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第三話 なぜ私の寝室にいらっしゃるのでしょうか?

 目がぱちりと開きました。 

 

 視界に捉えた天井は王都での私の寝室の天井です。あら? 私が動けなくなると、近くの長椅子に寝かせられていることが多いですのに、もしかして年老いた身体にムチを打って私を運んでくれたのでしょうか?

 王都の屋敷には管理をしてくれている老夫婦しか居ないのですから。


 はぁ、申し訳ないわ。


 今日中には王都を立ちましょう。ここに来たのは元々建国記念パーティーに出席するためだったのです。

 それは昨日だったので、王都にはもう用はありません。


 ……くっ! まさかのアルバート様が推し声という誘惑もありますが、自分の責務を放置するほど愚かではありませんから。


 そうと決まれば早速準備をして、領地に帰りましょう。


 身を起こして、ベッドから降りようとし、違和感に気が付きました。

 私の目はおかしくなってしまったのでしょうか? あまりにも後ろ髪を引かれるので、アルバート様の幻覚を……なんてことでしょう! ベッドの近くで椅子に座って本を片手に、私に視線を向けている姿が。


 頭を押さえて深呼吸をします。

 私の頭よ正常に戻れ。さっさと戻って収穫祭の準備をしなければならないのです。こんなところで油を売っている暇はないのですよ。クレア!


「体調が悪いなら横になられたほうがいいのでは? いつも言っていますが、使用人を増やすべきです。なぜ王都の使用人が老夫婦しかいないのですか」


 ……この小言は本物のアルバート様のようです。なぜ、ここにいるのでしょうか?


「アルバート様。お帰りになられたのではないのですか?」


 私は顔を上げて、ここにいる理由を尋ねます。私が倒れると最低一時間は意識を失いますので、無駄な時間をここで過ごされたということになってしまいます。


「使用人に昨晩クレア嬢が倒れられた理由を聞いていたのですよ。すると、先程いたサロンから凄い音が聞こえてきたので、行ってみると貴女が倒れていたのですよ」

「それはご迷惑をおかけしました」


 くーっ! いつもの雑音の小言が、天の調べのように聞こえてきます!

 しかし、十歳から領地を治めている者としての表情を崩すことはありません。


「私への謝罪よりも、なぜ単騎駆で王都に来たのか聞きたいものですね」

「御者を務めている者が、ぎっくり腰になったので仕方がありませんわ」


 ぎっくり腰を起こした老人に長時間御者を勤めろというのは拷問のようなもの。ならば、私が騎獣に乗って王都に行けばいいこと、別に初めてのことではありませんし、騎獣自体が強いので問題がありません。


「貴女はご自分の立場を理解されているのですか?」


 ……あ……また始まってしまいました。わかっていますが、今日は大人しく最後まで拝聴しましょう。


 ファヴァール伯爵家という由緒正しい家柄の者が、共を伴わずに王都にくるなどどうなのかとか、家人を増やすべきだとか、野宿など死ぬ気なのかと。

 それで雨に降られて体調を崩すなど馬鹿ですかと……くっ……とてもいい。これがただのボイスドラマならもっと良かった。

 課金せずに無料で聞けるなんて……最高です!……私に向けてでなければ、ですが。


「……本当に大丈夫ですか?」


 いつもなら私が反論して、そのまま部屋を出ていくのがパターンなので、流石におかしいと思われたのでしょう。

 って凄く近くから声が!


 のけぞった拍子に力が抜けて、床に足がついたまま、ベッドの上に寝転がってしまうという不細工な格好になってしまいました。


「はぁ……大丈夫ですので、帰ってもらえますか?」


 私の視界は再び天井を映している。

 これはとても危険な状況だと、今気が付きました。これ……表情は取り繕うことができますが、この興奮は抑えられないという私の(さが)


「何が大丈夫なのですか。使用人が少ないここよりもエルヴァイラ公爵家に来ていただいた方が……」


 のぉぉぉぉぉ! 上から覗き込まれている!

 ちょっと待とうか……これはベッドにアルバート様に押さえつけられるという状況!

 いいえ、アルバート様は喋らなければいいのです。


 しかし。しかし。この近さで話されたら私の心臓がもちそうにありません。


「いつものことなので、問題ありません」


 だから、アルバート様の言葉を途中で止めます。誰がエルヴァイラ公爵家などに行きますか。


「問題はありますよ。そうですね。侍女をここに送りますので、単騎駆で領都に戻るのは止めてください」

「信用できない者を側に置くのは嫌です。ぶち殺したくなる」

「人を裁くのは止めなさい。それで一週間は寝込んだではないですか。人間不信もここまでくるとは困ったものですね。仕方がありません。今日は取り敢えずゆっくりと休んでください。また来ますから」


 アルバート様は私をベッドに戻して、部屋をでていきました。


 くっ! よく意識を保てましたわ。あのまま気絶してもおかしくない状況でした。

 魔力不全。普通に生活をしている分には問題ないと思っていましたが、とんでもない落とし穴があったものです。


 まさか、推し声に興奮して魔力の循環の低下が起こるなんて、私の死が発生してしまっている。


 はぁ、それに一週間寝込んだって、昔のことではないですか。叔父夫婦を始末したときのことです。


 あのときは感情的になりすぎたのが原因なので、仕方がありません。


「あ〜。尊死って現実に起こるものなのねぇ」


 そのまま意識を手放した。私はもう限界だったのでした。



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