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一話

フィクトセクシュアルは実際にあります。

世間では認知もされず、なかなか理解されていないのが現状です。ですが私が書くことで何か残せるものもあると思い、この作品を綴ります。

 今から✕年前、架空のキャラクターと結婚をした人がいた。これは妄想でも想像でもなく、実際に結婚式場で結婚式を挙げたカップルのことだ。その人は今でも相手のことを愛し続け、二人で当たり前のように一緒に暮らし、休日にはデートに行く。人間同士のカップルが当然のようにすることをしているのだ。


 架空のキャラクターに恋をし、陰ながら応援をするのはいわゆる推し活と呼ばれ、今ではネットやテレビでその名前を聞くことが多いだろう。だが、現実で架空のキャラクターと結婚をした人は違う。


 その人たちは『フィクトセクシュアル』と呼ばれている。略してFセクとも言われている。それは二次元を飛び越え、キャラクターがあたかも現実にいるかのように会話をし、お互いに愛し合い、夜の営みをしようとしたり、考えたりする人もいる。


 実際にキャラクターと結婚をした方がテレビやネットで取り上げられてから、フィクトセクシュアルは有名になった。が、悪い意味で有名になったのだ。


『キャラクターが実際に同意してるわけでもないのに結婚するのはどうなのか』


『リアルの人と結婚したほうが自分のためにも家族のためにもなるのではないか』


『そもそも気持ち悪くて理解が出来ない』


 そんな批判の声が飛ぶ毎日だった。


 現実の人を好きになれず、興味もない。

 それがフィクトセクシュアルの特徴でもある。


 ちなみに私はその一人だ。私はアニメのキャラクターに恋をし、付き合っている。四年前に一目惚れをしてからは、実際に彼が隣にいるかのように会話をし、夜の営みをする想像などもする。


 そもそも四年前はフィクトセクシュアルという言葉が浸透していなかったので、私も今年に入って、その言葉を知ったのだが。


 そんな言葉が浸透しても、世間から理解は得られない。まわりからは馬鹿にされているというよりは引かれているといったほうが正しい。


 どうして理解されないのだろう? 何故、気持ち悪がるの? まわりに迷惑だってかけていない。犯罪だって犯してない。


 今は同性愛だって認知され、一部では理解されつつあるのにフィクトセクシュアルはその真逆。むしろ、その数が増えるたびに炎上を繰り返している気がする。


 当然のことだが、全員が全員、批判をしているというわけではない。一部では推し活をしている人たちが理解をしているかもしれない。が、それもほんの一部。完全に理解することは難しいだろう。だって、恋をする相手は実際に存在していないのだから……。


 私からしたら四年前から一緒に住んでいるし、交際もしていて普通に会話も出来るから、むしろわからないのは批判する側だ。批判する側を完全に責めているわけではない。私だって世間では理解が得られないのは十分理解している。


 だが、フィクトセクシュアルと呼ばれる者たちを虐めないでほしい。傷つけないでほしい。私たちは人間なのだから。


 私の付き合っている恋人だってそうだ。みんなからは画面の向こう側にいる人だって思うでしょう? だけど私にとってはリアルに存在していて私の恋人なわけだから、自分の恋人を馬鹿にされるのは辛いのだ。


 家族にだって理解されない。それはキャラクターと結婚した方もそうだったらしい。


 そんな私、夢咲真白(ゆめさき ましろ)は高校生で、当たり前だが学校に通っている。が、仲のいい女の子の友達に私がフィクトセクシュアルであることを打ち明けたら、翌日からクラスメイトでからかわれるようになり、今ではいじめられている。


「実際にいるならツーショット写真とか見せろよ〜」

「夜の営みをキャラクターとするとかキモすぎ」

「リアルで見えないなら存在してねぇじゃん!」


 朝、教室に入るのは憂鬱だ。今のように罵声を浴びせられる。毎日寝言のように言うもんだから、私はむしろ慣れてしまった。


 私はどんなに酷いことを言われてもいい。私一人ならどんな辛い言葉だって耐えられる。だが、彼の悪口だけは許せなかった。貴方たちだって、恋人が馬鹿にされたら怒るくせに……。


 私の恋人がキャラクターだから何を言ってもいいと思ってるの? そんなの理不尽だ。こんな人達にわかってもらおうとは思わない。だって彼らは最初から私の話を聞く気なんてないのだから。


 彼らの寝言を聞くのもあと数ヶ月。私が耐えることが出来ればそれで終わる。私は高三で今の時期なら一般入試の準備で忙しいはずだ。


 だが、私はAO入試で秋には大学に合格が決まっていた。クラスで最初に大学合格をしてしまったものだから、まわりからイジメられるようになった。ようは僻みだ。嫉妬だ。


 特に目立つ生徒ではなかったのに、私はクラスの中で大学に一番早く受かったから、という理由でイジメの対象となってしまった。相手をイジめる理由なんて至極単純なものだ。嫌いだから。気に食わないから。


 学校という『箱』の中で生きている以上、少しでもまわりと違えば駄目なんだ。だから目立つ行動やまわりの迷惑になることや気に食わないことをしてはいけない。なんて理不尽な世界。『箱』は私にとって窮屈すぎる。


 担任からは「どうして夢咲さんみたいな気持ち悪い生徒が大学に受かるの?」などとまで言われた。高二から同じ担任なわけだが、この担任は正直言ってクズだ。


 成績の云々で生徒への態度を変えるし、嫌いな生徒がいれば6限目が終わり放課後になった直後にバルコニーに呼び出し、意味のわからない説教をする。「貴女をイジメてるって人に聞いてみたけど、貴女をイジメてるなんて言う人はいなかったわよ」と言われたこともあった。


 担任に相談した私が馬鹿だったと、その時思った。わざわざいじめっ子が私を虐めてるなんて言うわけない。むしろ、いじめっ子本人にそんなことを聞いて担任はどういう神経をしてるのか。それからというもの、イジメはより過激なものになった。


 最終的な引き金となったのは、女友達にフィクトセクシュアルだと話してからだ。信じていた女友達でさえ私を裏切ったのだ。私はその子を信じて打ち明けたのに。今では男女関係なく、私に言葉の暴力を向けてくる人たちがいる。


「存在してる……」


「はぁ? なんて?」

「それはお前の中だけだろ! キモ〜」

「厨二病は中学で卒業しとけっての」


「っ……!」


「あ、逃げた!」

「見せらんない彼氏なんか所詮妄想だって」


 私はスクール鞄を持って、屋上まで駆け上がった。


 イジメは相手に立ち向かうことも大事だとか、いじめっ子に強く言えば勝てるだとか、それこそ寝言のような事を言っていた連中が過去には存在した。


 それは実際、世に出回っている本だが、その人たちはイジメを経験したことがない人たちが書いた、いわば自己満足のような作品。


 実際に複数人からイジメられ、朝から罵倒され、昼ごはんはボッチ飯で、声を出すのは教師に授業で当てられた時のみという私の身にもなれば少しは被害者の共感を得られるようなな本が書けるかもしれない。


 学校の屋上。ここは過去に飛び降りた人がいて、高校三年以外は立ち入ることを禁止されている。高校三年が何故入ることを禁止されていないのか。


 それは高校最後の思い出に屋上も使いたいだろうから、なんていう単純な理由。卒業アルバムに屋上をバックに撮りたいって人がいるとかいないとかで許可が下りたとかっていう話も聞いた。


 そもそも、飛び降りた人がいるという話もウワサであって、実際のところ真実かどうかさえわからない。大抵ウワサというものは尾ひれがつくものだ。


 東校舎と南校舎に各一つずつ屋上があって、どちらも常に解放されている。東校舎の屋上は不良の溜まり場になっていて、一般生徒は暗黙の了解で入ることができない。


 卒業前に不良になってどうするのか。大学受験を終えた生徒がはしゃいでいるのだろう。それか高校卒業と同時に就職するので大学受験しないお仲間たちで集まって雑談をしているのかもしれない。どちらにしろ私が関わることがない人たちだから、そういうのは無視するに限る。


 下手に目をつけられて、さらにイジメがヒートアップすればそれこそ屋上から飛び降りてしまうかも。


 私は南校舎の屋上で一人。ノートに文字を書いていた。……小説だ。これは恋人と私しか知らない、私の小さな夢。私は将来、作家になりたいんだ。


 恋人と私の理想郷を完全なものにするために日々作品を書いている。私が作家になれば、まわりから私と恋人のことが認められる気がして、私は努力をしている。


 もちろん仮に私が有名になって、フィクトセクシュアルであることを世間に話すかは別として、私の中での理想郷を完全なものにする最終目標としては私が作家になること。


 大学は小説を書く専門の大学を選んだ。まるで専門学校みたい? それなら専門学校に行けば? なんて言われたこともあったっけ。


 その度にやり直せるなら大学で青春をしたいって両親に言ったこともあった。仮に大学在学中に作家デビュー出来なくても、大学卒業というステータスがあれば、それなりの仕事には就けるからという現実的な理由もあったりする。


 私が架空のキャラクターに恋をした頃から親からは呆れられていたが、私がフィクトセクシャルであることを打ち明けたら、家から追い出されてしまった。


 私は高三になってから二人暮らしをしている。二人? 私ともう一人は誰かって? そりゃあ私の恋人に決まってる。


 学費は渋々両親が出してくれているが、家賃はバイトして払っている。六畳あるかないかくらいの狭いアパートだ。だが、恋人と住めるなら、どんなに小さくてもいい。


 私は高校卒業と同時に両親から縁を切られる。二人暮らしを始めて、一ヶ月も経たないうちに「貴方が高校卒業と同時に絶縁します。貴方みたいに気持ち悪い人は私たちの子供ではありません」と母親からメールが来た。だから大学は奨学金を限度額いっぱいまで借りて、バイトも今より増やし、掛け持ちするつもりだ。


 大学に入ったらいるかな? 私みたいな人。ううん、私みたいなフィクトセクシュアルじゃなくてもいい。友達がほしい。私のことを理解出来る、本当の友達。私が架空のキャラクターと付き合ってるって話したら、「それは素敵だね」って笑ってくれる。私はそんな人に出会ってみたい。

数ある作品の中から、この作品を選び、お読みいただきありがとうございます。

誹謗中傷等などのコメントは一切受け付けておりませんので、一話を読んで少しでも不快と感じた方は二話以降はUターン推奨です。

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