異世界召喚の影響
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「ほぉう? ほほぅ?」
俺は、リンドア周辺の調査から戻ってきたモナの報告を聞いて、久々に怒りでブチ切れそうそうになっていた。
「ヤベエな。お前がやったってバレてんじゃん」
「まあ、この世界であんなことできんの、摩耶さん以外いないっすからねえ」
アイバーンと奈良君が呑気にそんなことを言っているけど、問題はそこじゃない。
確かに、証拠もなにも残していないのに俺の犯行だと決めつけられたことも腹は立つけど、実際それは事実なので別にいい。
けど、俺が一番腹を立てているのはそれじゃない。
問題は、俺が召喚魔法陣をぶっ壊した理由を、俺が自分を倒しにくる召喚者を呼ばせないために行ったと発表したことだ。
まあ、それも理由の一つではあるんだけど、俺が召喚魔法陣をぶっ壊した一番大きな理由は、異世界召喚を行うと魔法陣が周囲から魔力を吸ってしまう。
その結果、遺跡周辺が草も生えない荒野になってしまっていたからだ。
明らかな異常事態だったので、これ以上異世界召喚をさせないためにぶっ壊したのだが……。
「……どうやらリンドアは、俺に対してとことん恩を仇で返すスタイルらしいな」
俺がそう呟くと、奈良君とアイバーンが息を呑んで俺を見てきた。
「ちょ、摩耶さん? 短気は起こさないで下さいね?」
「そ、そうだぞ? 確かにリンドアの対応には問題がある。けど、リンドアはその事実に気付いていないかもしれないじゃないか」
アイバーンのその言葉を、俺は鼻で笑ってしまった。
「あんだけあからさまに環境が変わってるのに気付かない訳ないだろ。もしあれで気付いてなかったらあそこの王は本当の無能だよ」
気付いていないなんて、絶対にそんなことはないと断言できる。
そのうえで、俺に色んな罪を擦り付けてきやがったのだ。
なぜそんなことが分かるのか?
それは、アドモス王が遺跡爆破の衝撃波に巻き込まれて重傷を負ったというニュースもモナによってもたらされたからだ。
それを聞いてピンと来た。
リンドアは、自分の国内でアドモス王が怪我をしたことを俺の責任にしたいんだ。
まあ、その通りなんだけどな。
ただ、俺に罪を被せた理由が許せない。
俺は、あんな荒野が広がるのは問題だと思ったから咄嗟に行動に移したんだ。
荒野が広がって農作物に影響が出たら、メイリーンやレオンたちの食べるご飯が無くなってしまう。
それだけは避けなければと思ったんだが……。
どうやら、この世界の人族は、自分で自分の首を絞める行為が好きなようだ。
「さて、どうしてやろうか……」
正直、こう何度も恩を仇で返されると、リンドアという国を滅ぼしてやりたくなる。
「……そうだな。それもいいかもしれねえな」
俺がそう呟くと、奈良君とアイバーンがギョッとした顔になった。
さっきから、俺のこと見すぎだろ。
「お、おいおい。一体何を思い付いたんだよ?」
「……ヤベエっス。ヤバイ予感しかしないッス」
「ん? ああ。もうリンドア、滅ぼしちゃおうかなって思ってた」
「「やっぱりいっ!!」」
俺が自分の考えを告げると、奈良君とアイバーンが揃って叫び声をあげた。
「ダ、ダメッスよ! ただでさえ指名手配されてるのに、リンドアなんて滅ぼしちゃったら、今度こそ摩耶さん討伐軍が結成されちゃうッス!!」
「ナラ君の言う通りだぞ。それでもお前なら勝てるかもしれないけど……そうしてグチャグチャになった世界じゃ、メイリーンさんもレオンも生きていき辛くなるんだぞ!」
「むぅ……いい殺し文句だな、それ」
確かに、世界を巻き込んだ戦争になれば、世界的に食料などの物資が不足することだろう。
そうすれば、こんな田舎の町には物資が届かなくなってメイリーンとレオンにひもじい思いをさせてしまうかもしれない。
「……ちっ。分かったよ。リンドアを滅ぼすのは止めだ」
俺がそう言うと、二人は大きく息を吐いた。
「はぁ……マジで摩耶さんのことコントロールするの怖いんスけど……」
「同感だ。一歩間違えれば、世界に向かって爆発する爆弾だからな、コイツ」
「マジそれっス」
「殺すぞ、お前ら」
言いたい放題言いやがって。
っていうか、今回の件で俺がリンドアのこと滅ぼしたくなってもおかしくないだろ。
アイツらのお陰で、俺はリンドア王とアドモス王の暗殺まで企んだことになってる。
少しでもこの世界のことを思って行動すると、すぐこれだ。
やっぱり、この世界はクソだ。
「それで? 遺跡爆破のことはそれでいいとして、本命の方はどうだった?」
俺は、モナに現地調査に行ってもらった結果を聞いたのだが、正直、俺がこれ以上気にしてもしょうがない気がしている。
「はい、報告します。遺跡を中心に、周囲を探索したのですが……」
モナはそう言うと、顔を曇らせた。
「どうした?」
「いえ……周囲はかなりの広範囲が荒野になっていまして、いくつかの農村では農作物が一切実らないといった危機的状況に陥っています」
「!!」
「?」
「へえ」
やっぱそうか。
アイバーンは驚愕の表情を浮かべて立ち上がり、奈良君は意味が分かっておらず慌てて立ち上がったアイバーンを見て首を傾げている。
「ちょ、ちょっと待って下さいモナさん! 農作物が一切実ってないって!? それって……それって!」
まあ、そうなるよな。
「飢饉じゃないですか!!」
アイバーンの叫んだ言葉で奈良君はようやく事の重大さに気付いた。
「え、飢饉って……あの飢饉ッスか? 歴史で習うヤツ」
「そうそう、それ。この世界は元の世界と違って農耕器具が発達してないから、食料の大量生産なんてやってない。だから備蓄だってそんなに多くない。国内のいくつかの農村で農作物が収穫できなかったら、それだけで……」
俺は奈良君の顔を見て、ニヤッと笑った。
「食料危機の到来だ」
「なんで笑ってんスか!?」
「いや、この結果は予想できてからな。多分召喚魔法陣に地中の魔力を吸い取られて土地が枯れたんだろ」
この世界、どこにでも魔力が宿ってるからな。
植物も生物も魔力ありきで成り立ってる。
その魔力が無くなれば、って話だ。
「そ、それが分かってるなら、助けに行った方がいいんじゃ……」
奈良君のその言葉に、俺は肩を竦めた。
「俺も最初はそのつもりだったよ? 俺が嫌いなのはこの世界の為政者たちであって民衆じゃない。けど、リンドアには証拠もないのに名指しで敵認定されちまったしなあ。そんな国に俺が情けをかけてやる理由があるか?」
「そ、それは……」
「大体、俺が手を差し伸べたところで誰もこの手は取らないぜ? だって俺、リンドアの……いや、世界の敵だもん」
いやあ、本当に助けてやるつもりだったのになあ。
まさか、自分からその手を払いのけるとは思いもしなかったわ。
「残念、残念。ま、これも自業自得ってことで」
そういう訳で、俺はこの件で動かないことを決めた。
側で話を聞いていたメイリーンとユリアはうんうんと頷いている。
報告を持って帰って来たモナは現場を見てきたからか何か言いたげだったが、結局何も言葉にしなかった。
アイバーンと奈良君、それとエヴァは複雑そうな顔だ。
「……確かに、ケンタの言い分も尤もか」
「そ……ッスね。それでも手を差し伸べるのが聖人とか物語の主人公なんでしょうけど……」
「……ケンタ様ですしね」
なんだよ、エヴァも随分言うようになってきたじゃないか。
「そうだよ。俺はケンタ=マヤだ。」
そこで言葉を切って、納得してなさそうな三人に向かって宣言した。
「俺は、敵に情けはかけない」
そう言い切ると、三人とも一瞬息を呑んだが、すぐに頷き、以降この話題を出さなくなった。
こうして、俺はこの件に関してノータッチを決め込むことにした。
ちなみに、この情報があったので、あらかじめ麦などの保存が効く食料を買えるだけ買いだめしておいた。
そのお陰で、その後にリンドアで発生した大飢饉と、それに伴い連鎖的に発生した世界的な食糧不足も、この隠れ家だけは無縁だった。
いやあ、原因が分かってるから解決策もあったんだけどなあ。
しょうがないよねえ。
それが、リンドアの選んだ道だもの。
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