深読みし過ぎでしょ
本日更新2/2
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リンドアと他国を分ける国境線は、明確に線が引かれているわけではなく、川や山など自然の地形を利用したもので分けられている。
本来なら各国とも、平地の真ん中であろうと壁を作って国境としたいところなのだが、数十キロに渡って国境の壁を作るのは物量的に現実的ではないため、そうなっている。
今、リンドアは王族、貴族、平民に至るまで国民が全て国を捨てて国外に出てしまったため、無人となっている。
無人の領土……本来なら各国とも喉から手が出るほど欲しい条件なのだが、どの国も手を出したくても出せない状況になっている。
なぜなら、リンドアは短期間に二回行った異世界召喚の影響で国中の土地から魔力が奪われ、作物が一切育たない土地になってしまっているからだ。
ということは、育たないのは農作物だけではない。
道端に生えている草から、森を形成していた木々に至るまで、全てが枯れ果てたのだ。
その光景は、さながら地獄絵図のようであり、他国からみればリンドアは天から罰を受けたようにも見えた。
そんな土地なので、各国とも誰も欲しがらない。
しかし、かといって放置してしまうわけにもいかない。
作物が育たず人がいなくなったとはいえ、建築物はそのまま残っている。
そういった建物は犯罪組織に利用されやすい。
なので、各国ともリンドアの国境は以前と変わらず……いや、前以上に厳重な警備が敷かれることになった。
しかし、犯罪組織にとっては人のいないリンドアは自分たちのアジトにするには最適な場所であり、どうにかして国境を越えようと日々努力をしていた。
各国としても、自分たちの国から犯罪組織をリンドア国内に入れたとなれば周辺国への恥となるため、国境警備隊は毎日必死に犯罪組織と戦っている。
リンドアと各国の国境では日々そのような戦いが起こっているのだが、とうとうその警備網を突破し、リンドア国内への侵入を果たした組織が現れた。
どのようにして国境警備を掻い潜ったのかというと……。
「っはあっ!! はあっ!! へ、へへ、やったぜ! とうとう川を泳ぎ切ったぞ!!」
国境となっている川を自力で泳いで渡ったのだった。
途中、何人か川に流されてしまったが、それでも十数人は川を渡り切り、無人のリンドア国内に上陸した。
「ボス、これからどこを目指すんですかい?」
組織の下っ端がボスにそう訊ねると、ボスはニヤニヤしながら答える。
「そらあ、王都に決まってんだろ。王都には王族が住んでた城があるんだからよ」
『おおっ!!』
上機嫌にそう言うボスに、周囲は同調し喝采をあげた。
本当は、リンドアの王都は一度ケンタに破壊されていて、城は王城(仮)なのだが、誰もそのことを指摘しなかった。
知らなかったのか、それとも、四年も経っていれば王城も元通りになっていると思ったのか、それは分からないが。
そうして、川を渡るために脱いでいた服を着て、王都を目指そうとしたときだった。
「あん? なんの音だ?」
ボスが、空から聞こえてくる聞きなれない音に気付いた。
そのボスの言葉に、部下たちも顔を空に向ける。
そのとき。
「……え?」
それが、ボスの最期の言葉になった。
空から聞こえていたのは、ケンタの放った魔法が近付いてくる音。
その魔法が目の前に見えたとき、犯罪組織の者たちに為す術などなかった。
あっという間に着弾した魔法は、犯罪組織の者たちを容赦なく巻き込み、大爆発を起こした。
それは、川向こうにいた国境警備隊にも届き、警備隊員たちは慌ててボートで国境を超え、爆発地点に集まった。
「うっ……こ、これは……」
現場に着いた警備隊員たちが見たのは、ケンタの魔法をまともに浴びて、バラバラになった犯罪組織の者たちの遺体だった。
「これは……魔法の跡、か?」
今まで大規模な魔法の痕跡を見たことがない警備隊員がそう呟くと、ベテランの隊員が「そうだ」と答えた。
「この規模……アイツが放った魔法で間違いないだろうな」
「アイツ……って、まさか?」
「ああ。俺はアイツの魔族国侵攻に付いて行ったから分かる。これは、ケンタ=マヤの放った魔法の痕跡だ」
そう言い切るベテラン隊員に、最初に呟いた隊員は尊敬に目を輝かせた。
「痕跡だけで誰の魔法が推測できるなんて……凄いですね!」
そう言われてベテラン隊員は、気まずそうに頬を掻いた。
「いや、魔族にもこれだけの規模の魔法の痕跡が残せる奴はいなかったからな。だから、アイツだと思ったんだよ」
「そ、そうなんですね……」
今やすっかり世界の敵と認識されているケンタ。
警備隊員は、世界と敵とされているケンタの魔法の威力に、思わず恐れ戦いてしまった。
「……はぁ。どうやら犯罪組織に国境を突破されたようだな」
「組織の人間っスか、これ」
「どこの組織かまでは分からんがな。装備とか持ち物を見る限り間違いないだろ」
「……危なかったですね。リンドアに侵入を許した国、第一号になるところでした」
実際は許しているのだが、結果的に国境を突破した組織の人間は全滅しているため、警備隊員たちはこの国境突破をなかったことにすることにした。
「それにしても、なんでマヤは俺たちを助けてくれたんですかね?」
世界で初めて犯罪組織をリンドアに侵入させたという汚名が着せられる寸前だった彼らにとって、ケンタは犯罪組織の人間を仕留めて助けてくれたということになる。
「さあなあ……ウチの国だけ奴の指名手配を解除したから、協力してくれているのかもな」
そう、彼らはワイマールの人間だった。
実際のケンタの行動は、あまりに暇だったから国境を越えてきた犯罪組織と思われる人間を排除しただけ、という理由としてはあまりにも酷いものだったので、彼らの推測は全くの見当違いである。
ただ、事実とは違っても助けられたことは本当なので、ワイマールの警備隊員たちはこのとき少しケンタに感謝をした。
そして、その後も何度か犯罪組織の侵入をケンタの魔法が阻むことがあり、ワイマール側の警備隊員たちはケンタのことを、犯罪者のリンドアへの侵入を許さない守護者のように奉り始めた。
王家がケンタのご機嫌を伺い、その意向に副い始めた頃は王家に対して不服を持っていたものたちも、次第に王家は慧眼だったのではないのか? と思うようになっていた。
ただ、それはワイマールだけの話で、他国では少し様子が違った。
他国からも国境を超える犯罪組織が出始めたのだが、それもケンタが的打ちをするかのごとく排除していった。
だが他国ではワイマールとは違い、ケンタが犯罪者の侵入を許さないのは、リンドアを自分のものにしようとしているからだと言い始める者が出てきたからだ。
その流れで、やはりワイマールはケンタと裏で繋がっているのでは? という話になっていき、ワイマールと他の人族の国との関係は、徐々に悪化していった。
こうして世界情勢は、ケンタを起点として緊張感が高まって行ったのだった。
ケンタの知らないうちに。
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