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第一話 仮病を堂々と使う伯爵令嬢

「仮病を使うとは、如何なものなのですかね?」


 婚約者から言われた言葉に雷に打たれたような衝撃を感じました。

 こ……これは……こんなことがあってもいいのですか?


 その衝撃に私は呆然としてしまいます。


「何度も言っていますが、この婚約は家柄だけはいいファヴァール伯爵家の名を残すという意味があるのです」


 それは勿論わかっています。私の家はファヴァール伯爵家という建国時からある由緒正しき家です。しかし現在は借金を多く抱え伯爵家というのは名だけとなってしまったのです。


 しかし。しかしですよ。


 私は視線をちらりと上げて、目の前に座っている婚約者を視界にとどめます。はい、以前とお変わり無く室内でも光を反射している銀髪に、何かとご令嬢方から話題に上げられるほどの綺麗なお顔立ち、そしてミステリアスな色を宿した紫紺の瞳。

 私の記憶にある通りです。


「それなのに先日の夜会に来ないとは、国に対する忠義を疑われる行為です」


 そして、いつも通り厭味ったらしく言われました。


 しかしそれも仕方がありません。私は嫌われるように振る舞ってきたのですから。


 誕生日には贈り物はしないし、逆にもらったプレゼントには文句をいい。王都で顔を合わせてもけんか腰。

 極めつけが、国王陛下主催のパーティーをボイコットしたのはこれで三回目です。


 婚約関係を続けて五年目そろそろ婚約破棄でも言い渡されるのを首を長くしてまっているのです。


 え? 私から言い渡さないのかですって?


 私の婚約者はアルバート・エルヴァイラは王太子殿下に仕える者。エルヴァイラ公爵家の次男になります。

 そして私は借金を抱える伯爵令嬢。言えるわけがありません。


 アルバート様は普段は忙しく王城に詰めているのです。それにそろそろ国の主である王の世代交代をしようと準備中らしいのです。これは風の噂なので本人から聞いたことではないですが。

 ですから、どうしても出席しないといけないパーティーは王都まで足を運ぶものの、忙しいでしょうからと迎えを断り、シレっとボイコットするのです。


 まぁ、婚約者がいながら一人でいますと必ず、どこぞかのご令嬢から声がかかることでしょう。そのまま仲良くなっていただけないかと思っているものの。未だに婚約破棄を言い渡される様子がありません。



 しかし。しかし。まさかアルバート様が……。


 あ……よだれが!

 咄嗟に手に持っていた扇を顔の前で広げます。


「申し訳ございません。しかし体調がすぐれなかったのは本当のことです」

「でしたら、一言でも連絡をいただいたいものですね」


 連絡。はい、普通であれば行けない旨を使用人に託して連絡を入れるところですが、王都にいる使用人は、屋敷を管理してくれる老夫婦の二人のみ。それも足腰が悪くここから遠くに見える王城に行ってくれというのは酷というもの。


 今回は言い返す気力がありませんので素直に謝罪しました。


「申し訳ございません」


 私は粛々と頭を下げるのです。


「……体調が優れないのでしたら、長居は無用ですね。領地に戻るのは、少し休んでからにしなさい」

「はい。お忙しい中、足を運んでいただき申し訳ございませんでした」


 私が反論しないことで、体調が悪いと勘違いしてくれたのでしょう。アルバート様はいつもより小言が少なく、退出されました。




「くっ! 今までの私はなんて損をしていたのでしょう」


 手に持っている扇を握りしめて悔しさをぶつけます。


 まさかアルバート様が、推しの声優と同じ声だったとは!


 前世で毎週のように2.5次元の舞台に通い。推しが出演するアニメを録画し、エロゲームだろうが、BLだろうが網羅したのです。それがまさか今世でもそのお声が聞けるとは! これは……


「崇拝すべき神!」


 例え嫌われていようが、名前だけの婚約者だろうが、このまま結婚すれば毎日聞けるという天国の日々!


 はい。私は唐突として前世の記憶が湧いてでてきたのです。


 先程言った言葉には嘘はありません。体調を崩し、昨晩高熱にうなされ、気がつけば異世界に転生していたという事実に直面したのです。


 しかしそんなことよりも、全く興味がなかったアルバート様がまさかの推し声。この事実はこのまま結婚をしてもいいかもという選択肢が増えてきます。


 いいえ……しかし……ですが……。

 考えがまとまりませんので、お茶でも淹れ直しましょう。


 お茶を淹れに立ち上がろうとすれば、足に力が入らず、目の前にローテーブルが!


 あ……しまった。せめて深呼吸をしてから立ち上がるべきでした。


 ローテーブルに手をつこうと伸ばすも、その手も私の身体を支えるほどの力が入らず、なんとか頭を打つことは避けたものの、テーブルの上にあったティーカップを落としながら、床に崩れたのでした。


 あ〜高いティーカップが割れてしまいました。



読んでいただきましてありがとうございます。



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