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まだ迷惑はかけられていない

本日更新 1/4

 アドモスの迷惑な王サマが復活したらしいので、モナに偵察を頼んだところおかしな情報を持って帰ってきた。


「下町の聖者ぁ?」


 なんだその厨二病溢れる二つ名は。


「はい。アドモスの王宮は相変わらず防諜がザルでしたので簡単に情報が手に入りました。大方ケンタ様の予想通りでしたが、ケンタ様がリンドアを支配しようとしているという噂の発信元がアドモス王だったことだけ予想外でした」

「はぁ? マジかよ、そっからアイツのせいなのか」


 本当に、あの王サマはどうしてやろう……。


 エヴァの父親でなければとっくに処分しているところなのだが、エヴァにとってはあまり良く思っていないとはいえ血の繋がった父親。


 それを俺が処したとなれば、絶対に思うところが出てくるはず。


 こんな少人数で暮らしているのに、下手な火種を作るのは悪手だろう。


 現に……。


「はぁ……本当に恥ずかしいですわ。さっさとお兄様に王位を譲って退位されればよろしいのに」


 と、退位は望んでいるけどアドモス王の死までは望んでいない様子だ。


 ったく、奈良君の嫁じゃなかったらさっさと追い返してたのに。


「それで、あまりにもすぐに情報収集が終わったので城下町も見て回ってみたのです」

「そこで、その『下町の聖者』の噂を聞いたと」

「はい。それで気になりまして様子を見に行ったのですが……」


 そこでモナは微妙な顔をした。


「どうした?」

「それが、そう呼ばれていたのは、例のオータだったのです」

「ぶっほぉっ!?」


 モナがそう言った途端、農作業の休憩で戻っていた奈良君が飲んでいたコーヒーを噴き出した。


「げほっ! ごほっ!」

「うわっ。汚ねえなあ。なにやってんだ?」

「えほっ……い、いや、だって、まさかあの太田が聖者って呼ばれてるとは思いもしなくて」

「まあ、奈良君の話を聞いている限り、聖者とは程遠い存在だよな、太田君」


 拉致同然に召喚されたことを盾に取って、碌な訓練もせず、生産性のある行動も取らず、毎日娼館の女と乳繰り合っていたあの太田君が聖者と呼ばれている。


 そりゃ奈良君も吹き出すか。


「で? なんでそんな二つ名で呼ばれるようになってんだよ?」

「どうやら、アドモス王の治療のために王国中から治癒魔法使いを呼び寄せたそうなのですが、その治癒魔法使い不在の間に市井で治癒魔法による治療を行っていたそうなのです」

「へえ、それで『下町の聖者』か」


 まあ、確かに治癒魔法師がいなくなったところに現れたらそう呼ばれてもおかしくないのか? と思っていると、モナはフルフルと首を横に振った。


「正直、治癒魔法の腕前はかなりお粗末なものです。まあ、人族の治癒魔法使いはもっとお粗末なのですが……」

「だからお粗末でも、人族の治癒魔法使いよりも効果が高いからそう呼ばれてんだろ?」

「いえ、その治癒魔法による治療を、格安で行っていたことでその二つ名が付いたようです」


 それを聞いた瞬間、俺は思わず天を仰いだ。


「あちゃ、やっちまったな太田君」


 俺のその言葉に、奈良君が首を傾げた。


「え? なにがですか?」


 あ、そうか。


 奈良君はずっと王城にいたから、このことは知らないのか。


「いいか、奈良君。人族の中にも少ないながらに魔法が使える奴がいるってのは話したな?」

「はいッス。その魔法使いの多くが治癒魔法使いになるって言ってましたね。儲かるから」

「ああ。でな、多くが、って言っても元々魔法が使える奴ってのが少ねえんだわ。だから、治癒魔法使いもそんなに数がいない」

「はい」

「そこで奈良君に質問だ。治癒魔法が使える医者と使えない医者。どっちの治療を受けたい?」

「そりゃ治癒魔法が使える方でしょ。モナさんの話じゃお粗末な魔法って話っスけど、ないよりマシっス」

「そうだよな。で、当然他の人たちもそう考える。じゃあ、ここで問題だ。その両者が同じ値段で治療をしていた場合、どっちに患者が集まる?」

「そりゃ、治癒魔法が使える医者で……」


 そこまで言って、自分で気付いたようだ。


「同じ値段なら治癒魔法が使える医者に患者が集まる。するとどうなる?」

「治癒魔法が使えない医者のところに患者が来ない……」

「それと、治癒魔法が使える医者のところに患者が集まりすぎて、治療しきれなくなる」


 そう言うと、市井に詳しいアイバーンとユリア以外の全員が「ああ」と納得した顔をした。


「だから昔から、治癒魔法による治療は治療費を高額に設定することが、医師会の協定で決まってんだよ。それを破ったとなると……」


 治癒魔法が使えない医者からの猛反発が起きるな。


「モナ、悪いけどもう一回アドモス行って来てくれないか? 太田君がどうなるのか顛末が知りたい」

「分かりました」


 モナはそう返事をした翌日、またアドモスに向けて出発し、夕方前に戻ってきた。


「あれ? 早くね?」


 フライングボードに乗って帰ってきたモナにそう言うと、モナは苦笑しながらこう言った。


「私が行った頃には、医師会からの猛抗議を受けて医院を追い出されていました。それに、その医院も医師が王城に行って不在の間に勝手に占拠していたそうです」

「展開はやっ」


 もう追い出されたのか太田君。


 それにしても、治癒魔法使いがいなくなった街で格安で治癒魔法による治療を行うって、なんか医療系の異世界無双でありそうだ。


 もしかしたら、太田君はそれを狙ったのかもしれない。


 けど、実際には治癒魔法を使わない医者だっているわけで、そういう人たちとの折り合いが合わないとそうなるよな。


 太田君って、奈良君の話では結構なオタクだと聞いているけど、他の異世界の知識が邪魔をしてこの世界で上手くいってないんじゃないだろうか?


 そんな気がしてきた。


 まあ、目的はハッキリしてるけどな。


 追放からの、俺ツエーからの、もう遅いからの、ハーレム展開。


 ただ、どれも上手くいってない。


 俺は太田君にはなんにも迷惑をかけられていないから、ちょっと同情的ですらある。


 こんだけ上手くいかない太田君は、これからどうするのだろうか?


 それだけ、ちょっと気になった。


 しかし。


 今回のこの太田君への偵察が、思わぬ事態を招いてしまうとは全く予想していなかった。



カクヨムにて先行投稿しています

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