面倒ごとしか持ってこない
本日更新 2/4
「こら待て」
「きゃははは!」
レオンが生まれてから、すでに一年以上が過ぎた。
レオンはトテトテと自分の足で動き回り、目が離せない状態になってきていた。
こんなとき、いつも遊んでくれていたのがエヴァだったのだが……。
「ナラさん。エヴァさんの具合はどう?」
動き回るレオンを捕まえたメイリーンが、俺の家にいた奈良君にそう話しかけた。
なんで奈良君が俺の家にいるかというと……。
「いやあ、具合悪そうです。というわけで、この果物だけもらっていきますね」
「ええ。私も経験があるから分かるのだけど、無理しないように言ってあげてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
奈良君はそう言うと、モナの手によってカットされた果物を自分の家に持って帰った。
「妊婦は大変だなあ」
そう、エヴァは今妊娠している。
奈良君と共にアドモスの王城から連れ出して以来、ずっと奈良君と一緒にいた。
家が完成してからは、そちらに二人きりで住んでいたのだ。
まあ、こうなるのは時間の問題だったな。
そんなわけなので、今日はエヴァの悪阻が重くてレオンたちの面倒を見れない日なのだ。
なので、今日は俺がレオンの相手をしているのだが……。
「それにしても、日増しに動き回る量が増えてるな」
俺がメイリーンに抱っこされてすっかり落ち着いているレオンを見てそう言うと、レオンはキョトンとした顔をしていたがメイリーンがクスクスと笑いながら言った。
「それはそうですよ。子供の成長はあっという間だって、ベネットさんも言っていたじゃないですか」
そういえば、エヴァの妊娠が分かってからまた産婆であるベネットさんのお世話になっている。
すっかり、ウチの掛かりつけ医みたいになっちゃったな。
また御礼しとかないと。
そう思ったときだった。
「ん?」
森の外に、相当数の気配が現れた。
これは……。
「また王女サマか? なんの用だ?」
現れた気配は、魔力の量からして人族。
そして、森入口の警備兵も健在なことからワイマールの人間。
ワイマールの人間で、俺に用があってすんなり通れるのは王女サマくらいしかいない。
俺はそれを認知した瞬間から陰鬱な気持ちになった。
なぜなら、王女サマがここに来るということは、なにか厄介ごとが起こったということに他ならないからだ。
今日はアイバーンが町に行っておらずここにいるので、どうやって連絡を取ろうかと右往左往している様子が見て取れる。
そこまでしてここに来るってことは、今回も間違いなく厄介ごとじゃねえか。
「はぁ、どうも王女サマたちが来たらしい。ちょっと迎えに行ってくるわ」
「分かったわ。あ、ナラさんに家から出ないように言っておいてね」
「そういえば、奈良君は一度王女サマに会ってるんだっけか。分かった」
俺は王女サマたちを迎えに行く前に奈良君たちの家に寄り、ドアノッカーを鳴らした。
「はーい。なんスか?」
そんな返事をしながら、奈良君はなんの警戒心もなく扉を開けた。
「不用心すぎ。もうちょっと警戒心を持て」
「ええ? だって、ここには摩耶さんたちとアイバーンさんたちしかいないじゃないッスか。なにを警戒しろと?」
「今、魔族に色々と疑われてんだ。魔法に長けた魔族ならここの結界を突破してくる奴がいるかもしれないだろ。気を付けるに越したことはねえ」
「あぁ、そういえばそうでしたね。分かりました。それで? どうしたんスか?」
「ああ、そうそう。これからワイマールの王女サマがここに来るから、顔見られないように家にいろよ?」
俺がそう言うと、奈良君は驚いた顔になった。
「王女様が直接ここに来るとか……やっぱり、摩耶さんワイマールのこと傘下に治めてんじゃないッスか」
「治めてねえわ。向こうが勝手に遜ってんだよ。しかも、王女サマがここに来るときは大概が厄介ごとがあるときだ」
「へえ、そうなんスね。ちなみに、前回はどんな厄介ごとを持ってきたんですか?」
「前回は……」
なんだっけ?
ああ、あれだ。
「アドモスがリンドアに異世界人召喚の依頼をしたから気を付けろって忠告だった」
「……やっぱ、傘下じゃないッスか」
「傘下だったら、もっと俺らの暮らしに援助してるだろ。現状、俺らが生活するうえでワイマールの援助はなんも受けてねえ」
「あ、それもそうッスね。まあ、要件は分かりました。エヴァが今ちょっと落ち着いて寝たとこなんで、側に付いてますね」
「そうしろ。じゃあ、行ってくるわ」
「はーい」
奈良君に注意喚起をしてから、森の結界の辺りでウロウロしている王女サマたちを迎えに行く。
「なんだなんだ? また大勢引き連れて来やがって。今度はどんな厄介ごとを持ってきやがった」
俺が王女サマたちの前に姿を現しながらそう言ってやると、王女サマたちはあからさまにホッとした顔をした。
「ああ、マヤ様。お会いできて良かった。今日はアイバーンさんが森から出て来ていないと聞いてどうしようかと思っていたのです」
「……アポなしの突撃とか、厄介ごとのレベルが前回とは段違いな気がするぞ」
前回は、アイバーンにアポを取ってから俺のところに来たのだが今回はそれが無かった。
といことは、そんなことをしていられないほどの緊急事態だということだ。
「はぁ、まあいい。家に移動するぞ」
俺はそう言って王女サマを先導して家に向かって森の中を歩き始めた。
一国の王女サマ相手にする口調ではなかったのだが、意外なことに同行者の中に俺に対する不満を持った奴はいなかった。
よく見たら前回来た奴らと同じ人員を連れてきている。
俺の態度をよく知っている奴ってことか。
よほど俺の機嫌を損ねたくないようだ。
増々嫌な予感がする。
とはいえ、厄介ごとは余計に聞いておかないと後々面倒なことになる。
面倒臭いと心の底から思いながら森を抜けた。
と、そこで、王女サマがある一点に視線を固定していた。
「……新しい家が増えていますね」
奈良君の家か。
「それがどうした? お前になにか関係があるのか?」
なんもねえよな?
「い、いえ! 別に詮索しようとしていたわけではありません! 感想! そう、ただの感想です!」
「そうか。ならいい」
よし。これでもう奈良君の家に意識を向けることはないだろう。
じゃあ、王女サマの厄介ごとを聞きますかね。
俺は、自分の家の庭先に設置してある野外テーブルに王女サマたちを案内した。
「で? どんな厄介ごとだ?」
俺がそう言うと、王女サマはとても言い難そうにしながらも、要件を伝えてきた。
「実は、魔族国から、マヤ様の居住区への調査をさせろという要望が入ってきました」
……あぁ、やっぱ特上の面倒ごとだったわ。
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