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救いようのない奴

本日更新 2/4

◆◆◆


「おお、ここが魔族国か!」


 魔族国の王都でそう言ったのは、先日アドモス王都を追われた太田だった。


 太田は、やること成すこと全てが裏目に出てしまい、召喚されたアドモス王家には追い出され、仲間を集った探索者協会では役立たず認定されてどこの仲間にも入れてもらえず、治癒魔法士がいないうちに治癒魔法無双をしようとすれば、利権によって治療院も追い出された。


 最初のうちはそこからの逆転劇を狙っていた太田だったのだが、何をやっても上手くいかない状況に流石に心が折れてきて、ようやく重い腰を上げ魔族国の魔法使いに教えを請いにやってきたのだった。


 一見して人族に見える太田だったが、周りの魔族たちが特に太田のことを気にしている様子はなかった。


 これは全くの偶然の産物であるが、見た目が完全に人族の太田なのだが召喚者特有の魔力の多さから魔族たちに人族だと認識されていなかったのだ。


 偶然なので、太田は全くそのことに気付いていない。


 アドモスの王城で、奈良は魔族国が現在人族完全拒否状態なのを学んでいたのだが、太田は女遊びに夢中で授業をまともに受けていなかったから知らなかった。


 なので、のこのこと魔族国にまでやって来ているのである。


 ここにきて、偶然が太田にとっていい方向に向かい始めていた。


「さて、初めて来た国のお約束、冒険者ギルドに行ってみるか」


 この世界に、冒険者ギルドなどというものはない。


 アドモスでも探索者協会という名前だったのだが、太田は一向にその名前を使おうとせず、一貫して冒険者ギルドと呼んでいた。


 こういうところに、自分が異世界ファンタジーの主人公になりたいという願望が現れていて、現実を受け入られていない証左でもある。


 しばらく王都を散策した太田は、ようやく魔族国の探索者協会を見つけた。


 魔族国は人族の国よりも魔道具が発展しているため、その素材となる魔獣素材の需要は人族の国よりも高い。


 なので、探索者協会も人族の国のものよりも規模が大きかった。


 そして、規模が大きい分探索者の数も多かった。


 魔法を戦闘の主体に使う魔族の探索者たちは、正に太田が思う魔法使いの恰好をしていて、それが大勢いるのである。


 太田のテンションは上がった。


「おお! ここなら魔法を教えてくれそうな美少女もいそうだな!」


 そう言いながら意気揚々と協会の中を進む太田は、受付に座っている受付嬢を見つけると、上がっていたテンションが更に高くなり、思わず受付カウンターに向かって走り出していた。


「エルフ、キタ!!」

「ひっ!? な、なんですか!?」


 太田が目にした受付嬢は、色白で耳が長く、召喚者が見ればファンタジー世界によくある種族、エルフだと思い込んでしまう容姿をしていた。


 だが、この世界にエルフという種族はいない。


 彼女はただ色白で、身体的特徴として耳が長いだけの普通の魔族だった。


 なので受付嬢は、自分の知らない言葉を叫びながら近寄ってきた太田に恐怖してしまい、思わず大きい声を出してしまった。


 それこそ、協会内に響き渡るほどに。


「お姉さん、エルフでしょ!? いやあ、ようやく異世界ファンタジーっぽくなってきたよ!!」

「え、えるふ? な、なにを言っているんですか!?」


 太田は興奮のあまり、協会中から注目を集めていることにも気付かずに、カウンターを乗り越える勢いで受付嬢に迫った。


 そのあまりの勢いに襲われると思った受付嬢は、思いきり大きな声をあげた。


「誰かあっ!! 助けてっ!! 襲われる!!」


 その悲鳴を聞きつけた協会の警備員と周囲にいた探索者が集まり、今まさにカウンターを乗り越えようとしていた太田を取り押さえた。


「痛たたたた! な、なにするんだ!?」

「なにするんだはこっちの台詞だ!! 白昼堂々、衆人環視の中で受付嬢を襲うとか何考えてんだこの変態が!!」

「へ、変態!? 俺が変態!?」


 紛うことなき変態の所業だったのだが、自分が異世界ファンタジーの主人公だと錯覚している太田にとっては心外にも程がある言葉だった。


 なんとか振りほどこうとするも、碌に魔力制御の訓練すらしたことのない太田が、歴戦の探索者やそれらを取り締まる警備員に叶うはずもなく、太田はその場で捕まった。


 そして太田は、白昼堂々探索者協会の受付嬢を襲おうとした変質者として牢に入れられることになった。


 魔族国に来て早々牢に入れられた太田は、固く閉じられた鉄格子を呆然と見つめていた。


 しばらくそうしていた太田だったが、流石にこれには堪えたのか牢の中でガックリと肩を落とした。


「は、はは……なんだこれ? 異世界に召喚されたんだから、俺が異世界ファンタジーの主人公なんじゃないのかよ? なんでこんな目にばっかり合わなきゃいけないんだよ……」


 ケンタや奈良がみたら「「自業自得だ」」としか言わないだろうが、太田にとってこの状況はあまりにも理不尽で受け入れられないものだった。


「なんだよ……なんなんだよ……なんでこんなに上手くいかない? もしかして……」


 太田はそう言ったあと、変なことを口走った。


「世界は俺を嫌ってる?」


 太田の思考は、悲劇の主人公としての思考に支配されていた。


 そして、その逆境にしばらく酔っていた太田は「くっくっく」と変な笑い声を溢した。


「そうかい、そうかい。なら、世界の嫌われ者として振舞ってやろうじゃないか。これまでは無双系の主人公になろうと思っていたけど、ここからは悲劇のダークヒーローになってやろうじゃないか」


 碌な魔法一つ使えない反逆者が牢の中で生まれた瞬間だった。


 そんな、思春期の男子にありがちな妄想を口にして悦に入っている太田の様子を、牢番は不気味なものを見る目で見ていたのだが、そこにある人物が訪れ、その言葉に驚いた。


 なぜなら……。


「おい。釈放だ。出ろ」

「……え?」


 悲劇の主人公ムーブに浸っていた太田は、突然の釈放に頭が追い付かなかった。


「釈放だと言ったんだ。さっさと出ろ」

「え? え? なんで?」


 自分でもなんで釈放されるのか分からない太田は、混乱したまま牢を出た。


「こちらの方がお前の身元引受人になるそうだ。感謝しろよ」


 牢番がそう言って視線を向けた先には……。


「……こういうときは、美少女か美女が迎えに来るのが定番だろ……」


 ボソッと太田が言った言葉は、強面の見るからに軍人っぽいその男には届かなかった。


「なにか言ったか?」

「あ、いえ、別に」

「とある方がお前を呼んでいる。付いてこい」

「お?」


 この世界に来て、初めての展開。


 そのことに、とうとうドラマが動き出した! と内心テンションが上がった太田は(とある方か、美少女の上官とかだといいな)などと考えながら、その男のあとを付いて行くのであった。



カクヨムにて先行投稿しています

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― 新着の感想 ―
・・・ちょっと女性に見境無さすぎやしませんかねw 太田くんwww
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