泥遊びはテンションが上がる
本日更新1/2
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「ねえケンタ。今日は私たちも一緒に農村に行ってもいい?」
元リンドアの農村に水田を作り、米の品種改良を初めてしばらく経ったころ、メイリーンからそんなお願いをされた。
「もちろんいいぞ」
私たち、というのはレオンやユリア、アイラも含まれている。
レオンとアイラは最近ヨチヨチと歩き出したし、新しい遊び場に連れて行ってやってもいい頃だしな。
「ちょ、ちょっと摩耶さん! 俺らがやってんのは遊びじゃねえんスよ!?」
メイリーンからのお願いに即答でオッケーを出した俺に、奈良君が文句を言ってくるが……。
「半分遊びみたいなもんだろ。奈良君が美味い米が食いたいってだけの話だし」
それを商売にしようともしてねえし。
なら、それは趣味だろ。
趣味ってことは、半分遊びってことだ。
「うっ、それはまあ、そうッスけど……」
「ねえミツヒコ様、私も行ってみたいですわ。日頃ミツヒコ様がなにをなさっているのか知りたいですもの」
「もちろんいいよ。なら、今日は皆で村に行こうか」
おい。
お前も即答でオッケー出してんじゃねえかよ。
まあ、自分の女にお願いされたら即答オッケーしちまうか。
「アイバーンも行くんだから、すぐに用意して!」
「はあっ!? 俺は米とか興味ねえよ!」
「うるさい! 私とアイラが行くって言ってるんだから行くの! 分かった!?」
「……分かったよ」
中には渋々了承する奴もいる。
まあ、色々だ。
そういう訳で、今日は家の皆で米作り中の農村に遊びに行くことになった。
転移魔法で村に着くと、レオンとアイラの目が輝いた。
「おぉ」
「わぁ」
二人にとっては生まれて初めて見る、家の周辺以外の景色。
それを目の当たりにして、とてつもなく興奮している様子が分かる。
「あ、メイリーン、ユリア。あっちの水田は駄目だけど、こっちのなんも植えてない水田では遊ばせていいから」
「こっちね。分かった」
「あ、それと、水田は泥が深いから注意しといて。多分動けなくなって……」
「わあぁっ! ままぁっ!!」
「うあぁあん!!」
「……ああやって動けなくなって泣くと思うから」
俺が遊んでいいと言った水田に突入して行って、早速身動きが取れなくなったレオンとアイラが大泣きしている。
それを見たメイリーンはクスクスと笑っていた。
「ふふ、分かったわ。じゃあ、助けに行ってくるわね」
メイリーンはそう言うと、泥で服が汚れるのも厭わず水田に入って行った。
ちなみに、メイリーンもユリアも今日はパンツスタイルだ。
汚れるのが分かり切ってたからな。
メイリーンに続いてユリアも水田に入って行き、足を取られて盛大に泥に突っ込んだ。
あっという間に全身泥だらけになったユリアが面白かったのか、レオンとアイラは大泣きから一転して大笑いしている。
そこからはもう泥んこ大会だ。
レオンもアイラも、メイリーンもユリアも、頭のてっぺんまで泥だらけだ。
「わ、私も仲間に入れてくださいませ!」
さっきまで奈良君のところにいたエヴァが、楽しそうなメイリーンたちの様子に我慢できなくなったのか、一緒に水田に入って行き、エヴァも泥だらけになって遊び始めた。
「……あれ? 今日は俺の仕事ぶりを見に来たはずなのにな……」
エヴァが自分のもとから去って行ったのがショックだったのか、奈良君がそんなことを言っているけど、やっぱ勘違いしてんな。
「だから、仕事じゃなくて趣味だろ」
「このレベルは趣味とは言わなくないッスか!?」
奈良君がそう言って手を広げた先には、何反もの水田が広がっていて、植物成長促進の魔法をかけたのでいくつかの水田はもう米が実っている。
「いつ見ても不思議な光景だよな。こっちはまだ植えたばっかなのに、こっちはもう実ってる」
「それが植物成長促進の魔法だからな」
一見、とても便利な魔法だが、当然デメリットなしで使える訳じゃない。
植物が成長するには水と肥料が必須なわけで、この魔法をかけると、今度は魔力の代わりに栄養が土から急速に失われていく。
なので、魔法にプラスして大量の肥料も必要。
その肥料の購入は、いつものように町でアイバーンに買ってきてもらった。
俺が作った荷車で大量の肥料を持ち込んだとき、森の入り口を警護する兵士にすごく問い詰められたらしい。
まあ、畑とか作りだしたらその場所に永住する気満々だもんな。
その態度からも、ワイマールが俺に国から出て行って欲しそうなのが分かる。
でも、そういう態度を取られると、逆に出て行きたくなくなるよね?
という訳で、当分ワイマールに居つくことが確定した瞬間だった。
それはともかく、今この村では、各水田ごとに違う種類の米が作られている。
品種改良のことは俺にはよく分からんが、なんか色々と掛け合わせて新しい品種を作り出しているらしい。
普通は何年もかかる物だけど、この植物成長促進の魔法のおかげで、すでに何世代もの品種を試すに至っている。
ちなみに、稲刈りや脱穀は、魔法の練習のために奈良君が行っている。
お陰で、奈良君の魔法も大分精度が上がってきた。
まあ、何が言いたいかと言うと、今の俺には転移魔法と植物成長促進の魔法をかける以外、やることがないのだ。
「しょうがない。俺もレオンたちと遊んでくるか」
俺がそう言うと、アイバーンは無言で付いてきた。
アイバーンなんて、もっとやることないからな。
そして奈良君はというと。
「……俺も行くッス」
散々悩んだあと、俺たちのあとを付いてきた。
まあ、そんな毎日見てるようなもんでもないしな。
たまにはこうして皆で遊ぶのもいいだろう。
こうして、俺たちもレオンたちと泥だらけになって遊んでいたときだった。
「……」
「ぱぱ?」
不意に動きを止めた俺に、レオンが声をかけてくる。
が、今はそれに反応できない。
なぜなら……。
「!? うわっ! なんだ急に!?」
「ちょっ! 摩耶さん! なんで急に魔法撃ったんスか!?」
「おぉお~!」
宙に向かって魔法を撃った俺に、アイバーンは驚き、奈良君は文句を言い、レオンは目を輝かせた。
やっぱ、自分の子供が一番可愛い反応してくれるわ。
「ぱぱ! すごーい!!」
「はは、そうかそうか。パパすごいか?」
「うん!」
嬉しそうに笑うレオンとは対照的に、アイバーンと奈良君は不審そうな顔で、女性陣は不思議そうな顔をしていた。
「ケンタ、どうかしたの?」
「ああ。この先で国境を越えた奴がいやがったから、魔法撃っといた」
「あら。ごめんなさい。全然気付かなかったわ」
「レオンと遊んでたし、大分距離もあるしな。しょうがないさ」
メイリーンも気配察知の魔法が使えるので、自分で感知できなかったことを詫びてくるけど、レオンの相手をしていたし、相当距離も離れているし、気付かなくてもしょうがない。
ならなぜ俺が気付けたのかといえば、あまりに暇すぎて気配察知の魔法の範囲を広げていたから。
そして、封鎖されているはずの国境を越えようとした複数人のグループがいたので、それを魔法で迎撃したのだ。
「国境越えって……ここから国境までどんだけ距離あんだよ?」
アイバーンは、そもそもここがどこかも分かっていないから分かんないだろうな。
「超えようとしてたのは、数十キロ離れたとこの国境だな」
「すうじゅ……」
その距離にアイバーンは絶句している。
まあ、この世界でこれだけの距離を察知できるのは俺だけだと自負している。
これも、召喚者特典の魔力増大のお陰だな。
「えっと、摩耶さん。そんな先にいる人の気配を察知できるのは凄いと思いますけど……」
「けど?」
「……一般人だったらどうすんですか?」
ああ、奈良君はそれを懸念してたのか。
「今、リンドアの国境は封鎖してるって言ってたろ。それを超えようとしてるんだ。まともな人間なはずないだろ」
「……難民とか?」
「難民だったら違法なことしていいのか?」
「それは、確かに……でも……」
なんとなく納得しそうになって、でもなんかおかしいと感じている奈良君が唸り始めた。
しょうがない、種明かししてやるか。
「まあ、国境を越えてきたのは、全員力の強い成人だった。まあ、間違いなく犯罪組織だろ」
各国の軍人は、他国との余計なトラブルを避けるだろうからこんなことはしない。
不毛の地とはいえ、支配者のいない土地だからな。
手に入れようと思えば手に入れられる。
なので、各国が牽制し合って国境は超えていない状況が続いている。
そんな中で国境を越えてきた力の強い複数の成人。
犯罪組織で間違いないだろ。
「まあ、違った場合は……」
「場合は?」
「ドンマイだ」
間違えちゃったらしょうがないよね。
なのでそう言うと、奈良君がガックリと肩を落とした。
「だから……それは摩耶さんが言う台詞じゃないんスよぉ……」
そうか?
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