人がいなくなった街はゴーストタウン。なら……
本日更新1/3
「とうとうリンドアの国内から、人が全部退去したってよ」
アイバーンが荷物を下ろしながらそう言った。
「お前さ」
「なんだ?」
「そんな細かい情報、どっから仕入れてくんの?」
元々町で集めた噂話をよく聞かせてくれているけど、最近の話はかなり精度が高い。
コイツ、本当に情報屋になった方がいいんじゃないだろうか?
そう思って聞いてみたのだが、アイバーンは「ああ」と、すぐに理由を話し出した。
「この森の入口にワイマールの警備兵いるだろ?」
「ああ。自主的にやってるやつな」
俺がそう言うと、アイバーンはジト目を向けてきた。
奈良君は事情を知らないので、キョトンとした顔をしている。
「え? あの人たちって、自主的にここの警備やってくれてるんスか?」
「そんな訳ないだろ。ケンタに圧かけられて半強制だよ。半強制」
「……さすが摩耶さんっスね」
「なにドン引きしてんだお前。俺はなんも頼んでねえよ」
ただ、あのふざけた手配書で俺たちに面倒があったら……的なことは言ったけど。
「で? その警備兵がどうしたって?」
「え、ああ。この森に出入りしてんのは俺だけだろ? だから新しく来た警備兵の人たちと仲良くなってな。そいつらが色々教えてくれるんだよ」
「お前それ……」
都合のいいメッセンジャーにされてね?
「へえ、そりゃ確かに精度の高い情報が得られるわけッスね」
奈良君はなんの疑いも持ってない。
まあ、奈良君はまだそこまで擦れてないからな。
この世界の王族が善意でそんな話警備兵にさせるわけないだろ……というのは分からないらしい。
「はぁ……それで? メッセンジャー。そのあとそいつらなんか言ってたか?」
俺がそう聞くと、アイバーンはちょっと驚いた顔をした。
「めっせんじゃー?」
あ、それに驚いてたのか。
っていうか、メッセンジャーって言葉ないのか。
「スマン。何でもないわ。で? どうなんだよ」
「確かに言ってたけど……なんで分かるんだ?」
「分かるだろ。人がいなくなって建物がそのまま残った村や街や王都。犯罪者共が根城に使うにはもってこいだ」
俺がそう言うと、アイバーンは「おお」と小さく声を漏らした。
「スゲエな。まんま同じこと言ってたわ」
「そのお陰で、国境警備に人員を割かないといけないから大変です。ってか?」
「え? お前、俺とアイツらの会話盗み聞きしてたの?」
「聞かなくても分かるわ」
ワイマールは、アイバーン経由でそれとなく周辺国の情報を俺に流すことで、俺の意識をワイマールじゃなくて他に逸らせたいんだろう。
それがどういう結果に結びつくかは分からないけど、とりあえず情報を流しとけってことなんだろうな。
「まあ、それを聞いたところで、俺にはなんの関係もないんだけどな」
リンドアなんて胸糞悪い思い出しか残ってないし、そもそも俺を浚って、嘘で言うことを聞かせ、挙句裏切った国だ。
同情心なんて欠片も起きない。
なので、リンドアの話はこれでおしまいと、アイバーンの持って帰って来た荷物のうち、主に麦を持って家に向かったのだが、奈良君だけはなにか考え事をしていた。
「どうした奈良君? さっさと荷物を運ぶぞ」
ボーっとしている奈良君にそう声を掛けると、奈良君はハッとした顔をして俺に近付いてきた。
「摩耶さん!」
「なに?」
「リンドアから人がいなくなったんスよね!?」
「そうだよ」
「なら、摩耶さんが元リンドアを支配しちゃえばいいじゃないスか!!」
「アホか」
「いったあっ!!」
考え込んだ末に馬鹿な答えを出した奈良君の頭をド突いた。
俺の拳骨ツッコミを受けた奈良君は、頭を押さえて蹲っている。
「おい、そんなとこに座り込んでないで、さっさと荷物運べよ」
蹲っている奈良君にそう言うと、奈良君は涙目で俺を睨んできた。
「痛いッスよ! 名案でしょ!? なんで殴るんスか!?」
「なにが名案だ。お前の家、作ってやったばっかだろうが」
「……あ」
コイツ……折角俺が労力を割いて奈良君とエヴァの家を建ててやったというのに。
ああ、そうかそうか。
「分かった。奈良君だけリンドア行っておいで」
「すみませんでした! そもそも摩耶さんがいることが前提なんで俺だけ行っても意味ないッス!」
「俺がいることが前提?」
「ッス! だって摩耶さん、あの不毛の地をなんとかする方法、知ってんスよね? 俺は知らないっスから、摩耶さんがいないと始まんないんスよ」
「じゃあ、一生始まらねえわ」
奈良君の戯言を聞き流し、俺は荷物を持って家に入った。
すると、奈良君も俺のあとを追って家に入ってきた。
おい、荷物はどうした。
「でも名案でしょ? 摩耶さんなら国一つくらい簡単に手に入りますって」
「そんな面倒なことやんねえわ。それに、俺がリンドアを支配したら、それこそケンタ=マヤ討伐軍が編成されるだろ」
不毛の地に建つ摩耶城を目指して、討伐連合軍が向かってくる。
討伐対象が俺のため、魔族も参加しそう。
これ、完全に俺がラスボスの位置だわ。
「俺はここでいいよ。これ以上広い場所は必要ない」
「まあ、確かに俺らだけで街一つ手に入れても絶対持て余すッス」
「だろ。分かったんならこれでこの話は終わりだ。お前も、お前んちの荷物持って帰れよ」
「了解っす」
そう返事をして家を出て行こうとした奈良君だったが、なぜかふと足を止め俺の方を向いた。
「そういや、人がいなくなった街ってゴーストタウンって言いいますよね?」
「だな」
「それが国だったらなんて言うんスか?」
「知らねえよ! いいからさっさと行け!」
どうでもいいことなのに、メッチャ気になるじゃねえか!
なんだ? なんて言うんだ?
ゴーストカントリーか?
そんな言葉、聞いたことねえわ。
っていうか、国が無くなったあとに誰もその領土を支配しないとかありえないだろ。
そういう意味でもこの世界、終わってるわ。
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