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四話

「話してくれてありがとう。君の話を聞いて、僕もフィクトセクシュアルなんだなって知ったよ。この言葉は知らなかったから」

「意外と知らない人多いと思う。でも、知らないからって差別しないでほしいよね」


「そうだよね。ろくに知りもしないで、いじめるのは違うと思う」

「こっちこそありがとうございます。今までこうやって私の話を聞いてくれる人がいなかったから……」


「そっか。それはつらかったね。僕も君と同じフィクトセクシュアルなんだ。君が良ければ友達になってほしいな」

「……」


 少しだけ怖さはある。リアルの人と交際経験がない私にとって異性と友達になるということはかなりハードルが高い。


 でも、だからといって仲良くなって好きになることは無いし、惹かれることはないと自信を持って言える。私は流架にしか興味がないから。


 信頼は時間が経つにつれ深まっていくもの。だとしたら私の答えは決まっている。


「よろしくお願いします」

「うん、よろしく」


 私たちは握手を交わした。さっきまで泣いてたのが嘘みたいだ。私に友達が出来た。友達というよりも仲間みたいな感覚だ。


 初めて出会った。……やっぱりいるんだ。私と同じフィクトセクシュアルの人。


「あ、名前を言ってなかったね。僕は天馬雷人っていうんだ」

「て、天馬くんって……」


「僕のこと知ってるの?」

「知ってるもなにも有名人じゃないですか」


 天馬雷人といえば、この学校でその名前を聞いたことがない人はいないというくらい有名だ。


 顔を見るのは初めてだ。全国模試では常に五位以内に入ってて、学年では一位を三年間キープ。スポーツ抜群で生徒会にも所属していた。今は三年の後半だから生徒会も部活も引退してるだろうけど……。


 そして極めつけは二度見、三度見するほどのイケメンでサラサラの黒髪に大きな瞳。非公認だがファンクラブがあるのも知っている。


 たしかに顔は整っていると思うけど、流架のほうがカッコよくて魅力的だから天馬くんの顔を見ても二度見はしなかったな。


 他の女子とは違う私はやっぱり変なのかな? でも、誰だって彼氏が一番カッコいい! って思うのは普通でしょ?


 だけど、どこを取っても完璧な天馬くんがまさかフィクトセクシュアルだったなんて……。意外すぎて言葉も出ない。たしかにこんな完璧超人がオタクだと言われたらビックリもする。けどだからといって気持ち悪いなんて思わない。


「私は夢咲真白です。天馬くんとは違って、私は平凡な女子ですが……」


 そう。私は何を取っても平凡なのだ。身長も平均。スポーツも成績も普通。髪だけは流架が『長いのが似合うね』って言った日から切っていない。今ではお尻に到達しそうなくらい長髪だ。


 ツインテールが好きだからツインテール姿で学校に行ったことがあるが、「幼児みたいでキモい」とイジメっ子に言われ、少しだけ切られたことがある。その恐怖から今では地味な三つ編みにしている。


「友達に平凡も何もないよ。僕と夢咲さんは今日から友達なんだし、そんなの関係なしに仲良くしようよ。僕と同級生なんだし、タメで話してくれたら嬉しいな」

「う、うん」


 そういって距離を詰められ爽やかスマイルを向けられた。無自覚って怖い。こういうことをされると女の子は勘違いして、そうして天馬くんという沼にハマっていくんだろう。


 私は天馬くんに何をされても惹かれることはないが、他の女子が考えていることくらいはわかる。


「天馬くんはどうして屋上にいたの?」


 そういえば、と前置きをつけて話した。考えてみれば、こんな時間に教室にいないのはおかしい。天馬くんがサボり? いやいや。こんなに優秀な人がそんなことするわけない。


「今日はルルたんとの半年記念日だから。恋人との大事な記念日に授業なんか受けてられないよ」

「ふふっ」


「夢咲さん?」

「そうだね。私も記念日や誕生日は恋人との時間を最優先してる」


「夢咲さんも!? 僕と同じ人がいて安心した。って、だったら、なんで笑ったの?」

「天馬くんも私と変わらないんだなって思ったら、つい、ね」


「え? え?」

「ふっ。あははっ」


 何年ぶりだろう。学校でこんなに笑ったのは。笑いすぎてお腹が痛いや。天馬くんがエリートでマンガに一切興味ない人……なんて、それはただのイメージだ。


 本当の天馬くんはオタクで私と同じフィクトセクシュアルでルルたんって恋人を大事にする人。


 天馬くんも普通の男の子だったんだ。名前だけしか知らなかったから、「こんな人とは住む世界が違う」って自分の中で勝手に決めつけてた。


 私を元気づけるためにルルたんの動画を私の隣で見る、ただのルルたんが好きな男の子。そんなギャップに私は思わず笑ってしまった。


「今の夢咲さんを見たら、一条くんも喜ぶよ」

「そうかな? ねぇ、今日帰ったら天馬くんのことを流架に話してもいい?」


「もちろん。僕もルルたんに話すつもりだったからお互い様だね」

「そうだね。そのルルたんって子、私にも見せてくれる?」


「いいよ! ルルたんはね……?」


 天馬くんの布教は止まらなかった。昼休みになるまで天馬くんは水分補給を忘れるほど私に夢中でルルたんのことを語った。


 好きな人の話をすると止まらないのもわかるよ。恋人のことを話すと時間も忘れて、話しちゃうよね。だけど同担拒否なのはデフォルトだから、布教はするけどガチ恋にはならないでほしいのもわかる。


 今まで同担拒否には会ったことがないけれど、実際に会えばネットならアンチコメントを書こうとするところをグッと我慢するし、実際近くにいたらきっと喧嘩してしまう。


 それほど流架の存在は私の中で大事なんだ。流架が死ねば私も死ぬ。そのレベルで私は流架のことを愛している。


 天馬くんの恋人であるルルたんは魔法少女だった。悪に染まってしまった人間たちを助けるために立ち向かうのがルルたん。本名はルルアっていうらしい。


 ルルたんの声を知っていたのは、私がこのアニメを見たことがあったから。学校が忙しくて最後まで見れてなかったのが今になって悔やまれる。


 ルルたんは十二歳で、まだ小さいのに勇敢に敵に立ち向かうんだって。その姿が可愛くて、でもカッコよくて気づけば恋に落ちてたって。


 そして「魔法少女をしながらでいいから僕と付き合ってほしい」とストレートな告白をして二人は付き合ったんだとか。すごく素敵な結ばれ方だ。


 天馬くんがあまりにもルルたんの話をするものだから、私も流架に会いたくなってきた。家に帰ったらまずはキスをして、それからハグをして、手を繋いで眠りたいな。

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