくれた。それも楽しみだと言って。
たぶんそれも、私に負い目を感じさせないためだったのでしょう。
だから、私は貴女を幸せにしようと思ったのです。嫌われていてもいい。
貴女が歩みたい道を歩めるように。
私が婚約者となれば、表立ってエルヴァイラ公爵家はファヴァール伯爵家を支援できると父上も好意的だった。
しかし、それをクレア自らが断ってきた。
支援など必要ないと。その言葉どおり、三年後には主要都市がほぼ元通りにまで、再興しているファヴァール伯爵領の姿があった。いや、更に災害対策が強化されていた。
その領地の姿を見ると私はますます、クレアが私の身代わりになることは無かったと思わされた。国として公爵家の次男よりも大賢者の血と知を持つクレアの方が重宝する。
だから、母を通じて国王陛下に進言したのです。ファヴァール伯爵家の血筋はこの国に残すべきだと。私を王命でクレアの婚約者にして欲しいと。
その時には貴族社会でファヴァール伯爵家の悪評が渦巻いていた。
クレアの叔父夫婦のこともでしたが、クレアがかなりアチラコチラに借金をしていることも相まっていたのです。
今でもその借金の返済をしているぐらいにです。
国王陛下からは一つ条件を出されました。
王太子のおもりをしろということでした。あまり素行がいいとは噂に聞かない王太子の側近にです。一度は笑顔で断りましたが、王位を譲渡するまでという条件が追加されたので、了承したのでした。
こうして強引にクレアの婚約者に収まったものの、やはり王太子の側近というものが邪魔でした。その所為も相まってクレアの態度が悪いと思っていたのですが……まさかの嘘。
それも幸せな未来を歩んで欲しいなど。
退職願をレイン殿下に送りつけておきましょう。
しかし慌てているクレアの姿はとても可愛いかった。このまま私の聖女でいて欲しい。
ああ、他の者たちに対しては今までとおりの態度でいいと思います。特に女好きのレイン殿下の前では、護衛を虫けらのように潰す姿でいいです。しかし未だに護衛を三十人を同時に地面に伏した魔法が何かわかりませんね。
*
クレアside
「は? 王太子殿下の護衛を倒した魔法ですか?」
私は馬車に揺られて、領地への帰路についています。その馬車の中にはアルバート様がいらっしゃいますが、もう少し離れていただけませんか?
「人は大気からも魔素を取り込んでいるのですよ。その魔素の供給を絶たれれば、陸に打ち上げられた魚同然です」
「さかな……」
あの……徐々に距離を取って、窓側に移動していたと言うのに、何故その分の距離を詰めてくるのでしょうか? 既に私は馬車の壁とアルバート様に挟まれた感じになっているのですが?
反対側に凄くスペースが空いているのですが?
「アルバート様。少し離れていただけませんか?」
「どうしてでしょう?」
どうしてもなにも! アルバート様の声が近すぎて私が耐えれません! っという私の性を口にすることなどできるはずもなく、口悪く言い返すのです。
「こんなに広いのですから! 近くにいる必要ありませんわよね! 私は向かい側に移動します!」
「おや? 愛しいクレアの側にいたいだけですよ」
ぐはっ!! 四つに増やした魔力貯蓄装置よ頑張れ! そして、私よ。耐えるのです。
そして、いつの間にクレア嬢からクレア呼びになったのですか? 心臓のバクバクが酷い。
「しかし、このように近くでなくてもよろしいかと思いますわ」
私は動いている馬車の中で立ち上がります。
領地にたどり着くまでの五日間も耐えれません。これはいっそのこと、後ろから護衛と共に付いてきている私の騎獣に乗って帰りたいですわ。
それなら、移動距離は三日で済みますもの。
その時、馬車が小石に乗り上げたのかガタンと揺れる。
「キャッ!」
バランスを取ろうと出した手を取られ、身体を引っ張られました。
「危ないですから、座っていましょうか」
ぐふっ……なんとアルバート様に抱えられているではないですか。さっきより危険度が上がっています。
「くっ……座るなら普通に座りたいです」
私はまだ王都の外に出ていないという現実と、この状況から現実逃避したい心情から、涙目でアルバート様の見上げます。
これが五日間、私が生き抜ける要素は皆無。
「クレアが可愛い過ぎる」
うぎゃゃゃゃゃゃ! この近さは致命的。
息も絶え絶えの私にアルバート様は追い討ちの言葉を告げて来ました。
「レイン殿下に追加の休暇願も送りつけましたから、収穫祭の準備も手伝いますよ」
「え? もう一度おっしゃっていただけます?」
私の耳がおかしくなったのでしょうか? 収穫祭の準備を手伝うということは領地に滞在するとか言っていますか?
私、生きていけるのでしょうか?
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