予想外の侵入者
本日投稿 3/4
それは、モナがアドモスの偵察から帰ってきた数日後のことだった。
「ん?」
森の中に、多数の反応があった。
「なんだ? この大人数。またどっかの国が攻めてきたのか?」
ということは、またワイマールの警備兵が犠牲になったのか。
気の毒なことだ。
そう思って森の入り口まで探知魔法の範囲を広げてみると……。
「んん?」
「どうした?」
今日は隠れ里にいたアイバーンが、首を傾げた俺にを見て声をかけてきた。
「いや、また森に複数の反応があったから森の入り口守ってる警備兵が犠牲になったんだろうと思って探知魔法をかけたんだけどな」
「マジで? あいつ等、やられたのか?」
そういや、アイバーンは入口の警備兵たちとよく話すとか言っていたな。
時々情報も手に入れてくるし。
その知り合いになった警備兵がやられたかもということで、アイバーンは少し悲しそうな顔をした。
だが。
「いや、それが警備兵は残ってんだわ」
「は? じゃあ、あいつ等、入口をフリーパスで通したのか?」
まあ、そう思うよな。
「ちょっと待ってろ……」
俺もそう思ったのだが、一応侵入者の確認をしておこうと思って詳細に確認してみたところ、あることが判明した。
「……こいつ等魔族だわ」
「じゃあ、人族の警備兵がフリーで通すわけねえか」
魔族と人族は、今や不俱戴天の敵同士。
顔を合わせて穏便に済むはずがない。
それなのに、入口の警備兵は無事なまま森への侵入を果たしているとなると……。
「こいつ等、魔族の諜報部隊か」
俺がそう言うと、モナがピクリと反応し、自分も探知魔法を使い始めた。
そして、すぐに眉を顰めた。
「どうした? 知り合いがいたか?」
俺がそう聞くと、モナは険しい顔のままコクリと頷いた。
「何人か知っている魔力があります。元同僚ですね」
「諜報部隊で間違いないってことか」
これで森に侵入してきた魔族の正体が確定した。
諜報部隊は、潜入捜査なんかも得意なので、警備兵の警戒の目を掻い潜って森に侵入することなど造作もないことなのだろう。
現に、モナもそうやってこの森に侵入してきている。
それよりも、この侵入者たちをどうするのかが問題だな。
「さて、今のところは森の結界に阻まれているけど、どうするか」
森に侵入してきた魔族は複数人。
これは、モナのように個人的な目的のための侵入ではなく、明確に国からの命を受けて侵入してきてるな。
なんだ? 今更、敵討ちでもしにきたのか?
いや、その割には戦力となりそうな感じの魔力じゃない。
じゃあ、一体なんなのか?
「とりあえず、行ってみるか」
俺がそう言うと、モナがスッと前に出てきた。
「私が行きましょうか?」
「いや。お前がここにいると知られると後々面倒だ。お前がいる、イコールメイリーンもここにいることが推測されてしまうからな」
「分かりました。それでは、ここでお待ちしています」
そう言ってモナが引き下がったので、俺は自分の恰好を見直してから森に向かった。
恰好を見直したのは、前回メイリーンの刺繍したハンカチを持っていたためにモナにメイリーンの存在がバレたから。
今回は、そんなドジを踏まないように確認したのだ。
そうして魔力を極力絞って侵入者たちのもとに向かうと、侵入者たちは俺の結界を解析しているところだった。
「どうだ? 解除できそうか?」
「……時間を貰えたら」
「どれくらいだ?」
一人の魔族の質問に、魔法を解析している魔族が一旦黙ってから回答した。
「……二~三日」
「そんなに待てるか! そもそもこの結界、発動したら通知が行くようになっているんだろう? もう奴のもとに通知は行っているはずだ。早くしないと……」
「俺が来る、ってか?」
魔族の言葉を引き継いで俺が声を出すと、魔族たちは全員ビクッとして一斉に俺から距離を取り、身構えた。
「おいおい、どうした? 通知が来たんだから様子を見に来るだろ? 今、お前が言っていたじゃないか。なにをそんなに驚いてる?」
期待に応えてやったというのに、魔族の反応は過剰なものだった。
なのでそれを指摘してやると、魔族たちは悔し気な顔をしながらポツリと呟いた。
「……来るのが早過ぎる。それに、接近に全く気付かなかった……キサマ、一体なにをした?」
なにをしたって、ねえ。
「教えるわけないだろ? 馬鹿なのか?」
俺がそう言うと、魔族たちの顔が困惑から怒りに変わっていった。
ああ、しまった。
つい相手を挑発してしまう癖がついてしまってるみたいだ。
そのことを反省していると、魔族の一人が一歩前に出てきた。
コイツがリーダーで、話がしたいという意思表示かな?
「……一つ聞かせろ。ここに、魔族の女を匿っているか?」
「いや? そんなことはしていない」
匿ってはいない。
住んではいるけどな。
「……ちっ。では、ここに人族の男が出入りしているだろう。あれは誰だ?」
「だから、なんで教えないといけないんだ? 本当に馬鹿なのか?」
あ、またやっちまった。
リーダーの顔が段々赤くなってきたわ。
「貴様……我々を舐めるのもいい加減にしろよ……」
「別に舐めちゃいないさ。これでもお前たち魔族には申し訳ないことをしたと思っているんだぜ? 人族なんぞに騙されてお前らの王サマを倒しちまったからな」
だから、俺は魔族とはあまり絡まないようにしていた。
のだが……。
「はっ。じゃあなにか? 我らが敵を取らせろと言えば殺されるつもりなのか?」
「そんなことするわけないだろ。全力でお前らのこと殺してやるよ」
「っ!」
向こうから絡んでくるなら話は別だ。
魔族の方から俺を敵として攻撃してくるなら全力で返す。
骨も残さない。
ちょっと魔力に殺気を込めて威圧してやると、さっきまで怒り顔だった魔族たちの顔がみるみる青くなっていった。
「なんだ、そんな覚悟でここに来たのか?」
実際は敵討ちではなく調査だとは思っているが、俺はあえてこいつ等が敵討ちに来た奴ら、と認識しているという体で近付いた。
つまり、こいつ等を殺すつもりで近付いたのだ。
すると、リーダーが慌てて俺に向かって両手を上げた。
「ま、待て待て! 我らにそんなつもりはない! 前陛下を倒してしまうような奴に、我らが敵うわけがないだろう!?」
「じゃあ、何しに来た? 今まで何年もここを放置していただろう? まさか、今の今までここのことを知らなかったとは言わせねえぞ?」
今やここの場所は賞金稼ぎですら知ってるんだ。
国の諜報機関である諜報部隊の人間が、仇である俺の居場所を知らないとは言わせない。
俺の質問に対して、リーダーはしばらく考え込み、後ろに控えている仲間たちとアイコンタクトをして頷き合ったあと、話し出した。
「先日、ここの森に我らの昔の同僚が入っていくのを目撃した」
「へえ」
「一体なぜここに入っていったのか、その理由が知りたいのだ」
ふーん。
そういうことか。
「残念だが、そんな奴はここには来ていない」
しれっと嘘を吐いてやると、リーダーはまた怒りで顔を顰めた。
「……あくまで白を切るつもりか?」
「つもりもなにも、そんな事実はないからな」
嘘だけど。
「……そうか、ならいい。邪魔をしたな」
そう言って帰ろうとする魔族たち。
「うん? 一体なにを言っている?」
「は?」
「お前たちは、俺のことを敵視している魔族だ。その魔族が俺の住処を調査しにきた。なにかあると思うのが普通だろう?」
「だ、だから、俺たちは元同僚の動向を知ろうと……」
「それで俺の住処に調査に入った? それが、どういう意味を持つのか、考えなかったのか?」
「……」
「もし本当に俺がその魔族の女を匿っていたらどうする? 引き渡しの要求でもするのか?」
「そ、それは……」
そこで、リーダーがなぜか言い淀んだ。
……これは、なんか別の意図があるな。
「そんな事実はないが、もしそんな要求をしてきても絶対に受け入れはしない」
「な、なぜ……」
「なぜ? もし俺がその魔族の女を匿っているとしたら、それは俺がそうする理由があると判断したからだ。そもそも、お前たちの要望を聞く義理などない」
「な、なんだと!?」
「勘違いしているようだから言うけど、俺に命令できると思うなよ? 交渉もできると思うな。俺は、俺の意思でしか動かない」
「……分かった。もう調査しない」
「おいおい、だから、調査する、しないの話じゃなくてさ」
そう言いながら、俺は魔力を集めて行く。
「そんな俺に対して敵対とも取れる行動をしておいて、生きて帰れると思ってるの?」
俺がそう言った途端だった。
「!?」
魔族たちは、全力で俺の目の前から逃げ出した。
まあ、戦闘になったらあいつ等に勝ち目なんかないし、逃げるのが普通なんだけど、それにしても素早かった。
別に、最初から殺すつもりなんてなかった。
メイリーンと違って、俺は魔族には恨まれてはいても恨みはないからな。
ちょっと脅してやるくらいのつもりだったんだが。
「脱兎ごとくって、こういうことを言うんだろうな」
探知魔法には、今も全速力で逃げ続けている魔族の反応が感知されている。
俺は一切追跡していないのに、それにも気付いていない様子だ。
まあ、これであいつ等はもうここには来ないだろうけど……。
もうちょっと警戒しとくか。
という訳で、念のため結界を強化することに決め、この場で少し結界を弄ってから帰宅した。
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